オリ主によるストパンの学園もの 作:Ncie One to Trick
この物語では全編通してなるべくお淑やかなペリーヌにします。それじゃ、流しますえ……
ウィッチの中には、『固有魔法』と呼ばれる必殺技的なスキルを保有した者がいる。
サーシャの映像記憶能力や芳佳の治癒魔法がこれに当たるのだが、固有魔法なんて持っているウィッチが希有な存在で、大半は固有魔法なぞ持っていないのが当たり前なのが世の常だ。
つまり、俺も例に漏れず固有魔法なんて持っていない。だから先週の夕飯時にこんな事を言ってしまった。
『なんつーかさ、こう、ペリーヌやハルトマンみたいにド派手な固有魔法とか見ちゃうとさ、俺ってスゲー地味じゃない?』
ただの雑談ネタのつもりだったのだが、これがいけなかった。それからというものの、ストライクガンダムみたいに、各々好き勝手に自分の固有魔法をカスタマイズさせようとしてきたのだ。
口は災いの元だった。バカじゃない、僕はバカじゃない!
「待ってペリーヌ……もう限界……」
「貴方、扶桑男子でしょう? もっと根性見せなさいな」
「いやもうホント痛いんで無理……」
家の庭でペリーヌと絶賛特訓中である。あるかどうかもハッキリしてない俺の固有魔法を引き出す特訓。
つーかウチにいる連中全員が固有魔法持ちってやっぱりおかしい(小声)。そのせいか、一部界隈では貴重なウィザードと優秀なウィッチの遺伝子を掛け合わせた子供を作るために各国がここに集中させた、みたいな噂まで立っている。
それはそれとして、今日はペリーヌの固有魔法《トネール》を模倣する練習だ。もしも彼女のトネールを少しでもマネできて一瞬でも発現できたのなら、それが俺の固有魔法の可能性が高い。
最も、いきなりマネしてみせろってのも無理な話なので、かれこれ一時間ほどトネールを直に食らって雷のイメージを膨らませてはトネール発現に挑戦している。
のだが、発現する気配がピクリともしない。体には彼女が手加減してくれていたとはいえ、まだ軽い痺れが残っている。
つまりトネールは俺の固有魔法じゃないっぽいんだな。ちなみに昨日はサーニャの魔導針もマネしようとしたが失敗に終わった。こうもなしのつぶてだと、気分はスカばかりを吸い込むカービィである。
「ハァ……仕方ありませんわね。私も少々魔力を使いすぎましたし、そろそろお開きにしましょう」
「いやーありがとね。わざわざ付き合ってもらっちゃってさ」
「私も貴方の固有魔法は気になっていましたから、そこはお互い様ですわ」
そう言うと、ペリーヌはねこみみと尻尾を引っ込めた。ああいう細長い尻尾は好きな部類だからもう少し眺めていたかったのだが……。それにともない、俺も角と尻尾を引っ込めた。
そう、角である。かどではない、つの。耳の代わりに頭のテッペンに二本の角が生えており、先っちょが中央部に向かって『ハ』の字に曲がった角。
尻尾に関しては、なんか蛇とか蜥蜴みたいな艶があって爬虫類っぽいし、専門家の間では俺の使い魔は空想上の動物『ドラゴン』ではないかとまことしやかに囁かれている。ウィザードが夢物語の塊みたいな存在だしね。
隙 あ ら ば 自 分 語 り 。
まぁ俺の使い魔なんてどうでもいい。今は俺の固有魔法が何なのかを探っている最中だ。
「こうなってくると、ミーナさんの推してらした説が正しいのではなくって?」
「うん、俺もそんな気がしてきた」
ミーナさんが推してる説というのは、《男が魔法を使える事自体が固有魔法》である。鶏が先か卵が先かみたいな、透明人間がいないことの証明が始まりそうだが今のところはこれが俺に対する定説だ。
これマジ? これが心理だったとしても地味すぎだろ。
なんて零したのが原因で特訓してるのだけども、ウンともスンとも言わないのはもう言い訳ができない。
「先天的な魔眼でもない、治癒魔法も全然ダメ、肉体強化してもそんな強くない、感覚が鋭くなる気配もなし。あーつまんね、固有魔法なんも無しかぁー」
「貴方ねぇ、贅沢な要求をしている自覚はありまして? ウィザードというだけで、唯一無二の存在ですのよ」
「そりゃ分かってっけどさ。ただのウィザードで終わるのは何か釈然としないっつーか……」
『みんなに置いていかれてるような気がして、周りは固有魔法持ってるのに』そう言いかけて止めた。これ以上はやっかみだ。
ただの雑談から、各々好き勝手に特訓なんて昇華して取り付けてきたが、ナンダカンダで俺も固有魔法が見つかればと淡い期待を抱きながらやっている身だ。
俺の我が儘に付き合ってくれているペリーヌを不快な思いにさせたくはない。
「……お茶にしてリラックスしましょう。こういう時は気分転換が大事ですわ」
そう言って彼女は庭からリビングへ引き上げ、そのままキッチンへと足を運んでしまった。
さすが、領主出身のお嬢様だけあって心情を読み取るのが上手だ。それに比べてダメだなぁ俺は、ペリーヌにいらない気遣いまでさせちゃって。
俺も体から痺れが抜けるのを待ってから、靴を脱いでリビングに上がり、ソファへと腰を降ろした。
キッチンから食器の擦れる音が聞こえる。ペリーヌがお茶を淹れる準備をしてくれているのだ。こちらからは後ろ姿しか拝見できないが、それもまた情景のワンシーンとなるのだろう。
と言っても待ってる間は暇なので、今度はソファから窓越しに庭を眺めた。
ウチの庭の花壇にはカモミールが咲いている。ペリーヌが同郷の後輩から貰った苗から育てたハーブだ。彼女が今淹れてくれているお茶もカモミールである。
他にもレモングラスやローズマリーの種を植えたらしく、庭の一角をハーブ畑にするのが彼女の楽しみの一つだと話していたな。お前いつか本国に帰るのに、残ったハーブの世話は誰がやると思っているのか。
そういえば、彼女はハーブの話もそうだが故郷の話にもなると途端に饒舌になる。いつも喋るときはハキハキと喋るのだが、その時はやたらとテンションが高いのだ。あ、あと坂本さんの時もテンション高い。
一方で、彼女は領主のお嬢様だからか、学校では優雅で瀟洒な振る舞いをする堅物委員長として有名だ。家にいる時でさえ、一部のメンバー以外とは真面目な態度で接している。
けれども、ひとたび饒舌になるとまだ垢抜けてない女の子なんだと実感させられる。たまにホームシックな一面を覗かせる事もあるので、そうしたところも含めてまだ年相応の未熟さは顕著に表れるのだ。
何というかペリーヌは、気品溢れる良いところのお嬢様のような、特訓に付き合ってくれる上に気を利かせてくれるから世話焼きお姉さんのような、人によってはツンケンした態度を取りつつも最終的には良好な関係に落ち着くからツンデレのような。
どう表現すればいいのか悩む。
悩みはすれども、迷いはない。最終的に解は一つに収束する。
「――――ペリーヌは可愛いなぁ……」
これ。正に全ての感想をひっくるめてこれ。
彼女は最高に可愛いのである。
見た目的にも、あの金髪パッツンとちょっと太めの眉毛はポイントが高い。
そう、心の中で思っているだけならば良かった。
けれども、ぽつりと言葉にしてしまった答えは呑み込むには遅すぎて。
ペリーヌの耳に届いたのか、彼女はカモミールティーを注いでたティーポットをカップに「カチャン」とぶつけてしまっていて。
「あ……ッ!」
慌てて自分で自分の口を塞ぐ。
何を口走ったんだ、何を。こういうのは冗談めかして言うのが俺のキャラなのに。マルセイユの時みたいに、計算の上に成り立った褒め言葉を言うのが俺なのに。
まさか、こんな自然に口説き文句がスルリと抜け落ちるなんて信じられない。
ルッキーニに「可愛い」と言うならまだ分かる。子犬や子猫のような無邪気さを形容するにはピッタリだからだ。これは意識しなくても口を突いて出てしまうだろう。
だが、それをよりにもよって思春期真っ盛りのペリーヌに。
同年代だから、未だに面と向かって容姿や仕草を褒めた試しのないペリーヌに。
俺は慌ててソファを立ち上がって弁解を始めた。
「あ、えと、ち、違うんだ! 今のは違くて……」
待てよ、このフォローはまずくないか。これで否定したらペリーヌが綺麗じゃないみたいじゃないか。
それは嘘だ。
彼女は綺麗だ。だから口に出してしまったんだ。これで彼女を否定したら俺自身を否定する事に繋がってしまう、それは勘弁したい。
「い、いや違くない! ペリーヌは可愛い! 可愛いんだけども……! その……DJDJ(届かぬ思い)」
ペリーヌは相変わらず何も言わない。ピンとした姿勢のままティーポットでカモミールを注ぐ姿勢のまま動かない。微動だにしない。
だ、ダメだ! こちらからは後ろ姿しか見えない! 彼女の心境が読み取れない!
俺は童貞だしウィザードという立場故、ここで強気に押せない。周囲の環境上、ギャルゲーや乙女ゲーをプレイした事がないから気の利いた台詞も思いつかない。
正解を探すにはあまりにも高難易度だ。これもう分かんねぇな?
「ふふっ。波崎さんって口下手な一面もありますのね」
モゴモゴと口を動かしていた俺は、ペリーヌのその一言で顔を覆って座ってしまった。彼女だってさっき動揺しただろうに、もう持ち直している。できる淑女は違うなぁ。
彼女はポットとティーカップの載った御盆を持って歩いてくる。
そのまま御盆を机の上に置き、俺の隣に腰をかけた。
「いっそ殺せ」
「あら、私は大変嬉しゅうございましてよ? 世界に一人しかいないウィザードから賛辞を頂戴したのですから」
「カンノミホ……」
もはや声にならない。
思わず項垂れてしまった。顔くらい、真っ赤になっても……バレへんか……。
「そ・れ・に、耳まで赤くする波崎さんなんて自爆するくらいでしか見られませんもの」
「クゥーン……」
鳴き声はかろうじて出せた。恥ずかしさで体がむず痒い俺は、ペリーヌの淹れてくれたティーカップに手を伸ばそうとして――――。
「ん?」
異変に気づいた。
視界の端っこでひょこひょこと何かが動いているのだ。よく見るとそれは、ペリーヌの体から伸びている。
だが、当の本人は気づいていないようだ。余裕綽々とばかりに優雅にカモミールティーを飲んでいる。
その動いている正体は即座に判別できた。さっき仕舞っていたはずの、彼女の頭とお尻からいつの間にか飛び出した猫耳と尻尾が忙しなく動いているじゃあーりませんか。犬かよ。
天下無敵のブループルミエ様はやっぱりキュートじゃないか。
「耳と尻尾」
「……へ?」
「いや、めっちゃ動いてんじゃん。ペリーヌの耳と尻尾」
「え……あ! ち、違いますわ! これは別に、貴方に褒められたから嬉しくって振ってるんじゃありませんのよ!?」
言い訳しながらも彼女の耳と尻尾はひっきりなしに動いている。これは、彼女は俺に褒められて嬉しがっているのだろうか。さっき口では嬉しいと言っていたが、まさかここまでとは。
また一つ彼女の可愛さ発見伝だ。ほら、見ろよ見ろよ! すっげぇ可愛いゾ^~これ。
「そうなの?」
「そうですわ!」
「そっか」
「し、信じてませんわね!?」
「信じてるさ」
「嘘仰い!」
ペリーヌはまだあたふたとしている。俺のド直球な恥ずかしすぎる台詞でこれを引き出せたのなら安いもんだ。少しだけ溜飲も下がった。
俺は熱々のカップを手に取り、傾けた。
カップと同じだけ熱のある体に、カモミールの透き通るような甘みが不思議と心地良い。
そろそろリーネちゃんと芳佳ちゃんにスポットライト当てたい……当てたくない?
って考えてたら学園部分が進まない予感がしてきたゾ。
ヌッ!(思考回路はショート寸前)
ちょっとくらい失踪しても……バレへんか。