オリ主によるストパンの学園もの 作:Ncie One to Trick
「ズズッ……。フゥ」
休日のお昼時。俺は駅前の大型デパートの中にあるフードコートの椅子に座り、なんかそれっぽいお洒落なお店でテイクアウトしたコーヒーを啜っていた。
バルクホルンさんとサーニャの二人と来ていたが、ゲーセンで軽く遊び、しばらく洋服を物色して二人を着せ替え人形にした後、今は別行動をしている二人を待っている状態だ。
珍しく他のメンバーがいないのにはそれぞれ用事があったからだ。芳佳やリーネ、ペリーヌは同級生や後輩達とそれぞれ交流を深めているらしい。他も似たような感じ。うん。
ちなみに二人を遊びに誘ったのは俺じゃない。むしろ俺は誘われる側であった。
~ 回想 ~
「波崎、明日の日曜日は少し私に付き合え」
「あ、いっすよ(快諾)」
「あ……」
「ん、どうした? サーニャも一緒に来るか?」
「え、いいんですか?」
「私は別に構わないぞ」
「いいよ! 来いよ!」
~ 回想終わり ~
我ながら簡素な回想だ。実際こうだったし盛っても仕方ない。
「待たせたな」
「んー」
ボーッとしながらコーヒーを飲んでいた俺を、バルクホルンさんの声が現実に呼び戻した。
ようやく合流できたなーと顔を上げたが、バルクホルンさんとサーニャの様子がおかしい。サーニャの方は顔を伏せてプルプルしてるし、バルクホルンさんは慈母のような笑みを浮かべている。
何だろう、トイレに間に合わなくてお漏らしでもしたのかな? なんてデリカシーの欠片もない下品な予想を打ち立てる。十中八九ないだろうけどね。
「あ、あの……ジンさん!」
サーニャが何かを手にして一歩俺に近づいた。その背中をバルクホルンさんがソッと押し、二歩、三歩と更に歩み寄ってきて止まる。
「これ……!」
サーニャはバルクホルンに促されるまま、手の内にあった可愛らしい絵柄のラッピングされた小さな紙包みを俺に差し出してきた。
「俺に?」
「はい」
驚いた。彼女から俺にプレゼントだそうだ。エイラが見たら涙を流して羨ましがるだろう。
「開けても?」
「はい」
包装紙を丁寧に開けると、ずんぐりむっくりとした体型の猫耳ペンギンがこんにちはした。
「お、ネコペンじゃーん」
中身は小さなネコペンギンのキーホルダーだった。ネコペンギンとは世界的にも有名なマスコットキャラクターで、サーニャがこのキャラクターを好んでいるというのはエイラが言いふらしているので周知されている。
しかしこのキーホルダー、かなり既視感がある。
確か、そう、サーニャが財布に全く同じキーホルダーが付いていたハズだ。
何というか……、あの奥手なサーニャが俺のために選んでくれて、あまつさえお揃いのキーホルダーにしてくれたと思うと胸の奥がムズムズする。
「ありがとう、嬉しいよ」
けど少し疑問もあった。
「でも、今日なんかの記念日だったっけ? 俺の誕生日でもないし……」
「え、あ、えと……」
何か拙いことを聞いたのだろうか。狼狽してしまった。
「お、お礼です! いつもお世話になっているので、その、お礼……!」
彼女はお礼だと言うけれど、それじゃあ不自然だ。
お礼なら芳佳にもしなければ辻褄が合わない。幾ら家主が俺とは言え、家事全般をやってるのはアイツなのだから世話になってるとしたら芳佳の方だろう。二人とも仲良いし。
しかしパッと見、サーニャのバッグに不自然な膨らみは見えないから恐らく芳佳へのお土産も無いだろう。
それに、サーニャなら贈り物なんてマネはしないで、口で直接「ありがとう」を伝えるくらいが関の山だ。
これ、多分誰かの入れ知恵だろ。前にエイラが、サーニャが最近コソコソしてるみたいな話をしてたっけか。
「サーニャ……」
多少の好奇心から誰の入れ知恵なのかを言及しようとしたけど
「ああいや、明日から通学鞄にでも付けさせてもらうね」
「ひゃ、はい!」
やめだやめだ。
折角サーニャが勇気を出してプレゼントしてくれたんだ。これ以上彼女を追いつめるのは野暮ってもんだし、彼女が感謝の印と言い張るならそういう事にしておこう。
「アー……イイ……」
こっちをこれ以上ほっといてトリップさせるのもどうかと思うしね。
何とも甘酸っぱい空気に加え、サーニャのモジモジする仕草に萌え萌えキュンキュンなバルクホルンさんだ。この人、年下で妹属性っぽい雰囲気だったらなんでもいいのか。
『ヴヴヴヴヴヴ...』
と、バルクホルンさんを現実に引き戻すようにタイミングよくサーニャのバッグからバイブ音が鳴った。サーニャはバッグからスマホを取り出して確認する。
「あ、エイラから電話……」
「今日の事はエイラに?」
コクリと首を縦に振る。
「忘れてんじゃね?」
一瞬の間が空き、コクリと首を建てに振る。メールならまだしも口頭で伝えた程度なら忘れててもおかしくないだろう。
ようやく起床したエイラが「サーニャ!? サーニャー!!」と家中を探し回っている姿が容易に想像できる。
「すいません、少しでてきます」
「うん。そろそろ帰るってのも伝えておいて」
「はい。あ、もしもし? もーエイラ? 今日、駅前のデパート行くって……」
サーニャが俺達から離れるにつれて声がフェードアウトしていく。
そういえばと、今日の俺はバルクホルンさんに誘われた側だ。いつもだったらハルトマンにせがまれて一緒に外に出るタイプなのに。
せっかく二人きりになったからバルクホルンさんに聞いてみる。
「バルクホルンさん」
「ん?」
「バルクホルンさんは何で俺を誘ったんですかね?」
サーニャは俺に日頃の感謝を、という名目のもと休日を楽しんだのだがこの人は何で俺を誘ったんだろう。順番で言えばサーニャより先に誘ってきたし。
「あーそれはだな……」
「言い辛い事だったら無理に言わなくていいんスけど」
「そうじゃないんだが……そうだな。波崎、ガールフレンドを作りたがっていただろう?」
「そッスね」
彼女ほしいなーみたいな愚痴は言った記憶がある。
「お前の立場上それは難しいだろう? だからと言って、我慢させるのもどうかと思ってな」
「あっ、ふーん(察し)」
つまりこの人は、がんじがらめになって彼女を作れない俺のために、彼女役を買って出てデートに誘ってくれたのか。サーニャも同伴だから妹同伴デートみたいな感じになったけど、確かにゲーセンで軽く遊んでから洋服を見て、なんてのはちょっとした学生デートっぽいかも知れない。
嬉しくて涙がで、出ますよ……。
「……なんか気ぃ使わせちゃいましたね」
「そんなことは無いさ。可愛い弟の彼女代理くらい喜んでやるぞ?」
「は?」
一瞬で感動が引っ込んだ。弟だと、聞き捨てならない言葉であった。
「最近、妙に距離があったし……この際だ。試しにお姉ちゃんと呼んでみるといい。きっと気分もスッキリする」
何がこの際だ。どういう理論の元、俺の気分がスッキリすると言い切ったのだ。それバルクホルンさんの気分が、の間違いだよね。
というか距離が遠いって、バルクホルンさんの想定している距離が近すぎるだけだってそれ一。
「嫌です……」
当然拒否る。
「何で?(殺意)」
何でもクソも無いだろう。さもそう呼ぶのが当然のように、目をぎらつかせて不思議そうに聞き返してきた。ウッソだろお前wwwwww
この人も来日当初はこんなじゃなかったのに……。絶対、本国にいる実妹のクリスちゃんに会えなくておかしくなってる。この人も、夏休みは本国に帰省した方が本人の為になりそうだ。
「嫌って言っても、そう呼ぶんだ。な?」
「嫌です(鋼の意思)」
「大丈夫、嫌なのも最初の内だ」
「怪しい宗教の勧誘みたいになってますけど」
がしっと肩を掴まれた。ドンドン距離が近づいてくる。心なしか鼻息も荒い気がする。何がこの人をここまで駆り立てるのだろうか。
「どうしてだ……。昨日はあんなにお姉ちゃんお姉ちゃんと激しく求めてくれたじゃないか……」
「(求めて)ないです」
遂に脳内の妄想を持ち出してきた。やべーよやべーよ、どうすんだよ……。ウチにいる時はこんな症状見られなかったから、さっきのサーニャを見て拗らせていた妹成分欠乏症が発症した可能性が高そうだ。
つーかこれ下手したら明日にでも強制送還案件ですね。やはりヤバイ!
「お待たせしまし……た……?」
通話から戻ってきたサーニャが困惑してしまっている。
どう説明するか迷ったが名案が浮かんだ。ここはサーニャを生け贄に捧げ、まずはこの場を落ち着かせよう。
「なぁサーニャ、バルクホルンさんをお姉ちゃんと呼んで差しあ――――」
「今お姉ちゃんと呼んだか!」
「あーもう滅茶苦茶だよ」
名案が一瞬でポシャった。
ここからどうこの人の興奮を収めて帰路に着こうか考えていたが、災難は続くもので……。
「おい、波崎だよな?」
「え? あ、先輩」
「やっぱり波崎だ」
俺達に近づく三人組のグループがあったのに全然気づかなかった。ガムをくっちゃくっちゃさせたグループの一人に声をかけられて、ようやく俺はその存在に気づいた。
彼女らはそれぞれクルピンスキー、ビューリング、ジェンタイル。三人とも三年の先輩で、密かに『クールウィッチ三銃士』なんて呼ばれているクールビューティ三人組だ。後輩からの人気が高い事でも知られている。けどパッション系が二名混じってるんですがそれは……(名推理)
ちなみに喋りかけてきたのはジェンタイル先輩である。コイツいつもガム噛んでんな。
「何だ、トゥルーデにも遂に春が来たのか?」
「バカ。どうみても痴情の縺れだ」
バルクホルンさんと面識のあったプンスキー先輩が絡んでくるが、それをビューリング先輩が嗜める。っつーか痴情の縺れって……。
改めて現状を客観的に説明すると、俺がバルクホルンさんに必死の形相で肩を掴まれて迫られ、隣ではサーニャがオロオロしている。
まるで二股をかけていたのがバレた彼氏みたいだぁ。
ヤバイじゃんアゼルバイジャン。
「そういう、関係だったのか……お前達」
「違います」
ジェンタイル先輩がくっちゃくっちゃとガムを噛みながらこちらを直視してくる。
「安心しろ。これでも口は堅いんだ」
「違います(半ギレ)」
ビューリング先輩がフッと鼻で笑う。その『私は分かっているぞ』っていう態度が今は苛つく。いらないフォローをしないでほしい。
「いや、待ってください先輩方。一回こっちの話を聞いてくださいって」
「えとその……私達は遊びに来ただけで……」
サーニャも事態を飲み込み、どう言い訳をしようか考えてくれている。彼女が唯一の癒しだ。
「そうだ違うぞ三人とも。私は波崎のガールフレンドではない。お姉ちゃんだ」
「違うっつってんだろ(全ギレ)」
バルクホルンさんが肩を握る力を強めて力説してくる。
しまった、この人は黙らせるべきだったと後悔するがもう遅い。
「おねえ……ちゃん……?」
「波崎、カールスラントに親戚でもいたか?」
ビューリング先輩とジェンタイル先輩が懐疑的な視線を向けてくる。余計ややこしくなったじゃないか(呆れ)
「あっ(察し) お前も大変だなぁ……」
しかしプンスキー先輩だけは違った。同情的な口調で語りかけてきたのだ。
そう、この人はバルクホルンさんの妹成分欠乏症を知ってくれているのだ。さすが同郷出身でハルトマンのグータラの原因になった人物なだけある。
その後はプンスキー先輩の口添えもあり、誤解を解いて事なきを得た。クールなウィッチは理解が早くて助かる。
立ち去る際に三人から「強く生きて欲しい」とのエールを承ったけどもう折れる寸前だよ……トホホ……。
けど、ある意味見つかったのが彼女達で良かった側面もある。
バルクホルンさんの事情を知るプンスキー先輩がいてくれたし、大人びていたから事態が終息するまで時間もかからなかった。多分これがウチのクラスの連中だったらもっと大騒ぎしてただろうなぁ。
「な、波崎が二股してるー!?」
「フェル、静かにしてください……!」
「そうよ邪魔しちゃ悪いわ! こんな面白いシチュエーション!」
そう、こんな感じに赤ズボン三変人がセットで来るとね。やれやれ……また一から説明か(笑)
あああああああああああもうやだあああああああああ!!!!
ヴォエッ!(胃痛)
―― その夜のとあるLINEグループ ――
幻影『今日はどうでした?』
【デートまでは発展しませんでしたが、とても充実した一日になりました】
オーク『内容詳しく』
姫『まあまあ、それは二人きりだけの想い出にさせておけ。それはそうと私のアドバイスはどうだったかのう?』
【日頃のお礼だと言ったら受け取ってくれました。明日からカバンに付けてくれるそうです】
姫『よっし! さすがじゃ私!』
元一位『あ^~いいですね^~。彼を独占しているマークみたいですね!』
【ど、独占だなんてそんな! そんな……】
ウサギ『よーし。彼とクラスメイトの私がキチンとチェックしてきてあげますからね!』
オーク『付けてなかったらシメといてやるからな』
幻影『けど……ハァ……。恋バナは楽しいですが、他国のウィッチに彼を渡したと本国にバレたら怒られますよね……』
『『『『それなぁ……』』』』
オーク『いっそ彼をナイトウィッチ内で共有するか!』
姫『いいのぅそれ!』
元一位『悪くない案ですが、彼に一番近いリトヴャクさんが承諾するかどうか……。あれ? リトヴャクさん?』
ウサギ『寝ちゃったんですかね』
「独占……ジンさんとお揃い……。ふふっ」ベッドゴロゴロ