一時間後、ハグリッドの小屋を訪ねると、驚いたことにカーテンが全部閉まっており、ハグリッドは三人をせかすように中に入れると素早くドアを閉めた。
夏も近づく中、暖炉には轟々と炎が上がり息ができないほどに室内は暑かった。明らかにおかしいし、何かが起きている。
でもハーマイオニーはまず、石についてハグリッドに尋ねた。
ハグリッドは最初こそかたくなに教えられないと言っていたが、ハーマイオニーのおだてと心を揺さぶる話術に石を守っているのは彼だけではなく、ホグワーツの先生たちが魔法の罠を掛けていることや、その中にスネイプが入っていることなど口を滑らせた。
ハグリッドは自分だけがフラッフィーを大人しくさせることができる、と言っていたがこんな簡単にハーマイオニーにくすぐられて、いろいろ話してしまうのではそれだって信用できるかわからない。自分たちに教えてくれたということは、誰にでも簡単に教えてしまうということだと思う。
ハグリッドは自分はダンブルドア校長に信用されている、と自慢げに言うが、ひょっとするとそんなハグリッドの性格も込みで、やはり校長は石を狙う誰かを誘き寄せているのかもしれない。
みんなには言えないけれど、ハリーはよりその思いを強くしていた。
「ところでハグリッド、その暖炉にあるソレはなになのかしら?まさかとは思うけれど……」
ちらりと暖炉の中にある、大きくて黒い丸いなにかを見やりながらハーマイオニーが聞いた。
本で見たことがある記憶と照らし合わせ、ハリーはゴクリと唾をのみ込んだ。
「ねえ、どこで手に入れたの?これって買えるものではないよね?」
「賭けに勝ってよ。昨日の晩、村まで行って酒を飲んで知らない奴とトランプをしてな。はっきり言えば、そいつは厄介払いできて喜んでおったな」
うんうん、と嬉しそうにうなずくハグリッドとは対照的にハリーは背筋が一気に寒くなった。汗が滴り落ちるほど温められている室内であるにも関わらず、だ。
「ねえ、二人とも。これ、何なの?」
ネビルはどうやらそれが何なのかわかっていないようだった。
きょろきょろと二人を見回して、不安そうにハグリッドを見上げた。
「この『趣味と実益を兼ねたドラゴンの育て方』――図書館から借りてきたんだが、によれば、うん。俺のはノルウェー・リッジバックという種類だな。こいつが珍しくてよ。で、母龍が吹きかけるように卵は炎の中において、なぁ?それからっと……孵ったときにはブランデーと鶏の血を混ぜて30分ごとにバケツ一杯飲ませるんだと」
ハグリッドは満足げに語ったが、ハリーは気が重くなった。
魔法界に詳しくないハリーでもハグリッドの言っていることのおかしさはわかる。
厄介払いできて喜んでいる知らない男はドラゴンの卵を持っていて、賭けで負けたからとハグリッドにドラゴンの卵をくれた。
どう考えてもこれはハグリッドが騙されているとしか思えない。持て余していたのであれば、賭けなんてせずとも欲しがっている人にあげたかっただろう。でもわざわざ賭けまでしているのだから、何らかの目的があったのかもしれない。まあ、ハリーが考えすぎということもあるだろうが。
しかし、このハグリッド一人でも小さすぎる木造の家でドラゴンの卵を孵そうとしているのだ。
あまりにも軽率すぎてハリーはめまいすら感じた。
正直隠し通せるものではない。ドラゴンはとても大きいし、この家の中においておけるわけがない。だからと言って外に犬のようにつないでおけるわけもないし、すぐにここにドラゴンがいることを知ることになるだろう。その時面倒なことになるのはハグリッドだ。ひょっとするとホグワーツそのものが巻き込まれるかもしれない。
三人はいそいそと卵の面倒を見ているハグリッドに別れを告げると、一様に暗い表情で寮に戻った。
「ねえハリー。どうすればいいかな?」
ネビルは明らかにおびえていた。
間違いなくハリーたちは見てはいけないものを見てしまったし、知ってはいけないことを知ってしまった。石の件にしても面白半分で首を突っ込んでいいものではなかったのだ。
どう考えてもドラゴンという危険すぎる生物を隠して飼い続けることは不可能だろう。
となれば方法は一つしかない。
「先生に話すしかないんじゃないかな?」
ハリーはそう答えた。