ハリー・ポッターは諦めている   作:諒介

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CHAPTER9-1

 クィレルはロンたちが思っていた以上の粘りを見せた。それから数週間が経ち、ますます青白く、ますますやつれて見えたが、どうやら口を割ってはいないらしかった。

 ロンとハーマイオニーは四階の廊下を通るたびに扉に耳をピッタリつけて、フラッフィーの唸り声がきこえるかどうか確認しているらしいし、スネイプはいつも通りに不機嫌にマントを翻して歩いていた。

 彼らはそれこそが石が無事な証拠だという。

 シェーマスたちはクィレルと会えば励ますような笑顔を向けていたし、クィレルのどもりをからかう連中をたしなめたりしていた。

 そしてハリーはそんな彼らのあとをいつもと同じようについてくだけだ。

 みんなはそれが石を守ることにつながると信じてやっているが、ハリーはあまり意味がないと思っている。

 何しろそれまではみんなクィレルのことを面白可笑しくからかっていたのだ。急に生徒がやさし気な笑みを向けてきてもなにか企んでいるんじゃないかと疑われるだけのような気もする。それもあって余計に彼らを見るとびくびくとしているのかもしれない。

 そんなことをしつつもハーマイオニーはそれにばかり興味持っているわけではなかった。試験まで十週間しかないと学習予定を組み、より熱心に勉強に打ち込み始めたのだ。

 ロンはずっと先の話だと言っているが、十週間なんてあっという間かもしれない。一年のまとめ試験なのだから範囲も一年分である以上、準備を始めた方がいいというハーマイオニーの考えは何となくわかる。今はこうして時間があってもこのあとはどうなるかわからないのだ。

 ネビルはハーマイオニーの「試験をパスしなければ進級できない」という言葉を聞いて彼女に張り付くようにして勉強を始めた。

 ロン、シェーマス、ディーンはそんな彼らの言うことを受け入れられない様子だったが、先生たちはハーマイオニーと同意見だったようで、復活祭の休みは山のような宿題に追われることになった。

 自由時間のほとんどを図書館で過ごすことになったが、一人で勉強するよりはみんなでやったほうが結局は頑張れるということで気がつけばグリフィンドールの一年生は固まって勉強会をするようになった。マクゴナガルに今年の一年生は非常にやる気があると褒めてもらえたこともあり、全員のモチベーションも上がっていた。

 その日は珍しくハリーとネビル、ハーマイオニーだけが図書館に来ていた。

 さすがに連日机に向かっていては気が滅入るし、まして外は気持ちよく晴れている。ちょっと外に行きたいというみんなの気持ちもわからないわけではない。

 ハリーはみんなには言えないけれどたぶんネビル以上に試験を恐れていた。

 ここでミスをして、満足な成績が取れずあのプリベット通りに帰らなければいけないかと思うと心臓が刺されたように痛くなるのだ。きっと叔母達はここぞとばかりに嬉々として役立たず、能無しとこれ以上ないほどの罵ってくるだろう。慣れていることとはいえ、努力で回避できるならやっておいて損はない。

 となれば外で気晴らしをしよう、という気持ちにはなれない。

 ホグワーツの試験がどのように行われるかはわからない。先輩たちにきいてもはぐらかしてくるのが伝統らしく嘘っぽい答えが返ってくるだけだ。ハーマイオニーはその一つ一つを真剣に捉えて対策を練ろうとしているが、先輩たちを見ている限りそこまでの無理難題を吹っかけてくるわけではないだろう、と予測がついた。さすがにフレッドとジョージの言った「ドラゴンの巣から卵をとってくる」というのは無理がありすぎる。

 そんなわけでハリーは教科書の復習とそれに出てくる用語の確認、を試験勉強の重点に置くことにしている。

 

「ねえハリー。ハグリッドは何をしているんだろう?」

 

 「薬草ときのこ千種」で「ハナハッカ」を探しているため下を向いたままだったハリーに、ネビルが小さな声で話しかけてきた。

 いきなりハグリッドとはどういうことだろう、と顔を上げれば何やら本棚の隅でこそこそと、見るからに妖しいことがありますと言わんばかりの動きをしているハグリッドが見えた。あの巨体ではどうあがいても目立たないことなんてできないだろうに、もじもじと何かを隠しているようだ。

 

「ハグリッド、探し物があるなら手伝うわ」

 

 ハーマイオニーが声をかけたことでハグリッドの肩が大きくはねた。

 

「いや、ちーっと見ているだけ」

 

 うわずった声は態度と相まって間違いなく何かを隠していると確証を持たせた。

 

「お前さんたちこそ何しちょる。まさか、ニコラス・フラメルを探しとるんじゃないだろうね」

「あら、そんなのとっくの昔にわかったわ。もちろん、あの犬が何を守っているかもね」

 

 ハーマイオニーが意気揚々と答える。

 

「ねえハグリッド、フラッフィー以外にあの、例のアレを守っているのは何なの?」

 

 探るようにネビルが聞けば、ハグリッドは大げさに周りを見回して彼らにぐいっと顔を近づけた。多分周りから見ればハグリッドに隠れてしまって彼らの姿は見えないだろう。

 

「シーッ!いいか――後で小屋に来てくれや。ただし、教えるなんて約束はできねぇぞ。ただここでしゃべられちゃあ困る。生徒がしっているはずはねーことなんだ。俺がしゃべったとおもわれるだろうが……」

 

 あとで行くよ、とネビルが応えればハグリッドは周りをうかがうようにしながらもぞもぞと、ハリーたちから見えないように背中に何かを隠して出ていった。

 

「ハグリッド何を隠していたのかしら」

 

 ハーマイオニーがハグリッドの姿が見えなくなるなりつぶやいた。

 

「うん。明らかになにか怪しかったよね。コソコソしてたし…ひょっとして石関係かな?」

 

 ネビルはそういうが、だとしたら石を守っているのは城の中にいると考えると恐ろしいものになる。

 そう、ハリーは知っているのだ。ハグリッドがいた棚にはなにが置かれているのか。

 できればそうでないと願いたい。だってあそこには。

 

「ドラゴンの本がある棚だよ……。ハグリッドがいたの。前見たから覚えてる」

 

 ハリーの声は震えていた。

 ドラゴン、と聞いた瞬間にネビルが小さく悲鳴を上げる。

 

「でもまさか、石をドラゴンが守っているってこと?でもドラゴンの飼育は法律違反よ。確か1709年のワーロック法で決まったのよ」

「ドラゴンを手なずけるのは無理だ、っておばあちゃんが言ってたよ。すごい凶暴なんだ」

 

 ハグリッドは変わり者だけれど法律を侵すようなことはしない、と信じたい。でもあんな三つも首のある犬を好んで飼っているような人だから、ひょっとするとこちらの考えの及びつかないことをしでかすかもしれない。

 

「一体ハグリッドは何を考えているのかしら?」

 

 ハーマイオニーのつぶやきに答えが出ることはなかった。 

 

 


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