ハリー・ポッターは諦めている   作:諒介

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CHAPTER7-2

 ニコラス・フラメル。

 ハグリッドが不意に口にしたその人物があの犬が隠している何かに関わっているらしい。ロンたちは寮に帰るとすぐさまその話をディーンたちにも伝え、彼らは「ニコラス・フラメルの謎」を明かすことに夢中になった。

 ハリーの傷が痛んだことに関してはスネイプ犯人説がまことしやかに囁かれているが、ハリーはそうではないと思いたかった。ハーマイオニーも、そうだと決めつけているロンたちを先生という立場の人物がそんなことをするはずがないと窘めているが、ロンはスリザリンである以上信頼できないと言い返していた。こちら側の謎に関しては彼らの興味をさほどひかなかったらしく、あっという間に忘れ去られた。それでも時折、ハリーは傷跡がずきりと痛むような気がしていた。それは気のせいなのかもしれないけれど、本当に一瞬刺すように痛いときがあるのだ。クィディッチの時のようにひどく痛いわけでもないので、まあ折を見てマクゴナガル教授にでも相談したほうがいいかなと思っている。

 ニコラス・フラメル探しに特に熱を上げているのはハーマイオニーだ。図書館にある魔法史や偉大な魔法使いの載っている本を制覇してしまうんではないかという勢いで読みふけっている。ただその割に成果はあげられていないようだ。

 ロンたちもそんな彼女に引きずられるように空き時間さえあれば図書館へと足を運んでいた。もっともハーマイオニーは真剣だけれど、ロンたち男子生徒はどこかわくわくとした宝探しをしているかのような雰囲気だった。

 世界で一番すぐれた魔法使いと言われているダンブルドア校長が隠している物はきっととんでもない宝物に違いないというのが彼らの見解だ。そしてなぜだかわからないけれど、その宝物をスネイプが狙っているのであれば自分たちで守らなければいけないという義務感のようなものを感じているらしかった。自分たちはほかの誰も知らない秘密を知ってしまったのだから、秘密裏にそれを守るのは自分たちであり、そのことをほかの誰にも知られてはいけない。特に先生方大人の耳に入れば危険だと止められるだけでなく、秘密を知ってしまったことで怒られるかもしれないし、宝物を狙っているスネイプに自分たちがしようとしていることがばれてしまうかもしれない。そんな思いがあるようだ。

 一方でハリーはそんな彼らをちょっと離れた位置で見ていた。

 何が隠されているのかなんてことには興味はなかったし、本当に誰かがそれを狙っていたとして自分たちが何かしたところで守れるとは思えなかったからだ。第一それがスネイプだとして、自分たち一年生にすらその企みが露見しているのであれば当然ダンブルドア校長にだってばれていることだろう。それを放っておいているのだから何かかんがえがあるだろうし、そんなことは大人に任せておけばいい。関わらないほうが身のためだ。気にならないと言えば嘘になるけれど、入学の時点であの場所に近付けば死が待っているとまで校長は言っていたのだ。調べて知ったとしてどうしようというのだろう。

 とはいえ断る理由もないのでハリーも彼らと一緒になってニコラス・フラメルについて調べていた。まあ、ページをぱらぱらとめくっているロンやシェーマスの本を一緒に覗き込んでいるだけだけれど。

 いろいろ探してはみたけれど、結局ニコラス・フラメルを見つけることができないままクリスマス休暇になり、グリフィンドール寮にはハリーとロンたちウィーズリー家の兄弟だけが残された。なんでもロンの両親と一つ下の妹は、ルーマニアでドラゴンの研究をしている上から二番目の兄のところに遊びに行ってしまうらしい。ロンが言うには彼の家にはあまりお金がなく、その上兄弟が多いので家族全員分の旅費なんてとてもじゃないけれど用意できないというのだ。

 クリスマス休暇に残る希望を出しながらこの広い学校の中で自分だけが残るなんてことになってしまったらどうしようかと考えていたハリーにとっては、ロンたちが残ることはうれしいことだった。もっともロンはルーマニアに行けないことを残念がっていたのでそんなことは言えないけれど。フレッドとジョージは厳しいらしい母親の目がないからあたらしい悪戯グッズの開発をするんだと意気込んでいたし、もうすぐふくろう試験があるというパーシーは勉強が忙しいので学校に残れることを喜んでいるようだった。家族が多い自宅では勉強に集中できないと嘆いていた彼の気持ちもわからないではない。ハリーだって仮にダドリー家に帰ることができたとして、そうなれば自分の勉強なんてしている時間はほとんどなくなってしまうだろう。

 ともかく残されたハリーたちだったが、ハーマイオニーから彼女がホグワーツ特急に乗る前にさらに調べておくように厳しく言われたことは取り合えず隅に追いやって、普段は上級生が使用している談話室の暖炉の前で魔法使いのチェスをすることに夢中になっていた。彼女の言いつけをわすれたというわけではなく、ただ単にもう調べる場所が禁書の棚くらいしか残っていないので、どうやってそこから本を持ち出せばいいのかハリーたちには思い浮かばなかったのだ。禁書の棚の本を読むには先生の誰かのサインの入った許可証が必要になるが、先生方に詳しい事情を説明せずにそれがもらえるとも思えなかったし、ましてや素直にニコラス・フラメルの事を話すのはなんとなくいけないのではないかという気がして、結局のところ後回しにしている状態なのだ。あまりそれを考えていても気がめいるだけなので、ハリーは極力ロンとのチェスに集中することにした。

 もっとも、集中していてもなかなかロンに勝つことはできなかった。これはハリーが今までチェスをやったことがないということを抜いたとしても彼が強過ぎるからだ。これはハリー自身が感じたことというよりは、彼らがチェスをしているときにフレッドとジョージがロンがとても強いことを教えてくれたのだ。魔法使いのチェスは命じれば駒が自分で動いてくれるくらいで、ルール的な部分に普通のものとの違いはないらしい。そんなとても強いロンなら、ハリーが相手ではきっと物足りなさを感じているだろうと思う。

 

 そしてクリスマスの朝がやって来た。

 夜のうちに降った雪は真白くホグワーツ全体を覆い、石造りの壁からはそんな外の寒さが伝わってくるようだった。

 ハリーはカーテンの向こうでまだロンが眠っている気配を感じて、なるべく音をたてないようにベットから抜け出すと既に暖炉が煌々とついている談話室へと階段を駆け下りた。パジャマを着たままではあったけれど、今寮の中にはハリーとロンたち兄弟しかいないのでそれをとがめる人もいない。

 談話室にはいつの間に飾られていたのか立派なクリスマスツリーがあり、その下にはおそらくロンたち兄弟へのものだろうプレゼントがたくさん置かれていた。

 そういえば毎年ダドリーもたくさんのプレゼントをもらってはすぐに壊していたっけ。そんなことを考えながら、ハリーはそんなプレゼントの山をちらりと見やると暖炉の前のソファーに身を沈める。

 しばらくすれば、やはり寝起きのパーシーがパジャマの上からローブだけを羽織って降りてきて、メリークリスマスと挨拶をすると、手慣れた様子でプレゼントの山を選別し始めた。

 

「ハリー、おいで。君の分も届いているようだ」

 

 パーシーはソファーで身を丸くして、ぱちぱちとはぜる暖炉の炎を見ていたハリーを呼び寄せた。

 自分にプレゼントがあるなんて!

 ハリーはとても驚いた。今までプレゼントをもらったことなんてなかった。クリスマスは自分にはあまり縁のない、いやちょっと気合の入った料理を作るだけのイベントだと思っていた。しかし誰からなのだろう。ハリーは転げるようにして手招きしているパーシーのもとに駆け寄った。

 

「これはうちの母さんからだ。君も寮に残るとロンが話していたからね。あとは、うん。こっちに君の分を取り分けておくからゆっくりと見ればいいよ」

 

 パーシーがそう言いながら渡してくれた包みを開ければ、「H」と大きく編み込まれている手編みのセーターが出てきた。彼が言うには毎年彼ら兄弟への彼らの母親からのプレゼントはこういったイニシャルの入っている手編みのものらしい。パーシーは少し照れくさそうにしながら自分の「P」が入っているセーターも見せてくれた。

 ハリーはそれを見て自分がそんな特別なものをもらってしまってもいいのか少し不安になった。だって、このセーターは彼ら兄弟のものなのに全く関係ないハリーが直接会ったこともない彼らのお母さんから貰うなんてなんかおこがましいような気がするのだ。

 そんなハリーの様子に気が付いたのか、パーシーはあまり気にしなくていいよと言ってくれた。

 

「母さんはこういうの作るのが好きなんだ。それに、たぶんロンが君のことを手紙に書いていたんだろうね」

 

 一体何が書かれていたのかは気になるところだが、ハリーはパーシーの言う通りあまり気にしないことにした。

 彼らががさがさとプレゼントを開封し始めるとロンとフレッド、ジョージも談話室へとやってきた。彼らはハリーが自分たちの母親製だとわかる手編みのセーターを持っているのを見て顔を見合わせ、フレッドとジョージはハリーは自分たちの弟になったらしいと楽しそうに騒ぎ出した。

 ハリーのところに届いていたプレゼントはネビルたちグリフィンドールの同級生からがほとんどだった。本に関するものだったり、ちょっとした魔法グッズだったりと様々だ。しかしハリーが目を見開いたのは薄っぺらい封筒に入ったペチュニアおばさんからの手紙だった。

 いったいどうやってここまで届けたのだろう。いやそれよりも何が書かれているのだろう。

 ハリーはびくびくしながらきっちりと閉じられた封を開け、折りたたまれた便箋を取り出した。そこに書かれていたのは次の夏休みにはダーズリー家に帰らなければならないということと、スネイプについて行ってしまったことについてはもう怒っていないということだった。もう、ということは怒っていたんだろうなぁとハリーは思わず視線を遠くに向けた。ペチュニアおばさんはともかく、話を聞いたバーノンおじさんはきっと相当怒っていたに違いないだろう。

 封筒には便箋だけでなく貰いものらしいボールペンが一本同封されていた。ひょっとするとクリスマスプレゼントのつもりかもしれない。とはいえ、ハリーが知る限り初めてのペチュニアおばさんからのプレゼントだ。ハリーは手紙以上に驚いた。

 そのほかに届いていたのはハグリッドからの手作りのオカリナとスネイプからの魔法薬学の参考書だ。まさかこの二人からも届くとは思ってもみなかったが、それでもペチュニアおばさんからのプレゼントのインパクトに比べてしまえばそこまで驚くようなものではない。むしろハリー以上にロンがスネイプからの贈り物に驚いていた。

 呪われているかもしれない、参考書とか陰湿だ。ロンはそういって騒いだが、フレッドもジョージももちろんパーシーも笑い飛ばしただけだった。まあ、参考書が陰湿ということに関しては双子は同意していたようだが。それは送り主がスネイプでなかったとしてもあの二人は陰湿だというだろう。

 そしてもう一つ、送り主の名前の書かれていない包みがハリーの前に残されていた。


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