モビルスーツに乗りたかった喰種捜査官   作:haregreat

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前話投稿時にお気に入り登録90件突破して喜んでいたのが、投稿後仕事から帰ってきて見たら、1000件超えていました。なにが起きたんだ。
登録して頂いた方ありがとうございました。こんな駄文ですが今後もよければ見てやって下さい。

感想も多く頂けて嬉しかったです。感想は特に励みになります。ありがとうございました。
誤字報告をして頂いた方もありがとうございました。





第4話 喰種漸減作戦

12区のとある空き地に深夜だというのにいくつもの人影が集まっていた。その集団の中央にいる人物が苛立ちながら傍にいる喰種に声を掛ける。

 

「集まったのはこれだけか?」

 

そう聞くと、話しかけられた喰種は焦りながら言葉を返す。

 

「それなりの連中には全員声を掛けて承諾は貰えたんですが、もしかしたら13区の連中に……」

 

そう言葉をきり、今いない連中は13区の連中にすでに殺られたのでは。と言外に伝えリーダーの男に視線をむけた。

 

リーダーの男は部下の視線を受け、その可能性は十分にあると思い、今回13区を襲撃することとなった経緯を思い出す。

 

12区の喰種達は1年前から13区にも勢力を広げようと活発に活動を続けており、13区の喰種と縄張り争いを続けてきた。13区の喰種達は1枚岩ではなく、巨腕の元に集まった12区の喰種達は個々に反抗してくる13区の喰種達を組織的に撃破し、順調に13区に浸食を続けていた。しかしその状況は13区にジェイソンと呼ばれる喰種が現れ、喰種達を率いて暴れまわったことにより状況は一変してしまった。

あと少しで、13区の全域を支配できるかという時に現れたジェイソン達は次々と12区の喰種を狩り立て、瞬く間に12区の喰種達は13区を追い出された。

その後、しばらくはお互いが派手にぶつかり続けていたのだが、さすがにその状況を見てCCGが重い腰をあげ、12区と13区の喰種の駆逐を本格的に開始したのだ。

喰種との戦闘に加え、CCGとの戦闘も激化し、12区の巨腕の喰種集団は疲弊した。

気が付けば、戦力は全盛期の半分となり、勢いも下火になりつつある。

 

しかし1月前、久しぶりにCCGとの大きなぶつかり合いが起き、その渦中に13区のジェイソン達が突如現れ、偶然ではあったがジェイソン達と共同で字のごとく、CCGを皆殺しにしたことで状況は変わりつつあった。CCGの活動がなりを潜めたことで12区の食料事情が改善し、戦力の立て直しを図ることができたのだ。状況は好転しつつあると思われた。

 

だが、ここ最近になり12区の喰種が多数、行方不明になる事件が頻発していた。

縄張りの喰場には争ったような血痕が発見されており、何者かによる犯行であるのは間違いなかった。

 

では、誰が。CCGはつい最近皆殺しにしたばかりである。奴らが再度本格的に活動を始めるには早すぎる。ならば最有力候補の13区のジェイソン達であると考えるのは、極自然なことであった。過去にも12区の喰種がジェイソンに襲われ、多数の喰種が攫われることがあり、手口も同じだ。いささか、今回の犯行はジェイソンにしてはやり口が地味であったことが気になりはしたが、12区の首領である巨腕はこれまでの犯行をジェイソンと断定した。

 

そして、今日首領の巨腕から直々に指示された、組織のNO.2ともいうべき男が13区の襲撃を任され、喰種を率いて13区に出向こうと思いきや、出鼻から挫かれた。当初は20人集まる筈だった喰種は半分の10人が集まるのみであった。

喰種は腕時計を見ると、当初の予定から大幅に時間が過ぎていることを確認し、大きなため息を吐き、周りを見渡して、喰種達に声を掛けた。

 

「いくぞ。もう待てねぇ」

 

そう言って出発の合図を出し、13区に続く道を歩き出そうとした時、部下から不安の声が上がった。

 

「これだけで行くんですか?13区の連中は手強いって聞きますし、ボスもいないんじゃ、ジェイソンが現れたら俺達……」

 

弱気な発言を続ける喰種にリーダーの男は無言で睨みつけ黙らせる。

 

「安心しろ。そこまで深入りはしない。とりあえず何人か攫うだけだ」

 

それでも不満か?そう語りかけ、これ以上の反論は許さない。そう周りに睨みを聞かせる。そして周りの喰種達はそれ以上文句を言うことはなかった。その程度であれば。といくらか納得するような雰囲気を見せ、ようやく13区へと出発となった。その部下達を見て、リーダーの男は集まった喰種達の不甲斐なさに再度溜息を吐き、気持ちを切り替えると集団の先頭を歩み始めたのだった。

 

 

 

 

 

薄暗い路地を喰種達は音を立てずに歩き続ける。喰種達の表情は僅かに固く緊張しているように見える。もう少しで、12区を越え13区のジェイソン達が支配している縄張りに足を踏み入れるからだ。

そうして喰種の集団が13区に続く細い路地を通りかかった時、ふとリーダーの男が立ち止まる。

 

「なにか、くせぇな」

 

リーダーの男が自慢の嗅覚と経験により何かが路地にいる気配を感じ、警戒しながら立ち止まった。

そして自分達の進行方向に何かが潜んでいると確信した瞬間、上から空き缶のような物が彼らの足元に転がり落ちてきた。

 

「なんだ?」

 

喰種の一人がそう呟いた瞬間、リーダーの男は、それが何かを悟り、周囲に大声で警告しようとしたが、それは間に合わなかった。その大声よりも一瞬先に早くその空き缶状の物が強烈な閃光と炸裂音を路地にまき散らしたからだ。

 

その閃光を直視した喰種達は夜の暗闇に慣れていた目が強烈な閃光に晒されたことにより一時的に視界が真っ白に眩み、至近距離で発生した強烈な炸裂音で聴覚までもが、使いものにならなくなっていた。

急に五感の内二つを奪われた喰種達は平衡感覚を失い、四つん這いになりながら、敵襲だと騒ぎ立てる。

何人かの喰種がパニックになったのか、カグネを露わにし襲ってくるだろう敵から身を守ろうとカグネを振り回すが、近くにいる味方を吹き飛ばし余計に状況を混乱させていく。

 

「落ち着け!!」

 

リーダーの男が目を抑えながら周りに声を掛けるが全く意味をなさず、それを嘲笑うように混乱の中さらに襲撃者たちが攻撃を開始する。

 

近くの建物の2階から突如、サブマシンガンを持ったCCGの捜査官達が現れ、指揮官の合図の元、弾丸を喰種達に向かって斉射したのだ。

頭上から高レートで発射される弾丸は雨のように喰種達を襲い、捜査官達はものの数秒でマガジンに装填されていたQバレットといわれる対喰種用弾丸を撃ち尽くし、喰種の過半数以上にいくつもの浅くない傷を負わせていた。

 

そしてその銃声が鳴りやむと同時に二人の捜査官が路地の影から飛び出してくる。

この頃にはようやく視覚を取り戻し、弾丸の雨を耐え抜いた喰種達がよろめきながら立ち上がり、痛みに耐えながら次の襲撃に備え始めるが、集団の外周部にいた喰種にとってその対応は遅すぎた。

 

喰種達の進行方向から飛び出してきた捜査官二人は、クインケを手に持ち、今正に喰種に斬りかかる瞬間であったのだ。

 

両薙刀を手にした安室は並走していた真戸上等を、追い抜き正面にいる喰種に斬りかかる。

喰種はようやく視界を取り戻したばかりであり、その一撃に気が付いた時には既に手遅れであった。

 

安室は喰種の横をすり抜けながら、横切る瞬間に薙刀の刃を喰種の首に流れるように添え、少しの抵抗も感じることなく首を斬り落とし走り抜けていく。更にスピードを落とすことなく自らの進行方向にいる喰種の頭を次々に斬り落としていき、安室は集団の中央にいる、リーダーらしき男が周りに必死に指示を出し、集団の態勢を整えようとしている姿を目敏く見つけると、その喰種に向かって突撃する。喰種はこちらに向かってくる安室に気が付き、すぐに迎撃態勢を整え、自らの間合いに入ったことを確認すると、肩甲骨部分より露わにしたカグネを大きく振るった。しかし安室はその攻撃を予知しており体をほんの僅かにそらすのみで回避し、横を過ぎていったカグネに刃を突き刺して、そのまま喰種に向かって突き進むことで、カグネを2枚に下ろしていく。喰種は引き裂かれていく自らのカグネを見て、すぐさまカグネで安室を絡めとろうと動かすが、その時には、すでに安室は刃をカグネから抜いており、上体を地面すれすれまで倒し、這うように走ることでカグネから回避する。そして安室が自らの間合いに喰種を捉えると喰種に向けて両薙刀を振るうが、喰種は隠していたもう1本のカグネでなんとかその一撃を防御することに成功する。動きが止まった安室を両腕で組み倒そうとした時、喰種は信じられない光景を目撃した。防御に使っていたカグネがまるで、溶断されるかのように受け止めていた部分が斬り落とされ、そのまま前に出していた右腕ごと断ち切られたのだ。それに驚愕し、安室が持つ両薙刀の刃が先ほどより、赤くなっていることに気が付くが、喰種はそれについて深く考える暇を与えられなかった。安室はすでに2撃目を放っていたからだ。喰種はなんとか後ろに下がることでそれを回避し、縦に引き裂かれたカグネも防御に回し、安室の攻撃をそらしたが、完全にとは言いがたく、安室の攻撃が振るわれる度に、カグネは引き裂かれ、体にも傷をいくつも作り、致命傷を避けるだけで、喰種は精一杯であった。

そして、喰種はついにカグネを完全に断ち切られ、再生する余裕すら与えられず、安室は喰種の隙を突き、必殺の刃を喰種の首目掛けて振るった。その軌道には一切の障害はなく、喰種にも避けることが不可能だと自覚させられた。喰種は自らの死を覚悟し、せめて最後まで下手人の人間を睨みつけようと、目だけは反らさず、その瞬間を待ったが、刃は首の皮1枚を斬るのみで、喰種の首の寸でのところで刃は止まっていた。

 

「あぶねっ!!」

 

安室はやや冷や汗をかきながら、ぎりぎり所で今回の目的を思い出し、この喰種を殺すのはまずいと判断したことで止めの一撃を思いとどまったのだ。そして喰種に大丈夫?等と聞く始末である。

 

喰種は、なぜ刃を止めたのかよく分かっていなかったが、相手が隙を作っていることを確認し、視線は安室に向けたまま、勢いよく後ろに下がり距離をとる。そして、怒りに任せ相手を怒鳴りつけた。

 

「てめぇら13区の連中じゃねぇな!!CCG共が!!」

 

そう喰種は怒鳴り散らすが、安室は何を今更。と顔を顰めるのみであり、再度クインケを構え直す。そして喰種は背中に力をこめ背中が泡立ち新たなカグネを露わにし、再度戦端を開こうと、構えようとしたその時、仲間の悲鳴が耳に入った。喰種は一瞬そちらに眼を向けると、そこには奇襲で戦闘不能になった喰種や今だ意識がはっきりしない喰種を楽しそうに殺し回る捜査官が目に入ったのだ。そして喰種とその捜査官は偶然であったが目線が合うと捜査官は不気味な笑みをこちらに向け語りかけてきた。

 

「なにか用かね?」

 

何でもないように尋ねる捜査官は、目線だけを喰種に向け、手を止めず、近くにいた喰種に刃を突きいれていく。

その反応をみた喰種は怒り狂い、捜査官を怒鳴りつけた。

 

「やめろ!!」

 

仲間をまるで虫けらを潰すかのように殺し続ける捜査官を見て、喰種は理性を飛ばし、その捜査官に斬りかかろうとする。だが、喰種は正面にいる安室にもっと注意を払い続けるべきだった。

喰種が正面の気配に気が付き、前に向き直った時には、安室は喰種の目前に迫っていた。

 

安室はすでに喰種が気配に気が付いた時には自らの間合いに喰種を捉えていた。安室の一撃はカグネを一撃で両断し、返しの2撃目で両腕を一振りで切り落とす。更に体を回転させ逆の刃で喰種の右足を態勢を低くしながら掬い上げるように切り落とすと、やっと安室は動きを止め、喰種は地面に崩れ落ちる。喰種はなおも必死に這いずるものの、安室は念を入れて残った左足に刃を突き入れ喰種の四肢を全て切り落としてみせた。

 

喰種はそのような状態になりながらも、周囲に散らばる自らの四肢を見て気を失いそうになるが、激痛に耐え最後の気力を振り絞って喚き散らした。

 

「てめぇら!!許さねぇ!!絶対に喰ってやる!!絶対に喰ってやるからな!!」

 

その喰種を見て、安室は元気だなぁと、喰種の生命力に関心しつつ、特に喰種の言葉に取り合わず、倒れ伏す喰種の顎目掛けて蹴りを放ち、物理的に喰種を黙らせた。

 

「いやー喰種の生命力は半端ないですね。こんなになってもピンピンしてるんですから」

 

そう話しかけた真戸上等は丁度、最後の1体にとどめを刺し終えた所でだった。

 

「奴らはゴキブリだよ。君も知っているだろう?しかし首はまずい。君がその情報源の頭を落としかけた時には肝が冷えたよ」

 

そう言いながら、真戸上等はクインケを一振りし、血を払い落す。そして二人で軽口を叩きながら、敵の増援が来ないか警戒していると、2Fからサブマシンガンを持った三原捜査官と局員達が近づいてきた。

 

よく見ると三原捜査官は顔を青ざめ、後ろにいる局員達の何人かは、死体が喰種とはいえ、外見は人間と変わらない物たちの凄惨な状況を見て、吐き出す者までいた。

 

「お、お疲れ様でした。喰種の輸送準備は手筈通りすんでおります。これより輸送を開始しますがよろしいでしょうか」

 

いくらかびくつきながら、話しかけてくる捜査官に真戸上等が答える。

 

「そうしてくれ。君達の射撃も素晴らしかった。支局長にもよろしく伝えておくよ」

 

その言葉にいくらか恐縮しながら、捜査官達は安室がボロボロにした喰種を拘束して車へ乗せていき、死体も無造作に積み込んでいく。待機していた車両は次々と12区の支部へと出発して行った。

その間も、安室達は周囲を警戒していたものの特に、何かが起こることもなく時間が過ぎていく。

 

そして最後の1台が出発したのを確認し、三原捜査官が作業が完了したことをこちらに報告してくる。

真戸上等がそれに返事をし、我々も撤収すると伝え、安室に声を掛けようとした時、安室の様子が変わっていた。

 

安室は13区に続く細い路地、喰種達が進もうとしていた先を睨みつけるようにして見ていた。

それを見て、真戸上等が安室に近づき話しかける。

 

「何か、来るかね?」

 

そう聞かれた安室は少し間をおいて答える。

 

「でかいプレッシャーが一つ近づいて来ます」

 

安室は、地下探索任務でもそう感じることはなかったプレッシャーを感じていた。悪意と憎悪を混ぜ込んだもの。そんなものが近づいてくるのを能力で察知していたのだ。

 

真戸上等は安室の発言について考える。安室の言葉を疑う気は一切なかった。安室という男がこういった言葉を吐くとき、外れたことがないからだ。それに自分の直感も何かが来ると騒いでいる。そして安室が珍しく、よくプレッシャーと表現する言葉に更にでかいという形容詞までつけており、その方向は13区から。

まだ、姿は見えないものの、真戸上等は自らの勘を信じ、近くにいる捜査官に話しかけた。

 

「君は退避したまえ。それと黒巌特等に伝えてくれないかね?ジェイソンが現れたとな」

 

その言葉に三原捜査官は姿が見えない敵にどうしてそこまで言いきれるのか。甚だ疑問に思ったが、僅かな時間ではあるが一緒にこの二人と捜査をし、この二人が異常だということは十分に理解していた。また上司からの命令でもある。

三原捜査官は二人の言葉を信用し、すぐに呼んできますので、ご武運を。そう告げ、車両に走り去っていく。

 

真戸上等はそれを見届けると、安室の横に立ち、二人は1分程無言で通路の先に視線を向けていた。すると僅かに足音が聞こえてくる。そして足音が大きくなるにつれ、徐々にその正体が露わになっていった。

 

大柄な体格に顔にはホッケーマスク、片手には大型のレンチを持つ男がこちらに歩いてくるのだ。正にホラー映画のワンシーンである。

本来なら、そのようなものを現実で見れば恐怖ですぐ様、逃げ出すであろうがその怪物の前に立つ二人は普通ではない。周りから見れば十分異常者の二人である。案の定二人は、自分達の予想が当たり、笑みを深くしていた。

 

そして、ホッケーマスクの男、ジェイソンも二人を見て、立ち止まると仮面越しで顔は見えないが、笑みを見せているように感じられた。ジェイソンが口を開く。

 

「おや、僕は12区の喰種に用があってここに来たんだけど、なんで白鳩がいるのかな?連中は僕の玩具にする予定だったんだけど?」

 

ジェイソンはそう言うと、捜査官達から周りに視線を移し、ここでなにがあったかを確信する。死体を片付けたとはいえ、血の跡などはまだ、いくらでも残っており、喰種の嗅覚であればすでにこの場でなにが起こったか、口に出す前からほとんど分かっていたのだが、あえてジェイソンは口に出して捜査官達に尋ねたのだ。

 

「人の獲物を獲るのはよくないんじゃないかい?せっかく彼らを13区で待っていたのに幾ら待っても来ないもんだから、こちらから出向いたらこの有様だ。さて、俺はどうすりゃあいいんだ?」

 

ジェイソンの口調は最初、柔らかいものであったが、最後は捜査官達を威圧するものに変わっていた。

だが凄まれた二人は全く意に介さず、真戸上等が口を開く。

 

「君は13区のジェイソン君で間違いないかね?」

 

真戸上等は柔らかい口調で、問いかけると、ジェイソンはやや不満そうに答える。

 

「質問に質問で返すってのは相変わらず白鳩ってのは礼儀を知らないようだね。で、だったらどうすんだ?」

 

そう返したジェイソンに真戸上等は満面の笑顔で答えた。

 

「肯定と判断させて貰うとしよう!!ジェーイソォォォーン!!」

 

真戸上等はそう言いきる前にはクインケを展開し、ハイテンションでジェイソンの名前を叫び散らして、レイピアで斬りかかる。しかしその攻撃はジェイソンのレンチで軽々といなされ、余裕の表情でジェイソンがこちらに向かって語り掛けてくる。

 

「いいぜ。お前達で遊んでやるよ!!」

 

そう言うと、真戸上等の攻撃を軽々と避けていたジェイソンは、一転して攻勢に出た。最初は真戸上等も攻撃を混ぜ込でいたものの、ジェイソンの動きがどんどん速くなり、真戸上等はついに押され始め防御で精一杯となる。そして真戸上等はレンチの大振りによる1撃を真正面からレイピア越しに受けてしまい、その衝撃で後ろにたたらを踏んでしまう。そんな隙をジェイソンが見逃す筈もなく、隙を見せている真戸上等に殴り掛かろうとするが、安室が援護するようにジェイソンの横合いから斬りつけた。しかし先ほどの喰種とは違い、安室にも気を配っていたジェイソンは、殴りかかろうとしていた態勢から、安室の一撃をよける為の回避行動に一瞬で切り替え、安室の一撃を危なげなく回避すると、お返しにレンチで殴り掛かかる。ジェイソンの攻撃は人間にとってまさに一撃でも食らえば即、戦闘不能になる威力を伴っていることはその腕の太さ、そしてそのスイングの速さからも明らかであったが、安室は特段物怖じすることはなかった。当たらなければどういうことはないのだ。

安室はジェイソンのレンチによる攻撃を体を僅かに反らすのみでかわし、まれに上着を掠るものの、安室の表情からは余裕を感じられた。そして、ジェイソンの大振りを誘発したその時、安室が反撃を開始する。安室は空振りしたジェイソンの隙を突き、薙刀をフルスイングした。しかしジェイソンの反応スピードも大したもので、ジェイソンは咄嗟に回避し、スーツをわずかに掠めるだけで不発に終わってしまう。その後二人は何回か打ち合うものの決め手が放てず、示し合わせたかのようにお互いが距離をとった。

 

そしてジェイソンが安室に先ほど斬られた部分を目にすると、横に一閃、ネクタイを切り落とされ、僅かに白いスーツに血が滲み、赤く染めていた。

 

「やってくれるね。お気に入りのスーツなんだけど、どうしてくれるんだ?」

 

安室がスーツをよく見ると、それなりに上等なものだと気が付く。喰種にしては大切に扱っているようだ。

ジェイソンはそのスーツを安室に傷つけられたことに中々ご立腹らしい。

 

安室は「知るか。馬鹿」と適当にジェイソンに返答すると、「お前は玩具確定だ」そう安室に宣告し、自らの指の骨を安室に見せつけるように鳴らす。

 

そんな姿を見て、安室は、なにそれ?カッコいいとおもってんの?さむいんだけど。そう挑発しようとして口を開こうとした時、安室の背後から真戸上等が奇声を上げてジェイソンに突っ込んでいった。

 

安室はその姿を見て、歳考えようぜ。と思うものの真戸上等にとって久しぶりの大物である。いうなれば、禁欲生活を強いられた獣が美女を目の前にした時のようなもので、その興奮もしかたない。そう考え、真戸上等に心の中で声援を送った。がんばぇー

 

「ジェェェイソォォン!!」

 

真戸上等はジェイソンの名前を繰り返し叫び、攻撃を仕掛ける。案外冷静なのか、その攻撃は的確にジェイソンの防御の隙を狙うもので、ジェイソンも反撃をしにくそうにし、手こずっているようだ。

 

俺もその姿を見て援護に回ろうとした時、ジェイソンが咆哮する。

 

「しゃらくせぇ!!」

 

そう吠えると、ついにジェイソンは巨大なカグネを露わにし、真戸上等を貫こうとした。だが喰種の最大の武器であるカグネを忘れる捜査官等いない。むしろ今までジェイソンがカグネを温存していたせいで、戦い辛かったほどである。真戸上等は突如現れたカグネに対して、大きく後ろに下がるようにその巨大なカグネの一振りを回避する。しかしそれをジェイソンも追い、片手に持ったレンチで殴り殺そうとするも、安室が後ろに下がった真戸上等と入れ替わるように、前に出て、ジェイソンに斬りかかる。安室はジェイソンの腹部を切り裂いてやろうと、スピードを重視した1撃を放った。だが、ジェイソンはそれを片手に持っていたレンチだけで、受けてみせ、もう片方の腕で俺の薙刀を掴み取った。

 

「離さねぇぞ!」

 

安室は自らのお気に入りのクインケを無遠慮に触られ、取り上げようとしてくる喰種に腹が煮えたぐりそうな思いになるも、いかにこの喰種からクインケを取り返してやろうかと考えようとした時、背後からの気配に安室は気が付き、ジェイソンに抵抗することなく、クインケから手を放した。

 

「あ、はい」

 

そうジェイソンに返事をした安室は、クインケを手放すと、上体を思い切り横に反らす。

そして、安室が横に体をそらしたことで、ジェイソンから安室の背後にいる者の姿が露わになる。それは、黒いボーガンを手に持ち、すでに引き金を引いていた真戸上等の姿であった。

 

真戸上等は安室が横にずれたと同時に矢を放ち、ジェイソンが気が付いた時には、すでに矢は高速で放たれていた。その狙いは寸分の狂いもなく、ジェイソンの顔目掛けて、高速で飛来する。最高のタイミングでの1撃であった。安室はくたばれ。と内心でジェイソンを罵り、頭を串刺しにされる光景を想像する。しかし、その光景が訪れることはなかった。

矢の軌道には一切の障害もなく、ジェイソンの頭目掛けて飛んでいく。だがジェイソンは近距離から高速で放たれた矢を顔面すれすれで、両手で掴み取ったのだ。あと数ミリで、頭部を吹き飛ばした1撃は間一髪で防がれてしまう。

 

矢を掴み取ったジェイソンの手の平からはいくらかの血が流れ、矢の返しが血液に反応することで、僅かばかり肥大化し、手のひらを傷つけてはいたが、喰種にとっては、軽症にもならないだろう。安室はその光景を見届けながら、ジェイソンが振るうカグネを避けつつ、矢を掴み取った際にジェイソンが投げ捨てた自らのクインケを回収し、後ろに下がると真戸上等の横に並ぶ。

 

そして、ジェイソンが矢を投げ捨て口を開く。

 

「惜しかったなぁ?今のは俺も焦ったぜ?」

 

ジェイソンは獰猛な笑みを仮面越しにして見せ、手の平の傷から僅かな蒸気を出し、傷が瞬く間に癒えていくのが見えた。

 

「久しぶりに楽しませてくれるじゃねぇか。そっちのじじぃも気に入ったよ。持ち帰り確定だぜ?ちょっと本気になりそうだ!!」

 

そう言うと、露わにしていたカグネは先ほども十分に巨大だったというのに、更に大きさが増し、カグネの外皮からは脈打つ血管のようなものが、目立って見える。どうやら、ジェイソンは言葉通り、遊びから本気になったらしい。

 

「ふむ。さすがに黒巌が手古摺るだけはあるな。安室君、前を任せてもいいかね?」

 

真戸上等は、ジェイソンの本気を見て、先ほどの狂乱が無かったかのように冷静に状況を分析し、安室に前を頼むように尋ねる。

 

「任せてください。動きも大分見えてきましたし、二人でなら、次で決めれそうですよ」

 

そう、ジェイソンに聞こえるように自信満々で安室は真戸上等に言葉を返すと、ジェイソンに挑発するように笑って見せる。

 

そして、ジェイソンもそれに仮面越しから笑って見せ、お互いがカグネとクインケを構えた所で、突如サイレンの音が響き渡った。

 

路地の両方からCCGのパトカーが存在を誇張するように、サイレンを鳴らし、パトカーからはCCGの捜査官が次々と降りてきており、指揮官らしき男を先頭に、ジェイソンに近づいてきていた。

 

その光景を見たジェイソンは舌打ちすると、真戸上等と安室に声を掛ける。

 

「命拾いしたようだな?今日はこのくらいにしておいてやる。お前達の顔は覚えたぜ?13区が片付いたら挨拶に行ってやるから待ってろ」

 

そう捨てセリフを吐いてこの場から逃げ出そうとするジェイソンに安室は挑発する。

 

「逃げるの?逃げれると思ってんの?」

 

安室はそう挑発し、逃がす気はないと言い放つが、ジェイソンは余裕を持って答える。

 

「見逃してやるって言ってんだよ。追ってきてもいいぜ?」

 

そう言うと、ジェイソンはカグネを地面に当て、カグネを器用に扱い、跳ねるようにして飛び上がった。高く飛び上がったジェイソンは近くの建物の壁にカグネを突き刺し、器用に建物を登っていく。

 

止める間もなく、飛び上がってしまったジェイソンを見上げていると、増援に来た捜査官の先頭に立つ、黒巌特等がジェイソンを見上げながら安室と真戸上等に近づき、「無事か?」

と話しかけてきた。真戸上等がそれに受け答えをするが、安室がそれを全く聞いている素振りは見えなかった。安室はまだ、諦めていなかったのだ。安室も1年ばかり小物ばかりを相手にしてきたせいで、それなりにストレスが溜まっていた事と、ジェイソンのカグネを見て、どんなクインケができるか、妄想が膨らんでしょうがなかった。

 

安室は、ジェイソンが上っている建物の屋上を見上げ、背中に担いでいた、ウミヘビを取り出し、屋上に見える手摺に撃ち放つ。

 

ウミヘビは安室の狙い通り、手摺に絡みつくと、そのままワイヤーを巻き取り始め、安室も僅かに後ろに下がり、助走をつけると、ワイヤーを巻き戻す力を利用しつつ、壁を駆け上り始めたのだ。

安室の背後からは、黒巌特等の静止の声が聞こえたが、安室は聞こえない振りをして、ジェイソンの追跡を開始した。

 

ジェイソンは、丁度屋上に着き、背後を振り返ると、壁を駆け上る捜査官を見やり、「威勢がいいねぇ~」と感心しながら手招きするように安室を挑発し、安室の視界から消えていく。

 

安室はそのジェイソンの挑発を見て、結構切れていた。

 

有馬さんだって、現場で喰種を駆逐してナルカミを得たんだ!俺だって。

 

と、赤い少佐の部下の死亡フラグ満載なセリフを無意識に呟いていたが、本人は気が付いていなかった。

 

そうして、安室は更に壁を駆け上がるスピードを速め、あっという間にビルを踏破してみせ、勢いあまり、屋上に飛び上がりながら到着すると、安室の視界一杯にジェイソンのカグネが迫っていた。

 

ジェイソンは安室が屋上に辿り着く瞬間を狙って待ち伏せていたのだ。安室が屋上に到着し、空中にいる安室目掛けてカグネを思いっきり振るう。

 

しかし、安室もギリギリでそれを予知し、体を逸らしながらウミヘビの残りのワイヤーを思い切り手繰るようにし、空中での軌道を変え、ジェイソンのカグネをかわしきった。

 

「やるね~!!」

 

ジェイソンはその一連の動きを褒めると、カグネで着地した安室を更に追撃する。だが安室はそれすらも、横に転がるようにして、回避し、ジェイソンに向かって突き進み、クインケの間合いに一瞬で距離を詰める。

それにジェイソンも答えるようにして前にでて、レンチで安室に殴り掛かった。

二人は、二合、三合と高速で刃とレンチを打ち合い、火花を散らすが、お互いに決定打を撃てず、ジェイソンが巨大なカグネを横に大きく振るい、それを飛び上がりながら、かわす安室を見てジェイソンは距離をとった。そして、ジェイソンは仮面越しで安室に笑みを掛けると、巨大なカグネを天に向かって掲げる。

 

安室はその行動を怪訝に思いながら、どう斬り殺してやろうかと考える。

そして、ジェイソンが口を開いた。

 

「威勢がいい奴は嫌いじゃねぇ。てめぇを玩具にするのが楽しみだ。次は下にいる連中がいねぇ時に楽しもうぜ」

 

そう、別れを告げるように、ジェイソンが安室に話かけ、安室の返答を待たずに掲げていたカグネを屋上の床に叩きつけた。

 

安室はその行動の真意にすぐに気が付き、ジェイソンに向かって駈け出そうとするが、ジェイソンの動きが速かった。

 

床に叩きつけられた巨大なカグネの衝撃に屋上の床は耐えきれず、崩落を始める。安室はそれに巻き込まれまいとするが、範囲があまりに広く、瓦礫と一緒に安室はゆっくりと落下していく。落下していく瞬間、ジェイソンは崩落しなかった屋上の淵に立ち、仮面を外して、安室に笑いかけると、安室の視界から消えていった。

 

安室はその光景を見て、毒づくと着地に備える。下の階層まではそう高さがなかったお陰で、安室は余裕を持って受け身を取りつつ、着地した。

そして、降り注ぐ瓦礫に注意を注ぎながら周囲を見渡し、ジェイソンがいた場所を名残惜しそうに見上げて、溜息を一つ吐くと下に続く階段を探す為、その場を後にした。

 

 

 

     

 

 

 

 

あぁ。Sレートを逃がした。非常に残念である。誠に遺憾である。俺はどうすれば、奴を逃がさずにすんだか。奴でどんなクインケを作れたかと、未練たらたらで1階までの階段を下がり、真戸さんと黒巌特等が待つ、先程の現場に戻ってきた。

近づく俺を見つけた真戸さんと黒巌特等は真戸さんは無事かね?と語り掛け、黒巌特等は無言で俺に近づいてきた。

 

俺は真戸さんに、無事だと、肯定の返事をしようとしたが、目の前まで来た黒巌特等が俺の肩に手を置くことで、中断せざるを得なかった。

 

「うむ」

 

そう言って俺の目に黒巌特等は強烈な視線を当ててくる。俺はなんだ?と考えると嫌な予感が頭を過り、それが確信に変わり、恐らく訪れるであろう未来に備え身構える。修正されてやる!!

 

そして、頬に衝撃が走った。

体に浮遊感を感じ、刻が見えた気がする。あぁこれが若さか。(若くない)

 

いくらかの浮遊感を感じ、俺は地面に倒れ、軽い脳震盪になりながらも、俺は立ち上がろうとしつつ、必死に考えた。殴られた理由はなんとなくだが分かる。しかし今はそれはどうでもいいのだ。どうする?あれを言うべきか?しかしこの歳になって、捜査官達の注目が集まっているこの状況で言っていいのだろうか。俺は羞恥心と格闘しながら、その言葉を言った未来を考える。間違いなくガチの特等パンチがもう1発飛んでくるに違いない。本家様は平手で済んでるのに、俺は特等ゴリラのグーパンってどういうことだよ。そして、考え抜いた挙句、俺は言わなかった。言えなかったのだ。羞恥心に加え、言った後の未来を想像し、ひよった。なので、心の中で叫ぶ。

 

殴ったね!!親にも殴られたことないのに!!

 

とりあえず、お約束を心の中で叫び、ノルマ的なものを済ませる。だらしねぇ。

糞どうでもいいことを考えて、震える足で何とか立ち上がり、心の中でそんな言葉を吐いていたせいか、僅かに黒巌特等を睨みつけるようにしてしまった。周囲の捜査官は無言でこちらを緊張するように見ているが、俺は何かするつもりはない。

 

いくらか、黒巌特等と視線が交差した後、俺は素直に頭を下げてごめんなさいをした。

数秒頭を下げ、顔を上げると、また黒巌特等がこちらを幾らか見た後、うむとだけ言い、優しく肩を叩いて、後ろの部下達の元に歩き去っていく。

 

俺は黒巌特等のプレッシャーから解放され、力が抜けてしまい、崩れ落ちそうになるが、真戸さんが傍に来て、肩を貸してくれたおかげでなんとか倒れずにすんだ。

 

「無事かね?」

 

さっきまでは、自信を持って肯定したのだが、地下での捜査以来のダメージである。

 

「さっきまでは無事でしたよ」

 

俺は、うんざりしながら真戸さんに返事をした。

 

「あまり、悪く思わないでくれ。黒巌は不器用な男でな。君を思っての行動だろう」

 

それは分かっている。殴られた時に感じた感情は、俺の事を心配しているものだった。だが、あの人は自分の力を分かってるのだろうか。俺じゃなきゃ、首飛んでたんじゃないか。前世だったら死んでた自信があるぞ。

俺は聞こえるかどうかの声量で、車までの道のりをグダグダと不満を言う。

 

「あぁー、とりあえず、ひと段落したらもう1度謝りに行きますよ」

 

俺は自分の行動がまぁ悪いのだから、しょうがないと諦め、落ち着いたら黒巌特等に、もう1度謝罪しに行くと真戸さんに告げる。

 

「本人も気にしているだろうから、そうするといい。それと私も君が抜け駆けしたことに不満を持っているのだがね」

 

真戸さんは本気で言ってるか冗談なのかわからない口調でそう言ってきた。

 

「すいません。謝りますんで反省するんで、修正はやめてください。死んでしまいます」

 

そう返すと、真戸さんは笑いながら冗談だ。と言って俺をねぎらってくれた。

ほんま、いい上司ですわ。

 

俺は真戸さんに連れられて、車両に到着すると、真戸さんが車を発進させる。

そして、支局へと車を向けると、俺に語り掛けてくる。

 

「安室君。とりあえずジェイソンの事は忘れたまえ。奴については13区の黒巌たちが捜査を行う。我々は今回捕獲した巨腕の関係者から情報を引き出し、巨腕を駆逐するのが仕事だ」

 

今回の目的を改めて、俺に諭すように言ってくる。

 

「私は、捕獲した喰種の尋問を明日からでも開始する。君は明日は休んでいたまえ。なに、今日の鬱憤は近日中に巨腕で晴らせるだろう。それまで僅かな時間ではあるが我慢していてくれよ」

 

真戸さんは俺にジェイソンを追うな。巨腕と近い内に戦えるから我慢しろと、言外に言いくるめてくるが、そこまで無謀ではないし、消息をたった喰種を追える程俺の捜査力は高くない。それに巨腕を近いうちに殺れるのだ。全く不満はない。

 

「不満はありませんよ。巨腕を狩れるんですから楽しみにしておきます」

 

そう言うとお互いに、喋ることもなくなり、支局までの道のりまでは、お互い思案に耽っていた。そして久方に充実した短かった夜が明け、支局に到着する頃には、朝日が俺達を照らしていた。

 

 

 

 

 

後日、俺と真戸さんは捕獲した喰種から巨腕の喰種の拠点に関して、情報を引き出すことに成功し、巨腕の喰種を討伐することに成功するのだった。




だらしない主人公から一言

「特等にグーパンされたら言える訳ないだろ!!いい加減にしろ!!」

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