モビルスーツに乗りたかった喰種捜査官 作:haregreat
本当なら1月に投稿予定だったのですが色々ありまして遅れました。
お気に入り登録が90件を超え、感想もいくつも頂けました。
皆さんありがとうございます。
全く話が進んでおりませんが、投稿スピードはこれから少しは上がりますので、駄文ではありますが今後もよろしくお願いします。
真戸さんとペアを組み1年近くが経過し、季節は蒸し暑い夏へと変わっていた。
そんな、今年最高気温を叩き出し、真夏日となった都内で、俺は真戸さんと薄暗い路地裏を歩いていた。
別に、暑いから路地裏を歩いているわけではない。仕事である。
「安室くん見てみろ。ここしばらく我々が妨害したおかげで、このような真昼間から狩りをしようとする馬鹿な喰種がおるぞ。しかも飢えで禁断症状をおこしている。やはり知恵というものが無いな。」
「全くです。ちなみに俺がやっちゃっていいですか?え、ダメ?真戸さんがやるの?」
「偶には私に譲り給え。君にばかり戦闘を任せてばかりでは腕が錆びると言うものだ。」
俺達が路地裏でここ暫く、張り続けていたおかげでようやく、目的の喰種に遭遇できた。
キャップを深く被り、マスクをした男の前で緊張感が全くない会話をする。
「お、お前達まさかCCG!?」
付けられていたことに全く気が付いてなかったのか。帽子とマスクの隙間から見える目は黒く変化し、飢餓によって、喰種の特徴である赫眼を露わにしていた。
「中々に探し回ったよ。君みたいに警戒心が強いだけの喰種はやはり苦労に見合わんな。」
そう言うと真戸さんは最近、作成したというボーガン型のクインケを瞬時に展開し、狙いを本当に付けたのかと疑うくらいの早撃ちを見せつけた。
速い。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
真戸さんの早撃ちで放たれた矢は反応出来なかった喰種の腹部に深々と突き刺さり、突き刺さると同時に矢の返しが喰種のRC細胞に反応し、瞬時に内部から破裂するように膨張し、その勢いで喰種の上半身と下半身が泣き別れになる。
「相変わらず、エゲツナイデスネ。それよりも羽赫のクインケ凄く羨ましいんですが。」
「ふむ、君もその新しいクインケに慣れてきたことだし、私がなにか見繕おうか?」
そう言いながら、虫の息で必死に俺達から上半身だけで這って距離を取ろうとする喰種に笑顔で止めを刺す真戸さん。まぁいつもの光景すぎて、最近では真戸さんの光悦とした不気味な笑顔にも慣れた。特に思うことはない。だが、真戸さんが言ったことは、見逃せない。
「まじっすか!?後からやっぱりなしとか駄目ですよ!」
「あぁ。構わないとも。前から羽赫のクインケが欲しいと言っていたし、私もお気に入りが君のおかげで増えたことだ。丁度私以外に扱えるものがいなくて、埃を被っている羽赫のクインケがあるのだよ。それを君に渡そうと思っている。」
おぉ!羽赫だって!もしかしてきちゃうか?例のあれきちゃう?しかし、扱いずらいと言う単語に嫌な予感が頭を過ったが、気にしないことにしよう。もう脅威のメカニズムは勘弁な。
「ここ最近君のおかげで捜査が捗った。この1年でこれだけの喰種を殲滅できたのは君の存在が大きい。少々早いが私からの昇進祝いだと思ってくれ。」
俺達で駆逐した喰種はこの1年で相当数に昇る。しかし俺のお陰なのだろうか。捜査自体は真戸さんが大まかな流れを決めてただ俺はその補佐をしているだけなのだが。ただ、真戸さんの手柄を横取りしてるだけじゃね?
しかも、ここ最近二人で駆逐した喰種は俺の功績となっており、おかげで真戸さんの推薦もあってか、一等捜査官になることが、内定しているという。なんか、申し訳なさすぎる。
「君は謙遜しすぎだよ。私は君に指示を出しているに過ぎない。それを確実に期待以上の結果を出す君に正当な評価を下したまでだ。気にすることはない。」
たいしたことではないと真戸さんは言いきった後、支局へ連絡をし、喰種の回収を依頼していた。
俺達が6区の支局に戻ると、支局長から本局に出頭要請がきていることを伝えられ、二人で本局に戻ることになった。今までは、人手が足りない区の要請を受けて、喰種を狩ることを繰り返していた。その過程で捜査について多くのことを教わり、真戸さんの指示にも最初はぎこちなかったが、今では大分答えれるようにもなった。しかし、ここ最近は地下との喰種とは比べ物にならない小物ばかりであり、Aレートの羽赫を1体駆逐したものの、それ以外はCレートの雑魚ばかりである。手に入ったばかりの薙刀では、オーバーキル以外のなにものではなく、一振りするだけで、回避もできない奴らばかりだったので、練習にもならかった。その点には酷く不満だが、捜査の基礎をこの1年で学べたのは大きいだろう。
「本局に呼ばれるってなんですかね?怒られることしましたっけ?」
全く、呼ばれることに対して、要件が思いつかず真戸さんに聞いてみる。
「安心したまえ。叱責されるような命令無視はここ最近なかったはずだ。もしかしたら別任務を申し渡されるかもしれんな」
任務といっても、ここ最近小物ばかりで少々物足りない。そろそろでかい山に関わりたいと少し不満に思っていると、どうやら顔に出ていたらしく真戸さんから声がかかる。
「おそらく、ここしばらくの任務は君に経験を積ませるのが目的だったのもあるだろう。
だが、さすがにそろそろそれなりの仕事を貰ってもいい頃合いだ。少しは期待してもいいかもしれんぞ」
真戸さんから、もしかしたらそれなりの任務がくるかもと、言われ俺は期待した。真戸さんのこう言った予想はよく当たるのだ。
「それは、楽しみですね。期待してます。あとクインケも」
俺はどちらも楽しみにしつつ、真戸さんと本局へと向かった。
俺達が本局に到着すると早々に局長から呼び出しがかかり、現在は局長から直々に任務が申し渡されていた。
「君たちには12区で巨腕の喰種の捜査に当たってもらう。現在、12区と13区の喰種達の縄張り争いが激化している。13区はジェイソンと呼ばれる喰種が率いる集団を黒磐特等が当たっているが、12区の担当班が巨腕の喰種に壊滅させられてね。率いていた準特等も殉職した。その代わりに真戸上等がチームを率いて巨腕にあたってくれ。」
巨腕の喰種。レートはSとして認知されており、ここ最近では12区の喰種を率いて、13区に殴り込んでいるらしい。準特等が捜査に当たっていたらしいが、捜査中に喰種に襲撃され殉職したとのこと。巨腕については甲赫だという以外情報がないが、戦闘能力が高く、好戦的。それなりに頭も回るそうで厄介らしい。なので、ここ最近殲滅率が高く、戦闘能力が高い真戸さんと俺のペアが選ばれたらしい。
「お任せを。期待に応えれるよう尽力しましょう。」
真戸さんがそう言ってさがろうとした時に、局長から待ったがかかる。
「そういえば、安室の昇進の件だが、認めよう。今日から安室くんは一等捜査官として捜査に当たり給え。」
おー。昇進だ。1年で昇進とか俺ってすごい?ていうか宇井先輩に並んだぜ。
まぁ宇井先輩は上等捜査官に内定しているので、すぐにまた職位はあちらが上になるのだが。
「二人には期待している。よろしく頼むよ。」
そう言われて、二人で頭を下げて退席する。ふう緊張したぜ。
しかし、とうとう1等である。わずか、2年と半年ばかりでなっちゃうってすごくない?
こんな若造をこんなスピードで昇進させて大丈夫なのだろうか。人手不足が半端ねぇな。CCG。
「安室君。昇進おめでとう。君も今日から一等捜査官だ。その若さで大変だと思うが、もうしばらくは私も補佐はしよう。期待に応えられるよう励むことだ。」
そう固い言葉で、祝いの言葉を貰う。その言葉にお礼をしつつ、ちなみにクインケの件はどうですと聞くと、笑いながら、あいかわらずだなと言われ、着いて来るように言われた。
そして着いていった先には小さな作業台の上にクインケケースが置かれており、どうやら事前に取り寄せていてくれたようだ。
俺はどきどきしながら、真戸さんに展開していいですかと聞くと、構わない。と了解を貰えたのでクインケを手に持ち展開する。
クインケはケース状から武器へと変形すると、形状はけん玉といえばいいのか、持ち手はコーン状で、その上にロケット状のものが取り付けられている。
「通称ウミヘビ。軽量でコンパクト。ワイヤーが取り付けられたその先端の突起が射出されるようになっているのだ。更にいくらかの追尾機能を持っていてね。これに巻きつけた喰種に強力な電流を流すことができる。それに君は零番隊出身ならワイヤーを使用した戦闘は得意だと思いこのクインケを贈らせてもらったのが、どうだね?」
俺がクインケを持ち眺めていると、丁寧に真戸さんが解説してくれる。
これは、嫌な予感は外れたが、中々予想の斜めをぶっ飛んできたな。名前の通り、とあるエースが使用していたウミヘビとまんまだ。
薙刀といい、不満はないのだが、あと一歩足りないというか。アムロさんにこれはありなのか。すごい微妙な感じもするが、初めての羽赫のクインケである。大切に使わせてもらおう。
俺は気に入りました。うまく使えるよう頑張りますと伝えると。真戸さんは気に入ってくれたようなら私もうれしいと言われ、そこから、クインケについて喋りながら二人で12区へと向かうこととなった。
「君達が真戸上等と安室一等だね。噂は聞いてる。ここ最近かなり活躍しているようで、来てくれて頼もしいよ。現状12区でSレート相手に戦闘可能な捜査官は先日全滅してしまった。」
俺と真戸さんは現在12区の局長に着任の挨拶に来ていた。どうやら12区に関しては先日の喰種の襲撃でかなり、人手不足だったらしい。
「更に増員を要請してはいるが、君達以上の増員はすぐには厳しいらしい。しかし13区担当の黒磐特等は協力は惜しまないと言ってくれている。12区の生き残りの支局員もうまく使って貰って構わない。なんとか巨腕を頼む。」
その後、別室に生き残りの捜査官を集めてあるのでそこで詳細を聞いてくれと言われたので、真戸さんが現場指揮等について幾らか話した後、俺達は捜査官達が集まる会議室に向かう為、その場を退いた。
「しかし、敵は集団なんですよね?別に二人で相手にするのは全然かまわないんですが、こういうのって、普通はもっと捜査官増員するんじゃないですかね?」
俺は会議室に向かう途中、疑問に思ったことを真戸さんに尋ねる。
「本来であれば、そうなのだが現在CCGも人手不足でね。各区で大食いやら美食家等ここ最近新顔のやっかいものが増えた。どこも上等捜査官以上という者は人手不足なのだ。まだ、13区と協力してあたれるだけましだよ。」
そういうものか。やはり俺の昇進スピードは人手不足もあったらしい。
「それでは、まずは12区の生き残りの捜査官と局員に挨拶をした後、黒巌特等といくらか情報を交換しよう。黒巌特等なら、いくらか情報をくれるだろう。」
そう言って俺達は12区の生き残りの捜査官達が待つ、会議室にむかった。
会議室に着くと待っていた捜査官達が立ち上がりお待ちしていました。と言ってから挨拶をしてくる。
「二等捜査官の三原です。残念ながらクインケの戦闘が可能な捜査官は私のみであり、残りは支局員の者が何人か使えるのみです。後は殉職もしくは入院中でして。」
本当に人いねぇな。
クインケ扱えるのが一人だけってどういうことだよ。と内心思うが、しかたないとあきらめる。そして真戸さんが現在の状況と今までの捜査の進捗について聞く。
「喰種の喰場としている場所はいくらか特定はできておりますが、拠点は判明しておりません。敵勢力はおよそ40~50程かと思われておりますが、正確な数はわかりません。
先日、喰種達が集まり、13区に出向く情報を掴み、準特等以下のメンバーが出撃をしたのですが、巨腕との戦闘中に13区の喰種もが戦闘に乱入してきまして、捜査官は軒並み皆殺しです。私は別の場所で監視についておりましたので、無事でしたが。資料についてはこちらにあるものが全てになります。」
どうやら、12区の喰種の集会に殴り込みを掛けたらしいが、13区の喰種がそのタイミングで乱入し、二勢力から袋叩きにされたらしい。可哀そう(小並感)
「ふむ。いくらか功を焦ったようだな。前任者は。13区の黒磐特等と連携を取っていれば、13区の動向もしれたのではないかね。」
真戸さんがそう聞くと三原と名乗った捜査官は言いずらそうにして言った。
「前任の準特等は、あまり他区と協力的ではなく、自分達だけで十分だと。黒巌特等と連携をとることを嫌がってるように見えましたので、恐らく・・・」
あー。そういうやつか。まさに功を焦ったという奴だ。そういう奴よくいるよね。ジオン最大の戦犯とか言われてるジ〇ンとか。まぁ気持ちはわかるがそれは死亡フラグなので、俺も気を付けよう。俺は自分に自戒をしていると、どうやら真戸さんと捜査官で話は続いている。
「現状は把握した。君は私達の補佐をこれからして貰う。私と安室くんはこれから13区の黒巌特等と情報交換をしてくる。君は局員達と喰場の情報について纏めてくれたまえ。
明日からでも張り込みを開始するのでな。」
了解しました。と言って得に不服はないのか、仕事を始める捜査官。そうして部屋から出ていくのを見届けた後、真戸さんが話始めた。
「安室くん。どうやら中々面白くなりそうだ。実質現場については私に指揮権があり、支局長以外にはとやかく言われることはない。そして先ほどの彼も決して現場が得意な人間ではないだろう。私達で喰種を独り占めにできるぞ。」
おー!周りからとやかく言ってくる奴もいない上に相手は少なくともSレートそしてよりどりみどりなその配下の皆様。・・・たまらんな。
「いやーたまりませんね!」
興奮して言うと真戸さんも笑いを堪えながらも言う。
「だが、前任者と同じ末路を辿るのは勘弁だ。まずは13区と情報を共有し、確実に屑共を殲滅しようか」
俺は了解と伝え、お互い立ち上がり黒巌特等が待つ13区の支局へと向かった。
「黒巌特等協力感謝するよ。どうもそちらのジェイソンと巨腕は色々と関係があるようで情報をいくらかもらえればと思ってね。」
13区の支局に待っていたのは、黒巌特等が率いる班員全員が揃っており、こちらを見定めるような目で睨んでくる連中が多いこと。やはり若造だとおもわれてるんだろうなぁ。
しかし真戸さんにもその目で睨むとは、ちょっとこっちをなめ過ぎじゃない?
俺も負けじと、睨みつける。
「安室君やめたまえ。これから協力する者達だ。仲良くとまで言わんが、険悪な雰囲気をわざわざ作るものではない。」
真戸さんのその言葉に俺は睨むのをやめると黒巌特等も「うむ」と周りを見回して一睨みするとあちらも引いてくれる。
「真戸上等、今回はこちらも手を焼いている。情報の共有は一向に構わないが、人員をそちらに回せるほど余裕はないが構わないか?本来なら13区をまずはお前達と協力してから12区に当たりたかったんだが、上は同時に進めることを希望して聞かなくてな。」
「なに、人は少ないがそれはそれで、やりようはある。12区については任せたまえ。
それよりも12区にも13区のジェイソンの出入りが激しいと聞く。こちらの巨腕も13区に同様に出入りが激しいと聞くが。」
黒巌特等が、あぁ。と言い一人の捜査官に目配せすると、その捜査官が説明を始める。
「現在、12区の巨腕が率いる喰種と13区のジェイソンは縄張り争いで頻繁に戦闘を行っております。つい最近も争ったようで、双方に被害がでた模様です。12区の前任の準特等はその場で漁夫の利を得ようと、その場に殴り込んだようですが、双方から攻撃に合い。殉職されました。13区のジェイソンはどうも頭が回るようで、こちらの捜査をかいくぐっております。また実力も高く被害も馬鹿にできません。また共食いを頻繁に行っている、という情報もあり、現状は奴らの棲み処を捜索中。捜索後、黒巌特等以下メンバーの最大戦力で、殲滅という方針をとっております。」
どうやら、捜査はしらみつぶしではなく、敵拠点を確認するまでは、控えめな捜査に徹しているようだ。
「巨腕に関してはなにか分かっているかね。」
「こちらでは、甲赫の喰種であること以外は。前任者があまり協力的ではなく、私共は13区以外でのことは、ほとんどわかっておりません。」
前任者の準特等さんはやはり、あまり協力的ではなかったようだ。だから最初皆の対応がよくなかったのか。
その後も真戸さんが質問をいくつかしていく。
「了解した。13区の現状は把握したよ。我々は12区を中心に捜査をし、お互いにお目当ての喰種に関しての情報があれば、逐次共有していこう。」
真戸さんがそう言うと会議はお開きとなった。最後に黒巌特等から、ジェイソンはもしかしたら、赫者になりつつある。という忠告をもらい遭遇した場合は撤退するように忠告を受ける。真戸さんは笑いながらその忠告に感謝し、俺と真戸さんはその場を辞退する。
ちなみに真戸さんはその忠告に対して感謝はしたが了承はしてないんだよなぁ~
俺は歩きながら真戸さんに話しかける。
「真戸さん。これはチャンスじゃないですかね。巨腕に加えてジェイソンまで不可抗力で狩れるチャンスですよ。やばいですよ!」
俺は興奮しながら、真戸さんにチャンスだと告げる。Sレート2体とか贅沢すぎんだろうが。
13区みたいな消極的な捜査はしたくないと伝えると真戸さんは笑いながら答える。
「ふむ、確かに。うまくやれば愚図共を殲滅できんこともないが、我々の仕事はまず巨腕だ。ジェイソンはおまけにすぎんことを忘れてはならんぞ。まぁ偶然我々の前に出てこられたら、相応の対応をせねばならんがね。」
くくくといつもの不気味な笑いをこぼしつつ、まずは巨腕だと告げる。
「あちらは、それなりの数を誇る集団だ。こちらで喰種を正面から相手にできる者は我々だけ。ならばまずは、敵の手足を削りにいくとしよう。前任者はそれなりに優秀だったおかげで、情報はある。連中の手足を削ぎ取った後、お楽しみの頭を落とすとしようか」
真戸さんはとても楽しそうにこれからの事について語り、俺もどんなカグネを持った喰種がいるか想像を膨らませつつ俺達は12区へと戻って行った。
◆ ◆ ◆
薄暗い路地裏の中、スーツ姿の中年男性が猫背にして歩いていく。12区は現在喰種の活動が活発であり、一人でこのような路地を歩くことは自殺行為となんらかわりない。それにも関わらず、軽い足取りで男は路地を歩き続ける。しばらく歩き続けると目の前に3人組のフードを深く被った若い男たちに遭遇する。一般人であればすぐさま回れ右して関わりになりたくない人種であることは姿からみて明らかなのだが、中年の男はまるで、3人に気が付いていないかのように、その男達に近づいていく。
「やぁ。夜更けにこのような薄暗い場所にいては危ないぞ?」
中年の男は全く、自分の状況がわかっていないのか、その3人に挨拶をするように気軽に話しかけた。
近づいてくる男に既に注意を払っていた3人は、急に話しかけてくる男ににやにやと笑いながら、返事をする。
「あぁ?そっちこそこんな夜更けに危ないぜ?ここらへんじゃ喰種が出るって話だ」
そう言うと3人の男が中年の男に近づいていく。そして真ん中に立つ男の背中が盛り上がり始める。
「ほら?こうやって腹すかした喰種の餌にされちまうんだ。次から気を付けるんだな?」
まぁ次はないか。と3人組は笑いながらそれぞれが赫子を展開して、一気に走り出し距離を詰めてきた。
「あぁ、忠告ありがとう。しかし私はこう見えて喰種捜査官でね。」
ほれ。と背中に隠すように背負っていたケースを見せつける中年の男性を見て、男たちの目つきが驚愕に変わる。
中年の喰種捜査官はケースを瞬時にクインケに展開させると、片手には刺突に特化したレイピアが姿を現しており、そのレイピアを構え、突出して前に出てきた真ん中の男にレイピアの間合いの外だというのに、刺突を繰り出した。
喰種はその行動を疑問に思いつつ、ただの餌かと思った人間がCCGだということに内心緊張しつつ、早々に決着をつける為、背中のカグネを振るおうとした瞬間、レイピアの1m程度の長さだった刃が凄まじい勢いで伸びだし、真ん中の男の左目を貫き、そのまま頭部を貫通していった。頭部を貫かれた喰種はそのまま倒れ伏し、その姿を見た両隣の二人は怖気づく。
頭部を貫いたレイピアの刃はすぐさま、刃が伸びた時と同様の速さで元の短さに戻り、捜査官は2撃、3撃と残りの男達に刺突を繰り出した。両隣にいた二人の男はその高速で振るわれるレイピアの刺突に反応出来ず、一人は胸部を貫かれ、もう一人は脇腹を貫かれる。
それにより、胸部を貫かれた男は苦しそうに悶えながら地面に倒れ伏し、脇腹を貫かれた男は既に顔を恐怖へと変え、傷を手で押さえながら逃走を図る。
「どこにいこうというのだね。そちらはもっと危険だぞ?」
男がそう言うと同時に喰種が逃げた先からパシュッと乾いた音が聞こえたかと思うとロケット状の飛来物が高速で飛んでくると喰種の周囲を旋回するように飛ぶ。そしてロケット状の飛来物の軌跡にはワイヤーの姿が見え、喰種を巻き取るようにして飛ぶと、たるみがなくなった瞬間、ワイヤーが一気に喰種をきつく締めあげた。そして締め上げると同時に、バチッと音がすると、喰種は一瞬悲鳴を上げると地面に倒れ伏し、いくらか痙攣した後、全く動かなくなった。
「やっぱり、飛び道具ってのはいいものですね。狙って引き金を引くだけで倒せちゃうんですから」
そう言って通路の奥からゆっくり歩いてきたのは、スーツ姿に片手にケースを持ち、もう片方には喰種を締め上げたワイヤーが繋がっているコーン状の形をしたクインケを持った若い男だった。
「確かに、羽赫のクインケは比較的低リスクで攻撃できるが、複数相手には向かない物が多い。最後に頼れるのは格闘戦だ。それを念頭に置き給え。ちなみに安室君が相手にした喰種は生きてるのかね?私の方は1匹だけ虫の息だがなんとか捕獲したぞ。」
中年の捜査官がそう言うと、胸部を貫かれた喰種が生き苦しそうに呼吸をし、必死に傷を治そうともがいている姿を横目で見ると、身動きが取れないように右足の膝をレイピアで貫く。
肺を損傷しまともに呼吸ができていない所に更に追い打ちを掛けられた喰種は悲鳴を上げ、手足をばたつせる。最後の抵抗でカグネを振り回すが、レイピアでカグネすらも切断され、最後には気を失ってしまった。
「いや。今ので死んだんじゃないですか?白目向いて泡吐いてますよ。」
その光景を見た若い捜査官は軽く引きながら、自らの喰種に近づきながら告げる。
「まぁ、こちらは外傷なしでスマートに捕獲しました・・・よ?あれ?」
ワイヤーに囚われ倒れている喰種をみると、そこには息をしていない喰種が屍となり横たわっていた。
その姿を見て焦りだす若い捜査官は困ったようにもう一人の捜査官へ目を向ける。
「せいぜいBレートに届くかどうかの喰種ではそのクインケに耐えられまい。威力はある程度説明した筈だが、まぁ仕方あるまい。死んだ方が悪い。君は悪くないさ。それに1体いれば十分だ。」
若い男の失態に対して特に叱責することなく、自らが捕らえた喰種がいれば十分だと言うと、中年の男が息のある喰種を背負い、死体2体を若い男が首元を掴んで引きずるように運び始める。そして二人が去った後には大量の血痕だけが残り、寂れた路地には元の静寂が戻り始めた。
◆ ◆ ◆
ウミヘビが敵を倒すだと・・・・?
俺は驚愕していた。俺の経験からすると電撃武器というのは大体は相手に悲鳴(笑)を上げさせるが、結局は次のシーンで拘束を謎パワーで解き、ダメージなんてなかったようにピンピンしているのが定番である。しかしモブ程度の喰種には強力らしく、悲鳴を上げることもなく死亡してしまった。
あまり威力には期待していなかったのだが、存外ウミヘビは使えるようだ。いずれ部下を持つようになったらお揃いのウミヘビ3つを揃えて、敵をエクゾディアしたいものである。
俺が昨日の襲撃について反省し、どうでもいいことに脱線していると、聞きたくもない耳障りな悲鳴が耳に入ってくる。
「安室君、しっかり見ているかね。喰種共の尋問というのもいずれ君が行わなければならん時もあるかもしれん。口を割らすため効率良く苦痛を与える術は知っておくべきだ。」
血まみれの真戸さんはメスのようなナイフを持って俺にふり向いて告げて来る。今の真戸さんは間違いなくホラー映画で出て来るどんな存在より恐ろしい。俺はその姿を見て結構、ビビってたりする。
「いやぁ。あまりグロイの得意じゃないんです。戦闘は不可抗力として全然大丈夫なんですけど・・・」
そう言うと真戸さんは少し考えた後、確かにこういう事は本来ならば尋問官に依頼すれば済む話である。君は外で休んでいたまえ。そんな感じの事を言ってくれた真戸さんに感謝しつつ、お言葉に甘えてCCGが保有する倉庫から外にでて懐から煙草を出し一服する。
ありゃ、尋問ではなく、拷問だと思うのだが突っ込むのは野暮だろう。
現在俺達は情報にあった喰場を張り込み、少数で活動している喰種を片っ端から捕獲ないし駆逐し敵戦力のまびき及び捕獲した喰種から拠点に関する情報を引き出そうとしていた。
しかし、かれこれ10は駆逐し、3匹を捕獲したが一向に拠点の情報を持つ喰種に巡り合えない。だが今回の喰種は今までの雑魚とはちょっと違ってそれなりの赫子で抵抗してきたことから巨腕関係者だと思っているのだが、果たしてどうだろう。
ちなみに、喰種対策法的では過度な尋問はアウトな!なので支局ではなくCCGが保有している倉庫で真戸さんは尋問をしております。
そうやって一人現状について考えていると、暫くして真戸さんが倉庫から出てくるのが見えた。
「終わったよ。相変わらず拠点に関する情報は持っていなかったが一つ面白い情報を吐いたぞ。近々12区のナンバー2とも言える喰種が部下を率いて13区に赴くらしい。なんでも13区に嫌がらせに行くようだ。
巨腕についての動向を知るチャンスだ。集合地点で敵を待ち伏せし、捕獲して敵拠点を暴くとしよう。」
ようやく進展する情報が取れたようだ。
「12区の喰種はどうやら今までの我々の仕業を13区の喰種が仕掛けてきていると思い違いをしているらしい。その報復で赴くとのことだが相変わらずの低能共だ。多少CCGの捜査官を殺った程度で我々の可能性を考えぬとはな。」
真戸さんは、準備をしたまえ。と告げると車に向けて歩き出す。
「今夜、状況が動くかもしれんぞ。今から準備をしよう。」
そう告げられると俺は了承して車に乗り込むと12区の支局へとむかった。
思うように話が進めれない。
次話で巨腕との前日譚は終わりです。本当ならこの1話で終わらすつもりだったのですが。