どうも皆さん、明日です。
何でしょうかね。なるって決まった途端話は流れるように決まり、今はもう事務所のある東京での転校先さえも決まってしまいました。
びっくりですね。あの話をしてからまだ一週間だと言うのに...
肇もこういう手続きが進んでいるのを見て「自分は本当にアイドルになるんだなぁ」と今更実感しているようです。
まぁ、かく言う私はいまだに実感が湧かないのですが...直ぐに湧くでしょうきっと。(希望的観測)
現在私がこうして長々と過程を語っているのがなぜかと言う方もいるかもしれません。
それはまぁそのまま私達が今から岡山を出るからなのです。
すっごい急な話で学校の方もついていけてなかったようでしたが上手くいったのでしょうか。
家族からも後押しされてる自分はとても変な気分です。
我が子が急に「アイドルになります」といったら普通の親でしたら、必ず頭を悩ませるはずです。
ですが私の父母はこちらを見て静かに...待ってたと言わんばかりの笑顔になりました。
普通この場面で驚くのは親なんでしょうけど私が驚いてしまいました。解せん。
そんな詰まった1週間を過ごした私は向こうの寮へ住み込むため荷物をまとめて、今岡山空港にやってきていたのでした。
「お二人ともそろそろ大丈夫でしょうか。」
最近、私とかかわりを持った強面のプロデューサーがこちらをのぞいてきます。
これって私からはどう呼べばいいんでしょうかね。
武内さん?プロデューサー?強面さん?
まぁ、無難にプロデューサーでいいでしょう。
「私は大丈夫ですよ、プロデューサー」
「肇さんの方は大丈夫でしょうか」
「...あ、はい。大丈夫ですよ」
肇は故郷から離れるのが悲しいのか少し複雑な顔をしていますね。
確かに家が地元色強いですからね。よく反対を押し切ったモノです。
私だったら簡単に折れていたでしょう。ですが逆に考えるとそれほどまでに肇はアイドルになってみたいのでしょう。
そう考えると生半可な気持ちで東京へ向かっている私はちょっと肇に失礼ですね。
そろそろ私も気を引き締めていきましょうか。
「では、そろそろ搭乗時間なので...いきましょう。」
そう言いプロデューサーは私達の前を歩き始めました。
後ろから見ると大きいですねこの人。
多分身長は190ありますね。肩幅の所為か顔も小さく見えますし...これすっごいモててるんじゃないでしょうか。
いやいや、そんな下らないことはどうでもいいんです。プロデューサーの恋愛事情だなんてアイドルの知ったことじゃないですよね。
まずそう言うものとは無縁なはずですし、アイドルは。
「明日...」
私達が飛行機に乗り込もうかというタイミングで肇が私の名を呼びました。
どうしたのでしょうか、何か忘れ物をしたとか...それとも用を足したくなったとか...?
中身がまだおっさんなのか知りませんが時節下ネタが横切りますね。やめときましょう。
「私達...大丈夫ですかね...」
「肇...」
あぁ、そういうことでしたか。私たちのこれからのアイドル活動についてもう未来を見通していると...
私の何千倍と真面目ですね肇は...
でも大丈夫ですよ肇。私が付いていますから。
「大丈夫です、私がt」
「肇さん!心配しないでください...!私があなたたちをきっとトップアイドルにして見せます...!」
え!?びっくりした...
急に振り返ったプロデューサーが肇に向かって叫びました...
何ですかこれ肇へ告白ですか?ダメですよそんなの、私が許しません。
肇も顔紅くするのやめなさい。
「プロデューサーさん...」
「なので...心配しないでください。」
「はい...!」
「...」
肇の悩みが晴れたっぽいので見逃しましょう。
折角私が見事な絆を見せる時だったのに邪魔されてしまいました。
ですが、今の一言で私自身の心も少し軽くなった気がしますし
この人にならついていってもいいかもと思うことができました。
これが恋ですね。
あっ、違いますか。
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「え...?ここが事務所ですか...?」
私達は東京へ着いたらすぐに事務所へ案内されました。
今目の前にいるんですが...
何ですかねこれは、お城ですか?初めてみました。
隣にいる肇も目を見開いて上を見上げています。
東京は凄い都会だとは聞きましたがここまでだとは...
「はい、ここが美城のアイドルの部門事務所です。」
「お...お城みたいですね...!」
肇は嬉しそうに建物の外観を眺めていました。
いや、まさかこんなに大きいとは思いませんでした。
大手プロダクションなのでしょうか...?
流行りに対しては敏感でしたが、そこまで具体的な内容までは認知していませんでした...これは誤算です。
「事務所はここですが、寮の方はもう少し向こうにあります。先にそちらへ行かれてはどうでしょうか。」
「行かれる...ということはプロデューサーはここまでしか来れないということですか?」
「はい。すいません。貴方達の事務所登録が必要なもので少し手が離せなくなりそうなので...」
「成程。それは仕方ないですね。」
「はい、なのでその間に寮へ向かってくださるとありがたいです。地図はこちらが用意してありますし、幸い寮の方には連絡が届いていると思います。」
「了解です。」「わかりました。」
肇と一緒に仲良く返事をした私達はプロデューサーから地図を受け取り、道示すがままに進んでいきました。
「東京ってすごい人ですね...」
「そうですね、都会を舐めていたかもしれません。」
「私もです...」
肇は少しきょろきょろしながら私の後ろに隠れながら進んでいます。
今日から都会ということでいつもと違った服装に肇は恥ずかしさを覚えてるのかもしれませんね。
空港に来た時も第一声が「あの...似合ってますかね...」でしたし。
「大丈夫です肇。思いの外違和感ないですよ私達。」
「ほ、本当ですか?」
「はい。」
服装の話に花が咲き始めたころ、目的地につきました。
事務所から徒歩5分程度ですね。近い。
「肇、着きましたよ」
「え?もうですか?」
話と恥ずかしさから全く時間の経過を気にしてなかった肇はちょっと驚いた様子です。
私も思いの外早かったので内心驚いていますが、そこまで顔には出しません。
「話も通ってるらしいので...入りますか」
「...そ、そうですね」
緊張からかがちがちな肇を見てると何だか微笑ましくなってきます。
やっぱり肇はアイドル向きですね。間違いないです。
そんなこんなで、私達は二人で並んで寮に入っていきました。
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寮に入った私たちはロビーに行き、鍵を受け取りました。
鍵をもらった私たちは、各自振り分けられていた部屋に荷物を置きに行きます。
幸い、同時に登録があったのと部屋が運よく並んで空いてたのとあり、私達の部屋は隣同士です。
私は部屋に入ってすぐに荷物を置き、部屋に必要最低限のものを出しました。
歯ブラシや食器、等々。私枕を変えると寝れないタイプの人間なのでそこらへんもしっかり出しておきましょう。
突然、私がせっせと荷物を広げていると部屋のチャイムが鳴ります。
「すいません、隣に住むものです。」
チャイムが鳴り終わったと同時に可愛らしい声が聞こえてきました。
肇の声ではないですね。誰でしょうか。
私は一旦荷物を置き、扉を開けた。
「あっ!どうもこんにちは!隣に住んでいる前川みくです!これから宜しくお願いします!」
「わざわざすいません、こういうのはこちらから伺うものなんですけどまだ整理が付かなくて...」
「い、いえ!みくの方こそ早すぎました!整理中失礼しました!」
そう言い私の目の前を後にしロビーの方へかけていく前川さん。
赤い眼鏡をかけた真面目そうな子でした。
何というかあれですかね。私威圧感でもかけてたでしょうか...
そんなに話もせずに逃げられると地味に傷付きますね...
終始どもる姿がどことなく肇と出会う前の私を連想させます。
て、私の名前さえも聞かずに行ってしまいました...
何かもう整理する気分じゃありませんね。
「...ちょうどいいですし、近くの人にもあいさつしますか。」
肇は多分まだ準備中でしょうから私一人で回りましょう。
先程の前川さんがどうやらお隣だったようなのでそのお隣さんにでも挨拶しておきましょうか。
歩いて扉の前に行くと取手には何やら蹄鉄のようなものがぶら下げられていました。
何でしょうこれは、何かのおまじないでしょうか...
ていうか扉への装飾が凄いですね。
えっと...お名前は...『神崎蘭子』さんですか。
ここは第一印象が大事なので頼れるお姉さん風で行きましょう。
大丈夫です。私のコミュ障は治りましたから。
ピンポーン
私がチャイムを押すと同時に中からせわしなく足音が響きます。
もしかして何かしてたのでしょうか...
「すいませーん、隣の隣に引っ越してきたものです。ご挨拶に来ました。」
「ヒッ...し、暫し待たれよ!」
...ん?足音であまり聞こえませんでしたね。
でも何か忙しそうなので多分、少しお待ちください的な事でも言ったんでしょう。
バン!
という音と同時に目の前のドアが開くとゴスロリの少女が私の目の前に現れた。
「同胞よ!我は汝に出遭えて静穏の慶びを感じようぞ!(初めまして!これから宜しくお願いします!)」
「...はい?」
え?どういうことですか。この厨二全開の少女は。
可愛いんですけど、可愛いんですけど...ちょっと突然すぎて...反応ができませんね...
いや、まさかここでこんな強者に出くわすとは...
「どうした(どうしたんですか?)」
「い、いえ。その宜しくお願いします。神崎さん。」
「蘭子でよい!これからの偶像の路を共に征く仲間だからな!(蘭子でいいです!これから一緒にアイドル仲間として進んでいくんですから!)」
「は、はい。蘭子改めて宜しくお願いしますね。」
「うむ、其れはそうと汝の名を我はまだ拝聴しておらぬ...(はい!...それはそうと、名前を教えてもらっても...)」
「あっ、申し遅れました。私の名前は綱嶌明日です。明日で構いません。部屋が近いのも何かの縁だと思いますので是非仲良くしましょう!」
ピタッ
そう言うと何故か蘭子がフリーズしたかのように動かなくなりました。
もしかして失言したのでしょうか...
うーん...わかりませんね...と、とりあえず、最低限の自己紹介は出来ましたし一旦部屋に戻りましょうか。
平静を装ってますが今私結構動揺していますし...
「あっ、私部屋の整理が残っていますのでいったん戻りますね。それでは。」
「...我が言語を智見する者が姿を現すとはな...(私の言葉が分かる人が来るだなんて...!)」ボソッ
む、去り際に何か言ってましたね...聞こえませんでした...
ですがあまりここに長居するのは危険だと思います。なにせ彼女は誰もが経験するであろう黒歴史真っただ中の少女だからです。
今すぐこの空間から逃げださなければなりません。そうしなければ私の中の禁断の書がまた開かれてしまうかもしまいます。
私は一切後ろを振り向かず自分の部屋に姿を消した。
部屋に戻り冷静になったとき、私が相手の言葉に何の躊躇もなく返事していたことに気付き、抜けきってない厨二に悶絶しながらトイレに籠った話はお蔵入りしたいと思います。