肇と明日   作:肇の尾骶骨

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文字数はどれくらいを意識したほうが良いでしょうか...


明日と偶像

どうも皆さん、明日です。

あの日以降私は肇と仲良くなることができました。

お互いのことを呼び捨てで呼び合う程度には仲良しです。

何となく話していくうちに私の方もコミュ障からちょっと話せるレベルに昇進できましたし

友達にもなれましたしでWin-Winな関係を築いています。

 

私にとって初めての友達である肇は話せば話すほど惹かれていく少女でした。

話せば眩しい笑みが零れ、時節見せる背伸びをしたお姉さん感も好きです。

先日ショッピングモールへ買い物に出かけた時もエレベーターの中でそれはまぁかわいらしい姿を見せてくれました。

 

「このガラス張りのエレベーターを考えた人は凄いですよね...

備前の綺麗な街を一望できるように設計して...とってもロマンチスト...

明日もそう思いませんか?」

 

と...

可愛すぎませんか...

私は結構現実主義なのでそんな乙女チックなこと一度も考えたことがありませんでした。

これが乙女と元おっさんの差...!月と鼈とはまさにこのこと。

 

そんな私はいつもの気遣い出来なさを発揮し、

 

「これは確か密室であるエレベーター内での防犯対策に考案されたものだった気がしますよ」

 

と言ってしまったのです。

 

しまった!言ってしまった!と思った頃にはもう遅く、私の目の前には頬を膨らましこちらを見つめている肇がいました。

その時、私は思いました。

気遣いができない自分も少しは役に立つじゃないかと...

えぇ、あの顔は永久保存版ですよ。一日中見ても飽きないと断言できます。

 

そんな感じで二人は休日を過ごす程度の仲良しになることができたのです。

 

 

 

 

 

仲良くなっていく過程で互いの夢について語る時が案の定やってきました。

私はそこまで将来について考えたことがなかったのですが、肇はどうやら悩んでいるようです。

話を聞くに肇の実家は陶芸をやっているそうで、どうやら自分も跡継ぎにならなければいけないとかなんとか私に言ってきました。

彼女自身は陶芸は好きらしく仕事にするのもありだと考えてるそうですが、

何か他にしたいことがあると読み取れる表情を肇はしていました。

 

余り部外者の私が他人の将来に踏み込む気はないんですが、やはり悩みを抱えている友達は見たくないですし

な...何せ...私の初の友達ですからね...!

相談に乗るように違和感なく話を聞いておきましょう。

 

「肇は他にしたいことはないんですか?」

 

私に自然さは求めちゃだめですね。

直球でした。

 

「...ほかに?」

 

思いの外好印象な返事が返ってきました。

最悪無言になりそのまま解散とも考えられましたが、そんなことは杞憂に終わったようです。

それにしても謎の間がありましたね。これは本格的に何か悩んでいる証拠です。

もしかすると、実は他にやりたいことがあるにも関わらず、家の方針に従い夢を潰しているのかもしれません。

これはもっと踏み込まざるを得ませんね...

 

「えぇ、備前の陶器以外に肇が夢中になれそうなものや、やってみたいなと感じるものはないですか?」

 

「...」

 

「すいません、無理して言わなくてもいいですよ」

 

「いえ...言います。実はですね...私...」

 

「はい」

 

「アイドルにスカウトされちゃって...」

 

「...はい?」

 

ちょっと待ってください。

アイドルってあの偶像(アイドル)ですかね?

あのテレビの中で歌って踊るキラキラしたあれですかね。

 

...私も馬鹿じゃないので多少は気付いていますが、今日本ではアイドルが空前のブームです。

街の看板、CM、テレビのMC、バラエティーから何から何までアイドル一色。

今一番目立っていると言っても過言ではないでしょう。

 

「えっと...肇はアイドルになりたいっていうことですかね...?」

 

「...なりたいって言うか...なってみたい...って言うのが正しいかな...?」

 

まだ彼女の中で決心がついていないのか語尾が濁るように言葉を発します。

まぁアイドルだなんて一歩間違えば収入0でもおかしくありません。

アルバイト兼業でやっているという話も聞いたことがあります。(兎の人だったかな)

そんな業界に飛び込むのは多少抵抗があるのでしょう。

まぁ、売れるか売れないかの半ば賭けの世界ですからね。

 

「それで、スカウトされた際スカウトマンには何と返事をしたのですか...?」

 

「流石にすぐには決められないですし...家のこともあるので返事は後になりそうです...って伝えました。そうしたら名刺を渡してきちゃって...これに連絡してください、いつでも待ってます!って」

 

まぁ模範的な回答ですね。

そのスカウトマンの方も運があります。こんなかわいい原石(ダイヤモンド)に出会えるなんて。

多分今年一の運を使い果たしたでしょう。

 

それにしても彼女を一言で表すと鏡花水月が似合いますね。

とても一言じゃ言い表せれませんが言うならこの言葉が合います。

 

「それで相談なんだけど...」

 

「はい?」

 

「私と一緒にスカウトマンのところ行ってくれませんか?」

 

「...え?」

 

一体全体何を言っているのでしょうか。

私がスカウトマンの所に行く意味が感じられませんし...何よりそう言って場に第三者である私が混ざるのは無粋というものでしょう。

何か私にしてもらいたいことでもあるのなら別ですが...私にできることなんて...

 

「まだ決心し切れてないから...そばにいてくれませんか?」

 

そんな...告白かなにかですかね...

上目遣いに可愛い顔で見られたら反則でしょう。

しょうがないですね。付いていきますよ。

 

「...分かりました。肇の頼みは断れませんので...でも、もしです」

 

「はい?」

 

「貴方がアイドルという世界に飛び込むというのであれば、必ず頂点に立ってください。これは肇の友人としてのお願いです」

 

「…」

 

「急にすいません、自分勝手な願いを...でも...それほど応援してるんです」

 

「うん、有難う...すっごい嬉しい...」

 

なんか少し早とちりした気がしますが気のせいでしょう。

ここは何も言わずクールに去るのが主流です。

 

「では、今日はこの辺で...」

 

そう言い私はその場を後にし家へと帰るのでした。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、色々予定決めるの忘れてた...」

 

最後まで抜けてるのが私らしさだと思うんです、はい。

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

そして、今日は肇の言っていた例のスカウトマンに会う日です。

何故か私が緊張してきました。

今はスカウトマンが来ると言う位置に私が来ております。

何故かって?移動の手間が省けるのではじめと私の集合場所もここにしたんですよ。

まぁ、スカウトマンが先に来て私と一対一になるのは気まずいので実際の待ち合わせより私達は先に来るよう約束していますがね。

 

「あと10分ですか...」

 

私は近くにある時計を見ながらそう溢しました。

なんか今の言いまわしかっこよくていいですね。

...私は友人の到着を待ちながらそっと息を吐いた。

あっいけません。これは昔封印したはずの中二病が蘇ってきます。

いえ、別に目に見えるほどの厨二をしていたわけでは無いんですよ。

ですけど家の中では一人の空間というものができるわけでして...ね?そういうことですよ。

 

「独りが長かったからですかね...」

 

独り言が増えつつある自分の横に、強面の男性が腰を掛けました。

肩幅が広く目つきも鋭いのでもしかしたら怖い人かもしれません。少し距離を置きましょう。

 

 

...それにしてもそわそわしすぎじゃないですか?

時節時計を眺めていますし、待ち合わせでもしているんでしょうか...

 

そんな考えを脳内で繰り返していると私の耳に聞き慣れた声が響く。

 

「明日!今着きましたよ!」

 

「時間ぎりぎりでしたね」

 

「まだ決めきれなくてちょっと悩んじゃった...」

 

「ご両親とは相談したんですか?」

 

「したんだけど皆曖昧な返事しかくれなくて...特におじいちゃんなんか何も言わずに...」

 

「む...あまり好感触ではないようですね...」

 

「まぁ、芸能界は厳しいですから...」

 

肇もそこらへんを理解しているようで安心しました。

てっきり楽観視しているものだと...初めに言った「やってみたい」という言葉に込められた意味が私の認識とは少し違ったようです。

 

そんな感じに二人で話をしていたら突然後ろから声がかかった。

 

「あの...すいません...」

 

「はい?」

 

「あっ!」

 

私は後ろに疑問符を浮かべましたが肇は何か気づいたかのような声をあげました。

どうしたのでしょうか、もしかしてこの強面の人が知り合いだったり...?

 

「私、武内というものでして...アイドルのプロデューサーをやっています」

 

「あっ、貴方が...」

 

「武内さん...早いですね」

 

「こういうものは早いほうが良いと思ったので...」

 

とても低音な声で私達に話しかけているこの強面がどうやら肇をスカウトした張本人だそうです...

って...

 

「プロデューサー?スカウトマンじゃなくて?」

 

「はい」

 

何ということでしょう。どうやら肇はスカウトマンではなくプロデューサー直々にスカウトを受けていたそうです。

これは珍しいですね。

 

「今回は肇さんとの話だと伺いましたが...貴女は...?」

 

「肇の友人の綱嶌明日と申します。今回肇の頼みで同行することになりました」

 

「そういうことでしたか。可愛らしい容姿をしていらっしゃるのでアイドル志望の方かと...」

 

「ブッ」

 

何を言い出すんですかね...この人は...

肇も豆鉄砲で打たれた鳩のような表情してますよ。

お世辞にしてもさすがに無理が...あっ、ないですね...

そう言えば結構可愛いんでした...

 

「お世辞は大丈夫ですよ...」

 

「いえ、お世辞など全く...」

 

それにしてもこの武内という人と会話してると私のペースが乱れます。

抱えていたコミュ障もどこ行ったんだ!って言うレベルで解決してますし...

ていうか何でこんな話に...

 

「この話はいいですから、肇がアイドルをするかしないかの話に移ってもらいたいんですけど...」

 

「...そうですか。ではここでの立ち話もなんですので最寄りの喫茶店にでも行きましょう」

 

そう言い武内さんは私達を近場にあるス○バに案内してくれた。

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「では単刀直入に聞きますが、肇さん...アイドルになるか決断は為されたでしょうか」

 

開始早々本当に切り込んできた武内さんに私は少し驚きました。

まぁこの顔で急に聞かれたら初見の私が驚くのは普通でしょう。

 

「それのことでさっき思いついた提案があるんですけど...」

 

あれ?肇が思いついたこととは何でしょうか...?

聞いたことないですし。そんな様子もありませんでした...それにさっき?

さっきまでポカーンとしていたのに考えることなんて...ありましたっけ。

 

「はい。何でしょうか」

 

「私と一緒に明日もアイドルになることは無理でしょうか」

 

「...ェ」

 

あっ、情けない声が出ました。

じゃないです、どういうことですか。何を考えてるんですか。

急すぎて全く状況が理解できませんが肇がやらかしてしまったことだけは理解できます。

なんてことをして下さったんでしょうか。

私自身アイドルに興味がないわけでは無いんですけど完全にこう言う振りは予想していませんでした。

想定の範囲外です。

 

「それは私からもお願いしたいくらいです」

 

「は?」

 

「え?」

 

「あっ、すいません。少し混乱していて...」

 

ちょっと待ってください、武内さんまでなんてこと言ってるんですか。

さっき会って話しただけですよね?そんなどこの馬の骨かもわからないような少女をスカウトだなんて...

あっ、そういう仕事でした...

 

「先程、私はあなたたちと出会った時、凄い【ナニカ】を感じました」

 

「ナニカ...?」

 

「そうです。可能性を秘めたナニカを感じました。なのでもし肇さんがアイドルになる決断をしたら私から明日さんにこのことについて頼むつもりでした」

 

「...成程」

 

「本当に急なお願いだとはわかっているんですが、肇さんの意見の尊重でもあり私の御願いでもあります。どうか肇さんと一緒にアイドルデビューしてくださいませんか?」

 

「…」

 

 

 

はぁ...どういうことなんでしょうか。

 

私はどこで選択肢を間違えたのでしょうか。

 

 

肇に出会って時から?

 

 

友達になったときから?

 

 

ここに誘われた時?

 

 

 

 

 

否、全部違います。

私の選択肢に間違いはありませんでした。

ということはです。

私にとってこのアイドルという選択は...

 

 

 

 

 

「はい。是非その話受けさせていただきます」

 

「明日...!」

 

 

 

 

 

正解なのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詳しい話はその数日後纏めて行われた。

 

それよりもこの日帰ってから私がアイドルになるということを伝えた時の家族の表情がいつにもまして嬉しそうだったことが何よりも忘れられない。


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