君の、名前は・・・?   作:時斗

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投稿が1ヶ月空いてしまいました……。
もっとコンスタンスに投稿できればいいのですが……。
第10話、投稿致します。


第10話

「あ、四葉ー。こっちこっち!」

 

 その声の方に振り向くと、私を待ってくれていた秋穂が手を振っているのが見える。

 

「ごめん、ちょっと手間取っちゃった……」

「そっちは凄く混んでいたもんね……、じゃあ、食べよっか?」

「「いただきまーす!」」

 

 ……ここは大学構内の学食。昼休みに親友である秋穂と待ち合わせて昼食をとっていたところである。大学に入学してもう少しで1ヶ月……、高校に通っていた頃とのギャップにも漸く慣れてきて、この学食内での喧騒にも馴染んできたみたいだ。

 

「四葉はもう、キャンパスライフは慣れた?」

「んー……、高校の時とは大分違うから、ちょっと戸惑っている事もあったけど……。まぁ、大体の講義は秋穂と一緒だから……」

 

 ちょうど今考えてきた矢先の質問に、苦笑しながら答える。正直な話、秋穂が同じ大学に通ってくれているのは私にとって嬉しい事だったりする。

 

「そっか……、私も、四葉と一緒で助かってるよ……」

 

 私の言葉に照れたような様子でそう返す秋穂。……基本的に秋穂とは同じ学科を選択してはいるものの、全てが同じという訳ではない。私は神道関連の学科も選択し、代わりに秋穂は教職関連の学科を選択している。だからこうして一緒にいられる時は、お互い時間を合わせようとしている訳なんだけど……。

 

「それより、四葉……――」

「あー君達、ココは空いているかい?」

 

 そんな時、秋穂の言葉を被せながら話しかけてくる男性の声がする。

 

「えっ……?」

「ちょっと相席させて貰うよ」

 

 そう言いながら秋穂の隣に強引に割り込んでくる。戸惑っている秋穂を尻目に、

 

「君達、新入生かい?2人とも可愛いね~。もう、サークルは決まったのかな?」

 

 今度はもう1人が話しかけてきて、私の隣に座る……。2人を見てみると、容姿はそこそこ整っているようだけど、それを鼻にかけているのか軽薄な態度が滲み出ている。そもそも、私も秋穂も隣に座られる事自体、肯定した覚えもないのだ。いきなり会話に割り込んでくる事に対しても、相手の神経を疑いたくなってくる。

 

「君達は文芸部かい?俺たちは……」

「すみません、興味ないので」

 

 ……こういうのは最初から相手にしないに限る。私は食事のトレーを取って席を立ち、

 

「秋穂、行こう?」

「う……うん……」

 

 そう言って促すと、秋穂も私につられるように席を立つ。私達の様子に慌てたように、

 

「ち、ちょっと君達……!」

「ごめんなさい、ナンパは別な場所でやって下さい」

 

 引きとめようとしてきた男に対し、私は営業スマイルでバッサリと斬っておとす。周りの目もある為、今度こそ彼らも黙ったようだったので、2人して別の席を探して移動する。

 

「……四葉、ありがとう」

「全く……、何処行っても、ああいうの多いよね……」

 

 遠慮がちにお礼を言ってくる秋穂に、溜息を吐きながらそうかえす。ああいう輩は空気が読めないのだろうか……、本当に信じられない。

 

「秋穂も駄目だよ?ちゃんと拒絶しないと……。じゃないと勘違いするからさ、ああいう人たちは……」

「うん……、わかってるんだけど、ね……」

 

 苦笑しながら呟く秋穂。彼女が性格的になかなか難しいというのはわかっているけれど……。

 

「そういえば……、彼氏とは上手くいってるの?確か、高木さんっていったっけ?」

「!?」

 

 私がそう言うと、ゴホゴホとむせ出す秋穂。

 

「よ、四葉っ!!」

「んー?どうしたん、秋穂?」

 

 むー、と可愛く睨んでくる秋穂をニヤニヤしながら見つめる。本当に、からかいがいのある親友だ。

 

「…………高木先輩とは……その……。別に、彼氏さんって訳じゃ……」

「でも、この間は一緒にデートしてたんでしょ?」

「そ、それは……!高木先輩が……入学祝いだって……」

 

 私の追及に諦めたように答える親友に、私はさらに追及してゆく。

 

「だけど秋穂は行ったんでしょ?それも2人で……。秋穂も嫌だった訳じゃないようだったし……」

「それは……っ!確かに……そうだけど……」

 

 真っ赤になりながらゴニョゴニョと反応する様子に、可愛いなあと思ってしまう私。でも……、

 

「……よかった。秋穂も元気になったみたいで……」

「あ……」

 

 ……昨年は、本当に大変な状況だった。秋穂が3年間ずっと想いを寄せていた人にフラれて……、受験の前だった事もあり本当に大変だったのだ。彼女自身は告白は出来たと必死に割り切ろうとしていたみたいだったけど、それが無理しているという事がわかっていた私にしてみれば、秋穂の姿は余りに痛々しく胸が痛んだものだった。

 

「もう……大丈夫なの……?」

「……うん。完全に……まだフッきれてる訳じゃないけど……、私の中では大分整理はついたつもり……」

「そう……。その高木先輩には感謝しないとね」

「…………うん」

 

 そんな秋穂がここまで立ち直っているのは、その高木さんという人のおかげだ。昨年だって、傷心の彼女に受験の為の勉強やらと色々と気にかけてくれていたみたいで、秋穂自身も同じバイト先の先輩だったという事もあって心も開いていたみたいだった。そんな人が本当に秋穂を大事に想ってくれていたから、彼女は今、笑えているのだと私は思っている。さっきの連中とは大違いだ。

 

「そ、それよりも、四葉の方はどうなのよ!?」

「ん?私?」

 

 そこで、今まで真っ赤になっていた秋穂が私にそう返してくる。

 

「四葉こそ、誰かいい人はいないの?貴女だって、あんなにモテていたのに……!」

「うーん、そうやなぁ……」

 

 秋穂にそう言われて、私は考えてみる。確かに私も秋穂と同様、今まで何人かの男性に告白はされてきた。だけど……、誰も彼もこの人だ、って思える人はいない。別に私は面食いって訳ではないと思うけれど……。

 

「……いないなぁ」

「結構、かっこいい人もいたんじゃない?」

 

 それ、秋穂が言うかなぁ……。まあ、居るには居たとは思うけど、なんとなく付き合いたいという気持ちにはならなかっただけで……、っていつの間にか私と秋穂の形勢が逆転しているんやない?

 

「でも、私はあんまり容姿は気にせんと思うし……。告白してくるのも容姿(それ)目当てっていうのも多かったからさ……」

「じゃあ、どんな人ならいいの?」

 

 どんな人?うーん、どんな人って言われてもなぁ……。ちょっと考えて、ひとつ思い当たるものが見つかる。

 

「お姉ちゃんみたいな人……かなぁ?」

「お姉ちゃんって……三葉さん?」

 

 何言ってるのというような顔で私を見てくる秋穂。うん、本当に何を言ってるんだろう、私……。

 

「三葉さんのようにおしとやかな男性がいい……ってこと?」

「そうやなくて……何て言うか……男らしいっていうか……」

「……私、三葉さんにそんなイメージ無いんだけど……」

 

 確かに、普段のお姉ちゃんからはそんなイメージはないよね……。昔は度々おかしな事をしていた姉であったが、最近は鳴りを潜めているようだし……。

 

(その代わりに、何処か寂しそうにしている事も増えたんやけどね……)

 

 あれは大学合格のお祝いで会った時だったか、肩肘をつきながらどこか遠くを眺めていた姉の姿が脳裏に思い浮かぶ……。そんな姉の姿をみて溜まらなくなり、私がずっと傍にいるからと思ったものだった。そして、先日会った時は……、

 

「あ……そう言えば……」

「四葉?どうしたの?」

 

 そういえば、先日会ったお姉ちゃんの様子で思い出した事がある。

 

「つい最近、ちょっとお姉ちゃんと会ったんだけど……、何か怪しかったんだよね……」

「ん?どういうこと?」

「何かいつもより上機嫌やったっていうか……。電話しても話し中だったり、繋がって食事に誘っても用事があるとか……」

「単純にお仕事が忙しかったんじゃない?新年度という事もあるし……」

「まぁ……そうなんだけど、ね……」

 

 そう言われてしまえばそうなのかもしれない……。秋穂の言うとおり、新年度というもあり仕事も普段よりは忙しいのだろう……。

 

「それよりも……、三葉さんに男性がいないっていう事の方が、私には信じられない話だけど……」

「ん……それは確かに……」

 

 姉に彼氏がいないというのも普通に考えたらおかしい。それはうっすらおかしな所もある姉ではあるけれど、基本的にはお淑やかでおっとりしてるし、料理といった家事だって出来る……。身内の贔屓目を抜きにしても凄い美人だと思うし、性格だって良い……。当然、男も放っておかないようで、姉に対し幾人もの人が告白したっていう話もサヤちん経由で聞いてはいる。でも、その全てを断り続け、未だ男の影すらもないという事には秋穂じゃないけど不思議に思う時もある……。

 

(だけど……、わかるような気もする……)

 

 あのお姉ちゃんが変わってしまったのは、あの日、糸守町に彗星が落ちた時からだ……。お姉ちゃんにしてみても、色々と思うところもあるのだろう……。

 

『私には、確かにいたんよ!!大事な人が!忘れちゃダメな人が!!絶対に、忘れたくなかった人が!!!』

 

 あの時の言葉の通り……、あの時の姉には……、確かにいたのかもしれない……。そんな……忘れてしまった大事な人が……。だから、今もなお、その人を探して……、告白されても断り続けているのかもしれない……。

 

「ま、気になっている事もあるから……、ちょっとお姉ちゃんに確かめてみないと……!」

「…………ほどほどにね」

 

 苦笑しながらそう嗜めてくる秋穂を余所に、私は気になった事を確かめるべく、今夜お姉ちゃんの家にお邪魔することを決めるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、彼氏でも出来た?」

「ふぇ!?い……いきなり何を言うん、四葉!?」

 

 その夜、挨拶もそこそこにして、いきなり本題を突きつけた反応がこれだった。……これは……本当に、もしかするかもしれない……!

 

「だって……前に会った時のお姉ちゃんと比べて、雰囲気も何もかも全然違うんやもん」

「わ……私は、いつも通りやよっ!」

「……全然違うんやけどなぁ。それより……どうなん?お姉ちゃん……」

「……………………彼氏、出来ました」

 

 やっぱりそうか。まぁ、さっきの反応でわかっていた事ではあったけど……。でも、あのお姉ちゃんに彼氏かぁ……。

 

「おめでとう、お姉ちゃん。お姉ちゃんに彼氏が出来たんは……私にとっても嬉しい事やよ」

「あ、ありがと……四葉」

 

 照れてる姉からそんな答えが返ってくる。なんだかんだいっても、お姉ちゃんに彼氏さんが出来たのは、嬉しい事だと思う。

 

「本当にねぇ……。これで、年齢イコール彼氏いない暦というのは無くなった訳やなぁ」

「四葉っ!!」

 

 お姉ちゃんが真っ赤になりながら私にそう言ってくるのを見て、親友の秋穂をからかった時と同じように、可愛いと思ってしまったのはナイショだ。

 

「ごめんごめん。でも、彼氏さんが出来たんなら、私には教えて欲しかったなー」

「こ……こんなん……、わざわざ彼氏出来ましたって言うんも、違うやろ……」

「んー……、でも、お姉ちゃんのように、今まで一度も彼氏を作らんかった人が報告するんは別にいいと思うんやけどな……。正直、私も心配してたし……」

「それは……ゴメン……」

 

 それは確かに何度も男を作って、何度も別れているっていうのなら、一々報告しなくてもとは思うけど……。お姉ちゃんのように、今まで告白されても一度も相手と付き合った事がない人が彼氏を作ったという事は意味合いが違う。

 

「私が知らんかったんやから……、サヤちん達も知らんよね?」

「う……うん……、まだ、伝えとらん……」

 

 私もそうだが、サヤちん達もお姉ちゃんの事は色々心配していたのだ。だから……、

 

「……お姉ちゃん、せめてサヤちんには教えてあげないよ……。あんなに心配しとったに……」

「うん……、ゴメン……」

 

 反省している様子のお姉ちゃんに溜息をつきつつ、

 

「ハァ……、で?何時出来たんよ?それで、どんな人なん?」

 

 少なくとも、この前会った時はそんな人の影も形も無かったのだ。とするならば、この1ヶ月くらいの間にという事になる……。一体どんな出会い方をしたのか、そしてこの姉を惹きつける人が一体どんな人なのか……、非常に興味深かった。

 

「一度に聞かれても……、ただ……、そうやね、あれは……――」

 

 そして話し出す姉の話を聞き、私は驚愕するのである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん、それ……、本当に大丈夫なん!?」

 

 ……思ったとおりの妹の反応に私は苦笑いを浮かべる。まぁ……、普通はそう思うよね。

 

「……気持ちはわからんでもないけど……、ちょっと落ち着きない、四葉……」

「会ったのがちょうど一週間前で……、それも電車で目が合ったのがきっかけ!?それも、何処かで会った事があるって……、それ、ナンパやさ!!」

 

 畳み掛けるように言ってくる四葉。そして、妹の言及はまだ続くようだ……。

 

「おまけに、その日に会って……、その日の内に付き合う事にした!?お姉ちゃん、騙されとるんやないの!?」

「だから、落ち着きない……。今から説明するから……」

 

 興奮がちの四葉にそう言って、私はあの時の事、そしてあの時の想いを話し始める……。

 

「……初めて彼と会った時、この人やって、思ったんやよ……。居ても立ってもいられず電車を降りてまったけど、それは彼も同じ……。それに……、四葉には前に言った事があったかもしれんけど、私はずっと……、誰かを探してたんやよ……」

「あ……」

 

 私にそう言われて、四葉は押し黙る。四葉も知っていたのだろう。私が、誰かを探していた事を……。

 

「多分、あの日から……、私達の故郷に彗星が落ちてきたあの日から、私はずっと何かを……、誰かを探してきたんやよ。そして、それが……」

「それが……、その人だって言うん?」

「私はそう信じとる。……といっても、彼とはまだ1日しか会ってないんよ。連絡は取ってるんやけど、お互い仕事が忙しくてね……。だから、今度一緒に休みが取れる日に何処かへ行こうって話しとったんやけど……」

 

 ……そう、あの日以来、瀧くんは会えていないのだ。私も忙しいけれど、特に瀧くんは新入社員という事もあり、研修か何かで中々休みがかみ合わない。それに、どうせ会うのならば仕事終わりではなく、お互いが休みの時にという事になったのである、

 

「……じゃあ、その人の事、紹介してよ。とりあえず、見てみて判断するからさ……」

 

 ふう、と溜息をつきながら、そう言ってくる四葉。

 

「それで?その人はなんていう名前なん?」

 

 私の彼氏を判断すると言って憚らない四葉に、私は苦笑しながらも、大好きな彼の名前を教える事にした。

 

「立花……、瀧くん、やよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タチバナ……タキ……?お姉ちゃんからその名前を聞いた時、どこか引っかかる思いがあった。

 

「えっ……?そ、それって……、どういう字を書くん?」

「んー……、ちょっと待って……。こういう字やよ」

 

 そう言って、お姉ちゃんはスマフォを操作し、そこに登録された名前を見せてくる。……立花、瀧……、間違いない……。

 

(同姓同名……、という可能性もあるけど……。お姉ちゃんの話やと新社会人らしいし、多分、間違いないやろ……)

 

 私の親友である秋穂を……、振った男だ……!

 

「……お姉ちゃん、確かまだサヤちん達にも言ってないって話だったよね……?」

「う、うん……、そうやけど……?」

「それ……私から伝えておくで……。折角やし、私と一緒に判断して貰った方がいいにん……」

「えっ!?ちょ、ちょっと、四葉!?」

 

 彼の名前を聞き、自分の態度が変わって戸惑った様子のお姉ちゃんを余所に、私は冷静になって話を進める。

 

「今度の休日……、悪いんやけど、私も立ち会うで。時間が合うようやったら、サヤちん達にも頼んでおくから……」

「頼んでおくって……、何を?」

「決まってるやさ……。本当にお姉ちゃんに相応しい人かどうか、私と一緒に見極めて貰うんやよ」

「よ、四葉っ!?」

 

 吃驚したかのように目を見張るお姉ちゃん。……でも、これだけは譲れない。今まで一緒に大変な思いをしてきて……、私を色々と助けてくれた大好きなお姉ちゃん……。そのお姉ちゃんに近付いてきたのが、もし変な男だったら……、

 

「お姉ちゃんの気持ちはわかったやさ。でも、この目で確かめんと心配なんよ……。他でもない、大切なお姉ちゃんの事なんやし……。でも、私の主観だけだと偏っちゃうかもしれんから……」

 

 秋穂は誠実な人だとは言っていた。でも、私は秋穂が苦しんでいたのをこの目で見ているし、実際のところ一発くらいは引っぱたいてやろうと思っていたくらいだ……。私の本気が伝わったのか、お姉ちゃんは溜息をつくと、

 

「……わかったやさ。瀧くんには伝えておくから。でも……、手荒な真似はせんといてよ?」

 

 私の大切な人なんやから、そう言うお姉ちゃんに私は苦笑しながら「わかった」とは言っておく。

 

(……でも、それはタキくん次第やないかな?もし変な男やったら、追い払ってやるでね……)

 

 首を洗って待っていてよ、そう決意しながら私はこの件についてどう備えていくか考えるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ!お前に彼女が出来たのか!?」

 

 友人である司と真太にその事を報告するやいなや、第一声でそう言われる。その声色はいかにも「お前に!?」って言われているような印象も受けるが……。

 

「……なんだよ、真太。そんなに俺に彼女が出来る事が意外か?」

「ああ。正直に言えば意外だ」

 

 即答。……コイツ。

 

「別に貶している訳じゃないぜ?ただ、あの瀧がな……って思ってな」

「……それって貶してるようなもんじゃねえか?」

 

 真太からは、心配だっただけだってと肩を叩かれるも、なんか納得はいかない。そりゃあ俺だって始めて出来た彼女だ。そんな反応されるのも仕方ないかもしれないけど……。

 

「そうか……、ついに瀧にも彼女が……」

 

 一方、司の方はコーヒーを飲みながらシミジミとそんな事を呟く。

 

「お前らなぁ……。ちょっと大げさじゃないか?」

 

 そんな2人の反応に溜息をつきながらそう答える。しかし……、

 

「何言ってやがる。あの『瀧』がだぞ!?彼女を作ったって聞いて驚かない訳がないだろ!?」

 

 今度は俺の肩を掴んで締め上げてくる真太。ついさっきまで秋穂ちゃんの事をからかわれて赤くなっていた奴の態度とは思えない変わり様だ。

 

「……お、返信が来た。何々、是非会って見たいから紹介して、だってよ」

「お前、誰に聞いてるんだ!?」

 

 あろう事か、司の奴、LINEで奥寺先輩に伝えたらしく、すぐに返信が返ってきたようだ。

 

「それより……、どんな人なんだよ!?」

「あ、ああ……、確か、写真が……」

 

 俺を締め上げていた真太から逃れると、俺はスマフォを操作して彼女と一緒に映った写真を表示させ、2人に見せる。

 

「なぁ……瀧……」

「な……なんだよ?」

 

 微妙な表情をする2人を怪訝に思い、聞いてみると、

 

「これさ……、お前の理想の彼女……て訳じゃないよな?」

「ハァ!?」

 

 司から予想外の返答をされ、思わず俺は聞き返してしまう。

 

「だって、この娘……黒髪のロングでこの容姿だろ?お前の好みドストライクじゃね……?妄想でこんな娘が俺の彼女ならな……、とか言ってる訳じゃないんだよな……?」

「お……お前らぁ!!」

 

 いくらなんでもそれは無いだろ!?今度は俺がそんな事をぬかした真太を締め返す。そんな事をしていると店員さんから「少し静かにして下さい」と言われてしまい、漸くそこで冷静になった。

 

「……まぁ、いまだに信じがたいが……、現実にいるんだな?この娘が……」

「……ああ、そうだよ……」

「じゃ、今度紹介して貰えるか?……というより、彼女も会いたがってるし……」

 

 そう言ってLINEのメッセージを見せ付けてくる司に溜息をつきながら、

 

「ああ……、てか元からそのつもりだよ……。それに彼女の方も同じように言ってきててさ……。折角だから一緒にどうだって思って」

「ん……?どういう事だ?」

 

 俺の言葉に疑問符を浮かべながら聞いてくる真太に対し、俺は答える。

 

「彼女、三葉っていうんだけど……、その娘に妹がいてさ……。どうやらその子が俺をどんな男か見極めたいって言ってて……。それに合わせて彼女の幼馴染の人たちも俺に会ってみたいって話になってるみたいなんだ。だから三葉に俺にも同じような友達がいるって言ったら一緒に紹介したらって話になってるんだよ」

 

 どうも彼女も俺が始めての恋人らしくてな、と言うと漸く納得したような表情になる2人。

 

「成程……。でも、信じられねえな……。そんな人が今まで男の一人もいなかったなんてさ……」

「確かにな……。だけど、お前はその人を選んだんだろ?」

「選んだ?どういう意味だよ、司?」

 

 言っている意味がわからず、そう司に尋ね返すと、

 

「……瀧がずっと彼女を作ってこなかった事さ。お前はまるで誰かを探しているようだった……。じゃなきゃ秋穂ちゃんを振る事も……、高校時代にマドンナだった三枝さんの告白を断る事もなかっただろ?」

「……」

 

 そして、奥寺さんの事も……、そう司に言われて俺は思わず返答に詰まる。そして、その時の事を思い出す。彼女たちや……、大学時代に自分に話しかけてきた子たちの事を……。暫くその時の事を考え、俺は口を開く。

 

「……ああ。俺は……多分、その探していた人っていうのは三葉だと思っている。なんせ……、会社に向かう途中に他の電車に乗っているのを見かけて……、遅刻覚悟で電車を降りて、そのまま彼女を探したんだからな……」

「ハァ!?なんだそれ!?」

「なんだもなにも……、俺は別の電車に乗っている三葉を見つけて、次の駅で降りたんだよ。そして、彼女が乗っていた電車の駅に向かって走り出した……。彼女と出会ったのはそうして向かった先の神社の階段のところでさ……。そこで初めて、言葉を交わしたんだ」

「……それって、つまり相手も電車を降りて、お前を探していたって事か……?」

 

 信じられないという表情をしながら、司が俺に問いかける。俺は頷きながら、

 

「信じられないかもしれないが、事実なんだ。お互い相手を見つけた途端、電車を降りてそれぞれを探し始めた……。そうやって俺たちは出会ったんだ。どちらかが探さなければ……、俺たちは会えていない……」

 

 ……そう。そんな奇跡のような出会い方をした俺たちだ……。運命だとか、そういった言葉では言い表せない事が味方しない限り、出会う事は出来なかった筈……。それでも、俺と三葉はこうして出会うことが出来た。その事に、俺は素直に感謝したい……。

 そんな話を聞き、暫く黙っていた2人だったが、やがて司が息をつき、そして、

 

「……まあ、いいさ……。どっちみち会ってみればわかるしな……。瀧の保護者としてついて行くよ」

「ホント俺たちに心配をかけさせるのは相変わらずだな、お前は……」

「俺は小学生か!……でも、すまねえな、お前ら……」

「なーに、いいって事よ……。おっと、忘れるところだった。その前に……」

 

 真太はそう呟くと握りこぶしをつくり……、ガツンと俺の頭に拳骨を落とす。

 

「痛って!?何すんだよ!?」

「これは……秋穂ちゃんの分だ。言わなかったか?お前に彼女が出来たら一発殴るって……」

 

 そう言われて俺はグッと詰まる。彼女の事を引き合いに出されては、グゥの音も出ない。そんな俺を見て満足したのか、ニッと笑う真太。

 

「よし、じゃあ話も決まったところで、ここはお前の奢りな」

「何でだよっ!!」

 

 真太の言葉に口では反論するも、言われなくてもここでの支払いは俺がする予定ではあった。なんだかんだと言いながら、司たちには普段より世話になっているし、大変な時も色々助けて貰っている。それに……、

 

(こいつらと……三葉の幼馴染たちが一緒に会うという事に、俺は何処かワクワクしている……!)

 

 何故かはわからないが、ずっと前に、司や真太、それに奥寺先輩と三葉たちとで実際に会って話が出来れば……、そんな思いを抱いていたような気がする。本当は俺が彼女に相応しいか見極めるって言われているのだから、もっと戦々恐々としていなければならないとは思うけど……、

 

(早く、その日にならないかな……)

 

 俺は自分の心に残るその気持ちを抑える事は出来なかった。




年内にもう1話挙げられれば、と思ってはいますが、難しいかな……。
もし、誤字脱字等ありましたら、お知らせ頂ければ有難いです。

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