優と千尋の神送り   作:ジュースのストロー

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優と千尋の神送り
川で溺れる前に


 

ちょっと気が強くてクールだけど綺麗なお母さんと、親父臭いけど優しいお父さん。そんなありふれた家族に愛されて私は誕生した。初めて自分の名前を知った時に、もしかしてと思ってから、じわじわとその気持ちが強まって行くものの、未だ確信は得られない。

2度目となる幼少期を時の流れに身を任せて移ろうのも良いのかもしれないが、もしかしたらでも死ぬ危険があるのだ。だから取り敢えず

 

 

 

 

「お母さん私、スイミングスクールに通いたい。」

 

川で溺れない様に、何とか川を上れる位にはなっておきたいと私は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が頼み込んだスイミングスクールは、いつかは我が子に習い事をさせてみたいという気持ちがあった両親に全面的に支持され、近くの大型プール施設に通う事になった。週に3回程だが毎日通えばある程度の実力はつく事だと思う。

設けられた年齢制限のギリギリで教室の中でも最小を誇る私は、幼児向けのプールにて顔を水に浸ける事をしていた。始めはここから始まるのは分かる、分かるが当たり前に出来る事を褒められるのは恥ずかしい。少しだけ火照った顔を水から鼻先だけ出して冷やすと、プールの波に揺られながらボケーッと先生の話を聞き流していた。

私の通う事になったスイミングスクールは、少しずつステップアップして泳ぎをマスターするらしい。そのクラスによって色が変わるスイミングキャップを被って練習をするのだが、私が被っている帽子は勿論最低クラスの赤色だ。順にオレンジ、黄色、黄緑、緑、青と色が変化していくらしく、青帽子にまでなるとクロールやバタフライ等のタイムアタックを行う。最低でも青帽子までは行かないと川を上るなんて夢のまた夢なのでこれから頑張って行こうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論として、川上り出来た。これが達成出来るまではと思って、スイミング以外に見向きもしなかったせいもあるだろうけど出来た。親や友人に化け物を見る様な目で見られたけど行けた。そんなにおかしい事だろうか。だって鮭だって卵を産むために川を上って更に滝を登って行くのだ。滝上りは出来ないが前日の雨で水嵩の増えた川を着衣泳する程度ならそこまで大した事ではないような気がするのだが。

丁度家の近くに流れていた“琥珀川”は幅が3m程の川で小さいながらも、その分雨の後はとんでもない勢いで物を押し流す川である。地域活性の浄化作業の賜物か、透き通る様な水とヘドロとは無縁のサラサラした川底は夏になれば蛍が沢山現れて幻想的な風景が見れて、私も毎年楽しみにしている。

スイミングスクールで4歳にして青帽子を取得するという快挙を成し遂げた私は、この琥珀川に1人訪れて泳ぎをマスターした。友人宅に遊びに行くと嘘をついてこっそり川で練習をするのは中々度胸が必要だったが、あの勘が鋭くて気の強いお母さんを前にしてよくぞ私は隠し通せたと思う。こういうお父さんには無い勘の良さは、私も持つのできっと遺伝なのだろう。

小さな体が流されない様に少しずつ慎重に体を川に慣らしていき、時には紐を括りつけて私は頑張った。冬の寒さにも負けず、時々流されている流木にも負けず頑張った。

そして、ある夏の暑い日に、子供達で川の近くで遊んでいた時の事。友達の1人が川で靴を流されてしまい、私は慌てて川に飛び込んだ。いつもより水嵩が多かったもののスイスイと靴が流されている所まで泳いで追いつき靴をゲットした私は、今度は逆流をして自分が飛び込みをした場所まで戻ってその子に靴を返したのである。その時に何故わざわざ陸を歩くのではなく川を伝って逆流したのかはよく分からないが、友人達にはとんでもなく驚かれた。靴を渡された子供は口を大きく開いていて間抜けな顔をしていたし、周りの子供達も大差はなかったと思う。河童が人間に化けているだのお前の母ちゃん魚などと言われた。失礼な、お母さんはちょっと目が離れているのを気にしているんだから本当の事を言っちゃ駄目じゃないか。えっ? 私はお母似だって? ……気のせいじゃないかな。

 

 

 

 

 

 

 

何はともあれ、これで次の段階に進む事が出来る。市の年齢制限なしの水泳大会で何度も優勝を果たしてきた私が突然スイミングスクールを辞めると言い出すと、周囲から何故辞めるのかと猛反対を食らったので渋々、最近まで1日も休み無しで入っていたスイミングスクールを週3回までに減らす程度に留めておいた。私も何だかんだ泳ぐ事が好きになってしまったので、息抜きには良いのかもしれない。

 

 

 


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