旧帝国の軍神   作:トクマル

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第8話・黒き英雄

荒野での戦闘は熾烈を極めていた。合計30体もの幻神獣(アビス)の猛攻。何故か幻神獣(アビス)に襲われないベルベットはその笛を使って幻神獣(アビス)達を操っているように見えた。

 

「くっ…………!はぁ!」

 

リーシャは息を荒げて、四肢の各部に力を込める。

合計十六機の《空挺要塞(レギオン)》で相手を撹乱し、重力制御の神装《天声(スプレッシャー)》で動きを封じ最後に《七つの竜頭(ゼブンズヘッズ)》の最大砲撃で確実に葬る。そんな極限の戦闘を続けていた。

またテルマもリーシャ達から少し離れた場所で戦っていた。

テルマの戦闘スタイルはワイバーンによる高速移動と大型ブレードによるヒットアンドアウェイ。故に援護射撃などをされると誤射されてしまう可能性が高い。故にテルマは戦闘に入る前にリーシャにその事を告げ一人で幻神獣(アビス)と戦っていた。

しかし、

 

(数が多すぎる。)

 

テルマが引き受けた幻神獣(アビス)は七体。もちろん一人ですべて倒しきるつもりだ。だが攻撃を当てようにも連係されてこちらが攻撃をするタイミングで死角から攻撃してくる。

 

「厄介だな。」

 

幻神獣(アビス)の中でもガーゴイル種は高い知能をもつ。奇襲だけでなく、戦術レベルの駆け引きまで用いてくる。さらにベルベットの笛のせいか連係までしてくる。一編に相手にするのはよろしくない。

 

「だったら」

 

テルマはワイバーンの推進機能を使って急上昇する。それによって幻神獣(アビス)の包囲を一旦抜ける。

しかしガーゴイル達も逃がすまいと同じく上昇してテルマを追う。

 

(かかった。)

 

追ってきたガーゴイル達を確認すると上昇を止め一気に降下する。自由落下と推進機能を使っての急降下。幻神獣(アビス)も急に迫ってきたテルマをみて上昇を止めるが、

 

「甘い」

 

すれ違い様にガーゴイル一体を最大出力の機竜牙剣(ブレード)で一刀両断。一体を仕留めた。

 

(あと六体)

 

そう思いテルマが通りすぎたガーゴイル達を確認しようと上を向いたとき、

 

「ッ!」

 

テルマの上にいたガーゴイル達が両翼を開き羽型の光弾を放ってきた。六体から放たれる濃密な弾幕。テルマは防御では無く回避を選択した。テルマのワイバーンはスピードに重きを置いている。故に障壁の出力が普通のワイバーンと比べて低い。この弾幕では間違いなく障壁は破られてしまう。

また回避しながら接近する事で攻撃のチャンスを伺う。

 

(けど、この数はヤバイ)

 

いくらスピードに重きを置いているといっても限界がある。ある程度被弾しながら、けれど致命傷は避けてガーゴイル達に迫る。

そして

 

「はぁぁぁ!」

 

弾幕を抜けテルマは機竜牙剣(ブレード)でガーゴイル一体をぶった切った。

 

「あと五体ッ………!」

 

ガキン!と

 

テルマのワイバーンを何かが拘束した。

 

「ッ………!ガーゴイル」

 

見ればガーゴイルがワイバーンを羽交い締めにしていた。そしてテルマの前にいる四体は一斉に両翼を開く。

 

(こいつら、味方ごと)

 

いや、そもそも幻神獣(アビス)に仲間意識があるのか分からない。ガーゴイル達は羽型の光弾をテルマに向かって放った。

 

機竜咆哮(ハウリングロア)!」

 

テルマはとっさに機竜咆哮(ハウリングロア)を使い、羽交い締めしていたガーゴイルを引き剥がす。

なんとか引き剥がしたが既に光弾は目の前に来ている。テルマは障壁と機竜咆哮(ハウリングロア)は張りさらにスラスターで大きく回避するが。

 

「くっ………そ!」

 

テルマを羽交い締めしていたガーゴイルはバランスを崩して光弾をもろに食らい死んだが。テルマも回避しきれない。何発かは装甲を破壊する。それでもなんとか弾幕を抜けガーゴイルと距離を取る。

 

「ヤバイ。けっこう入ったな。リーズシャルテ様達大丈夫か?」

 

とリーシャ達の方を向くと

 

「リーズシャルテ様!?」

 

見ればリーシャは《ティアマト》を纏ったまま地面に倒れていた。《ティアマト》の装甲もボロボロだ。

 

「くそ!」

 

テルマはリーシャの方へ行こうとワイバーンを動かす。だが行く手をガーゴイルに阻まれてしまう。

 

「どけ!」

 

それでも構わずテルマはガーゴイルの群れに飛び込む。ガーゴイル達も行かせまいと光弾を放ってきた。右へ左へ最小限の動きで致命傷を避けるテルマだが、突如左目の景色が赤く染まった。

 

「!?」

 

テルマは頭から血を流していた。恐らく光弾の一つが頭をかすったのだろう。一時的に左側の視界がきかなくなったテルマに光弾が襲い掛かる。なんとか回避を試みたが視界が半分きかない状態では避けきれず、障壁は破られて、装甲も左足と左腕が吹っ飛ばされた。

 

「がぁッ………」

 

バランスを失い自由落下を始めるテルマ。辛うじて機竜は纏っていたがこのまま落ちれば重症だろう。

 

(情けねぇ)

 

落ちながらがテルマは自分の情けなさを嘆いた。騎士団(シヴァレス)のみんなも救えずリーシャもリーシャも救えない。情けない話だった。

だが不意にテルマの機竜が抱き止められた感じがした。

 

「…………クルルシファーさん?」

 

「大丈夫かしら?」

 

幻覚かと思ったがリーシャの方にもワイバーンを纏ったルクスがいた。

そしてすべてを悟った。ルクスが助けに来たのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ー顕現せよ、神々の血肉を喰らいし暴竜。黒雲の天を断て《バハムート》!」

 

直後、現れたのは黒の神装機竜。禍々しい殺気と光沢を帯びた、幻玉鋼鉄(ミスリルダイト)の塊。

神装機竜《バハムート》が姿を表した。

 

「何者かは知らんが、構わん!たかが一機だ!まとめて始末しろ!」

 

ベルベットの指示で最初の三機がルクスに襲いかかった

 

その刹那

 

バキン!

 

「ーえ?」

 

ルクスに襲いかかった三機が弾け飛んだ。

 

「な……に……!?」

 

何が起こったか分からなかった。ただ目にも止まらぬ速さで《バハムート》が大剣を振るい、剣を交えた瞬間勝負を決めたのだ。

 

「《暴食(リロード・オン・ファイア)》」

 

状況を理解させる前にルクスは三機を叩き伏せた。

 

「く………!?」

 

「ど、どういうことだ、あれはー!?」

 

「何が起きている、一体、何が」

 

「あ、あれは神装機竜なのか……!?何故、ああも軽々………!」

 

何機で行っても一瞬の内に破壊されてしまう。剣を振るうより、銃のトリガーを引くより早く、一瞬の下に叩き伏せられる。まるで悪夢のような光景に反乱軍の機竜使い(ドラグナイト)はどよめいた。

 

「う、狼狽えるな!奴は所詮、俺たちと同じ男の機竜使い(ドラグナイト)だ!」

 

ベルベットが声を張り上げ部下たちを叱咤する。

 

「奴に……男に長時間、神装機竜を扱えるほどの適性はないはずだ!それにヤツは攻撃の直後、必ず動きが鈍っている!その隙をつけ!」

 

「は!」

 

隊長の指示を受けた機竜使い(ドラグナイト)達がルクスを囲み再び襲い掛かる。確かにルクスは《バハムート》の操作に疲れたように、数秒その動きを緩めていた。

 

「ぐあぁぁあっ!?」

 

だが、動きが遅くなり、隙を晒したに見えた次の瞬間。間合いに入った七機の帝国の機竜を、一瞬で粉砕した。

 

「・・・・馬鹿なッ!?」

 

再び動揺が、帝国軍の機竜使い(ドラグナイト)たちに走る。 

 

「漆黒の神装機竜だと・・・・。貴様・・・!まさか、お前がーあのクーデターの・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以外と早く会えましたね。」 

 

クルルシファーに助けられ地上に降りたテルマはそう呟いた。頭には包帯が巻かれている。

 

「・・・あなたは知っていたのね。」

 

「すみません。嘘をついてしまって」

 

「別に気にしていないわ。それに言ったでしょ、言いたくないことまで言わなくていいって。」

 

気にしてないそんな意味をこめたような口調だった。 

 

「クルルシファーさん、このことは内密に・・・」

 

「ええ、分かっているわ。そのかわり彼の機竜の性能を教えてもらっていいかしら?」

 

「僕の知っている範囲で良ければ。」

 

テルマは一呼吸おいて、

 

暴食(リロード・オン・ファイア)それがルクスさんの神装の名です。」

 

暴食(リロード・オン・ファイア)

圧縮強化という能力で十秒間の魔法。先の五秒間で、エネルギーや数分の一に激減させ、後の五秒で、その力を爆発させる能力。

 

「ルクスさんはその能力を使い斬撃を加速させ相手の攻撃を追い抜き破壊する。「即擊」というルクスさんの技です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三十機、四十機、五十機と次々と敵の機竜使い(ドラグナイト)を破壊してゆくルクス。そしてベルベット以外の機竜使い(ドラグナイト)を破壊しつくした時、

 

「あの世で皇帝陛下に詫びろ裏切り者!」

 

ベルベットがルクスの神装の間隙を狙って斬りかかる。並の攻撃ならルクスには当たらないがベルベットには切り札が合った。

 

神速制御(クイックドロウ)

肉体操作での制御に加え、精神操作の制御。一連の操作に、異なるに二系統からの操作完璧に重ねることで、ほんの一瞬、一動作のみ、目にも止まらぬ攻撃を繰り出す絶技。

 

神速制御(クイックドロウ)による不可避の斬撃をあびせようとしたその時、

 

「なっ!?」

 

バキィィン!

 

ルクスを攻撃したはずの機竜の腕が破壊された。いや腕だけではない。幻創機核(フォースコア)そして機攻殻剣(ソード・デバイス)までもが破壊された。

 

「な、何故?」

 

混乱しているベルベットだが、ルクスは暴食(リロード・オン・ファイア)を使いベルベットの機竜を破壊する。

 

「僕はここで戦います。僕が王子だった帝国じゃなくて、あなた達じゃなくて。僕が認められたいと思う彼女たちのために…………」

 

ベルベットが地に落ち、戦いは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

「帝国の三大奥義、それらすべてはルクスさんが生み出したものなんです。」

 

ベルベットを倒したあと、ルクスは気を失い運ばれた。同じく騎士団(シヴァレス)の生徒も治療のために戻った。テルマも治療が必要だが応急処置をしているだけになっている。クルルシファーも今回の反乱軍の引き渡しのために後始末を手伝ってくれていた。

 

「それで「黒き英雄」に会えて目的は達成できましか?」

 

「そうね。半分は、と言ったところかしら。」

 

後始末も終わり学園への帰りにテルマはクルルシファーに尋ねていた。

 

「半分は、ですか。」

 

なんだか曖昧な返事にテルマは苦笑する。

 

「確かに半分だけれど、それでも大きな成果だわ。」

 

クルルシファーは満足そうにそう返し、

 

「それにしても、彼は随分損な性格をしているのね。」

 

話題はルクスの話に切り替わる。

確かに結果だけ見ればルクスだけでもよかったかもしれない。だがもしベルベット達がリーシャたちを狙ったら自分は気兼ねなく戦えなかったかもしれない。だからクルルシファーに同行を頼みその守護を任せたのだ。全力で守るために。

 

「まぁ、それがルクスさんの良いところでもありますから。」

 

笑って答えるテルマ。クルルシファーも呆れたように笑った。

 

「じゃあ急ぎましょうか。もうすぐ暗くなりますし」

 

「そうね。」

 

こうして戦いは終わった。


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