旧帝国の軍神   作:トクマル

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第7話・王女の覚悟

幻神獣(アビス)と交戦していた騎士団(シヴァレス)の部隊は半壊状態に陥っていた。

 

「くぁあ………!」

 

「う……くっ、あ………!」

 

酸で装甲の一部が溶ける。武装を盾にしたメンバーも多くその殆どは使い物にならなくなっていた。

 

「みなさん!大丈夫ですか!」

 

テルマのワイバーンが地上に降り竜声を使って全員に声をかける。ほぼ全員負傷していたが、死者は無かった。

 

「………くッ!騎士団(シヴァレス)の小隊は全機退避だ!一度体勢を立て直す。武器が使えない者は一旦下がれ!」

 

「リーズシャルテ様」

 

全機に指示を出すリーシャにテルマが近づく。

 

騎士団(シヴァレス)の戦力の内ワイアーム、ドレイクの機体は全機に損傷があり交戦可能なのは全体の6割。しかし全体の9割が何らかの武装が使えないもよう。ワイバーンはほぼ全機が交戦可能です。」

 

もろに酸を浴びたのはドレイクとワイアームのみ。ワイバーンは衝撃で地上に落とされたがそれ以外の被害は無かった。

その報告を聞きリーシャは、

 

「まだ十分に交戦可能だ!狼狽えるな!」

 

と仲間たちに声をかけ、鼓舞する。

だが

 

「ほう、随分と王女ヅラが板についてきたじゃないか、リーズシャルテよ」

 

「………!?」

 

ふいに聞こえたしわがれた男の声。竜声を使ったその声は騎士団(シヴァレス)以外のもの。新王国警備部隊の機竜使い(ドラグナイト)。灰色の機竜を纏った男が幻神獣(アビス)の後ろ上空に佇んでいた。

 

「だがな、お前はそんな器ではない。そのような誇りなどないのだよ。」

 

「貴様、何を言ってーッ………!?」

 

不遜な声の直後、その機竜使い(ドラグナイト)から閃光がリーシャに向かって放たれた。

 

「部隊長!」

 

「姫様!」

 

騎士団(シヴァレス)の悲鳴が竜声越しに木霊する。完全に虚をついたタイミング。

だが

 

「させない。」

 

側にいたテルマがリーシャの前に出て機竜牙剣(ブレード)で砲撃をいなす。

 

「どういうつもりでしょうか?警備部隊の隊長が姫に向かって牙をむくというのは?」

 

静かだが怒気を含んだテルマの声。

しかし、

 

「それは間違いだ。王都の犬よ。」

 

淡々とリーシャに対して詫びることもなく、

 

「私は帝都から来たのだ。アーカディア帝国近衛騎士団長ベルベット・バルトが、私の名前だ。」

 

「ッ………!?」

 

その一言に騎士団(シヴァレス)の一同が、はっと息を呑む。

 

帝国側の機竜使い(ドラグナイト)は戦犯として一度牢に入れられたが、中には新王国へ忠誠を誓い再び機竜使い(ドラグナイト)になった者も少なくない。

だが、

 

「新王国を裏切ったということですか?」

 

「裏切ったなどと人聞きの悪い。王道に立ち返ったのだよ。力を得てな。」

 

勝ち誇ったように話すベルベット。

 

「不意打ち一発で勝てると思ったか?傲慢は身を滅ぼすぞベルベット。」

 

リーシャが悠然と返す。確かにベルベットが連れてきた幻神獣(アビス)騎士団(シヴァレス)にダメージこそ与えてはいるが、倒せてはいない。それに幻神獣(アビス)はドロドロに崩れていて戦える様子ではない。

それでもベルベットは余裕の表情で、

 

「勝てますとも。こうして貴女を誘きだしたのも勝算があっての事ですから。」

 

そう言うとベルベットは小さな黄金の笛を手に取った。

 

「さあ、孵れ、卵よ」

 

そして酷薄な笑みを浮かべて笛を口に当てる。聞いたことの無い不協和音が辺りに鳴り響いた。

 

直後

破裂してドロドロになっていた幻神獣(アビス)から小さな泡がぷつぷつと浮かぶ。それらは高速で大きくなり弾けた。

 

「あれは………!?」

 

騎士団(シヴァレス)のメンバーもテルマも驚愕に目を見開く。

出てきたのは、ガーゴイル。

しかも一匹では無く群れで、幻神獣(アビス)が生まれた。その数およそ30体。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ………」

 

「あんな数………!私たち2体以上の幻神獣(アビス)、同時に戦ったことも無いのに…………」

 

「どうしよう………聞いてないよ、こんなの」

 

「そもそも、軍の警備隊まで敵だなんて」

 

絶望の声が竜声で重なりあう。無理もない。ガーゴイル30体。一人前の機竜使い(ドラグナイト)に換算すると約百二十機越の敵戦力なのだ。恐怖に支配されても仕方が無い。

 

騎士団(シヴァレス)のみなさんは撤退してくだい。時間は僕が稼ぎます。」

 

だからテルマの指示は完全に予想外だった。

 

「何を言ってるんだテルマ!」

 

シャリスが竜声で声をあらげる。

 

「そーだよ危険だよ!」

 

「Yes.死ぬつもりですか。テルマさん。」

 

ティルファー、それにノクトがシャリスに同意する。幻神獣(アビス)30体に対して機竜使い(ドラグナイト)一人とはあまりにも無謀すぎる。

だが

 

「彼の裏切りは軍の責任です。なら責任は軍人である僕が取ります。」

 

テルマもまた強い意志を示した。それだけに先ほど声をあらげた三和音(トライアド)も何も言えない。

 

「リーズシャルテ様、後の指示を………」

 

「ー目覚めろ開闢の祖。一個にて軍を為す神々の王竜よ。〈ティアマト〉!」

 

だが撤退させようとしたリーシャが〈キメラティック・ワイバーン〉を解除し〈ティアマト〉を纏った。

 

「リーズシャルテ様、何をなさってるのですか?」

 

「残念だけど撤退は無理そうだ。敵は翼を持っている城塞都市(クロスフィード)の中に逃げても壁は越えられてしまう。なら、ここでやるしか無いだろう。」

 

「そのための時間は僕が稼ぎますから、だからリーズシャルテ様………」

 

「それは私が王女だからか?」

 

唐突に

 

テルマの言葉を遮ってリーシャは尋ねた。

 

「生き延びることも王女の責任、ということか?」

 

「…………」

 

はっきり言ってしまえばそう言うことだ。やっと平和を手にした新王国のためにここでリーシャが死んでしまうのは良くない。それこそ反乱軍に勢いを与え、新王国の人々に恐怖と悲しみを与えてしまう。もっと言えば最悪リーシャだけが生き延びればいいとも思っている。だがそれを口には出せない。

 

「やっぱり私には王女なんて向いてないな。」

 

そう一言寂しげに呟いて、

 

「面倒なんだよ。苦手なんだ。誰かを犠牲にして生き残って、誰かの死を英雄として称えて、残った市民に演説のひとつでもして、拍手を浴びるなんてさ。」

 

 

「………」

 

 

「だから私は戦うよ。きっとそれが私に出来る姫としての使命なんだ。」

 

言い切ると同時にリーシャの〈ティアマト〉が飛翔する。それに合わせてテルマのワイバーンも飛翔する。

 

「どうした?まだ私を止めるか?」

 

「止めませんよ。」

 

どこか呆れたようにテルマは呟く。別に悲観したわけではない。

 

「こうなった以上貴女に従います。部隊長殿。」

 

そう言ってテルマは武装を構える。それを聞いてリーシャはふっ、と笑みを浮かべて

 

騎士団(シヴァレス)総員に告ぐ。これより敵と交戦にはいる。戦闘不能者及び負傷者は城壁内に待避。戦えるメンバーは私の援護だ。《空挺要塞(レギオン)》に当たらないようにすこし引いておけ。」

 

「リーズシャルテ様………」

 

その口調に覚悟を感じとった騎士団(シヴァレス)のメンバーも自然と落ち着きを取り戻していた。

 

「ノクト、お前は城塞都市(クロスフィード)に戻り、学園にこのことを伝えて指示を仰げ。出来るか?」

 

「Yes.了解しました」

 

返事の直後、ノクトのドレイクが城塞都市(クロスフィード)に向かって滑走する。

同時に騎士団(シヴァレス)のメンバーが残りの武装を構えた。

 

「さぁ、遊んでやるぞ反逆者ども。」

 

「二度目の反逆はの罪は重い。死ぬまで牢屋の中ですよ。」

 

リーシャは《空挺要塞(レギオン)》追加十二機と七つの竜頭(ゼブンスヘッズ)を召喚。

テルマは可視出来るほどのエネルギーを機竜牙剣(ブレード)に流した。

 

「口の減らない奴らだ」

 

ベルベットはそう吐き捨て再び笛を口に当てた、

 

 

 


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