「では、全員が揃ったところで士官候補生の諸君に通達する。」
警鐘の理由は
「現在、第2、第3の砦に常駐している、警備部隊の
いつになく真剣な声音ライグリィ教官の話は終わった。既に王都にも救援要請を出しているとの説明があった。何人かの生徒はそれを聞いて、ほっと安堵のため息をついていたが………
「随分と平和ボケしているわね。この学園のお嬢様たちは」
「え………?」
格納庫の壁際に佇んでいたクルルシファーの呟きにルクスは思わず聞き返した。
「王都からの応援なんてそう簡単に期待できるものではないはずよ。」
「どういうことですか?ここにいるみんなは士官候補生でしょう?王都からの
「そこの説明は僕がしますよ。」
装衣に着替えたテルマがルクスのそばによってきて
「新王国が誕生してからまだわずか五年。今の王国は四大貴族の協力がなければ成り立たない状態です。そんな内政をしっかり確立されていないので軍直属の
最後はため息まじりにテルマが言う。
「声が大きいよ、テルマ。」
不意にやって来たシャリスが口元に人差し指をたて、苦笑いする。
「君も一応は元王子で
「要するにさー、人手が足りないんだよ。テルっちの言う通り」
傍にいたティルファーが、肩をすくめつつそう言う。
「Yes. ここが只の都市で無いことは貴方もご存じのはずです。」
そしてノクトも言葉を添えると、ゆっくりと外へ出る扉の方へ歩いて行く。
「どこへ行くつもりですか?」
「我々は
シャリスがくすりと笑顔を返し。そのまま3人は出ていった。恐らくは演習場で機竜を纏い、そのまま
「おいルクス。それじゃ、行ってくるぞ」
ぽんと手を肩な置いてきたのは、装衣を身に纏ったリーシャだった。
大型の
その緊迫した状況でもリーシャは余裕の笑みを浮かべていた。
「気をつけてください。」
「大丈夫だ。私は強いからな。本当ならお前を連れていって攻撃の仕方を教えてやろうと思っていたのだかな」
昨日の落ち込みなど無かったかのようにリーシャは笑顔を見せる。ルクスは安堵してリーシャを見送った。
「君も行くの?」
ルクスは振り返りテルマにたずねる。
「僕は軍の
淡々とそう返す。
「何か気になることでも?」
ルクスはテルマが行く事を分かったうえでそう聞いたのだろう。ルクスには他に気になることがあった。
「ルクスさん?」
いつまでも考え込んでいるルクスにテルマは肩に手を置く。
「ルクスさん、考えてる事は大体分かります。でも今は行くしかありません。」
テルマはそう言うと格納庫から出ていった。
「テルマ、気をつけてね。」
ルクスもテルマを見送った。
「何か気になることでもあるのかしら。」
テルマの姿を見送っていたルクスを見て、クルルシファーが尋ねてきた。
「………いえ、それよりクルルシファーさんは
「私のような留学生は、校則で独自の戦闘基準が定められているのよ。」
クルルシファーの話によると、留学生は危険な戦闘には参加せず情報伝達や物資補給といった支援を協力するそうだ。勿論自ら望めば戦闘も協力できる。
だが基本的にクルルシファーは
「別に気にすることないわ。」
「え………?」
「私たちは今戦うべき人間じゃない。そういう状況も起こって当然だもの。あなたは
「…………」
ルクスは何も答えられなかった。
「兄さん、行っちゃ駄目ですよ。」
ルクスが人だかりから離れると、アイリが目の前にやってくる。
「あの《ワイバーン》では攻撃できませんし、もう一方の剣も使えない。今の兄さんにできることなんて何も無いんです。リーシャ様と
「分かってる。分かってる、けど………」
どうしても拭いきれない不安がルクスにはあった。
そんなことを考えてるとクルルシファーは行ってしまった。恐らく支援目的だろうが。
ルクスはもやもやしたままクルルシファーを見送った。
┼
「こいつが例の
知性を持たないスライム型。
しかし大型と情報通り、城をひとつ飲み込む程の大きさを持っていた。
これほどの大型の
「よし、ぶっ放すぞ」
リーシャが
「いきなり撃つ気ですか!?」
背後にいた
「やってみなくちゃ分からないだろ。お前もそう思うだろ?」
同意を求めるようにリーシャはテルマの方を向く。
「そうですね。撃つことに問題はないです。しかし全員リーシャ様が撃ったあと直ぐに動けるように準備をお願いします。」
攻撃の直後は隙が生まれやすい。テルマは竜声で全員に通達する。
「行くぞ!」
リーシャの
「ゴボォ………グバァッ!」
直後、衝撃が
「ヤツの身体に触れると、ああなってしまうようだね。機竜の障壁もあまりアテにしない方が良さそうだ」
「Yes.接近戦は避けた方が身のためです。全員、射撃武装の用意をすべきかと思います。リーズシャルテ様。」
ノクトがシャリスの意見に同意し、指示を仰ぐ。
「ちょっと!?そんなことより、見てよアレ!?」
リーシャの返事をティルファーが遮る。そしてティルファーが指す方向を見ると。
「ゴポッ、ゴポポポポ………」
「どうやらあの粘液全体で威力を拡散しているようですね。」
テルマは冷静に
「で、作戦はどうする?部隊長殿」
「決まっている。核目掛けて主砲での一斉射撃だ。全員200メートルの距離をとって、エネルギーを最大充填しろ。秒読みは私がやる。いいな?」
竜声を使って
(これで確実に倒せる。私たちの勝ちだ)
十数機の
「秒読みを始める。ゼロで総射だ5、4、3………」
リーシャの指示で全機が最大充填した
「2、1、発射ー!」
ーィイイィィイイイイ!
そのとき、奇妙な笛の音が辺りに響いた。
そんなこととは関係なく、一斉射撃の衝撃が大気を震わせる。
同時に目の前の
核が急激に膨れ上がり
「ゴァァァアァァアアア!」
直後、砲撃が当たるより先に
核の爆発。
予想を遥かに上回る高熱と衝撃が視界ごと塗り潰して押し寄せる。
「障壁展開だ!
リーシャの叫びが轟音にかき消されて吹き飛んだ。