旧帝国の軍神   作:トクマル

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第6話・幻神獣の襲来

「では、全員が揃ったところで士官候補生の諸君に通達する。」

 

警鐘の理由は幻神獣(アビス)の出現によるもの、報告によると種類は大型の一体。

 

「現在、第2、第3の砦に常駐している、警備部隊の機竜使い(ドラグナイト)数名が討伐に向かっている。だが、敵は大型だ。突破され、城塞都市にまで被害が及ぶ可能性に備え、我々も迎撃部隊を編成し、戦闘に備える。各自、指令があるまで準備を整え待機せよ。」

 

いつになく真剣な声音ライグリィ教官の話は終わった。既に王都にも救援要請を出しているとの説明があった。何人かの生徒はそれを聞いて、ほっと安堵のため息をついていたが………

 

「随分と平和ボケしているわね。この学園のお嬢様たちは」

 

「え………?」

 

格納庫の壁際に佇んでいたクルルシファーの呟きにルクスは思わず聞き返した。

 

「王都からの応援なんてそう簡単に期待できるものではないはずよ。」

 

「どういうことですか?ここにいるみんなは士官候補生でしょう?王都からの機竜使い(ドラグナイト)が来てくれないこにとは………」

 

「そこの説明は僕がしますよ。」

 

装衣に着替えたテルマがルクスのそばによってきて

 

「新王国が誕生してからまだわずか五年。今の王国は四大貴族の協力がなければ成り立たない状態です。そんな内政をしっかり確立されていないので軍直属の機竜使い(ドラグナイト)はそんなに多くありません。僕が一人でルクスさんの監視に来ているのがいい証拠ですよ。」

 

最後はため息まじりにテルマが言う。

 

「声が大きいよ、テルマ。」

 

不意にやって来たシャリスが口元に人差し指をたて、苦笑いする。

 

「君も一応は元王子で機竜使い(ドラグナイト)だ。この国の軍事情勢について、その辺の事情は知っていると思ったんだかね」

 

「要するにさー、人手が足りないんだよ。テルっちの言う通り」

 

傍にいたティルファーが、肩をすくめつつそう言う。

 

「Yes. ここが只の都市で無いことは貴方もご存じのはずです。」

 

そしてノクトも言葉を添えると、ゆっくりと外へ出る扉の方へ歩いて行く。

 

「どこへ行くつもりですか?」

 

「我々は騎士団(シヴァレス)だからね。有事の際には率先して出張らないといけないのさ。ここに所属すれば、確かに厚遇を受けられるが、何も楽しい話ばかりじゃない。」

 

シャリスがくすりと笑顔を返し。そのまま3人は出ていった。恐らくは演習場で機竜を纏い、そのまま幻神獣(アビス)の討伐へ向かうのだろう。

 

「おいルクス。それじゃ、行ってくるぞ」

 

ぽんと手を肩な置いてきたのは、装衣を身に纏ったリーシャだった。

大型の幻神獣(アビス)の襲来、

その緊迫した状況でもリーシャは余裕の笑みを浮かべていた。

 

「気をつけてください。」

 

「大丈夫だ。私は強いからな。本当ならお前を連れていって攻撃の仕方を教えてやろうと思っていたのだかな」

 

昨日の落ち込みなど無かったかのようにリーシャは笑顔を見せる。ルクスは安堵してリーシャを見送った。

 

「君も行くの?」

 

ルクスは振り返りテルマにたずねる。

 

「僕は軍の機竜使い(ドラグナイト)ですから、当然いきますよ。」

 

淡々とそう返す。

 

「何か気になることでも?」

 

ルクスはテルマが行く事を分かったうえでそう聞いたのだろう。ルクスには他に気になることがあった。

幻神獣(アビス)の出現頻度はかなり低い。ルクスも遺跡(ルイン)の警備を雑用でしたことはあるがそのときは一月で幻神獣(アビス)は一体しか出て来なかった。しかしこの短期間に二体。しかも騎士団(シヴァレス)の3年生が殆どいなくて戦力が半減しているこのタイミングで。もちろん偶然の可能性もある。それでもルクスには何か引っかかっていた。

 

「ルクスさん?」

 

いつまでも考え込んでいるルクスにテルマは肩に手を置く。

 

「ルクスさん、考えてる事は大体分かります。でも今は行くしかありません。」

 

テルマはそう言うと格納庫から出ていった。

 

「テルマ、気をつけてね。」

 

ルクスもテルマを見送った。

 

「何か気になることでもあるのかしら。」

 

テルマの姿を見送っていたルクスを見て、クルルシファーが尋ねてきた。

 

「………いえ、それよりクルルシファーさんは騎士団(シヴァレス)なのに討伐に行かないの?」

 

「私のような留学生は、校則で独自の戦闘基準が定められているのよ。」

 

クルルシファーの話によると、留学生は危険な戦闘には参加せず情報伝達や物資補給といった支援を協力するそうだ。勿論自ら望めば戦闘も協力できる。

だが基本的にクルルシファーは幻神獣(アビス)との戦闘では戦力に数えられないことになる。つまり騎士団(シヴァレス)のみんながそれだけ危険にさらされることになる。

 

「別に気にすることないわ。」

 

「え………?」

 

「私たちは今戦うべき人間じゃない。そういう状況も起こって当然だもの。あなたは騎士団(シヴァレス)に入団してもいない一般生徒。だから戦えない自分のことを気にする必要なんてないわ。後は教官の指示に従うのね。」

 

「…………」

 

ルクスは何も答えられなかった。

 

「兄さん、行っちゃ駄目ですよ。」

 

ルクスが人だかりから離れると、アイリが目の前にやってくる。

 

「あの《ワイバーン》では攻撃できませんし、もう一方の剣も使えない。今の兄さんにできることなんて何も無いんです。リーシャ様と騎士団(シヴァレス)それにテルマさんっていう軍人がいれば大型の幻神獣(アビス)が相手でも倒せるでしょう。ですから………」

 

「分かってる。分かってる、けど………」

 

どうしても拭いきれない不安がルクスにはあった。

そんなことを考えてるとクルルシファーは行ってしまった。恐らく支援目的だろうが。

ルクスはもやもやしたままクルルシファーを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城塞都市(クロスフィード)から三キロほど離れただだっ広い荒野。そこで大型の幻神獣(アビス)はいた。既に第1の砦第2の砦は突破されていた。

 

「こいつが例の幻神獣(アビス)か。」

 

知性を持たないスライム型。

しかし大型と情報通り、城をひとつ飲み込む程の大きさを持っていた。

これほどの大型の幻神獣(アビス)どうやって攻略したものか

 

「よし、ぶっ放すぞ」

 

リーシャが機竜息砲(キャノン)を構え幻創機核(フォース・コア)からエネルギーを送る。

 

 

「いきなり撃つ気ですか!?」

 

背後にいた騎士団(シヴァレス)の一人が怯えたようにそう叫ぶ。

 

「やってみなくちゃ分からないだろ。お前もそう思うだろ?」

 

同意を求めるようにリーシャはテルマの方を向く。

 

「そうですね。撃つことに問題はないです。しかし全員リーシャ様が撃ったあと直ぐに動けるように準備をお願いします。」

 

攻撃の直後は隙が生まれやすい。テルマは竜声で全員に通達する。

 

「行くぞ!」

 

リーシャの機竜息砲(キャノン)から放たれた光弾はスライムの土手っ腹に命中した。

 

「ゴボォ………グバァッ!」

 

直後、衝撃が幻神獣(アビス)の体表を波打たせる。そしてその粘液がドバッと飛び散ると草を一瞬で溶かしてしまった。

 

「ヤツの身体に触れると、ああなってしまうようだね。機竜の障壁もあまりアテにしない方が良さそうだ」

 

「Yes.接近戦は避けた方が身のためです。全員、射撃武装の用意をすべきかと思います。リーズシャルテ様。」

 

ノクトがシャリスの意見に同意し、指示を仰ぐ。

 

「ちょっと!?そんなことより、見てよアレ!?」

 

リーシャの返事をティルファーが遮る。そしてティルファーが指す方向を見ると。

 

「ゴポッ、ゴポポポポ………」

 

機竜息砲(キャノン)を意に介さず幻神獣(アビス)は進撃を続けていた。機竜息砲(キャノン)で空いた穴もものの数秒で埋められてしまった。

 

「どうやらあの粘液全体で威力を拡散しているようですね。」

 

テルマは冷静に幻神獣(アビス)の分析をする。

 

「で、作戦はどうする?部隊長殿」

 

「決まっている。核目掛けて主砲での一斉射撃だ。全員200メートルの距離をとって、エネルギーを最大充填しろ。秒読みは私がやる。いいな?」

 

竜声を使って騎士団(シヴァレス)全員に指示を飛ばす。そして自らの機竜息砲(キャノン)にもエネルギーの充填をはじめる。

 

(これで確実に倒せる。私たちの勝ちだ)

 

十数機の機竜使い(ドラグナイト)から放たれる集中砲火。先ほどの機竜息砲(キャノン)での攻撃からみてこの威力なら確実に核に届く。

 

「秒読みを始める。ゼロで総射だ5、4、3………」

 

リーシャの指示で全機が最大充填した機竜息砲(キャノン)を構える。

 

「2、1、発射ー!」

 

 

 

ーィイイィィイイイイ!

 

そのとき、奇妙な笛の音が辺りに響いた。

 

そんなこととは関係なく、一斉射撃の衝撃が大気を震わせる。

同時に目の前の幻神獣(アビス)に異変が起こった。

核が急激に膨れ上がり

 

「ゴァァァアァァアアア!」

 

直後、砲撃が当たるより先に幻神獣(アビス)が自ら弾け飛んだ。

核の爆発。

予想を遥かに上回る高熱と衝撃が視界ごと塗り潰して押し寄せる。

 

「障壁展開だ!機竜咆哮(ハウリングロア)も使え!」

 

リーシャの叫びが轟音にかき消されて吹き飛んだ。

 


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