「テルマ君すごく強かったね!私にも機竜の操作の指導してよ。」
「ずるい!私も私も。」
「え、えーと……」
(それでいいのか?)
若干不安を覚えるテルマであったが、こうして他の生徒たちと打ち解ける機会になったのはありがたい。
「そういえばさー、テルマ君も雑用のお仕事してるんだよね?」
唐突に一人の生徒が話題を変えた。
「まぁ、ルクスさんの手伝いと言いますか、なんと言いますか。」
突然だったので曖昧な返事になってしまったが、それを肯定ととらえたのか、
「じゃあ、私が頼めばお仕事してくれるんだ。よーしさっそく頼んでもいい?」
「ずるいわ!私が先よ!」
「私も機竜操作について教えてほしいな。」
「ちょ、待って待って。」
続々と思い思いに皆が喋るので収集がつかない。
とそこで、
「みんなー、テルっちが困ってるでしょ。ストップストップー。」
ティルファーが皆をまとめ始めた。
(さすがティルファー、こういうときは心強いな。)
とテルマは感心していた。
(ティルファーがいてくれて良かった。)
と、思ったのもつかの間
「テルっちへの雑用依頼は紙に書いてこの箱に入れてね。そうそう、ルクっちの時と同じで。」
「おいぃぃ!?」
思わず変な声が出てしまった。見ると、どこからか出した箱の中に大量の依頼書が詰め込まれている。
「大丈夫だよ皆ちゃんとお金も払うしテルっちもお小遣いもらえていいでしょ!」
別に悪くは無いのだが、流石にこの量となると、と悶々としていると。
「あー、やっぱりテルっちには無理かもね。ルクっちは雑用やってたけどテルっちやって無かったもんね。ごめんごめん。じゃあこれはルクっちのところへ………」
「大丈夫だ、問題無い。」
そう言ってさっそく依頼書を整理し始めた。
「ほんとにチョロいなー(笑)」
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「つ、疲れたー。」
結局あのあとテルマはいくつかの依頼をこなした。どれも軽いものだったが、いかんせん入団試験の後だったのでかなり疲労が溜まった。最後の依頼を終えベンチにぐたーと座っている。
「これから毎日大変だな。」
嫌ではない。しかし如何せん慣れてない事が多いので大変なのには変わりは無い。ルクスと違いテルマは軍にいたのでこういった雑用には慣れていなかった。今日はもう部屋に戻って休もうと思い、ベンチから立とうとすると、
「少しいいかしら?」
一人の少女が声をかけてきた。
「あなたは……」
「こうやって挨拶するのは初めてね。クルルシファー・エインフォルクよ。」
クルルシファー・エインフォルク
雪の大国ユミル教国の留学生でエインフォルク伯爵家の令嬢。勉学も体技も
「今失礼な事考え無かった?」
「めっ、滅相もございません!」
恐怖を感じ即座に謝罪の言葉をいれた。恐ろしい。口には出していない。それなのに勘づかれた。女性に身体的特徴(どこがとは言わない)を考える事も
「それで、何の依頼ですか?」
「察しが早くて助かるわ。テルマ君、「黒き英雄」を知ってる?」
黒き英雄
たった1機の正体不明の
「まぁ、噂程度なら。」
嘘である。英雄の正体がルクスであり
「そう。」
クルルシファーはそう答えた。しかしどこか信じていないそんなニュアンスが含まれている。
「私の依頼は「黒き英雄」を探してほしいことよ。」
やっぱりか、とテルマは思った。話の流れでそうでは無いかと思ったが、
「理由を聞いてもいいですか?」
彼女がどういった理由で「黒き英雄」に会いたいのか分からない。だが少なくとも憧れだからとかそういう類いのものではない。かといって恨んでいるという感じでもない。彼女の真意が分からない以上そう易々と受ける訳にはいかない。
「用があるのよ。内容は言えないけど。」
やはりはぐらかされてしまう。
ならば、
「分かりました。でもなんで僕に?ルクスさんの方がいいのでは?」
ルクスはこの学園に来る前
「もちろんルクス君にも頼んだわ。でも、貴方の方が知ってるかと思ってね。」
「何故?」
「私の推測だと「黒き英雄」は何らかの理由で表に出て来られないのでは無いかしら。そしてそれを隠せるほどの権力となると王国で庇っている。そうなると王国の軍所属である貴方は何か知らされていると思ってね。」
すばらしい推測だとテルマは思った。殆ど当たっている。
「嫌だな、僕は只の兵士ですよ。」
「只の兵士が機竜3体相手に勝ってしまうなんてないと思うんだけど。貴方軍の中でもトップクラスの使い手何じゃ無いかしら?」
またしても鋭いところ突いてくるクルルシファー。弁論では彼女の方が勝っている。
(不味い。)
テルマはこういった駆け引きが苦手だ。このままでは確実にボロを出してしまう。どうにかして話題を変えられないかと思っていると、
「安心して。言いたく無いことまで言わせようというつもりは無いわ。」
と返ってきた。話題が終わりほっとしたテルマであったが、同時に
(
本当に食えない人だ、とテルマは思った。
「それじゃ依頼よろしくね。」
そう言ってクルルシファーは去っていった。
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クルルシファーと別れてテルマは応接室の前に来ていた。本来シャリスと同じ部屋で寝ていたテルマであるが、今日はあまりにも色々ありすぎたため床で寝ても疲れが取れないと踏んで、今日は応接室で寝ることにした。テルマがドアを開けようとすると、
「僕は……駄目だな………」
中からルクスの声が聞こえてきた。いつもよりいくぶん沈んだ声だった。
「ルクスさん?」
「………テルマ」
テルマが中に入ると、ルクスはソファーに寝転んでいた。
「何かあったんですか?」
「………ちょっとね。」
とても聞き出せるような雰囲気では無い。
「分かりました。なら、失礼しますね。」
「あ、大丈夫だよそんな気遣わなくても。」
「いいですよ。今は誰とも会いたくない。そんな顔してますよルクスさん。」
何も聞いてあげる事が気遣いでは無い。ほっておいてほしい時だってあるのだ。テルマはルクスからそう感じ取った。
「………ありがとう、テルマ。」
その言葉を聞いてテルマは応接室を出ていった。
恐らくリーシャと何かあったのだろう。だがリーシャとルクスはまだ知り合ったばかり。これからいくらでも仲直りできる機会はある。
………だがそんなテルマの思いとは裏腹に闘いは次の日にやって来た。
早朝
ゴォオオン!
突如、敵の襲来を告げる警報が鳴り、朝の鍛練をしていたテルマは機竜格納庫へ急いだ