テルマはシャリスに連れられ演習場の観客席に座り演習場の中央を見ていた。すると二人の生徒がこちらに近づいてきた。
「テルっち、となりいい?」
と言いながらテルマが返答する間もなくティルファーは隣に腰かける。答える前に座るなら聞くなよ、と言いたかったが其れよりも
「テルっちって、僕のことですか?」
「うん。そうだよ。」
いつの間にかあだ名が決まっていた。しかし余り気にしない事にした。ルクスいわく「嫌では無かったら気にしない」これも女子生徒との関わりを良くするためのスキルのひとつなのだとか。確かにルクスは幼馴染みのフィルフィのことをフィーちゃんと呼んでいた。つまり、そういうことなのだろう。テルマがそんなことを考えていると、シャリスの隣に黒髪の女の子が座った。
「えーと君は、」
「はじめましてテルマさん。私はノクト・リーフレットです。」
テルマの質問にノクトはそうかえした。
「リーフレットってたしか……」
「Yes、リーフレット家はバルトシフト家に仕える従者の一族です。」
ノクトはそう返すが、シャリスに対する発言等からこの学園ではそんなことを気にしていないようにみえる。
「Yes、学園では家柄関係なくお付き合いしたいとシャリスに言われましたので。」
「そうなんだ。」
「テルマさんは………」
「僕もそれでいいよ」
テルマは承諾した。
「Yes、これからよろしくお願いします。テルマさん。」
「よろしく、ノクト。」
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ノクトとも挨拶仕終えたところでルクスとリーシャ、それに生徒十人が機竜を纏って出てきた。ルクスはワイバーン、相手の生徒達はワイバーン、ワイアーム、ドレイクを纏っている。しかしリーシャは
「なんだ?あの機竜?」
リーシャが纏っていた機竜はワイバーンのようなワイアームのような、見たことない機竜だ。一瞬リーシャ専用の神装機竜ティアマトかと思ったが、明らかに違う。
(新しい神装機竜か?)
テルマはそう思ったが、
「あれはリーシャ様が造ったキメラティック・ワイバーンだよ。」
「造った!?」
テルマは声をあげて驚いた。そしたらシャリスに注意された。
しかしそれも必然だろう。装甲機竜が発見されてから十年余り、未だ具体的な原理は解明されておらず改造すら難しいとされている。それをリーシャは自分で造ったと言うのだ。
「無論造ったと言うより改造に近いがね。」
シャリスはそう言うがそこには尊敬の念が含まれていた。テルマはリーシャの認識を改めてなければいけないと同時に
(ヤバイ、挨拶が遅れたのが悔やまれる。怒られるかな。)
テルマがそんなことで悶々としていると、ルクスの騎士団の入団試験が始まった。
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「なんなんだよー、もう!」
ルクスの入団試験は二対十と不利な状況を覆しルクス達の勝利に終わったのだが
「なんで一度も攻撃しないんだよ!? 私も相手チームに入ればよかったぞ!せっかくのチャンスが台無しじゃないか!このバカ!」
敵を倒したのはすべてリーシャ。ルクスは回避と防御だけで試合が終わってしまったのだ。当然そんなことでは騎士団の生徒も納得出来ず多数決で賛成票を稼げなかった。
「私の作戦が失敗だったのか?それとも………相手チームの編成の問題か……… だが当初の予想では……」
リーシャがブツブツと言いながら仕切りの向こうで着替え始めた。
「シャリス姉は着替えないの?」
シャリスだけではなくノクトとティルファーも着替えていない。
「ああ、まだやることがあるからな。」
やること?とテルマは聞こうとするが、
「ルクス、追加の依頼だ。その………今から私と付き合ってくれ。」
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「乗せられた。」
テルマはぼやくように呟いた。
場所は演習場の中央、そして向かいにはシャリス、ティルファー、ノクトが立っている。更にいえば3人とも機竜を纏っている。シャリスはワイバーンを、ティルファーはワイアームを、ノクトはドレイクを、それぞれ違う機竜を纏っていた。
「さあ、テルマも機竜を召喚したまえ。」
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~30分ほど前~
結局あのあとルクスとリーシャはどこかに出掛けてしまった。すると蜘蛛の子を散らすように皆演習場の控え室から出ていった。テルマも着替えて出て行こうとすると。
「テルマ、このあと時間はあるかな?」
とシャリスに声をかけられた。時間はあったので了承すると
「なら、騎士団の入団試験を受けたまえ。」
「………はい?」
シャリスはそう言った。しかし騎士団の試験とはどういうことだろうか。現在演習場にいるのはテルマとシャリスだけのはず。騎士団に入団するには騎士団の生徒の半数以上の賛成が必要なのだ。
「え……でも」
「Yes、その点は大丈夫です。」
「うお!」
突然ノクトが声をかけてきたそれどころかいたことに気が付かなかった。
「リーシャ様はルクスさんと出掛けてしまいましたが他の騎士団の生徒は演習場の観客席にいます。」
「………なんで?」
「私が事前に知らせたからな。」
と自慢気にシャリスは言う。別に自慢できるようなことでもないがそこは言わない。それより
(僕の意思は完全に無視なのだろうか。)
明らかにテルマの意思は無視されている。しかしこうなるとやりませんとは言えない。それでも抵抗しようとするが、
「まぁ、自信が無いのならやめてもいいが?」
「ボコボコにしてやるよ!」
安い見え見えの挑発にテルマは乗った。まじチョロい。
「よっしゃ!ちょっと先に行って準備運動してくるわ!」
そう言うとダッシュで演習場に向かった。
「チョロいな。」
「Yes、チョロいです。」
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「さあ、テルマも機竜を召喚したまえ。」
そして今に至る。ここまできたらやるしかない。それに相手をしてくれるシャリス姉達にも失礼だ。テルマは
「ーー来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が剣に従い飛翔せよ、〈ワイバーン〉」。
キィン。と、テルマの前に光りの粒子が集まった。
「
更に呟くと機竜がテルマの身体を覆った。
「ワイバーンですか。」
とノクトが呟く。
しかし、テルマのワイバーンはルクスのとは逆に装甲は抜き身の刃のように鋭かった。そして、手にはルクスと同じ大型のブレードが握られていた。
「双方準備はいいかな?」
審判の生徒が確認をとる。
「いつでも」
「問題ない」
「オッケー」
「Yes」
全員が返事をした。演習場が静まり返る。そして
「
審判の声と同時に
「………え?」
あまりの速さにティルファーは一瞬固まってしまった。その隙を突いて加速した勢いをブレードに乗せてティルファーのワイアームを切りつけた。
「ティルファー!?」
シャリスが声をかけるが、テルマの一撃はティルファーのワイアームを戦闘不能にさせた。
「先ずは一人目だ。」
テルマは呟き今度はシャリスに狙いを定める。
「させません。」
しかし、ノクトが
(シャリス、大丈夫ですか?)
(ああ、大丈夫だ。助かったよノクト。)
二人とも機竜にダメージはない。だが精神的にはかなり動揺していた。
テルマの機竜の腕前はシャリスは父から聞いていた。王都のトーナメントでも上位に食い込むほどの腕前を持っている。1対1なら勝てる見込みはないが3対1ならいい勝負に持っていけると思っていた。良いタイミングでリーシャがルクスと組んで2対10の試験をしてくれたのも助かった。
だが………
(有利な条件だったのに開始間もなくに一人倒されるとは情けない。いや 、有利と思う事でどこか油断していたのかもしれない。)
しかし、自分は騎士団で3年生なのだ。このままでは終われない。
「いくぞ!テルマ!」
シャリスはスラスターを噴射しテルマに接近。テルマも
「来なよ、シャリス姉。」
シャリスとテルマは一進一退の攻防を見せていた。シャリスの鋭い斬撃をテルマは難なくいなす。その後体勢を崩したシャリスに反撃を加えようとするが、ノクトの
(このままでは拉致が空かない。)
テルマはノクトの
(だったらここで!)
テルマはシャリスの斬撃を防ぐことはせずカウンターで切り返した。既に攻撃の体勢に入っていたシャリスはそのまま機竜の腕を切られた。テルマもダメージを受けたが戦いには支障はない。これでシャリスは戦闘不能。
(後はノクトだけだ。)
そう思いノクトの方を見るがノクトはどこにもいない。
(迷彩か)
ドレイクの特殊性能の1つ、迷彩。ドレイクは戦闘性能が他の凡庸型
(どこだ?)
テルマは消えたノクトを探す。だが、消えた場所を確認してないので何処にいるのか分からない。
(もらいました。)
その隙をノクトは突く。テルマの後ろから近づき一気に勝負決めようと
しかし、ノクトの
「え?」
完全に決まったと思った攻撃が外れたことに動揺するノクト。目の前にいたテルマが突如消えたのだ。慌てて探そうとしたその時、
「チェックメイトだ。」
目の前で