「テルマじゃないか!」
そう言って近づいて来たのはテルマの姉のシャリス・バルトシフトだった。
「シャリス姉久し振り。」
そう言って挨拶を交わす。
「本当に久し振りだな。元気だったか?」
「うん。シャリス姉も元気そうでなによりだよ。」
久し振りに会ったので会話にも花が咲く。しかしここは学園の大広間で今はルクスさんのパーティー中なのだ。そんなことお構いなしに話を続けていると、
「シャリスー、その子誰?」
軽い調子で声をかけたのは明るい茶の髪に白いリボンでポニーテイルで纏めたティルファー・リルミットだ。
「ああ、すまないティルファー。彼は私の弟なんだ。」
そう言うとさまざまな反応が帰ってくる。2割が納得、その他は驚きといったところだ。納得した者はネクタイの色がシャリスと同じなので恐らく3年生なのだろう。
「さぁさぁ、ここからは食べながらにしましょうか。」
レリィがそう言うが、生徒達は料理を取りにいった後も色々聞いてきた。それらに答えながらテルマも料理を食べパーティーは続いた。
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パーティーも終わった後テルマは自分の寝床に来ていた。
「テルマは上を使ってくれ。」
「いや、待ってシャリス姉、おかしいだろ。」
なんでもないかのように言うシャリスにテルマはツッコム。
「何を言ってるんだ。学園長にも許可をもらっているんだ。問題無いだろ。」
そう。学園長に部屋の場所を聞きに行ったのだがあいにく部屋が無いのでどうしようか困っていると。
「お姉さんの部屋を使えばいいわ。」
そう言うとシャリスにテルマを預けていってしまった。だからシャリスの部屋で寝ることに問題は無いのだが、
「今居ないルームメイトになんの許可も取らず、その人ベットで寝るのはまずいだろ。」
現在シャリスのルームメイトは王都へ演習に行っているなのでベットは空いているのだが、
(そもそも女子が使っていたベットで寝ることがあり得ないんだけど!?)
「大丈夫だ。彼女はかなりの男嫌いだが問題無いだろ。」
「むしろ問題しか無いだろ!?」
取り合えず床に毛布敷いて寝ることにした。
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学園へ来てから数日後、テルマは初めての休日の朝からトレーニングをしていた。最近は授業など慣れない事も多かったのでこうして休日に再開したわけだ。
(よし、ノルマは終えたな。)
本当なら機竜での訓練もしたいところだが、授業以外で勝手に演習場を使えないので今日は走り込みと筋トレだけにした。
「そろそろ朝食の時間だし食堂行こ。」
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(おっ、)
食堂に行くとコックはまだ来ていなかったが生徒が二人ほどいた。一人はルクス、もう一人は、
「あ、テルマ」
ルクスはテルマに気がつくと手招きしたのでそちらに向かいルクスの隣に腰かける。
「おはようテルマ」
「おはようございますルクスさん。あの、そっちの女の子はもしかして、」
「はじめまして、アイリ・アーカディアです。兄さんからお話は伺ってます。」
ルクスと同じ髪の色の少女はそう答えた。テルマもルクスから話しは聞いていたので。
「はじめまして、テルマ・バルトシフトです。よろしく。」
と返す。するとアイリは
「よろしくお願いします。では兄さん私はこれで。」
「あれ?一緒に朝食は食べないの?もう少しでコックさんも来てくれる時間だけど………」
「これ以上はやめておきます。クラスのみんなに、兄さんと二人きりでいるところをみられたら、嫉妬されてしまいそうですから。」
冗談めかしたアイリの言葉に、ルクスは苦笑して、
「いや、さすがにそれはないでしょ。僕達………兄弟なんだし」
「それに、これ以上一緒にいるともっと一緒にいたくなってしまいますから」
「えっ……?」
「冗談ですよ、兄さん。それじゃ、例の剣だけは抜かないように、くれぐれもお気をつけて」
そう言うとアイリは食堂から立ち去った。
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アイリがいなくなったあとルクスとテルマはともに朝食をとっていた。
「こうやって一緒にご飯食べるの久し振りだね。」
「そうですね。」
他愛もない会話をしながら。しかし、不意にルクスが聞いてきた。
「そういえば、テルマはどうしてこの学園に?」
と聞いてきた。
「一応ルクスさんの監視に」
と答えさらに続けて
「ほんとは整備士の見習いとして行くつもりだったんですけど。どこかの王子様が何でも王女様の裸を覗いたらしいんですよ。」
「へ、へぇ~」
テルマの話しを聞きながらルクスは目を泳がす。しかしテルマはそんなルクスに構わず更に
「しかもそのあと王女様と勝負したらしくて、それで………」
「ごめんなさい。僕が悪かったです。」
テルマの話しを遮りルクスが平謝りした。
「すいませんからかい過ぎました。」
流石にやり過ぎたかと思ったのかテルマも謝る。
「でも、ほんとにごめん。」
それでもルクスは責任を感じて謝ってくる。そこでテルマは
「ルクスさんここでも雑用やってるんですよね。」
「え、うん。」
「じゃあ、相談何ですけど。」
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「ありがとね、テルマ君。」
「いえいえ、これくらい」
テルマは今女子生徒の手伝いをしていた。
「そんな敬語じゃなくていいよ。同じ学年なんだし。」
「そ、そう。分かったよ。」
テルマの相談とは生徒との関わり方だった。
テルマはずっと軍に居たため女性、特に自分と同じぐらいの女子とほとんど接したことが無かった。しかし今自分の周りにはほぼ女子しかいない。そこでルクスに相談し女子との関わり方を教えてもらったのが雑用の手伝いだった。
どうやらルクスさんいわく、慣れてないだけだから慣れたら大丈夫になると言われたので、雑用の手伝いをして生徒に関わっていけばいいと言う判断だった。
「ありがとう。またよろしくね。」
「了解。」
テルマの初めての雑用は終わり女子生徒ともまあまあ上手く関われたのでルクスの案は成功だった。
「さて、これからどうしよう?」
初めての雑用だったので比較的簡単で女子生徒とも関われる雑用ではあったが、一件だけにしたのでこれからの予定がない。
(ルクスさんは依頼で
どうしようか迷っていると、
「テルマ」
声をかけられたので振り向くと、シャリスがいた。
「このあと時間はあるか?」
「うん、あるけど」
「なら着いてきてくれ。」
と言ってシャリスは歩き出す。それにテルマも着いていく。
「どこに行くの?」
と聞くとシャリスは振り向き答えた
「演習場だ。」
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演習場に着くと装衣に着替えるように言われたのでシャリスと別れ、着替えてから演習場の控え室に向かうと、数十名の装衣を纏った生徒達がいた。そしてルクスもいた。
「本当に、彼を『
名前も知らない長身の女子生徒がルクスを見てそういった。
どうやらリーシャがルクスを騎士団に入れたいらしくそのための試験を行うと言ったらしい。しかし
「でも今は三年生達が………『騎士団』のメンバーが半数しかいないじゃない。何も、そんなときに………」
「そうなの?」
「ああ、三年生はいま二週間ほど王都へ演習に行っているのさ。私はちょっと事情があって、今回は行けなかったのだけれどね。」
「だったら三年生達が戻ってきてからでも、いいんじゃないんでしょうか?」
ルクスがそう言うが、
「それは逆だと思うわ」
クルルシファーがルクスの疑問に反応する。
「今だからこそ、お姫様はあなたを入団させるチャンスだと思っているのよ。」
そう答えるとシャリスが事情を説明する。
セリスティア・ラルグリス。四大貴族のひとつラルグリス家の令嬢で学園最強と呼ばれる実力者。騎士団長も務め人望も高い。しかしかなりの男嫌いでもし学園に彼女がいたら男の編入は取り消されていた可能性が高い。
つまり、
(リーシャ様はその団長が帰ってくる前に性急に話しを進めてしまおうとしているのか。)
この学園に来てからテルマはリーシャの大胆さに関心していた。少し王女ぽっさは欠けるが。
そこでふと気がついた。
(挨拶してないな。)
当然だがリーシャはこの国の王女。そしてテルマは国の兵士。挨拶するのが当然なのだが学園に来てから忙しかったので怠っていたのだ。
(今からでも遅くは無いな。)
そう思いリーシャに声をかけようとするが
「よし! いくぞルクス!」
リーシャは装衣に着替え終わったルクスを連れて演習場に行ってしまった。他の騎士団の生徒もぞろぞろと演習場に向かっていく。
「テルマ、私たちは観客席に行くぞ。」
まぁこれだけ遅れたのなら今更ちょっと遅れても大丈夫だろう。そんなことを考えながらテルマはシャリスの後を追った。