ではどうぞ
「はっ、はっ、はっ、」
朝日が出てまもないころ、王都の街をタッタッタと走る足音が聞こえる。一人の少年、テルマ・バルトシフトだ。早朝なので余り足音を大きくしないように軽やかに走る。これは彼の日課だ。
アティスマータ新王国
5年前アーカディア帝国滅亡後建国された国家だ。
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「失礼します。」
午後王都の屋敷にテルマはいた。新しい任務の為にここに呼び出されたのだ。
「おお、来たか。」
そこにいたのはバルトシフト副指令。テルマの義理の父だ。
「そんな他人行儀じゃなくていいぞ。今は二人しかいないからな。」
「うん。分かった。」
バルトシフトにテルマはそう返す。
これはバルトシフトがちょっとでも仲良くなれるように二人しかいない時は敬語で無くても良い事になっている。
「それで父さん今日は何用ですか?」
「
王立士官学園
アティスマータ新王国が管理する
そして
「シャリス姉がいるところですよね。」
テルマの義理の姉シャリス・バルトシフトが通っているところでもある。確か今年は3年なっていたはずだ。
「そこがどうかしたんですか?」
「そこにルクス・アーカディアが行くそうだ。」
ルクス・アーカディア
旧帝国の第七皇子。旧帝国が滅びたのち、新王国の恩赦により釈放されその条件として国民の雑用依頼を受けることとなっている。
「何でまた?確かあそこ女学園でしたよね。」
機竜使いの適性の高さは女性の方が上なので女学園となっている。
「これも彼の雑用の1つだ。
「なるほど。」
装甲機竜の整備はかなり難しい。それに危険なこともあるだろう。それなら男手があった方がいい。
「と、言うことは僕の役目はルクス・アーカディアの監視ですね。」
「そうだ。話が早くて助かる。まぁ何も無いと思うのだが「形だけでもな。」と女王からのお達しだ。」
そうでもしないと他の者が納得しないらしい。さすがに咎人だし。それに今回は定期的に整備に行くので余計にだそうだ。
「と、言うことは僕も整備士として行くんですか?僕、整備とか全然やったこと無いんですけど。」
「それは彼も同じだ。だが機竜使いであるんだから全くの素人よりいいだろう。」
まぁそうだろう、機竜使いの歴史はまだ浅い。使い手として予備知識があるだけでも貴重なのだ。それに帝国が滅びた事により男の機竜使いも機竜整備士もほとんど死んでしまったのだ。
「それでいつ行けばいいんですか?」
「三日後に出発してもらう。それまでに準備を済ませておいてくれ。」
「僕だけですか?」
「そうだ。まぁ、お前は学校に行ってなかっただろう?いい機会だと思ってな。」
全く何て好い人なんだと思いたいところだか。
「人員が足りないだけですよね?」
「………………………………出発は三日後だ。忘れるなよ。」
やっぱりそうなんですね!人員が足りないですよね!と言ってやりたかったが我慢我慢。
そうして部屋を出ようとすると、
「ああ、後シャリスにもよろしく言っておいてくれ。」
「了解です。」
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六日後
城塞都市
「やっと着いた。」
王都から馬車に揺られること三日と半日ようやく城塞都市にある王立士官学園に到着した。
「機竜使えばもっと早く着くのに。」
途中休憩や関所などを越えてきたのでここまで時間がかかったのだが、これでも早い方だそうだ。
「ここが王立士官学園。」
さすがお嬢様達が通う場所だけあってかなり豪華だ。
「まずは学園長に挨拶に行かないとな。」
門で衛兵に書簡を渡し学園長の部屋まで案内してもらった。
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「学園長、お客様です。」
「王都からね。入っていいわよ。」
衛兵がをノックし、返事を聞くとドアを開けてくれた。
「始めまして、テルマ・バルトシフト君ね。」
「はじめまして、レリィ・アイングラムさん。」
レリィ・アイングラム
アイングラム財閥の長女で王立士官学園の学園長。非常に有能な人物で王女ラフィ様にもその能力を信頼されている。
「ようこそ王立士官学園へ。」
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「なぜだ」
現在、日も完全に落ちた夜、テルマはレリィに連れられ大広間に来ていた。
「なぜこうなった。」
「あらあら、往生際が悪いわよテルマ君。」
本来ならこんなとこないてはならない。この学園では基本的に整備士などは生徒達との交流を禁じられている。ならば何故自分はここにいるのだろう?
時間は少し前に戻る・・・
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「早速で悪いんだけど、ちょっと困った事になってね。」
そう言うレリィさんの顔は少しも困った感じは無くなんだか嬉しそう。
「と言いますと?」
「ルクス君、ここに通う事になったのよ。」
「ええ、知ってますよ整備士としてですよね。」
「そうそう。
「はい?」
聞き間違えだろうか?今生徒言った気が
「だからあなたが整備士として来たら監視にならないじゃない。」
いやいやそうじゃ無くてだな。いや確かにそこも大事ですけれども。
「何がどうなってそうなったんですか?そもそもここ女学園ですよね。ルクスさん男ですよね。」
「色々あったのよ。」
どうやらルクスさんが王女様の裸を見てそれで怒った王女様がルクスさんと勝負して、途中
「なんかルクスさん大変と言うかすごいと言うか。」
ため息混じりに返す。すると
「ルクス君とは知り合い?」
「まぁ、何度か軍の依頼もしてもらいましたし、同い年ですから、何かと話す機会も多かったんです。」
何回か手合わせもしたし、食事にも1回行ったことがある。ここ最近は無いが。
「へぇ、そうなの。あなた軍人なの。」
そこですか。どうやらルクスさんとの思い出話はどうでもよかったようだ。
「はい。」
「なるほど。その歳で軍人なら学校行って無いんじゃない?」
「まぁ、そうですね。」
「ふ~ん。なるほどなるほど。」
なぜかレリィさんはルクスさんのことではなく僕のことを聞いてくる。そしてだんだん笑顔になってゆく。
(なんかヤバイ。)
そう思ったが時既に遅し。
「じゃあ、あなたもここの生徒として編入すればいいわ。」
「…………はい?」
何を言っているのでしょう。僕は整備士として来たんですよ。などツッコミたいところはいっぱいあったが、
「それなら監視も楽だしいいでしょ?」
「待ってください、そもそも僕は本来整備士として………」
「でもこの書簡にはそんなこと書かれて無いわよ。」
そう言ってレリィさんは事前に受け取っていた書簡を渡す。
内容は………
王立士官学園長、レリィ・アイングラム様
この度咎人ルクス・アーカディアの雑用依頼が一定の期間定まると言うことで監視を付けさせて頂きます。軍人を一人送るので、同じ職業をさせて頂きますようお願いいたします。
軍副指令 バルトシフト
「…………………」
つまりこれはあれですね。
「よろしくね。テルマ・バルトシフト君。」
逃げ道が無いのですね。
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と言うことでなし崩しで僕も生徒になってしまった訳ですよはい。これはあれですね、
(ルクスさんを恨めば良いですね。)
心の中でルクスさんに復讐を誓っていると、レリィさんが扉を開けて入って行ったのでそれに続く。
「はーいみんな、ちょっといい?」
中に入るとパーティーの途中だったのだろうか皆料理や飲み物を持っている。
「実はもう一人男の編入生がいるの。今この場で紹介してもらうわ。」
そう言うと皆は一斉にこちらを向く。
一呼吸おいて、
「はじめまして、テルマ・バルトシフトです。よろしくお願いします。」
そう簡単に挨拶する。すると皆がざわざわし始める。いくらルクスさんと同じ編入生だとしても実績のあるルクスさんとは違うのでさすがに仕方がないと思ったが、
「テルマじゃないか!」
そう声を上げたのは蒼髪の少女。テルマの姉シャリス・バルトシフトだった。