旧帝国の軍神   作:トクマル

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今回から二巻の内容になります。更新速度は遅いですがこれからも読んで頂けると嬉しいです


第10話・争奪戦

五月になったある日の放課後、テルマは外のベンチで休憩していた。ルクスの監視目的でこの学園に入学したテルマだが、何故かルクスと同様に他の生徒から雑用を受け持つことになってしまった。だがベルベットの事件から2週間がたちルクスはもちろんテルマもすでに復帰して学園での生活を送っている。

 

「平和だなー」

 

と水筒の水を飲みながら呑気なことを言っていると、

 

「全然平和じゃ無いんですけどー!」

 

ダダダダーと向こうから走ってくるルクスが見えた。その後ろにはたくさんの女子生徒がルクスを追いかけている。その手には護身用の棍棒(スタッフ)、捕縛用のロープ。更には、巨大な投網、手枷に首輪、etc

………ここお嬢様の学園だよねと、そんなツッコミを飛ばしたくなる。がそんなことはお構いなしに女子生徒達はルクスを追いかける。

 

「まちなさーい!」

 

「向こうから廻って!挟み撃ちにするわよ!」

 

「了解!追い込み頼んだわよ!」

 

と次々に指示が飛びルクスを捕まえようとする。ルクスが女子生徒に追われている理由は数十分前に遡る。

 

 

 

 

ルクスは普段からたくさんの依頼を受けているのだが、あまりにも数が多すぎるのでたまっているのだ。それで生徒達の不満が溜まってきたので学園長のレリィが不満解消のために「ルクス君争奪戦」なるイベントを開催したのだ。ルールはルクスが持っている特別依頼書を制限時間内に奪った子がルクスを一週間独占できる、というものだ。それを聞いた生徒達は血眼、と言ったら言い過ぎかも知れないがそんな勢いでルクスを探す。捕まったら何をされるか分からないそんな危険を孕んでいた。

 

(ルクスさん頑張ってください。)

 

心の中でルクスに合掌したテルマであった。

 

 

 

 

 

 

 

「大変でしたねルクスさん。」

 

「そう思うなら昨日助けて欲しかったよ。」

 

あははとルクスの視線を剃らしながら紅茶を飲む。結局ルクス争奪戦はクルルシファーが勝利し、一週間ルクスを独占することになったのだが、

 

「恋人ですか………」

 

クルルシファーからの依頼は「一週間恋人になってほしい。」との事だ。クルルシファーの性格でルクスにそんなことを頼むのは意外だった。多分何か裏があるのだろう。

 

(恐らく政略結婚の類いだろうな。)

 

テルマは何となく目星はついていた。クルルシファーは異国からの留学生。エインフォルク家は新王国との繋がりがほしいのだろう。そのためにクルルシファーを新王国の強い立場を持つ権力者と婚約を結ばせようとして新王国に行かせたのだろう。

 

「貴族っていうのも大変ですね」

 

「君も一応貴族だよね。」

 

「養子なのでそこまでは………」

 

と紅茶を飲み干して答える。

 

「まぁ、頑張ってください恋人役」

 

「僕、まだ役なんて言ってないのになんで分かるんだよ」

 

「軍人ですから」

 

それ、理由になってないよと言ってやりたくなったルクスだが、その言葉を飲み込んだ。

とテルマが立ち上がろうとするとレリィが歩いてきた。

 

「こんにちは、テルマ君。学園での生活はどうかしら?」

 

「今のところ問題は無いですね」

 

あの事件以来テルマもすっかりここの生徒たちに認められ、王都から帰ってきた三年生も今は様子見といったところだ。なので今のところ目に見える問題は無い。

 

「そう。それはよかったわ。でもねテルマ君。今貴方に対する不満がたくさん集まって来ているのは知っているかしら?」

 

「はい?」

 

いったいなんのことか一瞬分からなかったが、パッとルクスの顔がニヤニヤしているのを見てテルマは思った。

 

(え……!?うそだろ、)

 

「はい、特別依頼書。今から一時間よ、がんばってね」

 

つまりルクスがここで昨日争奪戦の話をしたのもルクスとレリィの(シナリオ)の内。

 

「がんばってね、テルマ君」

 

「テルマ!君ならできる!」

 

レリィは微笑み、ルクスは笑いを堪えるように口を押さえている。

 

「いや、まだやるとは………」

 

「始まったわ!捕まえるのよ!」

 

とテルマが反論の途中で食堂の入り口からたくさんの女子生徒が雪崩れ込んできた。

 

「まじかよ」

 

テルマは呟きながらダッシュで窓から外にでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まちなさーい!」

 

「向こうに行ったわまわりこんで!」

 

「了解!」

 

(なんなんだ、この連携のよさは)

 

テルマは走りながらそんなことを思っていた。昨日のルクスの時もそうだったのだが生徒達は百人以上いるのにその統率が全く乱れない。先読み待ち伏せは当たり前。こちらも一瞬も気を抜けない状況が続いていた。

 

「いたわ!こっちよ!」

 

「ッ………!くそ!」

 

前から生徒の大軍が迫ってきたので方向転換して右に流れる。どの程度の距離が空いているのか後ろを見ると、

生徒達から投げ縄が飛んできた。

 

「ええ!昨日そんなことしてなかったじゃん!」

 

が、嘆いていても投げ縄は飛んでくるので、なんとか避ける。が明らかにスピードダウンしてしまい生徒達との距離がどんどん詰まっていく。

そして

 

「とうとう追い詰めたわ。」

 

テルマの後ろは壁。そしてテルマを中心に半円の形で囲まれていた。生徒達は勝利を確信した笑みを浮かべていた。後はもう特別依頼書を誰が得るかその戦いだ。その戦局の変化を好機と捉えたテルマは腰のポーチからあるものを取り出した。

 

「ちょっ、なにそれ!?」

 

一人の生徒がテルマの取り出したものに気がつき思わず後退る。テルマの手に握られていたのは手榴弾だった。

それに気がついた他の生徒も思わず後退る。

 

「大丈夫ですよ。危険はありませんから。本当は使いたく無かったんですけど。」

 

テルマはその手榴弾をおもっいっきり地面に叩きつけた。

ボン!と音とともに大量の煙がもくもく立ち込めた。あっという間にテルマ達を飲み込んでゆく。

 

「ちょっ、ちょっとなにもみえないんだけど!」

 

「あ、暴れないでよ!押さないで!」

 

「キャッ!、誰よおしりさわったの!?」

 

パニックになる生徒たち。テルマが使ったのは煙幕手榴弾(スモークボム)。装甲機竜が発見される前から使用されていた兵器。幻神獣(アビス)にダメージを与えることが出来ず、只の兵器は無用の長物とされてきたが、幻神獣(アビス)にも視覚はあるのでテルマは目眩ましや、逃走用に時々使用している。

徐々に煙が晴れて生徒たちの視界が回復したころ、既にテルマの姿はそこには無かった。

 

「うそ!テルマ君いなくなってる!」

 

「そんな!皆で囲んでたのに………」

 

「………ッ、とにかく探すわよ」

 

テルマがいなくなったことで生徒たちは、何グループかに分かれてテルマを探しにいった。

 

 

 

 

 

 

「ふう、何とかなったな。」

 

生徒たちがいなくなったころ、テルマは大きく息をついた。テルマがいるのは木の上。煙幕で全員の視界が利かなくなったときに、跳躍し、壁を蹴り更に跳躍。生徒たちを飛び越し木の上に隠れたのである。案の定生徒たちはテルマがこの場を去ったと思ったので誰一人周囲を探さずまた学園を探しにいったのだ。

 

「あと少しだし、もう大丈夫だろ。」

 

と下を確認して木から降りるテルマ。

しかし

 

「抜かったなテルマ」

 

「えっ?」

 

地面に足を着けた瞬間、何故かもう一度足が宙に浮き逆さまになって吊るされた。

 

「は?………はぁぁ!?」

 

何が起きたか分からない、いや単にトラップにかかっただけなのだが、全く予想してなかった状況にパニックになってしまった。バタバタと暴れるがロープは足にがっちり巻かれているので全く外れない。

 

「ふっ、計算通りだよ」

 

と草影から、シャリスが出てきた。しかも他の草影からティルファー、ノクトも出てきた。

 

「なんで、三人がここに?」

 

いや、自分を捕まえるため、と言うのは百も承知だが少なくともシャリスは自分の姉なのでこの争奪戦に参加しないと思っていた。いや

 

(逆だ。シャリス姉は真面目だけど、こういう催しにはバンバン参加するお祭り気質だった。むしろ一番警戒しなくちゃいけなかったのに。)

 

自分の姉であるシャリスは、やはり他の生徒よりテルマのことを知っている。そしてテルマの行動を予測して、こうして捕まえにきたのだろう。

 

「さて、特別依頼書はどこかな?」

 

とシャリスはテルマに近づくが

 

「ちょっと待ってシャリス。そのまま依頼書貰おうとしてるでしょ?」

 

とティルファーが間に入ってきた。

 

「何をいってるんだティルファー。私は依頼書を取りだそうとしてるだけだぞ」

 

「嘘だね。だったらなんでそんなに時計を気にしてるの?大方「取り出したらちょうど時間でしたー」とか言うつもりなんでしょ。」

 

図星を突かれたのかシャリスがうっ、と口ごもる。確かにもう時間が無いので取り出した時、時間になればそのまま依頼書が自分のものになると考えた。

 

「さぁ、もう時間も無いしさっさと依頼書を取り出して………」

 

「させないよ!シャリス!」

 

とシャリスとティルファーが取っ組み合いを始めてしまった。姉の醜態を見せられあきれるテルマだが、ここを好機と見て脱出を図る。

が、

 

「させません」

 

淡々とした声とともにテルマの手は取られた。

 

「ノ、ノクト」

 

完全に不意を突かれた。思えば三和音(トライアド)は三人いるのだ。なのにノクトことを忘れるとは、不覚を取ってしまった。

 

(完全にパニックになって周りが見えなくなるなんて)

 

まだまだだな、と思うテルマだったが、ふと背中に柔らかい感触があった。

 

(こ、これって、ノクトの)

 

今ノクトは羽交い締めのような形でテルマの制服の中を探っている。ノクトのすべすべした手の感触が自分の体をまさぐっている。更に奥の方まで手を入れようと更に密着してくる。当てられる柔らかい感触が更に強くなった。

 

(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!)

 

今すぐにノクトに離れてもらうべきだと理性は言う。しかし悲しきかな、テルマも男の子もっと触れていたいという本能が勝ってしまう。

 

「ありました」

 

が夢の時間もあっという間に終わり、ノクトの手には依頼書が握られていた。

そして、

 

「終了時刻です!今赤い依頼書を手にしている女子生徒が、テルマ君を一週間、自由にする権利が手に入ります!」

 

係員らしい女子生徒の声が、甲高い声とともに、遠くから聞こえてくる。

 

「ああ!ノクトいつのまに!」

 

「しまった!なんたることだ!」

 

やっと現状に気がついたのかティルファーとシャリスは取っ組み合いを止めて我に返った。

が、ノクトはそんな二人に気を止めもせず

 

「では、これからよろしくお願いしますね。テルマさん」

 

とテルマに声を掛ける。そしてそのまま学園の方に戻っていった。それをなんやかんやと文句を言いながらシャリスとティルファーが後を追った。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと!この縄ほどいてよ!」

 

結局テルマは数分後、通りかかったルクスに助けられた。


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