そんなこんなで思い付きとその場のテンションでこの小説は出来ています
給湯室の座卓を囲む6人の影。
そこに会話はなく、カタカタカタ…という音だけが部屋にこだましている。
普段あれだけうるさい先輩でさえ、今は沈黙を保っている。この異常性、皆さんお分かりいただけるでしょうか?例えるのならば普段はなでろ愛でろ崇め奉れと言わんばかりの猫が息絶えているようなものです。
…いえ、すみません。私もこの状況どうすればいいかわからないんです。
「…あ、また保健所に捕まったにゃ」
「…保険じゃならまだましだろ。こっちは殺処分行きなんだけど」
「…貴方たちはいいわよ。私なんてまた捨てられたわ」
「…очень、子だくさんで大変です」
「…それは正直すまんかった」
「…先輩、なんでこんなもの持ってきたんですか」
「今日にぴったりだと思ったんだ…作ってる時は面白いと思ってたんだよ…」
そう嘆く先輩はいつもと違い少し小さく…は見えませんね、いつも通り無駄にデカいです。
本日のレッスンは新しく前川さん、アナスタシアさん、高峯さんで結成された「にゃん・にゃん・にゃん」を対象に行っています。今日も今日とてアイドルにこれっぽちも必要のないようなレッスンを行っており、正直それはもういつものことなのでいいとします。
本当は納得いきませんが良しとします。
そして今回のアイドルという職業からかけ離れたレッスンの内容は“にゃん生ゲームDX”
このゲームのことを簡単に説明すると人生ゲームのパクリです。おのおの好きな模様の猫を最初に選択し、ルーレットに従い止まったマスの内容に従うといったものです。猫の世界には職業も貨幣もないので、職業の代わりに飼われているか野良猫か、貨幣の代わりに餌がその位置に入っています。序盤数マスでどのグレードの家に飼われるかの、人生ゲームで言う就職エリアがあるのですが、そこでまさかの私を除き全員飼われることに失敗、野良猫人生を歩み始めたことが事の発端です。
と言っても、野良猫でも止まったマスによってはボスただ猫となることで安定した似非を得ることができますし、拾われるパターンもあります。現に高峯さんは結構拾われていますし。
…ですが拾われるたびに火事マスで家を失う、転勤マスで泣く泣くおいていかれる、アレルギー発症イベントで捨てられるなどと言ったハプニングマスに当たり野良に直帰してるんですけどね…。
そして野良に起こるハプニングイベントに“保健所”があります。この保健所がなかなか鬼畜、と言いますか…ギャンブルです。まず保健所マスに止まるともう一回ルーレットを回すことになるんですが、偶数であれば回避、奇数であればつかまってしまいます。捕まった場合の処置はギャンブルによって決められ、先ず1~10のうちの一つの数字を指定します。二回ルーレットを回し二回ともその指定された数字であった場合飼手が見つかり、晴れて家猫になります。そしてそれ以外にも2回回したその結果で様々なことが保健所では発生します。まず2回の数字が10を超えた場合脱走し、ゲームに戻ります。7~10の場合ステイ、次の手番でもう一回です。…ここまではいいとします。6~4の場合、去勢または不妊治療です。なんでゲームにこんなルールがとも思いますが、去勢です。赤ちゃん不可能になってしまいます。赤ちゃんなんてこさえてどうかなるの?と思われますが、ゴール後の精算で一匹につき高級マグロ缶(人生ゲームで言う10万ドル)になるのに加え、道中得た餌の1/10を子供一匹につき得られるというボーナスもあります!要は加点要素ですね。それが封印されます。まぁこれは最悪なくなってもゲーム要素としてまだいいとしましょう。ですが合計が2か3の場合、殺処分です。大事なことなのでもう一度言います、殺処分です。これが執行されるとゲームオーバーです。一応救済として三回分の手番猶予があり、そのたびルーレットを回し自分が指定した3つの数字のいづれかが出た場合、回避・脱走できるといったものです。これになぜか先輩3回ヒット。そのたび間一髪で生き延びています。また、前川さんも今のところすべての保健所マスを踏み抜くという圧倒的プレイングを見せています。
さて、子供がいいという話でしたが、当然デメリットもあり、道中で支出になる餌が単純に子供の数倍になります。デメリットもあほの様に大きいです。そしてそれに苦しんでいるのがアナスタシアさんです。子供ができるには人生ゲームで言う追突がオスとメスで起きるとできるということになっており、正直5人でプレイしていてそのうちオスは先輩1人なので先ずめったに起きないはずなんです。
…なのに今アナスタシアさんは5人もの子猫を抱えた大家族です。
なぜこうなった状態ですよね。もうなんと言いますか精算では期待できますが道中は赤貧まっしぐらですよね。
さて、このひどい状況を作り上げた先輩作のこのゲームですが言い訳を聞いてみましょう。
「何でこんな保健所とか組み込んでしまったんですか…」
「アーシャに中坊、うっちゃんと作ってる時はいいんじゃねってなったんだよ…酒飲みながらだったし。それに何回もルーレット回してみてなかなか起きない条件にしたはずなんだよ…殺処分も去勢も」
「うん、お兄ちゃんたちと一緒に作っているときはもっと楽しいはずだったのに…」
珍しく本気でしょげているように見える先輩の膝の上のアーシャさん。確かに部分的には面白いところもあるんですよ、ですけど…
「みくたち運が悪すぎるにゃ…」
「да、地獄の釜の主に魅入られているようです…」
「…その点、ケイはいいわね」
「うぐっ…!」
こちらに向くアイドルからのジトっとした目。
いえ、私もそこそこありますよ?トンビに餌を奪われたり、カラスと取り合いになったり。…まぁそれでも平穏無事に家に飼われて餌をもらってますし、芸を覚えて餌のランクが上がったりしましたけどね!
「なんでにゃ、みくたちは猫耳もつけてるのにぃ~」
「まて、それだとつけてない俺もいい結果じゃないとおかしいぞ!?」
「日頃の行いのせいじゃないの?」
「まて、急に素に戻るな。せっかくいざというときの猫のしっぽをくれてやろうと思ったのに」
「本当かにゃ!?」
「てれてれってれ~猫のしっぽ」
「「!!?」」
そう言ってなぜか畳の下から取り出される猫のしっぽ。
なんですけど…それってどうやって装着するんですか?尻尾の反対側は小さな円錐形になってますけど、専用のアタッチメントでもあるんでしょうか?前川さんと高峯さんは頬を染めて絶句してますけど…。
「みく、コレはどうつければいいんですか?」
「あーにゃん!そんなものさわっちゃ駄目!」
「…アナスタシア、今すぐ捨てるの」
「??」
触ってどうつければいいのか思案しているアナスタシアさんに今すぐ捨てるように真剣に詰め寄る2人。なぜなのかよくわからずアナスタシアさんと一緒に首をコテンと傾けてしまいます。アーシャさんでもなにかわかってないみたいですね、先輩はかっかっかっかと笑ってますけど。
「ジョニー君、何を考えてるの!こんなのつけれるわけないじゃん!」
「貴方、最低ね…」
「おいおい、これを何だと思ってんだよ~ほら、付ける用のベルト」
そう言って今度はなぜか机の裏から取り出される鋲が多く打たれたスタッズベルト。その鋲の一部が動くようになっており、その動く鋲にコネクターのようなものがある。
「腰に巻いて鋲をちょうどいい位置に固定をしたらつけてもらいな」
「да。ケイ、付けてください」
早速ベルトを巻いてみているアナスタシアさんにその尻尾を取り付けます。結構弾力のある素材でできているらしく、その少し小さいかなと思うような穴に入れた後は結構力を入れないと抜けません。
「にゃぁ、どうですか?」
「うん、似合う似合う」
「はい、よく似合ってますよ」
アーシャさんにも付けてあげていた先輩と一緒になって褒めますが、いまだベルトを両手で持ったまま赤くなって固まっている前川さんと高峯さん。そして高峯さん。さっきから顔だけは赤いのに表情はほとんど動かないので少し怖いです。前川さんのふくれっ面を少し見習ってください。
「そ~れで~?みくにゃんとノアはこれを何だと思ったのかなぁ」
「「!?」」
なんに勘違いしたかわかっている確信犯のようなにやけ顔を見せる先輩に目をそらしながらビックとする前川さんに、表情も姿勢も変わらないのに器用にビックっとする高峯さん。
「そ、そんなことよりにゃん生ゲームが途中にゃ!さっ!続きやるにゃ!」
「…そうね、中途半端、よくないわ」
「да、私の番ですね」
急遽再開される不穏な雲行きしかしていないにゃん生ゲーム、それでもご機嫌にルーレットを回すアナスタシアさん。気のせいか、そのしっぽもご機嫌そうに揺れている気が…
「あぁ、それ晶葉に動くようにしてもらってんだよね」
「さっらと思考を読まないでください」
「読まれる方が悪い」
理不尽。
「8、ですね」
なんてやり取りをしている間に進む真っ白の毛並みの猫。
止まったマスは…
「えっと…『まさかの血縁関係が明らかに、血統書付きの猫として飼い猫ならば餌のグレードが上がる。野良ならば飼い主を得る』Я счастлив!嬉しいです!これで私も飼い猫ですね」
「これは運が向いてきたんじゃないかにゃ!」
「ふははは、流れに乗るぜぇ!」
すごい勢いでルーレットを回す先輩。ルーレットからはすさまじい風切り音がします。今までで一番の力を込めて回されたルーレット、その結果は…
「HAHAHAHA、9だ!かなり進めるぜ」
そういって進められるスフィンクスという種を模した猫の駒。
「ふむ…俺も同じところか、つまらん…まて、ってことは」
「да、これで赤ちゃん6匹目です」
そう言いなぜか自分のお腹を優しくさするアナスタシアさん。まって、それは少しダメなリアクションです。
「…」
あれ?こういうのだと真っ先に「ちっ…お兄ちゃんの子供でも身ごもったつもりかよこの牝豚が」とか真先に毒吐きそうなアーシャさんが無反応です?本人もあれ?って感じの反応ですし、なんなんでしょうか。
「よ~し!みくもこの勢いに乗るにゃ!」
なんてことを思っている間にこれまた勢いよく回し始める前川さん。ですがなるのは風切り音ではなくガガッっという引っかかる音。その弱弱しい回転の結果、止まったのは7という数字。
「ラッキーセブン、悪くない数字にゃ!」
結果オーライと言わんばかりに進められていく三毛猫の駒。その止まったマスの内容は…
「『タカにさらわれる、振出しに戻る』って茶番にゃぁああ!」
「…まって、続きがあるわ」
「はっ!えっと…『だが、もしルーレットを回し10が出たならばこの決闘に勝利する』決闘って何なのよっ!!」
「デュエルだな」
「Дуэль…デュエルです」
「…デュエルね」
「デュエルだよ」
いつからここは遊戯の王者を決める場面になったんでしょう?
「ええい!女は度胸にゃ!」
気合を入れると空回るのか、またしてもガカッっという音とともに失速するルーレット。その数字は…
「10、出ちゃった…」
「やったな…このデュエル、お前の勝ちだ」
「Поздравляю、おめでとうございます」
「…祝福」
「よかったね」
各々からかけられる祝福の声…そう、こうして勝者は決まったのでした。
決闘の。
「次、私の番」
「え、みくのこれなんだったの!?」
「知らん」
製作者がそれでいいんですか?
ちなみに、最終的勝者は高峯さんでした。どべは前川さん。
「勝敗に興味はないけど…当然ね」
「納得いかないにゃぁああ!」
ほとんどにゃん生ゲームのルールを作っていただけな気がする…まぁ、突飛なことにはみんな慣れてるであろうと信じて、変なところまで読了ありがとうございました。