「あ?お見合い?」
「…そうなんです」
今回も今回とて金欠に伴い私の家に泊まりにたかりに来た雄くん。いつもいつも何で懲りないんでしょうかこの人…
人の部屋でも勝手知ったるものでくつろいでいる雄くん。ですがまぁいい機会なので最近お母さんから勧められてしまったことについて相談します。
「ちなみに見合い写真とかもらってるの?」
「一応押し付けられたものがありますけど…」
お母さんが押し付けてきたお見合い写真を雄くんに渡します。
「ふむ…年齢28で顔よし、職は検事か、収入も安定しているな。なかなかの優良物件っぽいな。性格はどうともいえんが」
「まぁそうなんですよね…おまけで言うと性格もいい人ですよ」
「あら、知り合い?」
「…幼馴染です」
「こりゃまた運命的な」
「小さい頃によく遊んでくれたお兄ちゃん的存在なんですけど…」
「役満過ぎんだろ…って感じだが乗り気じゃないのな」
そりゃあ、まぁ…その、あれですよ
「ナナはアイドルですしぃ?恋愛的なのはNGといいますかぁ…」
「たけちゃんと我らが美城の誇るアイドルが結婚してたし、特に禁止されてないだろ?大人連中でいやるみるみやとうこちゃんが未だに肉食やってるし、元アナに元警婦だって結構男あさってるしな」
大人組みはちょっと旬と言いますか…消費期限といいますか…なんというかそういうのが迫ってますから。
「ま、断りてえなら断れよ。もういい大人なんだから」
「断ったんですけど…それならそっちに良い男性がいるのかって、いないんなら付き合ってみるだけでもって親に言われまして…」
「なんだかんだで断り切れてないのね」
「はい…そういうことです」
「はぁ…」
そんなやれやれだぜって感じに呆れないでもいいじゃないですか!
誰のせいでこんなことになってると思ってるんですか…だっていい男性がこんなんですよ?変態を煮詰めて濃くしたど変態に様々な技術・才能を無駄に詰め込んだ生物兵器ですよ?ナナの気になっている男性としてどう紹介しろというのですかっ!精神科か脳外科を勧められますよ!正常に戻そうとお見合いをもっと進められるに決まっているじゃないですか!
「それじゃどうやって断るかってことか」
「そうです!なにかいい方法はなんですか!?」
「何でキレ気味なんだよ…まずいい歳なんだから気になる男の一人や二人いないのかぁ?」
い・ま・す・け・ど!それが雄くん(真・変態)なんだから困ってるんじゃないですか!
「なんだそのジト目は」
「なーんでもなーいですよぅ、ナナはいつもどーりでーす」
「全然いつも通りじゃないだろそれ…せっかく人がふざけずに相談のってるというのに」
「…ちなみにふざけてなかったどういう反応なんですか?」
「こんな相手ほっといて俺にしとけよ」
そう言ってお見合い写真を投げ捨てる雄くん。
もう…なんなんですか、ほんと…ただの
「新手のプロポーズじゃないですか…雄くん」
「おい、ネタなんだからもっとちゃんと突っ込めよ。いつも通り冷たい目をして”はぁ?潰しますよ?”ぐらいのこと言って見せろよ」
「うっさいですよ…潰しますよ?」
「なにを」
「ナニを」
人がドキドキしてるのに何でいつも通りなんですかこの人は…アニメの主人公ですか。
「ま、お前の問題なんだからお前が何とかしろよ」
「相談されといてそれはないんじゃないですか?」
「俺がなんもかんも何とかできると思ったら大間違いだからな。それに、うさみんの大事なことなんだ俺が勝手にあーだこうだ言うことじゃねぇだろ。うさみんがこうしたいって自分で決めてそれをやるってなら全力で手伝ってやるが」
そう言って布団の中に入っていく雄くん。
「さっさと寝ようぜ、明日もレッスンだし」
「いえ、そこナナの布団ですから」
「気にすんな、いつものことだ」
「そうですね、そうでした」
明かりを消し、奥に詰めた雄くんの胸元に収まるように布団に入っていきます。
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
枕にしている雄くんの腕からその体温と鼓動が伝わってきます。ドキドキするより安心するその感覚に身を任せ、なんでこんな人のこと好きになっちゃたのかなぁと想いを馳せるのでした。
第一印象は”何この変質者”でしたっけ。自分より頭二つ以上高い身長に黒光りする鍛え抜かれた肢体。見ただけでなにこれですが、それに加えて第一声が”ふむ…小柄なのにその肉付きは豊満であり出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。その胸や太ももに顔をうずめた時の柔らかさはさぞ素晴らしいものだろう…。顔の幼さとその体の差もまた、よきものなり…!”ですからね…。
今思い出しても初対面の人にかける言葉じゃないですよね、これ。
だから最初はこの人の事を避けていたどころか嫌っていた気がします。それが今はこれなんですから、たまったもんじゃないですよね。そう思いながら隣でもう寝息を立てている雄くんの頬をつっつきます。
ほんと、ナナが嫌ってるってわかってたはずなのにいっつも人にちょっかいだしてきて…カフェで働いていたら変な注文してきますし、カフェの隣で屋台を開いてカフェの妨害してきますし…覗きもひどかったですね。それにレッスンもずっと意味の分からないお遊びばかりですし…まぁそっちの方は時たまに楽しかったんですけどね。
ちゃんとかかわりだしたのはそうですね、ボヤ騒ぎのせいで住む場所がなくなった時でしたね。路頭に迷ってたところを拾われて…今まで作ってるところは見ても頑なに食べなかった雄くんの手料理を食べて感動したりもしましたね。
そのときはこんな変態がこんなおいしい料理作れるのが悔しくて次の日は私が料理をしたんですっけ。そしたら雄くん”俺の方がうまいな”ってしたり顔で言うんですからむってきちゃいましたよね。まぁその後”うまいうまい”言いながら全部食べてくれたんですよね…
砂糖と塩を間違えてしまった肉じゃがも全部。
あれですよ…わざとじゃないんですよ?初めて使うキッチンで分からなかっただけなんですよ。だから恨みを果たそうとか仕返しだとか塩分過多で生活習慣病に陥らせようだとかそんな事考えてなかったんですよ?まぁ作り慣れたものだからって味見しなかったナナが悪いんですが。
そこからでしたっけ、少しちゃんと話すようになったのは。一緒に料理したりするようになったのは。まぁまだこの時は変態だけどそんな悪い人ではないみたいって思った程度ですけど…そこからはあっという間でしたね。一緒にニワトリの卵を返してヒナを育てたり、晩酌を一緒にしたり、ホラー映画耐久上映会とかアニメ全話一気視聴をやって一緒に寝落ちしたりもしましたっけ。
ほんとうに、いろんなことを一緒にやりましたよね。そのどれも思い返せば楽しくて、嬉しくて…そんな生活を手放すことがもったいなくて。
「ふふっ、最初は最悪とか言っちゃってたんですけどね」
そこには少女漫画のような出会いはありませんでした。
中学生の頃のような憧れもありませんでした。
高校生の頃のような熱い衝動もありませんでした。
アニメのようなイベントもありませんでした。
顔も好みでなければ見た目も好みではない。財力も権力も地位もない。
それに対して今回のお見合いの相手は再会した幼馴染で、イケメンで公務員だから安定した収入があって、若くして検事なので将来有望ですし…
なのに何ででしょうね?
なんで雄くんとの生活のほうがとても魅力的に感じるんでしょうね。
クスクスと思わず笑っちゃいます。好きになるような出来事なんて特になかった。でも好きになっていた。いつからなんてわからないし、どこがよかったのかもわからない。
そりゃいいところは幾らでも言えますけどそれは後付けの理由ばっかりで、好きになった言い訳です。ほんと、なんでこんな人を好きになっちゃったんでしょうね。
ほんと、
「責任とってくださいよ、雄くん」
そう呟いてナナは、眠りに落ちました。
「って訳で、見合いはなくなったわ」
「って訳と言われてもどういうことかさっぱりなんですけど」
朝起きて開口一番そう言われても全然わからないんですけど…
「ほら、朝飯は出来てるし早く顔洗って来いよ、よだれの跡がついてんぞ」
「なっ!?」
慌てて口元を寝巻の袖でぬぐいます。
「人の腕をよだれまみれにしやがって」
「そんなことないはずです!ナナはそんなことしてませんよー!」
よだれの跡ついてませんでしたもん!
「ばーか、俺が拭いてやったに決まってるだろ?まぁいいから早く用意して来いよ、朝飯が冷ちまう」
卓袱台の上には白米に味噌汁、小鉢にはほうれんそうの御浸しに酢の物、そして肉じゃががおいてあり、その匂いがお腹を刺激してきます。料理はもう勝てないので雄くんが泊るときは雄くんに任せっパです。たまに一緒に作りますけどキッチン狭いですし。
顔を洗い、身支度を整えて食べた肉じゃがは思い出のように塩っ辛くなくおいしかったです。
「食器片し終わったら行くか」
「行くってどこにですか?レッスンには早いんじゃないですか?」
今日も今日とて雄くんはレッスンがあるはずですし、ナナも美城カフェの仕事がありますけど、両方とも午後からなのでまだまだ余裕自体はあるはずなんですけど。
「行くってのはウサミンの実家な」
「…へ?どういうことですか?」
え、なんでナナの実家に?
「責任取りにだけど?」
「責任、ですか?」
責任と言えば昨晩責任とってくださいとか言いましたが先輩寝ていたはずですし…
「ぼそぼそとほとんど声に出してたぞ」
「っ!!!??」
え!?それってどういうこと?え、ナナ告っちゃったってことですか!?無意識に?なんですかその自爆!
あれ、けど責任とるってことは、お見合いをしなくていいってことは…
「あ、結婚の挨拶に行くってもう連絡はしといたし、職場にも休むって連絡もしといた」
けっ、けけけっけけけけっけけけけけっけけ結婚!?
「どうしたんだ?そんな真っ赤になって口パクパクして」
え、だって…え?
「え、え…え―――――――!!」
ナナの叫び声が朝のマンションにこだましました。ヴォイスレーニングの成果が出ています。近隣住民の皆さんすみませんでした。
「あ、そうそう…愛してるぜ」
「きゃあああぁ――!!」
重ね重ね、申し訳ありませんでした。だから壁をたたかないでください。
閑話休題
「えーっと…まず確認なんですけどナナの気持ちは」
「きいたな」
「…それに対する返答は」
「俺も愛してるぞ、結婚しよう」
「っ――もっとこう…ロマンチックな展開とかあったんじゃないでしょうかとか思ったりナナはするんですけど」
「俺にそんなん期待すんなよ、するのは夜戦だけにしとけ」
「そんな事期待しませんー‼」
でも結婚するってことは当然そういうこともするわけで…
「どうしたお腹をつまんで」
「なっ、何でもないですよぉ?別にお腹のお肉大丈夫だよねとか確認なんてしてませんから」
「十分細いし綺麗だから安心しろ」
「はうっ」
くぅ…普段ならセクハラですとか言えるのに…!言えるのにぃ…‼
「そ、それでどうやってナナのお母さんに連絡したんですか!」
「え、うさみんのスマホ使って」
「ロックしてたはずですけど」
「暗証番号ぐらいいくつか察しが付く」
かけれたってことは本当にわかったみたいですね…
そして覚えていてくれたんですね、雄くんも。
「俺がうさみんに塩っ辛い肉じゃが食わされた日付けとか勤勉で天才的な俺じゃなきゃ覚えてねぇよ」
「ほんと、なんで覚えてくれちゃってるんですか」
「嬉しかったからな、うさみんが初めて料理作ってくれて」
「砂糖と塩を間違えてたのに?」
「間違えてたのに」
そういってニッカシと笑う雄くん。もう…
「またナナが作ってあげます」
「塩っ辛いの?」
「今度は甘い甘い、ナナのLOVEいっぱいの肉じゃがです」
「それは楽しみだな」
ふっふっふ、期待しててくださいね?
「それじゃあ行きましょうか」
「その前に聞くことがあるんだが…」
「なんですか?」
「返事」
あ、確かに事故告白と責任とって宣言はしてましたけど
「俺の結婚しようへの返事貰ってないんだが?」
こういう時はどう返事すればいいんでしょうね?何の心構えもできてませんでしたし、えっと…
「不束者ですがよろしくお願いします?」
「なんで疑問形だよww」
「なっ!ナナもこういうの初めてでしたしムードもへったくれもなかったんですからしょうがないじゃないですか!」
「ははっ、俺もこんなバカで変態でどうしようもないやつだけどよろしく頼むわ」
「しょうがないからよろしくしてあげます」
そう言って笑いながら家を出ます。多分これからもこんな毎日が続くんじゃないでしょうか。つまらないことで笑って、喧嘩して、仲直りしてはまた笑って。2人で暮らしたあの日々のような。これといった憧れるようんラブコメはないけれど愛おしいそんな日常。
「そう言えば、雄くんはナナのどこが好きなんですか」
「それは――――――」
これからも続ていく、そんな、日常。
「それは―――――もちろんおっp「離婚です」冗談冗談ww本当は…」
ってとこまでがテンプレ。
というわけでうさみん誕生日おめでとう!さぁこれでいったい何歳に…おや?誰かが来たようだ。