Ans.下記を参照
今日も今日とてレッスンのために美城に通う私ですが…
またですよ。
また人垣ができてますよ…今度は何をやらかしたんですか、先輩?
今回は報道陣のような人まで来ているじゃないですか、ついに通報されましたか?
結構粘りましたね先輩。
ですが、今回はそうではありませんでした。
人垣の向こうにいるのはガードマン、そして人垣を構成するのは本物の週刊誌の記者からニュースキャスターたち。
「…どういうことなんですか?」
思わずつぶやいてしまったその言葉に人垣を構成する一部の人が反応します。
あ、これ目を付けられましたね、関係者として。
こちらに向かって来ようとする人たち。
そして、それよりも早く腰に走る衝撃と浮遊感。
私の腰に巻き付いているのは太く黒いたくましい腕。
その時点で誰か特定できたようなものですが、顔をあげた時に目に入る陽光を反射する頭部。
―――先輩です。
そして今飛んでます。
あ、塀を超えましたね。
そして小さな衝撃。
「おいおい、あぶねぇな。もっと気を付けて歩けよ」
「先輩のほうが危ないので一声かけてからしてください」
車にひかれたかと思って心臓バクバクしているんですけど…
「それでこの人垣どうしたんですか?遂に先輩の行いが世に流れましたか?」
「HAHAHA、俺のはもうもみ消してある。こいつらは楓さんに絡みに来たんだよ。もっといや楓さんとたけちゃんだな」
「ああ~そういうことなんですか」
「そういうこと」
少し前に行った高垣さんと武内さんの婚約公表。その詳細を聞こうと群がってきてるんですね。
「この状況でレッスンはどうするんですか?」
私も捕まりかけましたし、アイドルの娘が通ってもそうなるんじゃないでしょうか?
恥ずかしがりの鷺沢さんが声をかけられたら大変でしょうし、武内さん包囲網を形成する方々が通っても別の意味で大変です。
「隠し通路使ったり、車で送迎とかだな」
「…隠し通路って何ですか?」
「秘密基地みたいでかっこいいだろ?」
そういう問題ではないんですけど?
一体何の目的をもってそんなものを作ったんですか美城のお偉いさんたちは!
「いやぁ、作るの大変だったんだよな~」
「…先輩が作ったんですか?」
「YES」
「許可は?」
「NO」
「OUTです」
「NOと言える日本人は貴重なんだぞ?」
「意味が違います!といいますか何のためにそんなもの作ったんですか!」
「秘密基地みたいでかっこいいから」
「部長たちに話して埋めてもらいます!」
「まぁ待て、こういう時意外に便利だからってことで許可が下りた。事後承諾みたいなもんだったからシバかれたが…」
「誰にです?」
「緑」
あぁ…ちひろさんですか。そうですか、そうですよね。先輩をシバけるって言ったらちひろさんですよね。
「それにしてもどうするんですか、これ?」
だんだん規模が増してるように見えますし。
なんですかあの横断幕?『ジョークだと言って!?楓さん~!』って。
「うむ、ファンまで増えて来たな」
「なんで先輩オタクスタイルに変更してるんですか、いつの間に着替えたんですか」
「ついさっき」
さっきまで無地のタンクトップにトランクスだった先輩。それがなぜかI♡楓‼と書いてあるバンダナを頭につけ、そこにペンライトを挟んでおり、無地のタンクトップはいつの間に楓さんがプリントされたシャツになり、その上にハートの中に達筆で楓と書かれた法被、そして下はケミカルウォッシュジーンズ。シャツの裾はジーンズにもちろんINし、その大きな手には左右三本づつのペンライトを装備している。
「先輩。ありていに言って引きます」
「あぁ、俺もこれはどうかと思う」
仁王立ちしたまま服が宙に舞、全裸になった先輩。
着た意味は?そして全裸になった意味…しかも何で宙を舞った服が綺麗にたたまれているんですか。
まぁもう先輩については気になりませんけど。下腹部で揺れてるソレを見ても何も感じなくなりました。
あれ、女子力のピンチ?
「でもこの暴動本当にどうするんですか?」
「楓さんとたけちゃんがどうにかすっしかねぇよ、そこらへんも含めて恋愛自由なんだから」
「有名なのも大変ですね」
恋愛1つするだけでこんなことになるんですから。
「ほんと…馬鹿げてる」
そうぼやいてレッスンルームに向かっていく先輩の声はどこか実感がこもっているようで、少し耳に残りました。
そしてその日のレッスンはジャパン作りでした。先輩の黒柳さん並みのリアクションにより調理室が爆発したのは思い出したくもない忌々しい思い出です。
そして次の日。
「へ?」
またマスコミやファンが押しかけているかと思われていた美城の正門には、確かに少数のマスコミはいるのですが、事務にきちんと話を通して入っていきますし、昨日いた熱狂的なファンは見る影もありません。
一体どういうことなんでしょう?
昨日のうちにもう高垣さんと武内さんが説明して認めてもらったんでしょうか?
ん~ニュースちゃんと見ておけばよかったです。
何が起きたのか考えていると偶然武内さんと遭遇します。
「あ、武内さん。おはようございます」
「おはようございます、青木さん」
立ち止まり丁寧に礼を返してくる武内さん。
…先輩が関わらなければ常識的な方なんですけどね。
「すみません、服を着たままで」
「あ、先輩と同類でしたね」
前言撤回。等しくバカはバカ。
「ありがとうございます」
「このタイミングでありがとうと言う言葉が出てくることが信じられません」
「えぇ、私が信頼している人の、1人ですから」
武内さんの口から出てきた思いがけないセリフ。
そして何より――武内さんのその三白眼は優しげにすぼめられていた。
「私の、ですからね」
「ひゃっ!?」
ふいに後ろからかけられたその声。
慌てて振り返ると悪戯っぽく笑っている高垣さん。
「驚かせないでくださいよ、高垣さん」
「うふふ、ちょっと意地悪でしたか?」
抜群のタイミングでしたよ。もうこれ以上ないタイミングでしたよ。
「雄くんのお話ですよね?」
「まぁ、そうなりますね」
確かに料理はプロ並みに上手ですし、運動神経ブッチギリですし、それでいて繊細な裁縫なんかもこなせる万能っぷりですし…でもその代わりに変態でバカで変態で露出狂で変人で阿呆で変態で奇人で変態ですし。+-0で尊敬できる部分はないと思うんですが…
「…不思議、ですか?」
「はい」
「うふふ、即答ですね」
「だって先輩ですし」
私がそう言うと顔を見合わせ笑う2人。
…なんでしょう、少しむっときます。
「青木さん。もっといろいろな人に聞いてみるといいですよ。そうすればちゃんとジョニーさんと向き合えるはずです」
「それでは私たちはこれで失礼します」
そう言って腕を組みながら歩いていく2人を見送ります。
「…わかってますよ」
なんだかんだ言ってもいい人だってことは私だって重々知ってますよ。
今回だって生地を発酵させている時間を縫って押しかけて来たファンや記者になにか働きかけたこともしています。レッスンで担当した各個人のノートを作ってどこがいいか、どこができてないかなどを事細かに書きまとめているのも知っています。他にももっといろいろ知っています。
でも、先輩がバカであることはもっと知っています。変態だってことも骨身にしみてわかってます。そして、裏でいろいろ頑張っていたりするのを知られたくないってことを知っています。
だから私は先輩を尊敬も、敬いもしません。
けど、それでも『先輩』と言わせてもらいます。
それが私の最大限の譲歩です。
だから私は今日もレッスンに向かう。
たとえレッスンと言えないようなレッスンでも。
バカがバカなりに考えたどこかに意味があることなんでしょうから。
その日のレッスンは温泉掘りでした。
…本当に意味あるんですよね?
そこだけはやっぱり少し不安に思った私でした。
出たかですか?出ましたよ、なぜか…もう意味が分かりません…
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「楓さんや楓さんや」
「どうかされたんですか?雄くん」
「あの家の鍵俺にくれね?」
「突然どうしたんですか?」
「いや…なんか嫌な予感がしてな。まともに居住できる場所を用意しろって俺の第六感が…」
「一体どんなことが起こるんでしょうね」
「笑わんでください楓さん…ホントヤバい気がするから」
「私は今回の件のお礼ってかたちで差し上げてもいいんですけど…ほかの使ってる人にも聞かなきゃなんとも」
「何とかなんない?」
「そうですね…着替えを置いてる人もいますし…」
「あぁ、もう見慣れた。脱ぎ散らかしてるの掃除するのも俺だし洗濯をするのも俺だからな」
「そう言えば整理整頓とか管理をしているのは雄くんでしたね…ならそうですね、渡しときます」
「あざす!!」
「それにそても…なんで雄君に渡してなかったんでしょうか」
「それはあれだ、ヤッちまいかけたからだな」
「あぁ…そんなこともありましたね」
「ま、鍵はありがたく貰っとくよ。多分俺がほとんど居着くから気が向いた時にでもたけちゃんと飲みに来てくれ。とびっきりの料理でも作っといてやるから」
「それはお酒を避けれませんね、ウフフ…それじゃあ皆さんには私から伝えておきます」
「あいよ、よろしく~
っと、あとしきにゃんにはうちの場所ばれないようにしておいてくれ」
「どうかしたんですか?」
「…今の俺の家、アイツにほぼ占拠されてんだよなぁ」
「同棲してたんですか?」
「どっちかってと蜘蛛の巣だな、愛の巣じゃなくて」
「罠にかかったら食べられるんですね」
「そういうこと、そんじゃまたな。夫によろしく」
「はい、それでは」
Q.次回何が起きるの?
A.最強の存在が出る B.ジョニーの家族が出る
C.警官が突入してくる D.みなみんが暴走する
ホントどれなんだろうなぁ…ってことでまた次回会いましょう。
PS.実家のネット不安定すぎる…