センターじゃないけどな
「それで先輩、今日はバイクでどうするんですか?」
今日のレッスンではバイクを持ってくるように先輩から連絡が入ったので、お姉ちゃんから原付バイクを借りてきました。
対して先輩は黒の車体に金字で隼と書かれた大型のバイクです。
「バイクをどうするって乗り回す以外にないだろ」
何言ってるんだこいつって目で私を見てくる先輩。なんかむかつきます。
「やっほー!おっ待たせってジョニーが服着てる!?」
「あ、本当ですね、珍しいこともあるものですね」
「師匠!今日は何をするんでしょうか!」
血管を浮きだたせているとやってくる『ポジティブパッション』の三人。
先輩が服を着ていることに驚くのはわかりますが、それでも三日に一回は服を着ているんですよ、この先輩。
「それと先輩、バイクだと人数乗れませんけどどうするんですか?」
今バイクを持っているのは2人。持っていないのが3人。
2人乗りをしても全員乗れません。それに…私全然運転したことがないんですけど。
「おぉ!ジョニーのバイクかっこいい!」
「HAHAHA~そうだろう?」
「師匠!私はそれについて走ればいいんですか‼」
「茜ちゃん、それレッスンじゃなくて拷問です」
いや、だから人数どうするんですか?
と思っていると聞こえてくるエンジン音。
そして私たちのそばに止まる1台のバイク。
「チッ…なんでアタシがこんなことしなきゃなんねぇんだよ」
そのバイクに乗っていたのは美城のヤンキーアイドル・向井拓海さんです。
「そう言いながらも来てくれるたくみちゃんさすが~♪」
「オイ雄!ちゃんはやめろっつってるだろ!」
「え~昔セーラー○ーンに憧れてたたくみちゃんなのに~?」
「だ―‼ヤメロ‼それを言うなぁ!」
意外な趣味が発覚。本当はフリフリな衣装とかも好きなんでしょうか、好きなんでしょうね。
「へ~たくみんそんな趣味があったんだね~」
「意外な趣味ですね~」
「私はいいと思います!」
皆の向井さんを見る目が凄く優しいです。
私の目も多分すごく生暖かいものでしょうけど。
「それで?アタシを足に使おうだなんていい度胸だなぁ、おいっ!」
「たくみちゃんよ、今さらヤンキーぶっても遅いと思うぞ?顔真っ赤だし」
「うっせぇぇえ‼」
向井さんが真っ赤になて振り回されているのを私たちはニヨニヨしながら見守ります。
みててなごみますね~。
と、そうこうしているともう1台バイクがやってきます。
「遅れてしまってすいません」
ライダースーツを身に纏い、外したフルフェイスのヘルメットからこぼれるように風になびく亜麻色の髪。
要するに新田さんです。
大型バイクにまたがった新田さんです。
なんでしょう、この女神。なんで様になってるんでしょうか。
普段の印象だとバイクなんて乗らなそうに見えますのに。
「お、美波もきたしこれで全員だな」
「うふふ、バイクで遠出するの久しぶりなので楽しみです」
「それよりみなみんバイク持ってたの!?」
「私も初めて知りました」
「アタシも乗ってることは聞いてたが見んのは初めてだな」
みんな多かれ少なかれ動揺しているのに対し全く平然としている先輩。
ええ、もうわかってますよ。どうせバイクも先輩の影響なんでしょう?
「うしっ!そんじゃ行くか!」
そう言って出発の準備をしだす先輩ですが待ってください。
「まだ行き先とか聞いてませんよ、先輩」
「ん?行き先なんてあるわけないだろ?」
この先輩は何を言っているのだろうか?
分かるのは頭がからなことくらいです。
「そうだな、バイクは好きに乗り回してこそだからな!」
そしてなぜか納得している向井さん。多分同じワールドを持っているんでしょう。
先輩のバイクには高森さん、向井さんと新田さんはそれぞれ本田さん、日野さんをタンデムシートにのせます。
「んじゃ、原付もいるし今回は風景見ることが目的だからあんまりトバさずにいくな~たくみちゃんおっけ?」
「わかったよ、しょうがねぇなぁ…」
「そんじゃあみんな風と風景を楽しむように!出発だ‼」
3人同時にアクセルをふかし、スタートを切ります。
聞こえてくるのはバイク初体験であろう3人の悲鳴のような歓声のような、そんな声。
って、私を置いていかないでください!
そこからはとにかくずっと走ってました。
車通りのない郊外の田園の道を、曲がりくねった山道。そして海岸線。
運転している身としてはわき見は危険なのであまり見渡す余裕がありませんが、それでも目に入ってくる木々の新緑の色。ところどころ花の色に染まる山肌。時季外れですけど感じられる潮風の香り、海面に反射する陽光。
途中、パーキングエリアで休憩を取り、山道の待避所にとまり風景を眺め、海岸線沿いに止め手季節外れの海と砂浜を楽しみ、最終的にたどり着いたのは、
「…すごいですね、ここ」
「わぁ…すっごい綺麗」
「はい!まさに、ぶわぁぁぁああっ‼って感じですね!」
「へぇ……」
見渡す限りどこまでも広がった藤の花のカーテン。
綺麗より先に感動を覚える、そんなこちらが圧倒される風景です。
向井さんも流石は乙女、言葉は素っ気ないですが口はにやけてます。
「うむ、久々に来たが綺麗なもんだ」
「そうですね、私もここに来たのは2年ぶりです」
「さて、それじゃあ写真でも撮るか」
「いいですね、雄くん!」
そう言って先輩がバイクの収納スペースから取り出したのは一眼レフカメラ。
「カメラはやっぱりそれなんですね」
「あぁ、ばあちゃんからの贈り物だからな」
やっぱりどこかで分かりあってるみたいなこの2人。…少し面白くありません。
「んじゃ、みんなで写真を撮りまくるぞ~、軽く操作法教えるから集合」
先輩によるカメラ講座ははじめ向井さんが写真を撮ることを渋りましたが、先輩による『たくみちゃんのオトメな秘密 chapter5』により丸めこまれ、恙なく行われました。
内容は聞かないで上げてください。もう向井さんをヤンキーに見れなくなります。そんじょそこらの少女よりよっぽど少女に見えます。だて…あの寝言…
いえ、何でもありません。何はともあれ人は見かけや表面上の態度によらないということですね。先輩は除きますが。
「師匠!タックルしながらとったら躍動感ある写真になるでしょうか!」
「あぁ、ぶれっぶれの勢いだけの写真ができるだろうよ」
「ではやってみます‼…あぁ!ぶれました…」
そして現在撮影は日野さんのターンです。
元気、体力、気合の日野さんですが、やってみるとカメラは肌にあったらしく、躍動感あふれる迫力のある写真を撮ろうと頑張ってます。
そのために跳んで、回って、駆けていつも以上に動き回っています。
その撮った写真を見せてもらうとやはりぶれてしまっているんですがそれはそれで森の緑と藤色が混ざり合い、アジのあるものになっています。
「ほらほら!たくみんこっち向いて!」
「うっせ!とるなよ未央」
「え~たくみんの寝g「だぁぁぁ‼とられりゃいいんだろ!?とられりゃ‼」
次の撮る順番になった本田さんは風景を撮るよりも人を撮るほうが楽しいらしく、今は向井さんをゲットしたての情報を使って真っ赤になったところを撮ってます。
向井さんは先輩により今はおさげにまるぶち伊達メガネの文学少女スタイル。
まぁ服装は特攻服ですけど。
「ねえねえ、ジョニーもとらせてよ!」
「ん?いいだろう!存分に撮るがいい‼」
「――///!?」
一通り撮って周り、最後に先輩を写真に撮ろうと声をかける本田さん。
そしてなぜか着ていた服を一瞬ですべて脱ぎ去り、フロントダブルバイセプスをキメる先輩。それを見て一瞬で沸騰する元祖・パッション純情乙女本田さん。
「キレてますよー‼」
「デカいですよ、雄くん」
そしてなぜか平然とコールをする日野さんと新田さん。
なんですか?先輩の母校ではこれが普通なんですか?
「せめて前だけでも隠して‼」
「ふむ、しょうがないな」
もうほぼ泣くように叫ぶ本田さんの懇願に対し先輩はポーズをサイドトライセプスに切り替えます。はい、見事な筋肉ですよ?見事な筋肉ではあるんですが…背景とか台無しですね。
「デカいですよー!」
「僧帽筋が歌ってますよ、雄くん」
「キレてますよ~ジョニーさん」
あれ!?コールに高森さんが加わりましたけどそっち側でいいんですか!?ゆるふわ担当さん!
そして次にカメラマンになったのは高森さんです。
高森さんは自然風景を撮るほうが楽しいらしく、藤のカーテンを遠くから撮ってみたり、近くから一房だけとってみたりしています。
「ふふふ、夕美ちゃんにも見せてあげたいです」
「あ~ユミユミは花キチだもんな、今度連れてきてやろうかな」
「きっと喜びますよ。それよりもっと高い視点から撮りたいので手伝ってもらってもいいですか?」
「あいよ~」
そう言って高森さんを高い高いする先輩。身長差が頭2つ分以上あるので見ていて違和感はないんですが高森さんの顔が固まりましたよ?
「あのぉ…私もう高校生なんですけど」
「あぁ、そうだな」
「社会的くくりでは準大人なんです」
「そうだな、世が世ならもう結婚してガキがいる年齢だな」
「だから高い高いはちょっと…」
「大人はC超えてから名乗ってくれ」
「うわぁぁああん!」
全力全開で子ども扱いをしてくる先輩の顔をけりつける高森さん。ですがその音はポスポス。そんものでは先輩をひるませることさえできません‼
「雄くんは昔から周りを子ども扱いしますから」
その様子を見て苦笑いしている新田さん。
「新田さんもそうだったんですか?」
「うふふ、C以上だったのにずっと子ども扱いだったんですよ?」
不満そうながらもどこか嬉しい?楽しい?…よくわからない表情をする新田さん。
ホントどんなことがあったんでしょうか、昔?
そして少し目を離した間に、どういう話し合いをすれば先輩の肩の上に高森さんが仁王立ちするちょっとした雑技団になるのかとても疑問に思いました。
「それじゃあ最後に集合写真を撮って帰るか」
まだ夕焼けにもなっていない時間帯ですが夜までに美城まで帰ろうと思ったら妥当な時間になったので、思い思いに過ごしてましたが最後に集合写真を撮ることになりました。
「いいけどジョニー服着ようよ~」
「悪いが服を着たままだと俺写真に写らないんだ」
どんな嘘ですか。
「いいじゃないですか、これが一番雄くんらしくて」
「そうですね~」
そしてなぜか先輩の露出に対して寛容な新田さんと高森さん。
「師匠が脱ぐのでしたら私も脱いだ方が!」
そして日野さん。それはやめてくださいね。絶対。
「もう何でもいいからさっさと撮っちまおうぜ?」
そして疲れた表情の未だ文学少女スタイルの向井さん。
「それじゃ全員その気のとこ集まっとけ~」
そう言ってバイクを三脚の代わりにし、タイマーをセットした先輩。
先輩はそのまま走ってきて一番端に納まりオリバーポーズを決める、カウントダウンを行う先輩。
「はい5秒前、3、2、1!」
そしてフラッシュとともに切られたシャッター。
その写真は見事に
「あぁ!俺の首から上が!?」
先輩の顔だけ写ってませんでしたとさ。
身長が全然違いますもんね。
向井拓海のオリ主への認識
「ぜってぇいつか叩き潰したいヤツBest1」
でも弱みを多く握られてるため絶対敵わないんだよなぁ…