ルーキートレーナーに幸あれ   作:bakabakka

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だがまだせわしない日は続く。


ルキ「今度は私もですか…」

 

 

「と、いうわけで今日は美城カフェでバイトします」

「何がと、言うわけですか何が」

 

『ピンキーキュート』のメンバーといっしょに呼び出されて一秒でメイド服を渡され二秒目でこのセリフです。

 

訳を理解しろと言う方が酷です。

 

「わ~メイド服もかわいいですね」

「うん、けどちょっと私は恥ずかしいかな…」

「わ、私も…恥ずかしいです…」

 

デザインは安部さんの来ているメイド服に若干アレンジが加えられ、三人とも清楚そうなロングスカートになっています。

 

なのに…

 

「なのになんで私のメイド服は超ミニスカートなんですか!」

 

ミニもミニ。スカートの裾が股下10cmですよ?

少し動けば下着が見えるレベルじゃないですか!?

 

「動きやすい方がいいと思ってな」

「逆に動きづらいですよ!」

「HAHAHAHA、パンツの一つや二つお客様にサービスしとけ」

 

ここはカフェであってキャバクラなどではないはずです。

 

「スパッツを履くことは禁止してないからいいだろ?」

 

あ、その手がありました。

 

 

「ちえりんにみほりん、うりむーはドロワーズな。絶対コケる気がするから。今からその見本が来るし」

 

「「「?」」」

 

島村さんのイノブタ携帯怪物のようなニックネームはさておき、先輩に渡されたドロワーズを受け取りながらも、不思議そうな三人。

 

そこに駆けてくる1人の影。

 

 

「お待たせしましっ…わっ―――ふぎゅ!」

 

 

いきなり舌をかみ、つまずき、顔面から転ぶ。おまけにそれでスカートの中身がお披露目という圧倒的コンボを見せつけたのは普段は小袖に緋袴という巫女服に身を包んでいるが今は私たちに渡されたようなメイド服を着ている道明寺歌鈴さんです。

 

「だ、大丈夫ですか」

「だ、大丈夫でしゅ!何時ものことですから!」

「これ…どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「私は払ってあげるね」

「すみません…」

 

島村さんに心配され手を貸してもらい、緒方さんにはハンカチ、小日向さんからはついた砂を払ってもらう道明寺さん。

 

「うむ、いつ見ても見事なものだな」

「今時芸人でもあそこまでしませんよ」

 

でもこれでドロワーズの理由がわかりました。

コケそうですもんね…三人とも。

 

「そんじゃあ道明寺以外さっさと着替えて来いよ。仕事は待ってくれないぞ」

「はい!頑張ります!」

「それじゃあ行ってきます」

「わ、わかりました」

 

着替え以前になぜ仕事をすることになったかの説明が欲しいんですが…

 

「それじゃ、俺も服を着るか」

 

なんて疑問は私たちが行った後に聞こえてきたそんな先輩のつぶやきがぶっ飛ばしていきました。

 

 

 

 

 

 

 

先輩に覗かれるという割と頻発する事件が起こることもなく無事着替え終え、美城カフェに戻ってくるとそこには

 

 

「ヒャッハー!」

「ヒィーハァ!」

「FHooooooo!」

 

厨房で手が霞む速さで野菜を刻んでいる武内さん。そして瞬く間にパン生地を練り上げていく下川さん。最後にパンケーキををあり得ない高さまでフライ返しして焼いている先輩。全員ギャルソン姿で。

 

…地味に似合っているのが腹立たしいですね。

 

そして、そばでコックコートを着て膝をつき佇むもともとの調理担当の方々が可愛そうです。

あ、よく見るとまぎれて佐久間さんが指が霞む速度で写真撮ってます。

 

「ジョニーさん、着替え終わりましたけど」

 

初めてこんな光景を見て衝撃を受けている緒方さんと小日向さんに代わって比較的先輩になれている島村さんが話しかけます。

 

そして来てみて分かったんですが、各々でちゃんとメイド服にアレンジが入っていました。

 

島村さんのものはコルセットが付き、スカートが一度膝近くで絞るようになっている女性の体らしさを強調する形に。

小日向さんはフリルが多めになっており袖や裾のほかにも胸元や頭につけたリボンにもふんだんにレースであしらわれている。

対して緒方さんはリボンが大きく、胸元の腰後のものは特に大きく、おそらくボリューム増量だと思われます。ですがお人形さんのようなかわいらしさには磨きがかかり、ありていに言ってしまえばとてもかわいらしいです。

 

私のですか?私のはいいじゃないですか。気にしないでください…ホント

 

「お、三人ともにあってるぞ~。けーちゃんはあれだな。デザインしといてなんだがプリキュアだなそれ」

「言わないでください!」

 

うぅ…なんで私だけコスプレ…

 

あ、メイド服の時点でコスプレですね。

いや、何の慰めにもなってませんけど。

 

「それじゃあ3人は接客な。注文を聞いて品物を運び、おいしくな~れと魔法をかける。そして食べ終われば食器を下げまたのお越しをお待ちしておりますかっこハートかっこ閉じと言うだけの簡単なお仕事だ」

 

それはもうメイド喫茶では?

 

「はい!島村卯月、頑張ります!」

「がっ、頑張ります!」

「が、がんばり…ます」

 

気合十分の島村さん。少し恥ずかしそうな小日向さん。沸騰している緒方さん。

大丈夫でしょうか、このメンバーで…

 

「ま、現場じゃうさみんの指示にでも従ってくれや。うさみんはうさみんで巫女任せて来たから大変だろうけど。それじゃぁ散開」

 

その言葉であるものは張り切りながら、あるものはおずおずとホールに出ていきます。

そこには、前回の中華をやっていた時のようなお客さんの人数。

そして宙を舞う道明寺さん。

 

 

…だめかもしれませんね。

 

そう思いながら道明寺さんに巻き込まれ、ToLOVEる的な感じになっている安部さんから目を離しました。

あと先輩。ルパンダイブはだめです。

 

 

 

 

 

 

 

 

結果としては私たちはさばききることができました。

小日向さんが転びかければ先輩がいつの間にか受け止めており、緒方さんが注文を聞く際にテンパってしまったときは安部さんがそばに寄り添って落ち着け、島村さんのダブルピース満面の笑みにやられお客様が心臓発作を起こし先輩により蘇生され、道明寺さんがメニューを運んでいる最中なぜか転がっていたバナナの皮で転べば先輩がメニューをすべてこぼすことなく受け止め皿回ししながら届け、緒方さんの『お、おいしく…なぁ~れ♡』をもろに食らったロリコンが拳を振り上げ天を割り、冥途送りされたのを橘さん(メイド)で蘇生し、いつの間にか鷺沢さん(エプロンドレス)が厨房で先輩に料理を習い始めており、私がカメコに囲まれ撮影会が始まり最終的には佐久間さんの撮影講座が行われ、最終的にはストーカー講座に。道明寺さんが木の枝に引っかかれば先輩が木を揺らして落とし、なぜかあった落とし穴に落ち、予想以上の深さのそれをお客様含めみんなで協力し救い出し連帯感を得、そこから宴が始まり、道明寺さんはその真ん中で神楽舞。私たちは『もう席なんて関係ないぜYeeeeeaha!』なんて状態のお客様の間を縫いながら注文を聞き配達。お客様にぶつかりよろめいた緒方さんの手を先輩がとり、社交ダンスをキメ、そこからなぜカフェ中央はダンスホールに。etc…etc…

 

もう、意味が分からないほどいろいろなことが連続しておきました。

『あれ?私今何してたんですっけ?』と思ったのも1度や2度ではありません。

 

今はバカ騒ぎし過ぎ、用意していた材料が底をつき、本日の営業終了に追い込まれてしまいました。

それだけ働いていたにもかかわらず佐久間さんに縛られ、抵抗しながらも引きずられていく下川さん、包丁の手入れを終えてその輝きを確認し戻っていくドスを構えたあっちの人に見える武内さん。そして『いや~楽しかった!』って顔で橘さんを高い高いして遊ぶ先輩。高いが冗談なく高いからもう歓声じゃなくて悲鳴ですね。

 

そして対照的によれよれの状態で突っ伏す私たち。

あれだけ元気なのがおかしいんです。

ほら、普段からウェイトレスをし慣れているはずの安部さんでも突っ伏してるんですよ?

だから私たちがこの状態なのは普通なんです。

 

「うさみん、胸もんでいい?あーたんのじゃ物足りなくてな」

「いいわけないじゃないですか、ロリコン」

「おいおい、俺は大きいのも小さいのも好きだがロリコンではないぞ?」

「12歳の女の子の胸をもんでロリコンじゃないなんて面白い冗談ですね、きゃは♪」

「きゃは♪に殺意と軽蔑しか感じなかったんだが?」

「正解です♪」

 

あ、意外に元気ですか。そうですか。

 

「まぁ今日は売り上げがよかったので許してあげます」

「おう、あんがとさん。これで補填にはなったかね~」

「胸をもむのは許してませんからその手を引っ込めてください」

「ちっ」

「舌打ちすると今日の帳消し分なしにしますよ?あはっ♪」

「可愛い声に殺意こめるのやめてくんね?」

 

先輩と安部さんの会話で引っかかるところが一つ。

 

「…先輩、帳消しって、何ですか?」

「帳面に記載しておく必要がなくなって棒線で消すこと。 金銭などの貸借関係が消滅すること。債務が消えること。互いに差し引いて、損得がなくなること。ある物事によって、それまでの損得などの価値が失われることだな」

「辞書的な意味じゃないです。この仕事で先輩の何が帳消しになったんですか?」

「あぁ、そっちね。前に中華でジャックした時に美城カフェが赤字ってな、その分の責任を取って来いって常務にどやされてな」

「それで今日1日働いてもらってたんです」

 

悲報、レッスンなんてなかったんや…

 

「それじゃあっ今日のレッスンどうするんですかぁ!」

「これも立派なレッスンだ」

「どこがですか」

「俺がレッスンと言えばそれがレッスンとなる」

 

どこの独裁者ですかこの人は!

 

「ま、今日1日でちえりんもみほりんもだいぶ人に慣れただろ」

「あ…」

 

確かに最初の方は上がってミスすることも多かったですけど最後の方はテンパることもなく仕事ができてましたね…

 

「…そういう意図があるなら最初から言ってください、先輩」

「ははは、言って変に意識したら逆効果だからな」

「雄くんは効率厨みたいなところもあるから理由なくあんまり無駄なことはしないんですよ」

「それじゃあ裸の頻度が多いことにも理由があるんですか?」

「脱ぐ手間が省けるだろ?」

 

脱ぐことを前提に置かないでください。

 

「疲れて寝ちまってるな」

「ホントですね」

 

先輩の言葉に突っ伏した3人を見ると3人とも寝息を立てていた。

 

「そんじゃ、今日のレッスンもこれまでだな」

「ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで橘さんと鷺沢さんは何で?」

「私はその…料理を教えて貰いに」

「私は文香さんのボディーガードです!」

「先輩。本当のところは?」

「俺がふみふみをコスプレさせるのが好きなだけだ」

「雄くん可愛い服作るの好きですもんね」

「あぁ、俺の欲望によってつくられ、さらなる欲望を与えてくれる…だからやめられねぇぜ」

 

似合わないにもほどがあります!

そして理由はやっぱそこですかぁ‼

 




次1話ぐらいやったら昔話やりますわ、みなみんとの。

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