ってことで暫くまたお休み。
私は午後からのレッスンに間に合うように余裕を持って美城に訪れたんですが…
「なんなんですか、この人だかり…」
まだ時間があるのでと立ち寄った美城カフェ。
確かに軽食が取れるのでお昼ごはん時に賑わうことはあるのですが…
全席埋まっているうえ、臨時で出されたのであろう席も完璧に埋まっておりそれでもなお人があふれている様子なんて見たことありません。第一美城の社員しか利用しないのでそこまで人が集まるはずはないんですが…
そしてなぜか食べているものが皆さん中華。
麻婆豆腐、餃子、焼売、炒飯と王道的なものなどが各々の机に並び、どれもおいしそうです。
おいしそうなのはいいですがなぜ中華?
今までのカフェメニューにはそんなものありませんでしたよね?
いつからそんなジョブチェンがなされたんですか。
と、そこでよく見て見るとカフェのレジやカウンターは不思議と混雑しておらず、人が集まっているのはその少し横に外れている場所だということに気付きます。
なぜか嫌な予感がします…。
見たいような、見たら疲れずにはいられないような…そんな不思議な気持ちです。
それでも、何とか自分を奮い立たせその人ごみに飛び込みます。
そして目に飛び込んできたのは艶やかな濃紺。
その濃紺の下地に施された金と黒の精緻な刺繍。
そしてその濃紺から覗く、対照的に白く艶やかな肌。
まぁありていに言ってしまえば…
チャイナドレスを身に付けた鷺沢さんがいた。
チャイナドレスを身に付けた鷺沢さんがいました!
普段、その瞳を隠している髪はカチューシャでかからないようにされ、後ろ髪は三つ編みにしたものをお団子状にまとめられ、フジの花を模したような簪が刺されていた。
そしてチャイナドレスのスリットからはその白い足がのぞき、ワンポイントとして黒のレースのガーターリングをつけている。
なんと言いますか…えちぃです。恥ずかしさからうっすら肌を桜色に染めているところがさらに。
そしてその釘付けになりそうな目を少し外すと今度は
同様にチャイナドレスに身を包んだ安部さんが接客しています。
普段のメイド服はどこに捨ててしまったんですか。
そのチャイナドレスは鷺沢さんのものとは異なり、白地に桜色と薄い黄緑で刺繍されたボタンの花が印象的です。
そして一番の違いはその丈です。鷺沢さんのはくるぶしまで裾があるのに対して安部さんの方は膝上丈。簡単に言ってミニスカチャイナ。鷺沢さんの深く入ったスリットとは対照的にそのスリットはタイトスカートのものに近く、最低限足の動きを邪魔にしないようになっている。
加えて今の安部さんは普段ポニーテールにしている髪を下ろしており、どこか大人の女性の色気があるように感じられる。
さぁ、ここまでは問題ないです。
いや、ないことはないんですが…もっと奇抜なものがその奥に控えています。
いえ、一部は大変よく似合っているとしか言えないんですが…
いろいろ考えてはみるが、目をそらしていても何も始まらないため諦めて意識をその奥の仮設調理場に向ける。
そこでその腕を振るっているのはもう皆さん予想尽きますよね?
チャイナドレス姿の新田さんです。
その色は純白ですが前者2人とは異なり無地。派手な刺繍は一切されていないに関わらず、寂しさを感じるどころかある種の触れてはいけないような美を生み出している。
そしてそのつややかな亜麻色の髪は後ろで大きな三つ編みにされ料理の邪魔にならないようにされていた。
どこからどう見ても清らかな乙女なのだが、その腕で振るうのは女性が振るうにはいささか重量がある中華鍋。それを片手で軽々振るい、もう一方の手に持ったお玉で鍋に調味料などを入れていく姿はアンバランスながらも不思議な魅力があった。
「ホォアァチャァァ~‼」
そしてこうやって意識をそらしているのに耳に入ってくる圧倒的存在感を放つその叫び声。もう視界を逃せる場所がなく、しぶしぶとだが、本当にしぶしぶとだが、その存在に目を向ける。
そこにはものすごい勢いで中華鍋を振るう『鉄人』と達筆で書かれた黄色に黒いラインが入ったトラックスーツを身に纏う巨漢。
騒ぎあるところにこの人あり。
私の先輩がいた。ブルース・○ースタイルで。
「それで先輩。今回は何やってるんですか?」
「見て分からんのか?」
そう言って呆れた顔をする先輩。
分かってたまりますか、こっちは一般人で常識人なんですよ。
「金儲けだ」
「シンプルにゲスいですね」
まじトーンで、さらに真剣な顔で、炒飯を宙に舞わせながらそう告げる先輩。
ただのゲスでした。
「そもそもこの設備と材料、それに衣装はどうしたんですか?」
「設備はよくこんなことやってるから前の使いまわしだ。材料と衣装はほぼタダだ」
「へ?」
「これ、ほとんどもらいものなんです」
惚けてしまった私に補足説明してくれる新田さん。
「この前のラジオで知り合いがいろいろ結婚祝いだって送ってきてくれてな。地元で採れた野菜だとか肉、さらにはちょっと中国で稼いできたお土産だって言って大量の香辛料にシルクの布送ってくれてな」
「それがもう私たちの食べきれる量じゃなかったんで、どうせならこうやって振る舞ってしまおうってことになったんです」
「いや、誤解なのに受け取っちゃっていいんですか?」
私の知る限り、この2人の結婚話はないはずなんですけど。
「貰ったものは俺のものだ」
「反論しにくいジャイアニズムですね」
良心的なレベルのジャイアンです。
「それより貰ったものが布って…チャイナドレスじゃないんですか?」
「あ、これですか?雄くんお手製ですよ」
そう言ってすごいでしょ?と笑う新田さん。
「いえ、そんなレベルではない気が…」
つまり、あの鷺沢さん、安部さんのものに施されている精緻で優美なあの刺繍もこの先輩が施したということになります。
器用なんてもんじゃないですよ!
「どうしてそんなことできるんですかっ!できないことなしですか‼」
「どうしてって言われてもなぁ…こんなものを着たらエロいだろうなってそうそうしたら自然と手指が動いただけだ」
ヤバいです。想像以上の超人でした。
「ほら見てくれよ、普段服に隠されて分からなかったふみふみのあの肢体。まずはあの綺麗な目、そして程よく羞恥に染まったうなじ。そしてちらちらと覗く脇。着やせてて分からなかったあのつんと上を向いた美乳、そしてそこから安産型のお尻絵の優美な腰のライン。そしてスリットから除くまぶしい太もも。たまんねぇなぁ。
うさみんの方も子供っぽかったのを髪を下ろして軽くリップを塗るだけで表情に色気が出て、身長の割に大きなその胸、くびれ、まだたれを知らない張りのあるお尻と見事なトランジスタグラマー。うん。俺いい仕事したなぁ」
確かに見事としか言いようがないんですけどこの男が言うだけで変態性が5割増しに感じるのは普段の行いが原因なんでしょうね。
「雄くん、私にはないんですか?」
「ん?お前のは見慣れてるしな、うん。似合ってる似合ってる」
「適当すぎです」
私がどんびいている隙に行われるいちゃこら。
それより見慣れてるってどういうことですか。場合によっては暴動が起きますよ。ミナミンスキーによって。
「それより暇ならレジやってくんね?思った以上に人来て大変なんだけど」
「はいはい、わかりましたよ。やりますよ」
どうせ断っても無駄でしょうし。
そしてレジに入り、会計を行うんですが値段を見てびっくり。
どのメニューも高くて200円。安いなんてものじゃありませんけどこれ!?
そうこう思っているうちに、昼本番となりさらに増えてくる客足。
流石の先輩もこの人数を2人で捌くのはつらいのか、並んでいる列の消費がどんどん滞っていく。
そうすると何を思ったのか、急に指笛を噴く先輩。
高らかに響くその音。そして一拍。
「「よんだか(呼びましたか)?」」
上空から降ってくる2人の男性。下川さんと武内さんです。
というより上から?上を確認。何もない。何をどうやって現れたんですかこの2人…
「すまんが手伝ってくれ、報酬は弾む」
「「報酬は?」」
「秘蔵エロほ…「「了解した(です)」」
先輩の条件を飲み、そのジャケットを脱ぎ捨てネクタイを緩める。
そのしぐさはとても様になっておりかっこいいのだが動機が不純すぎる。
「中坊は食器洗い、たけちゃんは食材の下処理を頼む」
その先輩の指示に従い、2人はそれぞれの得物を構える。
下川さんは泡にまみれたスポンジをキメ顔で。後ろに佐久間さんが佇んでいるがたぶんスタンドでしょうから気にしたら負けです。
武内さんは包丁を。…ドスを構えた『ヤ』から始まって『ク』でつないで『THE』で占めるものにしか見えない。
ですがその御点前は2人ともすさまじく、下川さんはまるで二人いるのではと思うようなスピードで洗い物を消費していき、武内さんも見る見るうちに指示された分量、形に切り分けていく。
そしてすさまじい速度で回るようになった厨房に対し、忙しさが変わらないどころか次第に忙しくなるフロア担当の2人。
「あ~あ!この俺の匂いが染みこんだ服どうしよっかなぁ~!」
唐突に意味の分からないことを叫ぶ先輩。
「呼んだ!」
途端に目を輝かせた、もし犬だったなら舌を出し、尻尾を千切れるほどぶん回しているだろうと思わせるほどの一ノ瀬さんが出現した。
意味把握。
「フロアでふみふみとうさみんの手伝いをしてくれたらこの死亡遊戯はくれてやろう」
「わ~い!やるやるぅ♪」
「ほい、衣装」
そう言って紅色の生地に白で白衣を思わせるような装飾をされた胸元の開いたチャイナドレス。
…用意良すぎません?
「ちょっと志希!急にどうしたのよ」
そう言って着替えに行った一ノ瀬さんに遅れてやって来たのは苦労人・美嘉さんです。
「やっぱり来たか。ちょっとフロア手伝ってくれ。志希もやるしな」
「え?まぁ大変そうだし手伝ってもいいけど」
よく状況を理解できてないまま流されそうになる美嘉さん。だが、
「これ衣装な」
またどこからか取り出されたそれは紫を主体にところどころに金の装飾や様々なアクセントが入れられた、上下セパレートタイプのチャイナ服。
「えぇ!?誰がこんなもの着るのよ!」
「シスコンが」
「私シスコンじゃないから違うわね」
「ハッ…自分のキャラも把握できてないとは。これだからカリスマギャル(笑)は」
「何ですってぇ!」
「姉ヶ崎もチャイナ服着た方がいいと思うやつぅ‼コールよろしくぅ‼」
その先輩の叫びによって湧き上がるチャイナコール。アイドルコンサートのコール並みです。
「も、もう!着ればいいんでしょ着ればぁ‼」
結局着ることになった美嘉さんのその叫びに沸き上がる会場…じゃなかった、あくまでカフェのホールです。
こうして厨房、ホールともに安定して回りだしました。
そして聞こえてくる『こんなもの喰ってるとビール飲みたくなってくるよなぁ』の声。
そんな声を聞き逃すはずもない先輩。ですがここはカフェ。ビールサーバーなんて
「あるに決まってんだろぉおお!!!!」
「「「「「「「「「FHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!」」」」」」」」」
「今回の飲み代は俺のおごりだぁ!飲んでけや社畜度もぉ!!」
「「「「「「「「「YEAH!!Let's Party!!!!!」」」」」」」」」
もうなんなんですかこの職場!まともな男性職員いないんですかぁ!
「「「「Yeah!Let's Party!!」」」」
そう言ってジョッキを掲げている姫川さんをはじめとした成人アイドル達。
……この会社ってなんで潰れないんでしょうねぇ、はは、ははは
「雄くん、飲みながら料理しないでください」
「美波も飲んでるじゃねぇか」
「うふふ、ちょっとしたお茶目です」
「お~い!ふみふみもうさみんも飲もうぜ!」
「…はい、少しだけなら」
「菜々は17ですから!あ、でもうさみん星では17でもう大人なので頂きます!」
「ず~る~い!アタシも飲んでいい?」
「だめに決まってるでしょ、志希」
「忠文さん、まゆが注いであげますよ」
「まて、何を混ぜた。何を混ぜよった!?」
「どうですか?武内さんも」
「…ありがとうございます、高垣さん」
「いえいえ、構いませんよ」
爆発してくださいもう!!
PS.後日まとめてちひろさんに減給くらわされました。
誰かチャイナふみふみをください…
ぜってぇえろいからぁ
って話だ。