あと困らせたい顔してる。同意してくれ、誰か。
私、青木慶は今日からついに!
体育系の短大に通いながらお姉ちゃんの勤める職場で見習いとして働かせてもらえることになりました!
私の家は両親もトレーナー、私のお姉ちゃん三人もトレーナーといったトレーナー家族!
私も両親やお姉ちゃんに負けない立派なトレーナーになれるようにこれから頑張ります‼
って意気込んでたんですよ、私も。
あれから一年たち私は19歳になりました。そして…
「HAaaaaaaHAHAHAHAHAHAHAHA‼さぁ今日もお仕事頑張ろうかぁ!」
私の先輩トレーナーにして私を指導してくれている直属の上司。
日に焼けた身体、太陽光を照り返す輝く頭、これまた太陽を反射する白い歯、前見えてるのと思うような細い目、そして筋肉。筋肉。筋肉。見るからに筋肉。見せ筋というよりは日常的に使うことによって鍛え抜かれた機能美を持った筋肉。
そんな男性、ジョニーこと多摩袋雄(タマブクロユウ)と出会ってから一年ということである。
そんな彼との出会いは一年前、姉に連れられ美城プロダクションの案内をされた時だった。
「お姉ちゃんってやっぱりすごいなぁ…こんな大手のプロダクションでアイドルにレッスンしてるんだもん」
「ははは、慶だっていつかは一人前になって多くのアイドルにレッスンをするようになるさ!」
そう言って笑いながら私を案内してくれるのは私の姉の一人である青木聖。もう五年もこの美城でレッスンを行っているベテラントレーナーなんです!厳しくても身になるって好評なんですよ!私も早くそうなりたいなぁ…
そのまま聖姉さんに案内してもらって最後についたのが第一トレーニングルーム。
広い鏡張りの壁にきれいに磨かれた床。こんなところでレッスンをできると思うと今からわくわくします!
「慶、どうだ、美城の設備は?」
「すっごいです!」
そうやって目を輝かせる私を笑うお姉ちゃん。む~だってすごいんだもん。
ジムの設備もよかったし、エステルーム、マッサージルーム、ジャグジーだってあるんだもん。
「っほん、それではお前の教官となる人をこれから紹介したいと思う」
「あれ?お姉ちゃんじゃないの?」
てっきりお姉ちゃんがいろいろ教えてくれるのかと思ってたんだけど…
「私たちは家族なんだ、知ろうと思えばいつでも方針やメニューを知ることができる。というより私たちの方針とかは慶ももうよく知っているだろう」
それは当然である。両親のように、姉のようになりたいとずっと見てきたのだ。わからない訳がない。
「そこで、別のトレーナーのレッスンがどんなものか知ったほうがいいのではないかと思ってな。だから今回はこの美城にいる私たち以外のトレーナーにお前を任そうと思う。それじゃあ紹介しよう!
入って来い!」
お姉ちゃんがそう声を張り上げると
…………
静寂のみが帰ってくる。
「あの…お姉ちゃん?」
「まぁまて、ちょっと待て」
そう私に言って携帯片手に少し離れるお姉ちゃん。
そのトレーナーさんに連絡を入れるのかな?そう思っていると途端にどっぱーん‼‼という破砕音が私の後ろで鳴り響く。
「ひっ!」
その音に思わず悲鳴を上げながら振り返るとそこには…
トレーニングルームの戸を開けた格好のまま全身から湯気を立ち昇らせる海パンのみ身に付けたスキンヘッドで筋骨隆々とした男性がいた。
「ひぃぅっ!?」
思わず二回目の悲鳴。尻もちまでついてしまった。
後に振り返れば界王拳5倍状態の海パン男がいれば当然驚くであろう。
「すみません!遅刻しました!」
「人を紹介するからあれほど遅刻するなと言っただろうがぁ!」
「すみませんでした!海流が予想より穏やかだったため時間がかかりました!」
「…まぁいい、まずは紹介だ
この腰を抜かして涙目のが私の妹でありお前が指導するルーキートレーナー・青木慶だ」
「青木慶さんですね、私は多摩袋雄と言います。ジョニーと呼んでください。これから仲良くやりましょう」
何が何だかわからない私をよそにどんどん進んでいく顔合わせ。
「ほら慶、慶も挨拶だ」
「あ、その…あ、青木慶です。よろしくお願いします、多摩袋先輩」
「いやぁ、女性が玉袋という言葉を口にすると興奮しますねぇ‼」
そう言ってジョジョ立ちを決める多摩袋さん…って私はなんて言葉を口に!
真っ赤になっておろおろする私をよそに
「貴様何ヒトの妹を辱めているんだ!」
「辱めてなんかいませぇ~ん。ただ名前を呼ばれただけでぇ~す」
「存在が猥褻物なくせして何を言っている!」
「褒め言葉だ!」
と言いあうお姉ちゃんとえっと…雄先輩。なぜお姉ちゃんは九割裸の男と取っ組み合いしながら言い合えるのだろうか?
「もう知らん!慶!これから長い付き合いになるんだ。美城のカフェで脳内猥褻物とお互いを知るために話して来い」
「おい、脳内猥褻物ってなんだ?俺の頭の中はさらせないことばかりだってか?あたりだ‼」
「いいから早くいって来い!」
こうして私は口を出す前にどんどん先に話は進んでいく。
場所は姉の案内にもあった美城カフェ。
そこにラウンジに向かい合って座るのだが…
「なぁうさみん、腰痛大丈夫か?」
「あ、最近は平気…じゃなくて!菜々は十七歳なので腰痛なんてあ、あるわけないじゃないですかぁ!」
「なぁ胸もませてくんね?」
「菜々の話を聞いてますか!?だめに決まってるじゃないですか!!」
「注文はおっぱいと尻、あとこの子にコーヒーな」
「コーヒー1つ了解しました!」
「おい人の話を聞いてたのか?耳まで遠くなったか?」
「菜々は十七歳!まだまだぴちぴちなんですぅ!」
「この子の肌と自分の肌比べてみ」
「うわぁぁぁぁん!」
私の頬をつっついてから泣きながら去っていく店員さん。
「ああ、気にしなくていいよ。いつもだから」
それはそれで逆に気になる。
「あらためまして、俺は玉袋雄、ジョニーって呼んでくれ」
「じょ、じょにぃ?」
「そう、あだ名みたいなもんだ。玉袋とジョニーの二択だからな、呼び方は」
「ジョニー先輩でよろしくお願いします」
「あいあい、で君は?」
「あ、私はトレーナーの青木姉妹の末っ子の慶です。十八歳です」
「あいあい、けーちゃんね」
「これからよろしくお願いします」
「そんなかたっ苦しくならなくていいよ?」
頭を下げる私に軽くそういうジョニー先輩。
「だって俺まだ二十歳だし」
「え″」
目の前の相手を見る。身長は190を超えてそう、丸めた頭、鍛え抜かれた肉体、おじいさんみたいに細い目。
うん、二十歳にはまちがっても見えない。
「それにこの人は敬う価値なんてない人なんです!」
そう言いながらコーヒーを私の目の前に置くさっきの店員さん。
「おいおい、俺のどこに価値がないというのだ?」
「使ってないなら切り落としちゃえばいいんですーだ」
「貴様…俺のBIGマグナムに対して何たる言い草だ!ねじ込むぞこんちきしょうが!」
この2人はなんの会話をしているんでしょうか?
「お前だって未使用だろうが!その年にもなって!」
「菜々はまだ十七歳ですからそれが普通なんですぅ!使ってる方がおかしいんですよーっだ!ほんと焦ってなんかないんですからね!」
「…なんかごめんなうさみん」
「…いえ、いいですよ、ほんと焦ってなんてないですから。まだ若いですから。まだ結婚適齢期ですから」
「おい設定…いや、いいや。今度飲みに行こうや」
「…はい」
一体何のお話だったんでしょうか?暗い雰囲気になっちゃいましたけど。
「そういえば今日は何で遅刻されたんですか?お姉ちゃんすごく焦ってましたけど」
「頑張れようさみん……ん?あぁ、遅刻の話ね。単純にちょっと里帰りしていただけだから」
「あ、そうなんですか」
「そうそう、だからこんな恰好のまんまできちまうことになったんだよ」
「そう言えばなんで水着なんですか」
現在は春、水着は当然適さない季節である。
「泳いで帰って来たから」
「へ?」
「実家から東京まで五日もかかったぜ」
「実家って…」
「どっかの島」
どっかって、どっかって何ですか!もう意味が分からないんですけど!
「いやぁ東京湾まで泳いできてからそっから走りだから結構な運動になったわ」
人はそれを鉄人レースと呼ぶ。距離が全く違うが。
「しかも途中で警察がおってくるしなぁ。撒くのにこれまた時間かかっちゃてな。これが遅刻の理由だ」
「……」
もう意味が分かりません。どんな体力してるんですかこの人。と言うより食事とかどうしたんですか。第一船はないんですかとか…
私の思考がえらいことになっていると
「警察のものですが署までいいですか?」
「げっ」
ようやく追いついたのであろう警察に先輩は連行されていった。
「え?」
こんな人がこれからの私の指導係なんですか?
冷え切ったコーヒーがとてもむなしかったです、まる
ルキトレの受難の始まり。
ちなみに主人公の名字は主人公の先祖の家が多摩さんと池袋さんって家の間にあったから多摩袋にしたっていうどうでもいい設定があります。
無視していいよ。