戦車道は衰退しました   作:アスパラ

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妖精さんと、おおあらい
第8話


「なるほど、あんたたちは国連の調停理事会ってとこに所属してる調停官で、妖精さんとのトラブルを調停している、と」

 

「そんなところです」

 

「で? 本当は?」

 

「それが本当です」

 

 会長さんがうさんくさげに私たちを眺めます。

 

 彼女は生徒会という、学生自治組織の会長で、この船全体を取り仕切っている役職についているようです。

 

 まだ学舎(この時代は学校と呼んでいるようです)が世界中あちこちにある時代なようで、なんとこの学校には13歳から18歳までの女子生徒だけが9000人も通う、衰退後の世界からしたらとんでもない規模の学校でした。これでもなんとこの世界では小規模みたいです。

 

「そんなバカみたいな話があるか!」

 

 私たちの話を聞いて、モノクル少女の広報さんが怒鳴ります。

 

「念のため調べましたけど、国連に調停理事会なんてものはありませんでした」

 

 ノート型携帯端末を操作しながら、副会長さんも困ったように首を傾げました。

 

 どうやら、まだ妖精というものが認知されていないほどの大昔に来てしまったようです。

 

 私の見解としては、ここは過去ではない、別の世界ではないかと睨んでいるのですが、ややこしいんで文章上「過去」と表現させていただきますね。

 

「ふーん」

 

 会長さんの目は、今からわたしたちをどう料理してやろうかと思案する目です。年下のはずなのに、その視線にはどことなく大物のオーラが出ています。

 

「嘘つくにしてももっとまともな嘘つくよねぇ」

 

「ここ一週間、戦車を積んだという連絡船も、また戦車が積めるような貨物船も、学園艦には停泊していません」

 

「戦車の様子を見た自動車部からの報告ですが、カーボンや撃破判定装置など、戦車道のレギュレーションを満たしていない部分が多くあったようです」

 

 広報さんと副会長さんがそれぞれ報告し、会長さんは口元を抑えました。

 

 おそらく、我々は侵入経路と所属を疑われているのでしょう。それもそうです。向こうからすれば、突然絶海の孤島(船?)に現れたのですから。

 

 ですが、妖精さんの存在を認めない以上はその謎を解くことはできません。一応休眠状態の妖精さんを見せたのですが、見た目ただのボールと変わらないので信じてもらえませんでした。

 

「ええっと、あたしたち、どうなる?」

 

 Yが遠慮がちに訊ねます。それは目下最大の問題です。おそらくこのままでは、この国の警察組織に引き渡されるのでしょうが、そのあとはどうなるのでしょうか。身寄りも、経済基盤もないわたしたちにとって、通貨経済真っ盛りのこの世界で生きていくことは結構なハードモードですから。

 

「うーん。そっかー、そうだねー」

 

 すると会長はにやりと笑いました。悪戯を思いついた悪ガキのようでした。

 

「転校する? うちに」

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

 この場にいる全員、会長と見知った間柄であるはずの広報さんと副会長さんの声も重なりました。

 

困惑するわたしたちを置いて、会長は1人うんうんとうなづきます。

 

「うん、それがいいねぇ。かーしま、用意しといて」

 

「は? はぁ……」

 

「ちょ、ちょっと待ってください‼」

 

 わたしは思わず待ったをかけました。

 

「自分で言うのもなんですけどわたしたち身元不明者ですよ! 何しでかすかわかりませんよ!?」

 

「ま、どこかやるよりは手元に置いとく方が楽だし、それにさ、戦車の腕」

 

「戦車ですか?」

 

「そうそう。我が大洗女子学園が君たちみたいな優秀な戦車乗りを求めてるってわけ」

 

「いくらなんでも適当すぎませんか!?」

 

 そういう適当な上司のもとで働く部下の気持ちも考えて頂きたいものです、一介の中間管理職としては!

 

 と心中で抗議していると、Yがすごい目でこちらを見てきました。お前が言うな? まあ、勝手に心を読まないでください。

 

 我々が視線で牽制しあっているなど気にせず、会長は続けます。

 

「でもさあ、行くとこないんでしょ?」

 

 痛いところを…。帰る方法もわからない以上、しばらくこの世界に身を置く必要があるのは明白でした。

 

「うちの学生になって戦車道やってくれたらさ、ひとまず衣食住は保障するけど」

 

「……ここ、女子専門学校ですよね? 助手さん男性ですけど」

 

「……かーしま、こやま、どう思う? 私にはかわいい女子に見えんだけどなー」

 

「………し、少女です」

 

「お、女の子なんじゃ、ないでしょうか?」

 

 おおっと、ここでジャパニーズの特技、同調圧力が炸裂しましたよ。

 

「えっ!? いや、自分は」

 

「お・ん・な・の・こ、だよねぇ?」

 

「ひぃっ!?」

 

 さすがの助手さんもうろたえますが、会長は強引に進めました。公務員としては見習いたいほど惚れ惚れする横暴っぷりです。

 

「初対面の3人中3人が言ってるんだから問題なし問題なし! これから仲良くやろうねぇ」

 

 こうして、わたしたちの学舎生活が始まりました。始まってしまいました。

 

 ……わたしとYとKさんはもう立派な大人なんですけどね。

 

 ………助手さんにいたっては女学生扱いなんですけどね。

 


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