戦車道は衰退しました 作:アスパラ
「こちらウサギさんチームです。D23地点に到着しました」
車長、澤梓が報告すると、すぐにみほから返答があった。
『わかりました。そこから反転して北西方向に進んでください』
「了解。桂里奈、北西に進んで、森の中に入るよ」
「あーい」
「ねえ、あれ、Ⅳ号じゃない?」
優季が突如声を上げた。
「え? あんこうチームならCエリアにいるはずだけど」
その時、轟音とともにすさまじい衝撃がリーを襲った。
「Ⅳ号発砲っ!?」
梓はとっさに横ののぞき窓から外を見た。
「なんでっ……」
それはたしかに、見覚えのあるⅣ号戦車だった。
「こちらうさぎ! 先輩! 先輩が攻撃してるのは私たちです! やめてくださいっ!」
梓は咽頭マイクを抑えて叫んだ。しかし帰ってきた返事は、
『え……? 私たちは今、移動中ですけど……』
困惑したみほの声だった。
「いいえっ! 私たちは今Ⅳ号戦車から攻撃を受けて、キャアッ」
さらに攻撃を受け、無線が途切れる。
「撃破されちゃったよー」
「ちょっとなんでーっ!?」
「そんな……」
梓はばっと砲塔から身を乗り出した。Ⅳ号は砲塔から煙をくゆらせながらゆっくりと交代し、木々に紛れて見えなくなった。
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「みぽりん!? うさぎさんチーム撃破されたって!」
「え!」
みほは沙織の方に体をのめらせる。
「撃破したのはどこですか!」
「みんなはⅣ号だって言ってる!」
「見間違えたんですかねえ?」
優花里が首を傾げる。あんこうチームは、リーとは反対の方向におり、当然試合が始まってから一度発砲していない。
「3突あたりと見間違えたんじゃないでしょうか?」
「……いや、それはないと思う。車高が違うし、何よりウサギさんチームが大洗の戦車を見間違えるっていうのは考えにくいから……」
「幽霊戦車っていうところでしょうか?」
「い、五十鈴さん!? そんな恐ろしいことを言わないでくれっ!」
麻子が青い顔で、華はなぜかわくわくした調子で言った。梓との会話の内容は、すでにチーム内に伝達されているのだ。
「……沙織さん、共通回戦につないでください」
「了解!」
無線の周波数が、非常連絡用の共通回戦につながる。
「みなさん、聞こえますか?」
『こちらカメ。なんだ』
『カバだ』
『はい! あひるさんチームです!』
「正体不明の戦車が紛れている可能性があります。なので、演習を一時中断し、いったん点呼を取ります」
『正体不明? なんだそれは』
桃の不機嫌そうな声が返ってくる。
「わかりません。ただ、ウサギさんチームがあんこうチームではないⅣ号に攻撃を受けたみたいで」
『……我々もお前たちに、Ⅳ号にやられたのだが』
「っ!? それはどこでですか?」
『D10だ』
「……作戦を変更します。動ける車両は、Dエリアに集まってください。正体不明車両はその付近にいると思います。車種はⅣ号です。あんこうチームは、私が砲塔から顔を出しています。出会ったⅣ号に私がいなければ、それが目標です。遭遇したら安全に注意しつつ走行不能に追い込んでください」
『『了解』』
「麻子さん、」
「わかってる」
麻子は戦車を急転回させた。
「学園艦演習地に戦車で侵入って、いったいどうやって……」