戦車道は衰退しました   作:アスパラ

28 / 28
このお話で一応最終話となります。気合い入れたら五千文字近くなってしまいました。今までご愛読ありがとうございました。


妖精さんの、せんしゃどう

この後の試合展開については、あえて記述するまでもないでしょう。我々は超重戦車マウスをやっつけ、市街地での相手勢力分断・各個撃破を行い、隊長さんたちあんこうチームと黒森峰フラッグ車(聞いたところによると隊長さんの実姉とか)との一騎打ちに持ち込みました。

 

 何とか生き残ったレオポンは黒森峰残存戦力合流の阻止を、そしてなぜか、我々クスノキチームは敵副隊長車と一騎打ちを行うことに。

 

 みなさんが隊長さんたちに注目する中しれっと激戦を繰り広げた我々でしたが、力およばず惜敗してしまいました。

 

 しかし隊長さんは勝利しました。戦車道史に残る大接戦だったそうです。この辺の詳しい事情は、戦車道連盟が発売する円盤型記録ディスクにて。全国の販売店でお求めになれます(巧妙なステマです)。

 

ちなみに、例の魔法現場でしたが、全国生中継だったらしく、(衰退世界に暮らしているとリアルタイム配信なんてロストテクノロジーなのです)ネットをはじめ大炎上したようでした。

 

 伝聞系なのは、そのことを知ってすぐにプチモニを動員して関連映像、画像、ブログ、サイト、ソーシャルネットワークサービスなどを片っ端から削除しました。

 

「あのねマム、ネット普及率が高いこの時代、一度電子の海に流された情報はあっという間に拡散するんですよ! 私が検索かけただけで億近かったんだから、まったく」

 

 なんてぶつぶつ言いながらもやってくれました。さすが全データに関して上位のアクセス権限があるプチモニです。その気になれば某米の国の超兵器も好き勝手出来るんですって♪

 

 テレビ局の記録ディスクなどに保管されてしまったデータは、その日のうちに妖精さんの力を借りて、わたしが物理的に解☆決(横ピース)しました。これで記録上、あの出来事は完全に抹消できたのです。

 

 

――――――

 

 地元の旅館を借りての宴会は生徒会の横暴の後終了しました。

 

 わたしは熱気に充てられ、体を冷ますために外へと出ます。目の前には壁のように巨大な学園艦があります。世界有数の大都会近郊にあるためか、星はあまり見えません。それだけでわたしには新鮮です。

 

「大丈夫? お菓子ちゃん?」

 

「おかげさまで、会長さん」

 

 干しイモ一年分を得た会長さんが現れました。

 

「クスノキチームの出し物もよかったよ? 妖精さんと機械工作と木工工作と同人関係とプチモニ禁止された割に」

 

「わたしたちが一番禁止事項多かったですよね?」

 

「しょうがないじゃーん」

 

 会長さんが笑います。

 

「……帰る? やっぱり」

 

「おそらく。この辺がいい区切りでしょう」

 

「…………うち、人数少ないから別にいつまででもいていいよ? せっかくだし卒業してったら?」

 

「こんな身でも一応国連職員なんです。里のことをほったらかしには出来ませんし」

 

「そう……。そうか……」

 

 会長さんは星もまばらな夜空を見上げました。

 

「寂しくなるねえ」

 

「……すぐに慣れますよ。元々この世界の人間ではないんですから、我々は。それに」

 

「よーんだ?」

 

 わたしが手の平を上に向けると、妖精さんがぽん、と飛び乗ってきました。

 

「彼らがいれば、悪いようにはなりませんよ」

 

 会長さんはしばらく妖精さんを見つめ、いつものように二カッと笑いました。

 

「……そだね。今までありがとう、お菓子ちゃん」

 

 じゃ、あたしは西住ちゃんトコ行ってくる。といって、会長さんは再び屋内に戻りました。それと入れ替わるようにして、会長さんが消えたドアとは別のドアから現れたのは、なんとその隊長さんでした。ドンマイ、会長さん。

 

 隊長さんはわたしに向かって深々と頭を下げました。

 

「お菓子さん……。決勝ではありがとうございました」

 

「決勝……? ああ、はい。どういたしまして」

 

 わたしがとっさに魔法を使ってしまった時のことでしょう。

 

「あの、お菓子さん……。やっぱり帰ってしまうんですか? 未来に」

 

 実は過去なんですよ、とは言いません。

 

「おそらくそうなるでしょうね。妖精さんも満足してくれた頃でしょうし」

 

「大洗にとっては、大きな戦力の低下です」

 

「そこまで言ってもらえて光栄です。ですけど……」

 

「わかってます。お菓子さんにはお菓子さんの生活がある。私は、それを邪魔するわけにはいきません」

 

 会長さんと違ってずいぶんと物分かりの良い方です。と思ったら、隊長さんはわたしの腕にしがみついてきました。

 

「私たちのこと、忘れないでください。私も、お菓子さんのこと忘れません。今まで、本当にありがとうございました」

 

「……では、この子を」

 

 わたしは、手に乗せていた妖精さんを隊長さんの肩に乗せました。

 

「ぼく、おくられるです?」

 

「ええ。贈ります。この子といれば、あなたは何でもできる。本気で願えば、なんでも叶う。まあ、お守りのようなものと思っといてください。ねぼ、冷泉さんには渡してあるんですけどね」

 

「ああ、麻子さんがおばあさんに渡してたのって妖精さんだったんだ」

 

 妖精さんはいつの間にか、ツイストしてこよりのような状態に変化していました。どうやらこの状態の妖精さんを、彼女は見たことがあるようです。

 

「ありがとうございます。お菓子さん」

 

 時計を見ると、間もなく午後九時でした。わたしは直感めいたものを感じました。

 

 宴会場に戻ります。そこではYが理想の関係(ただし男性同士)についてゼクシィさんと息巻いて語っていたり、Kさんがウサギさんチームに木工工作を披露してたり、プチモニがアリクイさんチームの面々と携帯ゲームに興じていたり、<巻き毛>がくせ毛さんとサバイバルナイフについて語り合ったりしています。……最後のは大丈夫なんでしょうか? 

 

「あ! 姐さん!!」

 

 わたしの姿を見つけた助手さんが一人の少女の手を取って駆け寄ります。

 

「丸山さんが姐さんにお礼を言いたいって」

 

「丸山さん?」

 

 はて、彼女に何かしましたっけ? 

 

 そう1人首を傾げていると、彼女はぺこりと頭を下げました。そしてしゃべるのです。

 

 わたしは悟りました。

 

「……良い友人に恵まれましたね」

 

「はい」

 

「紗季ー!! もしかして助手ちゃんといいトコ~?」

 

 彼女はもう一度礼をすると、ウサギさんチームの友人のもとにかけてゆきました。

 

「姐さん? 今のは……」

 

「彼女は、あの子たちのおかげで存在を確定できたんですよ」

 

「はあ……?」

 

 助手さんは要領を得ないという風に首を傾げました。当たり前です。もともと同じチャンネル上にいた助手さんは、初めから彼女のことを確定して認識できたのでしょうから。

 

 妖精さんが来たおかげで、それがあまり親しくない人にもしっかり認識されるようになったのでしょうね。

 

 ですが少し驚きです。恐らく先祖返りというやつなのでしょう。最後の人類である助手さんの遺伝子を強く発現させた……。

 

 助手さんの、子孫……?

 

「あれ? 姐さん顔赤いですよ、大丈夫ですか?」

 

「ほ、ほっといてくださいっ!!」

 

 また外に行って風を浴びに行きたいところです。ですが、

 

「みなさん、そろそろ帰りますよ」

 

――――――――――――

 

「なんで宴会の途中で帰らなきゃいけないかね」

 

「昔からそうと決まってるでしょ。パーティの途中で魔法が切れるんです」

 

「じゃあガラスの靴でも残さなきゃねー」

 

 Yが皮肉たっぷりに言います。元から持ち込んでいた荷物以外、戦車には積んでいません。Yがコツコツ集めた同類誌も全部破棄です。いろいろややこしいですし。

 

 我々はそっと宴会場を抜け出し学園艦演習場へとやってきました。雑木林の中は暗く、虫たちの声が響いています。そういった自然の息吹を、エンジン音ですべてぶち壊しながら戦車は進みます。

 

「楽しかったですね、所長さん」

 

「……ええ、そうですね」

 

「うふふ。所長さんもでしたか」

 

 Kさんが笑います。

 

「お姉さんと過去世界で過ごせたなんて、最高の思い出です!!」

 

「いい経験になりました、姐さん。すごく楽しかったです!」

 

「やっぱりデータの質はこの時代から清濁入り混じってましたねー。しかしまあ、毎日生み出される膨大な情報量に触れられたのはよかったです」

 

「やっぱもうちょっといない? 夏の真ん中にさ、この時代最大の同類誌即売会があるって」

 

「帰ります」

 

「ちっ。ロマンの分からん奴め」

 

 Yの舌打ちは聞こえなかったことにします。

 

 わたしはキューポラから顔を出しました。大洗の街並みは見えませんでしたが、たくさんの人々が、繁栄の下でで生活している息吹がありました。

 

「いつか、追いついてみますよ」

 

 そっとつぶやきます。

 

「姐さん、目の前に穴が」

 

「了解です。そのままパンツァー・フォー」

 

 わたしの視界は、浮遊感とともに夜とは違った闇に染まっていきました。

 

――――――

 

「隊長殿ー!」

 

 一瞬くせ毛さんかと思いましたが、またそれとは違った声。

 

「……P子さん」

 

「やっとお目覚めでしたか! 簡易検査に置いて体調異常は検知されていないので、一体何があったかと私心配してしまいました!!」

 

「おい! いつまで寝てんだ! もう夕方だぞ!」

 

 O太郎さんとP子がわたしの顔を覗きこんでいました。

 

 空は茜色に染まっています。念のため日付を聞くと、今日はわたしたちがこの世界を出発した日の夕方でした。

 

「お二人はどうしたんですか?」

 

「おお! 実は国連のおっちゃんがさ、俺らにって戦車もってきてくれたからP子と二人で転がしてたんだよ!」

 

「局長殿のご命令により、我々も『国連主催・クスノキの里調停官事務所前所長追悼戦車模擬戦』に参加することになりまして!」

 

 ……参加者が見つからなかったんですね、ほかに。

 

「残念ですがそれ、中止です」

 

「ええっ!? なんででありますかっ!?」

 

「つまんねー。せっかく敵をバンバンやっつけられるって思ったのになー」

 

「いろいろ問題があったんです。耐久性とか安全性とか。なんで中止」

 

 オリジナルの性能だと穴空きますからね。

 

 わたしは眠りこけているみんなを起こします。

 

「さ、事務所に帰りますよ。今日一日仕事をほったらかしてたんです。きっとすごいことに……」

 

「ああ!! いきなり現実に戻すな!」

 

 頭をかきむしるYに告げます。

 

「現実は常に向き合わなければならないんですよ」

 

「学生に戻りたい――――――っ!!」

 

―――――――

 

 さて、ここではとりあえず後日談をお話しなければなりません。

 

 数日後、わたしはvip局長あてに『現在計画されている国連戦車模擬戦は調停理事会規則第三条三項に抵触する恐れがある』と一筆したためたため、お祖父さんの追悼戦車戦は即刻中止となりました。

 

 代わりに企画されたのが、

 

「なるほど、三人の人間が肩を組んで『戦車』を作り、帽子をかぶった車長が上に乗る。それで帽子を奪い合い、とられてしまった方が負け。というわけか」

 

「そうです、文化局長」

 

 わたしが独自に考案した代替案に局長は大いに感心した御様子です。

 

「身体的接触に伴う怪我の危険性もありませうが、本物の戦車を使用するよりは安全です」

 

「うむむ。これは盛り上がりそうだな。国連の健康維持プログラムに組み込むのもよいかもしれん。実は国連主導で教育機関を復活させようという計画があってね、もろもろの事情をかんがみて昔の大型船を流用しようかと」

 

 なぜだか懐かしい感じのするこの競技、どうやら採用されそうです。

 

「そうだ、孫ちゃん。この競技、名前を何というのかい? ないというならこの私が命名させてもらうが」

 

「申し訳ありませんが考えてます」

 

 わたしはずっと温めていたその名前を披露しました。

 

「戦車道です」

 

 人類は衰退しましたが、戦車道はこれからかもしれません。

 

【戦車道は衰退しました・FIN】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 さっき、『後日談』といいましたよね?

 

 なぜかといいますと、P子さんたちと合流して里に戻ろうとした矢先、

 

「ね、姐さん!! 目の前に急に穴が!!」

 

「か、回避不能であります~」

 

 

「イギリスのこんな格言を知ってる? 茶柱が立つと、素敵な訪問者が現れる」

 

「……勘弁してください」

 

 

【戦車道は衰退しました・Fin?】




含みを持たせましたが予定は未定です。ちょこちょこ単発のお話をいくつか考えているので、書きあがり次第投稿することになると思います。
その際にはまたぜひよろしくお願い致します。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。