戦車道は衰退しました   作:アスパラ

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ぶっちゃけここが書きたいがためにこのお話を作ったといっても過言ではありません。


助手さんと、じどうしゃぶかつどうにっき

 今日はプラウダ戦で壊れた戦車の修理だった。会長さんが、明日から練習したいから今晩中に治してー、といったので、自分とKさんも一晩中手伝った。朝になってようやく終わった。修理終わりのドラム缶風呂は気持ち良かった。お昼から寝ようと思ったけど、生徒会が38(t)をヘッツァーに改造するらしいので、それも手伝った。楽しかった。

 

――――――

 

「……真っ黒ですねぇ。自動車部」

 

「裁判になったら生徒会敗けるねこりゃ。助手君もよくやるわ」

 

「悲壮さを感じさせない分より悲壮な感じがします」

 

「そういやちょくちょくいないなって思ったけどまさかこんなことをしてたとは」

 

 そんなわけで、今日は助手さんのお話です。

 

――――――

 

「はいは~い。痛かったですねぇ。もう大丈夫ですよ~」

 

「あー、あー。ひどいなぁ。お疲れさま」

 

「よしよし。今から治してあげますからねぇ~」

 

「いい子いい子。よーく頑張ったっ!」

 

 彼女たちは小児科ではありません。戦車倉庫で活動する自動車部の方々です。このように戦車をいたわりながら修理をすることで、なぜか修理効率が大変よくなるのだそう。はたから見れば大変怪しいですけど。

 

 過酷な練習を終え、ぼろっぼろになっていた戦車たちが見る見るうちに治っていきます。そのうち作業もひと段落し、彼女たちは小休止に入りました。

 

「戦車も増えて整備もしんどくなっちゃったね~」

 

 部長のナカジマさんが油まみれの顔をぬぐいます。

 

「いやぁ~、でもだいぶ慣れてきたし。この調子なら今晩中に終わりそうだね」

 

 はつらつと答えるのはツチヤさん。時刻は深夜、彼女たちは、戦車道でボロボロになった戦車たちをいつものように修理していました。

 

「ナカジマ先輩! ホシノ先輩! スズキ先輩! ツチヤ先輩! ただいま戻りました!」

 

「おお! サンキュー助手ちゃん!」

 

 買い出しに出かけていた助手さんが、コンビニの袋をぶら下げて帰還します。もう深夜もだいぶ過ぎている時刻なので、コンビニしか空いていないのです。

 

 ちなみに助手さんは、自動車部の黄色いつなぎを着ています。もう完全に彼女たちの一員です。

 

「手伝います。何をすればいいですか?」

 

「いや、もうだいぶ終わったから……」

 

「……あれですか?」

 

「あれだね」

 

 ナカジマさんがにやりと笑いました。

 

「Kさん! あれやるよ!」

 

「はーい」

 

 奥で工作機械をいじっていたKさんがクレーンの操作席に移ります。彼女もまた、サングラスにオレンジのつなぎ。自動車部の一員として立派に活動していました。

 

 Kさんの操作でクレーンによって運ばれてきた戦車。それは、

 

「来たね、ポルシェティーガー」

 

 ポルシェティーガー。あまりにも発想が未来にあり、技術が追い付かなかったがゆえに「失敗兵器」扱いされている不遇の戦車です。

 

 学園艦最奥で発見されたこれは、いろいろあって一時ぺしゃんこになっていたものの、何とか戦車としての外観を取り戻していました。自動車部が総力を挙げて修理したのです。

 

「ま、外観はどうにかなったけどモーターがねぇ……」

 

 ナカジマさんが苦笑いを浮かべました。そう、ポルシェティーガーが失敗兵器呼ばわりされている所以たるモーター部分が、レストアに立ちはだかる大きな課題となっています。

 

「Ⅳ号と同じⅤ-12エンジンに入れ替える? レギュレーション的にはいけるんじゃない?」

 

「やっぱモーターで動かしてこそって感じがするんだよなぁ」

 

「ロマンあるよねぇ」

 

「でも決勝には間に合わせなきゃいけないんだよねー」

 

 自動車部の皆さんは顔を突き合わせて相談。

 

「助手ちゃん! Kさん! 未来じゃどんな感じなの?」

 

「そうですね……。ロケットエンジンの修理はしましたけど、電気で動くモーターは……」

 

「すみません、私も普段は木工工作がメインで」

 

「え、ちょっとまって、ロケットエンジンって何?」

 

「姐さんが月に行っちゃったんで、古い宇宙船を修理したことがあって」

 

「「「「その話詳しくっ!!」」」」

 

 こうして、今日も夜が更けていくのでした。

 

「あー、今日もできなかったか……」

 

 自動車部名物ドラム缶風呂に浸りながら、さほど危機感もなくナカジマさんが言います。基本的に自動車部は楽観主義です。

 

 同じくお風呂に入っている助手さんは、すこし顔をしかめます。

 

「このままでは少し厳しいかもしれませんね、ナカジマ先輩」

 

「かもねぇ。ま、その時はその時さ、助手ちゃん」

 

「……あのさぁ」

 

 ホシノさんが口を開きました。

 

「軌道エレベーターを一人で直したお菓子さんに協力してもらったら?」

 

「「「それだぁ!」」」

 

「そうですね! 所長さんなら!」

 

「姐さん……。すみません、自分が迂闊なばかりに……」

 

――――――――――――

 

「というわけなんですけど」

 

「…………」

 

 こうして、わたしは自動車部に協力を求められたのでした。無言で助手さんとKさんをにらみますと、二人とも顔をそらします。こっち見なさい。

 

「自力で宇宙に行ったって聞きましたよ!」

 

「その実力さえあればポルシェティーガーだって!」

 

「ぜひその技術をお見せください‼」

 

「えーっとですね……。その……、自力というますか、なんと言いますか……」

 

 自力っちゃ自力ですが、『人類』的にはズルをしました。魔法を使ったのです。比喩でも冗談でもなく。ふわっとした言い方をするなら妖精さんに手伝ってもらったのですが、現時点で正式な戦車道部員でない自動車部の皆さんに伝えていいものか悩みます。

 

 最近、妖精さんのことを知る人の周りに集中するかのように童話事案が発生しており、妖精さんの存在が広まれば広まるほどその発生頻度は上昇していました。これ以上面倒事を増やさないためにも、できる限り秘匿しておきたいのですが……。

 

「姐さん……」

 

 やめて助手さん、そんな期待と申し訳なさであふれた視線でわたしを見ないで。

 

「じ、実はですね……」

 

 助手さんの手前、無下に断るわけにもいきません。仕方なく自動車部の皆さんに種明かしをします。

 

「妖精さんねぇ~」

 

「世界って広いなー」

 

「……この子たちがいれば、もしかして私ら用済み?」

 

「ひぃぃぃっ!? 排除!? 排除する!?」

 

 ラダイト運動(機械打ちこわし)が起こりそうな予感。

 

「安心してください。妖精さんは通常思い通りに使役することができないので」

 

「よかった……」

 

 一番過激派に走っていたツチヤさんが胸をなでおろします。

 

「……でもさ、それだったらポルシェティーガーどうするの?」

 

「そうですねぇ……」

 

 わたしは件の戦車の図面をにらみ、しばし考え込みました。

 

――――――――――――

 

「……これで動くの?」

 

「動きますよ、ナカジマさん。妖精さーん、オッケーですか?」

 

「「「「はーい」」」」

 

 妖精さんたちは元気よく返事をしました。モーターが積まれていた空間は、わたしとKさんによってミニチュアダンススタジオにリフォームされています。

 

「ツチヤさん、やっちゃってください」

 

「う、うん」

 

 操縦席にいるツチヤさんが起動スイッチを入れると、ミニチュアスタジオに設置された小型スピーカーより流れる聞きなれたリズム。そう、みんな大好き『あんこう踊り』です。

 

「「「「あんあんあん」」」」

 

「うわぁーお上手ですねー皆さん」

 

 妖精さんが躍りだすと同時に戦車も動き始めます。どうやら動作に問題はなさそう。

 

「ちょっと待って!! なんでっ!? 戦車のエンジンルームで妖精があんこう踊り踊ってるっている状況が理解できない! それでなんで動いてんのっ!?」

 

 スズキさんのつっこみは実にもっともだと思います。まあ、普通にモーターさんにお話すればよかったのですが、それだけではそうしても出力的な問題がクリアできません。ですのでここは発想を逆転させ、モーターではなく妖精さん駆動に転換することにしたのです。

 

「妖精さん駆動ってっ!?」

 

「妖精さんの踊りで電力を生み出し、それを動力にするんです、まあ、広い意味でのモーターだと思ってください」

 

「モーターの範囲が広すぎるっ!!」

 

 スズキさん、技術者的に納得できないことが多々あるようです。気持ちはわかりますが、慣れて頂くしかありません。

 

「えーっと、これって整備どうすればいいの?」

 

「ナカジマぁ!?」

 

 流石といいましょうか。ナカジマさん、呑み込みが早いです。

 

「いやだってこれ、もう考えるだけ無駄だよ? 動いてるんだから受け入れないと」

 

「受け入れたら負けな気がする……。自動車部的に」

 

 わたしは悶々と苦悩しているスズキさんをぶった切ります。

 

「じゃあ負けて下さい」

 

「ひどい」

 

 彼女は取りあえずほったらかし、ナカジマさんに整備の説明をします。

 

「定期的にお菓子を与えて下さい」

 

「私らの意味っ!」

 

 流石のナカジマさんも叫ばざるを得なかったようです。仕方がないのでもうちょっと丁寧にお話します。

 

「妖精さんはお菓子を食べることと、楽しいことが大好きです。なので、試合中もしテンションが下がってしまったら適宜遊戯を企画したり、追加のお菓子を上げたりして下さい。楽しいテンションを維持してもらえればその手間も減りますよ」

 

「楽しいテンション……」

 

「あんな感じですね」

 

 絶句しているナカジマさんにちょうど良いお手本がいらっしゃいました。

 

 ツチヤさんの雄たけびが、あんこう踊りのリズムに混じってあたりにこだまします。

 

「ひゃっほうぉぉぉぉ! ポルシェティーガーが動いてるぅぅぅ!! 操作性最高おおお!!」

 

「スピード出てるぅぅぅ! 戦車とは思えない加速度ぉぉぉ! ツチヤ次代われぇぇ!!」

 

「まってホシノあと一周ぅぅぅぅ!!」

 

 グラウンドを戦車とは思えぬ機動性とスピードで駆け抜けるポルシェティーガーと、それに大興奮しているツチヤさんとホシノさん。

 

「あいつら……」

 

「なんで受け入れられんの……」

 

 初めはそう茫然としていた常識人お二方(ナカジマさんとスズキさん)でしたが、

 

「ドリフトぉぉぉぉっ!」

 

「超信地回転だぁぁぁ!!」

 

「急加速! 急停止!! ハンドルが手になじむぅぅぅ」

 

「ジャンプだジャンプ! 行っけぇぇぇ!!!」

 

「「…………、私らにも代われぇぇぇっ!!」」」

 

 やはり骨の髄まで自動車部だったナカジマさんとホシノさん。楽しげな乗り物には目がないようでした。

 

「これで一件落着ですね」

 

「姐さん、レギュレーション的にまずいんじゃ……」

 

「モーターに関する規定はないので」

 

 ぬかりありません。確認済みです。ポルシシェティーガーはここに史上最強の戦車として生まれ変わったのです! さあ、ポルシェ博士の無念を晴らしてきなさい!

 

 その時、自動車部の皆さんを乗せたポルシェティーガーがウィリー走行しながら高速でわたしの目の前を通り抜けました。突風を巻き起こしわたしの長い髪は大暴れ。彼女たちはそんなことまったく気にせずに、こんどは片輪走行しながら蛇行しつつ猛スピードで駆けていきます。

 

「……スペックはもうちょっと落としましょう」

 

「それがいいですよ、姐さん」

 

 決勝戦が迫ってきていました。




あといくつか「書きたかったこと」があるので最後までよろしくお願いします。

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