戦車道は衰退しました   作:アスパラ

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このお話は主に人退目線でお送りいたします。
運営さん、どうかお見逃しを……。


第2話

「やってやるやってやるやぁ~ってやるぜ、嫌な上司をぼっこぼこに~」

 

 わたしは戦車に乗って、キューポラから顔を出してガタガタ不整地ニッコニコで歌いながら進んでいました。

 

 すぐそこ下にいるYが眉をひそめて尋ねてきます。

 

「何その歌」

 

「その昔、極東でシャチクと呼ばれた奴隷たちが反乱を起こしたときに歌われた歌だそうですよ」

 

「……あ、そう」

 

「喧嘩は売るものこーそこそとー、闇にまーぎれて、かーたきうつー」

 

 私は歌の続きを歌い続けます。え? 車長がこんな事していていいのかって? いいんです。だって、

 

 

 とても暇なんです、わたし。

 

 

 私たちが戦車に乗り始めて、はや1週間。優秀なわがクスノキの里チームの皆さんは戦車の操縦・射撃・装填もろもろをあっという間にマスターしてしまいました。

 

 幸い里の周りは草原が広がっていて、戦車を動かす場所に不自由はしません。延々走り回って、時々廃墟やひょこっと飛び出た岩を的に射撃練習。

 

 ええ。問題はここです。

 

 練習相手がいません。

 

 相手が動かないので車長の指示なんか必要ないんです。

 

 相手がそもそもいないので、操縦の指示も必要ないんです。

 

 よって、車長の私はすごぉく暇なのでした。

 

「あ、Kさん。あそこに見える廃屋を狙いましょう」

 

「助手さん、ちょっとぐるぐる回ってからダッシュしてみてください」

 

 みたいなことを時々言うぐらい。

 

 そんなわたしのもとに、

 

「よきうたですな」

 

 妖精さんがひとり、ぴょんと飛び乗ってきました。

 

「ありがとうございます。はい、お礼ですよ」

 

「おお、れこーどたいしょーはあなたにー」 

 

 金平糖を妖精さんにお渡しします。

 

 初め、爆音を轟かせる戦車を警戒して、妖精さんはまったく姿を見せませんでしたが今ではだいぶ慣れたらしく、こうやって戦車に乗りこんでくることもあります。

 

「ふぉーでーえっくすですねー」

「ばくおんじょーえーでは?」

「がるぱんはいいです?」

 

 お菓子につられたのか、次々と妖精さんが現れます。あんまり彼らが密集してもまずいのですが、いざという時は一発発砲すればオールオッケー。何と素晴らしいことでしょう。童話災害対策の最終手段として事務所に配備することも真剣に考えているところです。

 

 ですが、私は少々慣れ過ぎていたみたいでした。

 

「あー、にしても暇だなー」

 

 砲塔の中からYの声が聞こえた瞬間、妖精さんたちの動きがぴたりと止まりました。

 

「にんげんさん、おひま?」

 

「いいえそんなことはまったくありませんよ忙しすぎてもう大変です」

 

 大丈夫ですまだ慌てる段階ではありません冷静に対処すれば十分対処可能な

 

「やっぱ練習相手とかほしいよね。師匠みたいな人とかでもいいけど」

 

「あいて、よびます?」

「つよいひとのほうがいいです??」

「よぶの、ししょーにしつれいでは?」

「いきます?」

「かんばん、やぶります?」

 

 楽しそうな気配を察したからか、妖精さんがどんどん増えていきます。

 

「砲撃します。装填してください。弾種は榴弾。急いで!」

 

「え? 急に?」

 

「了解です」

 

 リバーサルウェポンがあるなら躊躇なく使うべきです。使い時を惜しんでは宝の持ち腐れとなりかねません。

 

「目標その辺、撃てっ!」

 

 ガンっ!

 

「あ、弾詰まりしました~」

 

 Kさんののほほんとした声が聞こえます。ああ、これが妖精さんの効果なのでしょうか……。

 

「ね、姐さん! 目の前に急に穴が!! 止まれないです!!」

 

「「「いってらっしゃーい」」」

 

 妖精さんたちの声をBGMに、私たちが乗るⅣ号戦車は重力に従ってあえなく落下していったのでした。

 

 とりあえず、Yは後で〆ましょう。

 


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