戦車道は衰退しました 作:アスパラ
わたしが目を覚ますと、そこは炎上する木造建築の中でした。
「…………」
もう一度言います。
火災現場のど真ん中に立っていました。
「キャァァッ!?」
柄になく悲鳴を上げます。わたしの着ている豪華絢爛な女性用和服は所々焦げており、火葬一歩手前です。
おそらくここは大坂夏の陣の、落城寸前の大坂城でしょう。昼間左衛門佐さんに聞いていてよかったです。いえ、状況が理解できただけでこのピンチはまったく変わらないんですけど。
この場にいるのはわたし一人だけ。とりあえずごく一般的対処法として、救援を求めます。
「さ、左衛門佐さん! ここどこですかぁ!?」
すると、ボロボロのふすまがバーンと開きます。甲冑姿の左衛門佐さん。「愛」という漢字がどーんと書かれた兜をかぶっているので、本望を達成できたようです。
「お菓子殿! いや、淀殿!」
「間もなく御臨終になる方じゃないですかっ!?」
「みなすでに逃げている! 淀殿もこちらへ!」
「その名前で呼ばないでっ!」
左衛門佐さんに引っ張られて、城内の古井戸に入ります。そこには、なんと秘密通路が通っていました。
「これって……、史実とは少し違うのでは?」
「このあたりに関しては諸説ある。まあ大目に見ようではないか」
通路を抜けた先は林の中でした。おりょうさん、エルヴィンさん、カエサルさんもそこにいます。みなさん、武将、というより落ち武者姿。しかしまあ、絶体絶命のピンチは脱しました。わたしはやっと一息つきます。
「みなさん、これからどうしますか?」
「それが考えものぜよ」
「戦国時代でサバイバル、と意気込むか」
「なに、無人島なんかよりよっぽどましだろう」
「あー、それなんじゃがな」
左衛門佐さんが言いにくそうに口をはさみました。
「あー、この時代、武士というものは合戦で生き残ってもさらなる脅威があって……」
それが合図だったかのように、藪の中から何者かが飛びだしました。
「西住殿、いい金づるが見つかりましたねぇ」
「全部でおいくらぐらいかなぁ。新しい白粉買えるかなぁ?」
「今夜はごちそうですね、うふふ」
「どうでもいい。さっさと見ぐるみ剥いで家に帰ろう。寝たい」
……わたし、明日からあんこうチームの皆さんを見る目が変わりそうです。
どう見ても野盗です。落ち武者狩りです。狩られます。ありがとうございました。
隊長さんが一歩前に出ます。
「さあ、落ち武者さんチームの皆さん。降伏か、死か、お好きな方を選んでください」
予想通りのDead or Death。しかし今のわたしは無力でか弱いお姫様なのです。頼りになるのは歴女さん4人ですが。
「「「「…………」」」」
「みなさん、どうかしましたか?」
左衛門佐さんが口を開きます。
「あ、いや。さすがに面と向かって刀は振り下ろしにくいなって」
「戦車には向かって行けたでしょうに……」
「こういうデータもある。戦場で敵兵の顔を見た兵士はその後の命中率が格段に下がると」
「エルヴィンさん!?」
平和な時代の申し子ですね、みなさん。こそこそと後ろの方に隠れてしまい、自然とわたしが矢面に立つ格好となりました。
もちろんわたしだって戦争や殺りくなどが遠い過去のものとなった衰退時代の生まれですので、荒事になれているわけではありません。一つ皆さんより経験していることがあるとすれば、
「……ひっさつビーム」
妖精さんの不条理さですかね?
腕をクロスさせるという伝統的動作と、思い返すだけで穴の中に引き返したくなるような名前を叫ぶと、
出ました、ビーム。
ピー、という懐かしげなSE音とともに、わたしの腕から光のシャワーがあんこうチームを襲います。
「なぜだっ!? いろいろなぜだっ!?」
「だってほら、ピンチの時には必殺技でしょう?」
「これほど腑に落ちない説明もないぜよ!!」
「なら落とさなければいいんです」
「強引だっ!」
理解しようとするだけ無駄だということは、まだまだ分かっていただけないようですね。
一方あんこうチームの皆さんは、わたしのビームによって黒焦げアフロとなっておりました。
「参りました……」
隊長さんが例のさいころをどこからか差し出します。
「だいたい理解できました。各時代ごとの敵を撃破したらさいころをもらえ、次のステージに進めるという事ですね」
「敵って!?……いや、もういい。なにもいわん」
「早く帰ろう。なんだか疲れた。ローマが見れたら満足だ」
「賛成ぜよ」
「真田も結局末期だったしな……」
まだまだ序盤だというのに、みなさんすっかり疲れ果てております。
ここからはダイジェストでお送りしましょう。
―――――幕末日本。
「風紀委員よっ! 京の風紀を乱した野上武子! お命頂戴申すわっ!」
「新鮮組じゃないのか!? というかなぜ私だけ本名ぜよっ!?」
「落ち着けおりょう! 寺田屋なら竜馬は死なんぞ!」
「近江屋って書いてますよ、ここ」
「うわわわぁぁぁっ!?」
――――――17世紀フランス王国
「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない?」
「だめだお菓子殿!!」
「その台詞は死亡フラグだぞ!!」
「文句があるならベルサイユにいらっしゃい、とでも言っておきましょう」
「今日は8月10日ぜよっ!!」
「民衆がパリからこちらに向かってるぞ!!」
「「「ぎゃあああああああっ!!」」」
――――――1940年5月10日。
「ようやく静かなところに来ましたね」
「ああ、やっと安堵できる」
「これが本当の安堵の森か」
「なんか飛行機が飛んでるんじゃが……」
「いや、この日付……。ここは安堵の森じゃない!! アルデンヌの森だ!!」
「「「「ぎゃあああああああっ!!」」」」
――――――
『ゴール! これであなたも歴史マスター!!』
ぱっぱかぱーん、というファンファーレとともに現実世界に帰ってこれたのは、深夜すぎでした。
「あ、おかえり」
場所はいつの間にか我が家。せんべいをかじりながら深夜アニメを見ていたYがちらっと私たちを見て言います。
「……状況を」
「あんたがなかなか帰ってこないから様子を見に行ったらなんか怪しげな道具が転がってて、家はもぬけの殻になってたから拾ってきた。Kさんと助手君は寝てるよ。起きて待ってるって聞かなかったけど、だいぶ遅くなってたし」
「了解です。……ありがとうございます」
「いーえ。腹減ってんなら夕飯の余りがある。かばさん達も食べな」
「……彼女たちには、毛布の方が必要ですね」
かばさんチームの皆さんは安心したせいか、気絶するように眠りこけていました。
――――――――――――
翌日。
「あ、あなたたちっ!? 何なの!?」
「ゲシュタポだ! ゲシュタポがいるぞ!!」
「違う!! 新選組ぜよ!」
「いいや! 星室庁裁判所だ!」
「比叡山の僧兵じゃっ!」
「違います、風紀委員の方です」
「かばさんチームにお菓子さん、おはようございます」
「ぎゃぁっ! ルーデルだぁ!」
「チンギス・ハンぜよ!!」
「ハンニバルだっ!」
「井伊の赤鬼っ!?」
「違います。西住隊長です」
かばさんチームのトラウマは深いようです。
――――――――――――
「お姉さん、遅いですねぇ。おや? こんなところに大きな穴……」
「よく見れば戦車の後が! もしかしてお姉さん!?」
「今行きます! お姉さんのためなら たとえ地の中空の上!! 待っててくださああぁぁぁぁぃ」
ひとまずこれから本編を進めたいと思います。
ただ「外来生物~」はいくつか書きたいネタがあるので書きあがり次第、本編と並行して投稿したいと思います。
予告、というわけではありませんが、ひとまず
「妖精さんと、のーぶるしすたーずのうらじじょう」
「ドゥーチェ・アンチョビの、あんつぃおゆーしょーへのみち」
の二作を執筆中です。