戦車道は衰退しました 作:アスパラ
嘘です。結構適当なので、大目に見て下さい。
とある大人気青少年向け小説作品を漠然と連想させる掛け声とともに、わたしの意識はホワイトアウト。
次に目が覚めた時、わたしは
「………これ系ですか」
助手さんが思いつきそうなボディーアーマーに身を包み360度大歓声に囲まれておりました。
心当たりがあります、これはたしか。
「これはコロッセオだ!! 我々は今、コロッセオの中心にいる!!」
同じような派手な鎧に身を包んでいるカエサルさんが飛び跳ねました。今回の冒険、歴女さんたちもご一緒なようです。
彼女のおっしゃる通り、我々は古代ローマの代表的円形闘技場、コロッセオにいました。観客席にはローマ市民が押しかけており、繁栄時代にあったローマの活気があふれ出てきているようです。
「そんなことは見ればわかるわぁ!!」
「問題はそこじゃないだろ!!」
「さっきまで家にいたはずなのに何が起こったぜよっ!?」
きわめて一般的かつ通常の反応を示す三名に説明します。
「妖精さんです」
「説明になってないぞ!!」
おっとエルヴィンさんの鋭いツッコミをいただきます。里の方ならこれで理解して頂けるんですが。
「きっとあの道具は妖精さんのものなんです。おそらくこれは、我々の共通の夢のようなものでしょうね。その時代の人間となって、歴史を体験しながら学べるとか、そういう感じの」
「説明されてもわからん! 何者なんだ妖精さん!?」
「理解しようとするだけ無駄です。ほら」
わたしは観客席を指さします。そこには、見覚えのあるお三方。
「静まれ! この闘技会は元老院議員、アンズウス・カドタニウス様の御計らいによるものであるっ!!」
こちら広報さん。
「パンを受け取ってない方はこちらでーす」
こっちは副会長さん。
「ぜーんぶただでいいからねー。そのかわり次のコンスルには私に投票してよー」
玉座にどーんとふんぞり返るは会長さんです。
「生徒会っ!?」
「わたしたちの脳内イメージを反映しているのでしょう」
よく見れば、観客にも見知った顔がちらほら混じっています。
「うぬぬ、これはいわゆるパンと見世物だな」
カエサルさんがうなります。
「衆愚政治の行きつく先ですか」
「ああ、権力者はこのように市民に無料でパンを配ったり、闘技会を開いたりして市民の支持を得ようとしたのだ」
カエサルさん、自分の時代が来たためかとても饒舌です。そのせいで大切なことを見落としています。
「……おい、カエサル」
その大切なこと、左衛門佐さんが指摘してくれます。
「我々が、ここに、・・・・・・コロッセオの中心にいるという事は、つまり」
「え?」
「我々がその見世物ではないかぁぁぁぁ!!」
「あ、ほんとだ」
カエサルさんがポンと納得します。
「どうするのだ! このままでは殺し合いだぞ!」
「いや、しかしだな、グラディエーターは日本語では剣奴といわれるが、実はとても人気の」
『ではこれより!! アンズウス様主催の闘技会を開催する! この者たちの相手は遥かゲルマン人の地にて捕らえられた・・・・・・』
「ゲルマン人か。闘技会ではライオンや熊といった猛獣と戦わされることもあってな」
カエサルさんがなぜかわくわくしている中、広報さん無情にも告げます。
『鉄獅子であるっ!!』
登場したのはⅣ号戦車でした。
「「「「…………」」」」
「ま、まてまてまてまて。時代が違うぞ! 2000年ぐらい!」
カエサルさんが食って掛かりますが、観客の誰もそんなこと気にしません。ローマの繁栄は戦車にありとでも言わんばかりです。
『鉄獅子使いは、ミホウス・ニシズミウスと悪魔魚集団!』
キューポラから、いつもの朗らかな隊長さんが顔を出します。よかった、これなら温情が
「今日は人間が相手なので、みじめに追っかけるだけ追っかけまわしたあと、砲撃でまとめて木っ端みじんにしましょう。ひき肉作戦です」
ちがいました。隊長さんの皮をかぶった悪魔でした。
「反則だ! せめて生きたライオンを使え!!」
「そんなこと言ってる場合じゃないぜよっ!!」
おりょうさんは流されませんでした。
「とりあえず現状の確認です。みなさん、何か武器は持ってますか」
「みなグラディウスしかないな」
カエサルさんが言うとおり、持っていたのはグラディウスと呼ばれる短刀のみ。
相手は戦車。こっちはナイフ。
「無理ですね」
あっさり諦めます。人間、引き際が大事。
「我々降参しまーす。白旗です」
服従の姿勢であんこう、ではなく死神魚チームに近づきますと、
「降参だと!? そんな根性なしなこと、認めんぞー!!」
「え?」
観客席から罵声が飛びました。
「そうだ! 戦え!!」
「逃げるなんてローマ法違反よぉ!」
「やっちまえー」
なんと、観客から大ブーイング。……この人たち、わたしたちが死ぬのが見たいんですか? いや、妖精さんの道具である以上死にはしないでしょうが。
「血なまぐさい時代ですねぇ。これが人類原初期の残虐性ですか」
民意を背に受けた隊長さんが宣告します。
「というわけなので降参は認めません、このままひき潰しましょう。パンツァー・フォー」
隊長さん風悪魔の号令で、Ⅳ号が前進し始めました。わたしは脱兎の勢いで歴女さんたちの方に戻ります。
「交渉決裂しました」
「見ればわかる!」
「なぜこっちに来た!」
「このままじゃひき殺されるぜよ!」
「死なばもろともですっ!」
ここまでくれば一蓮托生じゃい。いくら死なないと分かっていても、戦車に引かれたくはありませんしね。75ミリ砲の直撃なんて死んでもごめんです。
必死になって逃げます。しかしこのオーバーテクノロジーに人の足がかなうはずもなく、
「撃て」
意識がゆっくりと遠ざかっていきました。ああ、隊長さん、お前もか……。
【「戦車道は衰退しました」 FIN】
と思ったのですが、
「あれ?」
この後わたしを襲うはずの四肢を引き裂くような痛みも、つんざくような爆音も一向にやってきません。恐る恐る目を開けてみると、
「……鉄獅子、討ち取ったり!」
なんと、左衛門佐さんがグロティウスを戦車に突き刺していました。その横からはあの見慣れた白旗がぴょこっと飛び出ています。
「さ、刺さったんですか……?」
「やってみたらいけた」
よくやってみようと思いましたね。他の皆さんもあきれ半分、感心半分といった風に彼女を見ています。
まさかの大逆転に割れんばかりの歓声がとどろく中、隊長さんたちが戦車から出てきました。
「おめでとうございます。まさかやられてしまうとは思いませんでした」
そういってほほ笑む隊長さん。
「今晩のおかずにするつもりだったのに……」
いえ、やっぱり悪魔でした。後ろでおはなさんが物欲しそうに我々を見ています。あれは捕食者の目ですよ。
「では、勝利の証にこちらを」
そういって悪魔が下さったのは、
「……さいころ?」
一抱えもあるような大きなサイコロでした。そういえばすごろくでしたね、これ。
「行き先はこちらです」
くせ毛さんがどこからか大きなパネルを取り出しました。そこには、
『マス目1……やっぱり4000年の歴史だね「秦・古代中国」
2……このままGO?「帝政ローマ:五賢帝時代」
3……ここは砂漠のロマン「イスラーム帝国:アッバース朝」
4……一気にスキップチャンス「大英帝国:産業革命期」
5……流行に乗ろう「戦国時代日本」
6……ここだけ学べば十分さ「ゴール」』
「5! 5だ!! 5を出せ!! 時代は戦国じゃぁ―」
「バカか左衛門佐っ! ここはやはりじっくり歴史を見るべく2だろう!」
「バカはカエサルもぜよ!」
「6のゴールに決まっとるだろう!!」
主義の違いからの内紛。仕方がないので、この場で最も中立であるわたしがさいころを転がします。できることなら6を、と強く念じ投げると、
「……5」
左衛門佐さんの念の方が強かったようでした。
「ひゃっふぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
「「「うわぁぁぁぁぁっ!!」」」
対照的な反応の中、我々は次の時代へスキップする羽目になりましたとさ。