戦車道は衰退しました   作:アスパラ

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お気に入り登録数がどえらい勢いで増えていて、妖精さんのいたずらではないかと疑ってしまいました。皆さまご愛読ありがとうございます!



妖精さんと、ばれーぶふっかつのやぼう

「お菓子さん! ぜひバレー部に入ってくださいっ!」

 

「あなたの身長があればセッターでもできますよ!」

 

「ここにハンコを押すだけです!」

 

「さあっ! さあっ!」

 

「すみません。結構です」

 

 わたしはバレー部の皆さんからの熱心な勧誘をバッサリと切り捨てさせていただきました。いえ、バレー部自体今はもうないので、彼女たちは自称バレー部ですね。

 

「ええー、何でですか?」

 

 キャプテンさんが首を傾げます。何でといわれてもわたしの運動能力的素質が球技を行うのに適していないというただそれだけでしたが、正直に話すのも恥ずかしいので適当にごまかさせていただきます。

 

「申し訳ありません。わたしの家ではバレー部に入ってはならないと先祖代々言い伝えられていまして」

 

「そんなー」

 

「でも家訓なら仕方ないですよ、キャプテン」

 

 嘘ではありません。わたしの代から言い伝えていきますので。

 

「次行きましょう! Yさんとかどうですか?」

 

「よし! 次のアタックだ!! お菓子さん、お騒がせしました!!」

 

 彼女たちはそのまま、漫画的表現技法を使うなら「ドドドドドド」と土煙を上げそうな勢いで去っていきました。

 

「……ほんとなんだったんでしょうか」

 

――――――――――――

 

 かつては数十人の部員を誇ったバレー部も、今ではたったの四人。同好会に格下げされ、残された彼女たちは部員集めに奔走しておりました。

 

 えーこ☆せーすい

 

「みんなだめだったかー」

 

 キャプテンさんがため息を吐きます。バレー部の皆さんは、体育館の裏で車座になって座っておりました。体育館を使っているバスケ部の練習が終わり次第、すぐに乗り込んで練習するためです。

 

 ちなみに車座の一角には彼女たちの相棒、八九式中戦車(通称はっきゅん)が陣取っています。

 

「やっぱはっきゅん連れていきます?」

 

 金髪でナイスバディな部員Aさんがはっきゅんの車体をポンポンたたきました。

 

「でも前はっきゅんで勧誘したら風紀委員に怒られましたよ?」

 

「あれは忍ちゃんが戦車でおっかけたからじゃん」

 

「いやー、つい」

 

 小型の八九式といえど、それに追っかけまわされるのは結構な恐怖体験だと思いますが、戦車道で戦車と日ごろから触れ合っている彼女たちには分らないのでしょう。

 

「でも本当に部員どうしよっかなー。いっそはっきゅんをカウントしたいなー」

 

「いや、流石にはっきゅんは……。バレーできませんし」

 

 それ以前の問題があるような気もしましたが、誰も気にしません。細かいことは気にしない、彼女たちの美点です。

 

 ただ、そんな問題を解決できる超技術を持った種族の方が、

 

「ばれーしますか?」

 

 ひょいっと現れたのでした。

 

「わぁ!? なにこれ!」

 

「あ、妖精さんですよ、キャプテン。この前お菓子さんが言ってた」

 

「あ、武部さん戦争のあれか」

 

 妖精さんはつぶらな瞳をキャプテンさんに向けます。

 

「ばれーしますか?」

 

「うーん。入部希望は歓迎だけど、妖精さんにはちょっと無理かなー」

 

「いえ、かのじょ、したがっとるよーですが?」

 

「え? 希望者連れて来てくれたの? 誰?」

 

「このこっぽい?」

 

 妖精さんがぴょんと飛び乗ったのは、

 

「……はっきゅん」

 

 八九式中戦車でした。

 

――――――――――――

 

 風紀委員長、そど子さんは朝一番に学校に来て、夜遅くに学校をでます。これは、遅くまで学校に残っている不届き物を追い出し、施錠をして回るという風紀委員の業務の一環です。

 

 今日も今日とて暗い廊下を、懐中電灯片手に歩いていると、遠くからボールが撥ねるような音が聞こえてきました。普通の生徒なら、心霊現象を疑うところですが、スーパー風紀委員を自称するそど子さんは違います。

 

「まったく、バレー同好会ったらまた居残りバレーしてるのね」

 

 下校時間を過ぎた後、こっそり体育館に侵入しバレーをしだす彼女たちは、風紀委員の天敵の一人だったりするのです。

 

 そど子は体育館へ急行します。

 

「……それにしても、ここから体育館まで結構離れてるのに、よく音が響くわね」

 

 かすかな疑問が生じますが、そど子さんは気にせず、体育館の鉄扉を撥ね開け、

 

「こらっ! とっくに下校時間は過ぎてるわよ」

 

「はっきゅーんボール行ったよ!」

 

「パンっ!」

 

「おおーナイスレシーブっ! よし、次はアタックだ。そーれ!」

 

「パァンっ!!」

 

「ナイスアタック!!」

 

 バレーをしている戦車を見たのでした。

 

 八九式中戦車甲型は器用にボールの位置まで移動。砲身を利用したトス。車体を利用したレシーブ。空砲の勢いで撃ちだす見事なアタックを、体育館の床を傷だらけにしながら行っています。

 

「あああああああああなたたちっ!? 何してるの!」

 

「え? バレーです」

 

 キャプテン、磯部典子がさも当然といわんばかりに振り返る。

 

「んなもんみりゃわかるわよ! なんで戦車を体育館の中にいれて、戦車でバレーしてるの!? 校則違反よ!」

 

 校則以前に物理法則とか法律とかその他いろいろなものに違反している気もしますが、スーパー風紀委員そど子さんが気にするのは校則ただ一点のみです

 

「はっきゅんも大事な仲間なんです!」

 

 そう反論したのはサイスバディ砲手さん。

 

「せっかくはっきゅんがバレーできるようになったんです!」

 

 ボール片手に訴えるのはスレンダー操縦手さん。

 

「お願いです! 見逃してください‼」

 

 必死で訴える赤いハチマキのの通信手さん。

 

「見逃がせるわけないでしょ! そもそも……」

 

 そど子さん、ここであることに気付きました。バレー部、もといバレー同好会のメンバーは四人。そして自分の前にいるのも四人。

 

「戦車……、誰が動かしてるの?」

 

 この世界の乙女の常識として、戦車を動かすには数名の人間が必要だという事ぐらいは、そど子さんも知っています。

 

「別に戦車でしないでいいじゃない!」

 

 そういって八九式にずかずかと近寄ります。

 

「あっ! 園さん!?」

 

 キャプテンさんが制止しますが、そど子さんは聞きません。嫌がるように砲塔をぶんぶん回す八九式の前方ハッチを開きました。

 

「いい加減にしなさい! 早く出てこないと反省文よっ!」

 

 そういいながら除いた戦車内部は無人でした。

 

「え?」

 

「ごめんね」

 

 そど子さんはその事実を理解するより先に、彼女の首筋に衝撃が走ります。そど子さんはそのまま意識を失いました。

 

「延髄切りのコツはね、首筋に対して45度の角度でたたくことなんだよ」

 

「わ、Yさんっ!?」

 

「調停委員会の者です。みなさんここから動かないでください」

 

 どうも、わたしです。

 

――――――――――――

 

 世界初となる童話事案(あくまで事案であることをここに強調します)発生を重く見た大洗女子学園生徒会は、秘密裏に対妖精対策機関「調停委員会」を設立。妖精さん流出の責任を取り、わたしがその委員長に任命されてしまったのです。

 

「この子どうする? 委員長」

 

 Yが白目をむいてぐったりとしているそど子さんをずるずると引きずります。

 

「Kさん。その方が目を覚ましたら、適当にごまかしておいてください」

 

「了解です。地下鉄の新型車両体験搭乗会に参加してたってことでいいですか?」

 

「お任せします」

 

 KさんとYがそど子さんを連れていきます。なぜでしょう? Kさんほどこの仕事が向いている人もいない気がします。

 

「姐さん! 発見しました」

 

 そうしている間に、八九式の操縦席やエンジンルームなんかに隠れていた妖精さんを助手さんが回収します。

 

「あれまー」

「みつかってもーたー」

「じ・えんどです?」

「ざんねーん」

 

「ひい、ふう、みい、よ。四人ですか。結構増えてますね」

 

 わたしは妖精さんたちを虫かごの中に移しました。そして、バレー部の皆さんに向かいます。

 

「さて、キャプテンさん。事の経緯を説明して頂けますか?」

 

「はい……」

 

 小さなキャプテンさんは肩を落とします。わたしはキャプテンさんや、他の部員さんたちのお話を静かに聞きました。

 

「……では、我々の誰かが協力したというわけではなく」

 

「はい! 私たちが妖精さんにお願いしたんです! Yさん悪くありません!」

 

 こういう時に名前が真っ先に上がるY。普段の行いが知れるというものです。

 

「…………。別に、今回のことであなたたちを責めるつもりはありませんよ」

 

 わたしは微笑みます。

 

「前回と同じで、今回のことはくれぐれも内密に。後始末は我々に任せて下さい。あ、あと、もう妖精さんに頼みごとをしてはいけませんよ。とんでもないことになりかねませんから」

 

「はい! 申し訳ありませんでしたっ!」

 

「「「申し訳ありませんでしたっ!!」」」

 

 みなさんがきれいに頭を下げます。ちょうど、Yも戻ってきました。

 

「おかっぱちゃんの洗脳……、もとい情報工作、終わったよ。完全に信じ切ってるね、ありゃ」

 

「え? あれをですか?」

 

「うん。それよりどうする? また事案が起きたとか、結構問題じゃない?」

 

「いえ。このぐらいは妖精さんが逃げ出した時点で、予測されたことですので」

 

 そう。こんなことは全然問題ではないんです。

 

 問題は、

 

「よし! また地道に部員集め頑張るぞ!」

 

「はい!」

 

「根性ですね! キャプテン!」

 

「今度はバボちゃんの着ぐるみで行きませんか!?」

 

「よし! それで行こう!」

 

 彼女たちが、「魔法」を使ったことでした。

 

 

 


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