戦車道は衰退しました 作:アスパラ
「なんで私が大洗に謝んなきゃいけないのよ!!」
盗聴したからである、なんてことを指摘する人間は、今ここにはいない。
サンダース大学付属高校のアリサは、先の試合での盗聴行為の謝罪のため、1人大洗学園艦を訪れていた。もちろん、自分から行こうとするような殊勝な性格ではない。隊長ケイによる反省会の結果だ。
もちろん謝罪先で喚き散らすほどの子供でもなく、自分でもすこしは後ろめたさがあったので会長、及び西住みほへの謝罪はつつがなく終了した。
だが、あのちびっこい生徒会長のにやにやした顔だったり、そのあとで訪れた戦車倉庫で、一年生チームが後ろの方でこそこそ「ねえあの人だよね? たかしって人に振られたの」「彼氏のこと盗聴してたって聞いたよ」なんて言っているのには、さすがに我慢ならなかったのだ。
「あーもうムカつく‼」
アリサは飲み干したコーラの缶をゴミ箱に放り投げる。しかし缶は大きくそれ、まったく別のところにカランという金属音を響かせて落ちた。
「ああ、私の気持ちもあの缶みたいに届かないのね……」
なんてことをぼそぼそ呟きながらそれをごみ箱に捨て直すと、
「……なにあれ」
目の前に、怪しい自販機があることに気付いた。
「……『モテモテール』? はっ、くだらない」
その商品名をアリサは鼻で笑いながら、なめるように商品を見る。
「『気になるあの子もメロメロ? これでモテモテ?』そんなわけないじゃない」
といいつつアリサは財布を取り出した。
「ま、話のタネに買ってあげてもいいわ。そう、話のタネにね。別にタカシは関係ないから。いくらかしら? ……値段書いてないわね。100円入れてみようかしら?」
「お菓子でも可」という冗談みたいなことが書いてある硬貨投入口に100円を入れると、購入ボタンに光がともる。
「まさか、ね。いや、でも誰かが言ってたわ。信じる者は救われる、って」
購入したドリンクを大事そうに握りしめるアリサ。その姿を某調停官が見たならば、「溺れる者は藁をもつかむ」と形容するだろう。
その時、こちらに近づいている者の気配を感じた。
「あー、もうすっかり遅れちゃったよー」
「あ、あれはⅣ号の通信手!? 隠れないと!」
アリサは風のようにその場を去る。
「あれ? 今なんか見覚えのある人が……。何この自販機、『モテモテール』?」
その後、
「たたたたたた隊長っ!?」
「ねえ? アリサ。また反省会よ? 二人っきりでね」
「隊長、今度はあたしとじゃないと思いません?」
「なな、ナオミまでなにいってんのよ!? ってか反省会って何!? 絶対そんな感じじゃないし!」
「隊長命令よ! アリサ!」
「仲間の頼みが聞けないの? アリサ」
「まって!! なんかめっちゃ怖い! やめて!!」
サンダース付属高校でとんでもない大混乱が起きたことは言うまでもない。話によれば、
「なんでたかしは私に惚れないのよぉ~。あ! 隊長やめて!! ナオミこっちこないでぇ~」
というアリサの叫び声が聞こえたとか聞こえてないとか。
この騒ぎは、サンダースがゲリラ豪雨に襲われるまで続いたという。