戦車道は衰退しました   作:アスパラ

13 / 28
短くて申し訳ありませんが、前話の後日談的なお話です。


ありささんの、もっともてもてさくせんです?

「なんで私が大洗に謝んなきゃいけないのよ!!」

 

 盗聴したからである、なんてことを指摘する人間は、今ここにはいない。

 

 サンダース大学付属高校のアリサは、先の試合での盗聴行為の謝罪のため、1人大洗学園艦を訪れていた。もちろん、自分から行こうとするような殊勝な性格ではない。隊長ケイによる反省会の結果だ。

 

 もちろん謝罪先で喚き散らすほどの子供でもなく、自分でもすこしは後ろめたさがあったので会長、及び西住みほへの謝罪はつつがなく終了した。

 

 だが、あのちびっこい生徒会長のにやにやした顔だったり、そのあとで訪れた戦車倉庫で、一年生チームが後ろの方でこそこそ「ねえあの人だよね? たかしって人に振られたの」「彼氏のこと盗聴してたって聞いたよ」なんて言っているのには、さすがに我慢ならなかったのだ。

 

「あーもうムカつく‼」

 

 アリサは飲み干したコーラの缶をゴミ箱に放り投げる。しかし缶は大きくそれ、まったく別のところにカランという金属音を響かせて落ちた。

 

「ああ、私の気持ちもあの缶みたいに届かないのね……」

 

 なんてことをぼそぼそ呟きながらそれをごみ箱に捨て直すと、

 

「……なにあれ」

 

 目の前に、怪しい自販機があることに気付いた。

 

「……『モテモテール』? はっ、くだらない」

 

 その商品名をアリサは鼻で笑いながら、なめるように商品を見る。

 

「『気になるあの子もメロメロ? これでモテモテ?』そんなわけないじゃない」

 

 といいつつアリサは財布を取り出した。

 

「ま、話のタネに買ってあげてもいいわ。そう、話のタネにね。別にタカシは関係ないから。いくらかしら? ……値段書いてないわね。100円入れてみようかしら?」

 

 「お菓子でも可」という冗談みたいなことが書いてある硬貨投入口に100円を入れると、購入ボタンに光がともる。

 

「まさか、ね。いや、でも誰かが言ってたわ。信じる者は救われる、って」

 

 購入したドリンクを大事そうに握りしめるアリサ。その姿を某調停官が見たならば、「溺れる者は藁をもつかむ」と形容するだろう。

 

 その時、こちらに近づいている者の気配を感じた。

 

「あー、もうすっかり遅れちゃったよー」

 

「あ、あれはⅣ号の通信手!? 隠れないと!」

 

 アリサは風のようにその場を去る。

 

「あれ? 今なんか見覚えのある人が……。何この自販機、『モテモテール』?」

 

 その後、

 

「たたたたたた隊長っ!?」

 

「ねえ? アリサ。また反省会よ? 二人っきりでね」

 

「隊長、今度はあたしとじゃないと思いません?」

 

「なな、ナオミまでなにいってんのよ!? ってか反省会って何!? 絶対そんな感じじゃないし!」

 

「隊長命令よ! アリサ!」

 

「仲間の頼みが聞けないの? アリサ」

 

「まって!! なんかめっちゃ怖い! やめて!!」

 

 サンダース付属高校でとんでもない大混乱が起きたことは言うまでもない。話によれば、

 

「なんでたかしは私に惚れないのよぉ~。あ! 隊長やめて!! ナオミこっちこないでぇ~」

 

 というアリサの叫び声が聞こえたとか聞こえてないとか。

 

 この騒ぎは、サンダースがゲリラ豪雨に襲われるまで続いたという。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。