銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

8 / 40
第8話

[カストロプ会戦]

 

帝国も同盟もとろ火でじわりじわり火で炙られるように、お互いの戦意を

醸成していった。

大規模な戦いの季節が近づいている、少しでも先を見る事が出来るものには共通の

観点であった。

 

「先日は感謝する。卿もいよいよ軍人か。俺が25の頃、そうだなまだ大尉だった」

「少将と比べるなんて。それでメールでもご相談させて頂きましたが、是非、少将

の元で色々と勉強させて頂きたく、お願いに上がりました」

ロイエンタール少将の私宅は何処か荒廃していた。

散らかっている訳じゃない、ただ主一人ではその空漠を埋めるに、足りないようでは

あった。

侍女もおらず、一人で暮らしているらしい。

「分かっている。卿は俺の元に来たいんだろう?」

「はい。恐れ多い願いではありますが」

「だが卿とて帝国の軍制は士官には一応、志願先を選ぶ権利があるが、必ずしもいや、

殆ど通らない事は知っていだろうに」

俺は口ごもった。

それに関して使った手は汚く、あまりほめられたものでは無い。

だが、言わなければ。

「兄にお願いし、兄経由でブラウンシュバイク公、と言ってもその秘書ですが、に一筆

お願いしたいと思います」

顎に手をやり、「ほう」とだけ。

「分かった。そうまでして来たいならくればいいさ。俺も卿には助けてもらう事もある

と思う。俺の元に居て、損はしないようにしてやるさ」

ただただ、感謝あるのみ。

「ありがとう御座います。貴方に忠誠をお誓い致します」

微苦笑し、ロイエンタールは続けた。

「あまり固くなるな。そうさな、数年かけてじっくり士官のなんたるかを教えてやる、

ついてこいよ?」

「頑張ります!」

 

そうしているうちに、ティアマト会戦、アスターテ会戦があり、いよいよ帝国でも総動

員令が発布された。

学生の卒業も半年早め、俺も即席の訓練の元、帝国軍少尉に任官した。

予定どおり、ロイエンタール少将貴下の幕僚の一番下っ端になり、少将の秘書兼コーヒー

サーバーのような下働きをしていた。

ロイエンタール少将は口がおごっていて、あまり軍内では食事しないが、ワインやコーヒー

を偏愛しており、そのサーバーなどを私費でおいている、その手入れも俺が担当した。

こんな事しか出来ないからと、私は一生懸命こなした。

 

そして更に私はロイエンタール少将と相談の上、帝国前財務尚書カストロプ公の息子と娘が

起こした、帝国への反乱の鎮圧に、兄経由でブラウンシュバイク公を動かしてもらい、ロイ

エンタール少将にその任が下るよう、工作もした。

工作費などは、全てロイエンタール少将持ち出しであるが、少将は富裕の身らしく、私財

で綺麗に払ってしまった。

 

そうして、私達は恒星ヘイムルダル、首都星ヘイムルダルに向い、2分個艦隊2400隻で

その討伐に向っている。

私の本当の意味での初陣が始まろうとしていた。

 

主モニターには敵艦隊の布陣が投射されている。

空母戦艦を含む、総装備、数は大凡4分個艦隊5600隻。

「多い!」

ロイエンタール少将貴下の私の大先輩となる幕僚、ベルゲングリューン大佐とグリルパ

ルッアー少佐、クナプッシュタイン少佐がほぼ同時に漏らした。

 

左右両翼に戦艦空母を均質に配し、中央部に臼艦、戦艦などの高火力軍艦を配している。

 

私は先輩各人が交わす会話を逐一耳にしながらも、胃の腑が冷えるのを感じていた。

勝てる、必ず楽に勝てる戦いだと踏んだからこその進言であった。

もし、負ける事があれば…。

 

 

「心配は無用である。敵が均質に艦を配していたならば勝機は無かったが…だが」

にやりとロイエンタール少将は笑い、見渡す。

「今は心配は無用である」

 

「主回線より敵陣より入電!」

私は叫ぶ。

「出せ」

 

赤毛の驕慢そうな女貴族が、胸元を露わにした緩い首筋の軍服をまとい、余裕の視線を

向けながらモニタに映る。

「ライザ・フォン・カストロプである。卿らもご苦労だねえ。わざわざ死にに来て」

「美しい夫人の願いは聞いてやりたいがな、命だけはくれてやるわけにはいかない。違う

ねだりものにせよ」

かっと血が昇ったその目元も美しかった。

「馬鹿な…事を! 攻撃開始! 全艦砲撃開始せよ」

ロイエンタール少将も続ける「全艦砲撃開始」と。

 

当初は平凡な会戦として開始された。

当然、時間が経つにつれ、数が少ないロイエンタール艦隊は不利である。

じりじりと時間が過ぎていく。

敵も決定打が無いが、何処か統一されていない動きでは有った。

「敵は有機的連携が出来ていない。よって左右両翼と中央の布陣からの時間差がある

砲撃を利用し…」

モニターに映し出される図式図。

「時計の逆回り、恒星ヘイムダルの太陽フレアに乗って後方に回り込み、中央を突破後

続けて、太陽フレアに乗り、左右両翼を叩く」

「各員始め」

 

ライザ提督の率いるカストロプ艦隊は火力も強く、数も多かったが、有機的な連携に

欠いたいた。

そこをついた、ロイエンタール少将の一撃。

後方に回り込まれた、ライザ艦隊中央布陣の臼艦や戦艦は振り向くさまを打たれ、原子

に還元されてゆく。

そして、打ち減らされた、中央布陣をそのままに、敵右翼への後方へ回り込みながら

の一撃、次いで、二撃。

これが数回繰り返されるごとに敵は打ち減らされ、ついには2000隻を切ろうかという時。

ライザ提督からの降伏勧告が届いた。

 

戦闘は終わりを迎え、こちらの被害は数百席、敵は大凡3000隻を打ち減らし、大勝利で

幕を閉じた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。