銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

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第7話

[データ]

 

「あー、今回はこの女の席は要らんわ」

「何故に御座います?」

ブラウンシュバイクはくっくっくと笑う。

「要らぬ懸想をしたものよな、あの女も。大人しくしていれば儂が拾ってやらなくても

無かったのにな」

 

ベーネミュンデ伯爵夫人が死を賜ってから、一月。

市井を少し騒がし、ゴシップの海に沈んだ一件。

その件に私、マークスが係る事になったのは全くの偶然だったとは言えない。

 

先日のクロプシュトック公の乱の折、知り合ったロイエンタール少将らとはメールアドレス

を交換し、少しではあるが中でもロイエンタール少将とは科学技術分野での話をしていた。

 

その中で、秘匿回線で送られ来たメールには至急とあり、開いたメールの内容には驚いた。

 

ある男性A氏の性染色体の生殖機能に関する塩基コードがり、B夫人との交配率、

そして、G夫人との交配率が記載されていた。

あくまで外野の一意見という事だが、A氏の場合、この配列からすると、性染色体の顕現

機能が弱く、よって生殖能力自体がきわめて低い事、B夫人とよりも、G夫人との間での

生殖の可能性が高い事を告げた。

 

メールの返信からは、ロイエンタール少将の喜びが溢れ、卿もこの情報を持っていると、

ある種のお守りになると告げ、このデータは外部に漏らさない事を条件に是非、卿も持って

いるようにとの、言葉があった。

 

ある貴重な馬の交配。競馬の一種

 

私は考えた末、それだけを兄に告げ、兄にもデータを転送した。

 

 

…鈍い私も悟ったのだ。

これは極めてやんごとなき貴賓達の生殖能力に関する遺伝データだと。

 

来年はいよいよ私も軍医学技術学校の卒業である。

進路をどうするか、迷っていた。

来年25になろうかという男が進路というのも何だが、そのまま博士課程後期に進むか、

卒業し少尉として任官するか。

 

兄やロイエンタール少将、ミッターマイヤー少将にも相談し、私は決めた。

 

軍人になろう。

初めての戦場で吐いてしまうような脆弱な身ながら、先輩である兄やロイエンタール少将ら

の誇りに満ちた仕事が羨ましかったのだ。

 

「そうか! マークスお前もいよいよ俺の後輩か…感無量だな」

「兄さんみたいに偉くはなれなくても、食べていく事くらいは出来そうですからね」

「ああ、軍隊は食えるぞ、当然、俺の元に来るんだよな?」

迷っていただが、兄の庇護の元、一生を過ごすわけにも行かない。

私は視線を兄に合わせ、伝える。

「志願出来るのだとしたら…ロイエンタール少将に拾って頂こうと思っております」

 

そんな中、レグニッツァにおける同盟との会敵があり、あのラインハルト・ミューゼル中将

がパエッタという賊将を破ったとの報が帝国を駆け巡った。

久しい外的な勝利。

私も、中将の勝利がわが事のように誇らしかった。

 

 


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