[終幕]
元帥の副帝擁立は定まっており、評判の悪いブラウンシュバイク公女エリザベートよりメディアの
露出度や知名性が高い、ロイエンタール元帥が副帝になる事に、宮廷雀達は既にさざめいている。
「それでも俺は自分自身を殺しながら、緩やかに没落していく事だろうよ」
ロイエンタール元帥は諧謔し、そういうが、私はそれを認めることは出来ない。
「元帥、お言葉ですが、ようやく到来した安定期です。多くの犠牲の結果です。ご自重下さい」
「マークス中佐の言は正しい。どうやら俺が間違っているようだな」
ロイエンタール元帥は敏い方だ、当然、自らの役割とその肩に背負うものの重さを知り、それを
平和理に支えていく事の出来る方だ、私はそう信じている。
「ところでマークス中佐。退役するそうだな」
「はい。元帥にはお世話になりましたが、軍はやはり私には合いません」
「そうとも限らんと思うが、どちらにしろ、卿の判断だ。その後どうするのだ？」
私は少し赤面して答える。
「はい。本を書いて暮らそうと思います」
意外そうに、ロイエンタールは笑った。
「書き終えたら是非、俺にも送ってくれ。どのようなものを書くつもりだ？」
今度こそ、私は自分自身の大それた願いに思いを致し、先ほどより多く赤面した。
「ゴールデンバーム王朝の施政下で闇に葬られてきた、遺伝的なマイノリティと見做された人間が
辿った運命、そして旧王朝が犯した誤りを紙面上から弾劾し、それが必ずしも正しかったことでは
無かったのでは無いかと言う疑義を提示し、読者と語らいたいと思います」
「卿らしいな。ブラウンシュバイク王朝の支持も得そうだな」
「そういうのは無しで…エリザベート様もそのような太鼓持ちのような書籍は望まないと思います」
ロイエンタールは笑った。
「それはそうだな。あの皇帝陛下が望むのはかのヤン・ウェンリーとの語らいのような客観性と
自らをも疑う懐疑性にあるようだからな…もっとも、皇帝陛下とヤンの関係はそれだけではないよう
だがな」
私は目を丸くした。
「それではあの噂は…」
「本当だ。今年度の末にも籍を入れ、ヤンは皇配殿下となるようだな。あのヤンがな。人は変わる
ものだ…」
「本当ですね」
私は新しい帝国の体制にヤンのような異質な血が入り、それをロイエンタールが支え、英邁な啓蒙
専制君主であるエリザベート皇帝が担う。
それに希望を抱いた。
ライザ提督はこの度、正式にカストロプ公領の公主として認められたが、治世を配下の文官に任せ
軍籍での継続を望んだ。
「何時、また戦いがあるか分からないからね」
そうは言ったが、大将に昇進し、デスクワークに占められる時間が多くなっていた頃、一つの縁談
が決まった。
ブラウンシュバイク王朝に近い血筋を持つ、フレーゲル提督との婚姻が決まった。
貴族同士の縁談には珍しく、恋愛結婚との報に帝国は湧いた。
それを機に、ライザ提督は軍籍を一時離れ、育児休業に入る事になる。
若いころの驕慢な性格は薄れ、ゆったりとした女性に成長したという。
フレーゲル提督も父となり、彼もまた若いころの放蕩から離れ、着実な生活に入った。
銀河は長い戦乱の果てに、ようやく一時の休息を得た。
自由惑星同盟では戦乱を終わらせた同盟史上最高の元首の名高く、ヨブ・トリューニヒト議長が
満期を務め終え、その生涯を全うした。
ヤンとエリザベート皇帝は、ロイエンタール副帝の助けを得ながら、帝国に議会を開設し、徐々
に立憲君主制として帝国を刷新していった。
それに反逆し、多くの貴族反乱も起こったが、ヤンの智謀とロイエンタールの実務性の上には、
適うもの無く、そういった反乱徐々に減少し、その治世の末期にはほぼゼロに達した。
歴史に絶対は無く、又、戦争が無くなる事は無いが、後世、エリザベート皇帝の治世はこう呼ばれて
いる。
人類史上最高の帝政期、と。
銀河の歴史が又、一ページ。
[終わり]
拙い文章を読んで下さった方々に感謝を申し上げます。
主題である遺伝に上手く踏み込めなく、又、主人公が薄い描写となり、文脈も混乱した部分が
あったと思いますが、自分自身としては楽しく書けました。
ありがとう御座います。