銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

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第35話

[暗幕]

 

講和が決まった。

詳しい話は後に詰めることとし、軍事平和条約だけでもと雰囲気が先押しし、

両軍の中立ポイントコロニーラグランジュで行われた。

遥か昔、オニール型のコロニーという形で作られ、帝都の近くに冬季の

野菜資源採取の基地として使用されていた。

 

ロイエンタール側の随行員として、エリザベートは当然として、ヤン、シェーンコップ、ビュ

コックと、後は各種提督達であり、私マークスも部品の扱いで同行する事となった。

 

中立の部屋にラインハルトが入出する。

どこか以前よりも青白いように思えたが、その白磁の肌は全ての負の要素を弾き通していた。

 

「初めておめにかかります、ローエングラム大元帥」

エリザベートはラインハルトと深々と握手する。

ここにいるみな、彼らがもしつがいであったなら宇宙でもっとも豪奢な一組かとも思えた。

 

私は兄の表情が冴えないのが気に食わない。

何か、嫌な予感がした…その時、そう思えて言えれば良かったのだが、私は何も感じていなかった。

部屋に一人、場違いにオフレッサー大将が現れ、書状のように丸めた羊皮紙のようなものをてにしていた。

誰かがそれを受け取ろうと手を伸ばすと、オフレッサー大将の両目が胡乱になり、獣じみた

怒声を上げると一気に、ローエングラム大元帥の心臓目がけて、隠し持っていたナイフを

突き付ける。

ラインハルトを突き飛ばす形で、誰かの肉体に鋭い刃が食い込む音が聞こえる。

噴水のようにほとばしる血しぶき。

「キルヒアイス!」

「いかん、動かすな!」

兄、アンスバッハは興奮して狂刀をキルヒアイスの肉体から出し抜こうとしている頭蓋に向け、

ブラスターを打った。

当たったはずであった。

信じがたい事にブラスターを頭蓋が弾き飛ばした。

ブラスターが当たった部分は白く輝いている超硬セラミックで頭蓋骨を置き換えていたのだこの男は。

うるさげにオフレッサーはナイフを振るい、兄アンスバッハの動きが止まる。

毒か…。

エリザベートを後ろに一度、オフレッサーか離れる。

どこか寂しげに、オフレッサーは歪んだ笑みを浮かべ「これもルドルフ大帝の為だ。後はエリザベート

様に消えて貰えば元通りの帝国に…」

「戻らんさ」

その時、シェーンコップは笑った。

手には暖炉のひかき棒を手にして。

 

「石器時代の勇者とは何時かやってみたかったんだ、警備兵がかけつけるまでは持たせるさ」

 

 

 

……数十分後遺骸が3体ならんでいた。

キルヒアイス

アンスバッハ

そして凶器たるオフレッサー

 

和平どころではなく皆、それぞれの陣営に逃げ帰り、第一種戦闘配置につける。

と、突然ローエングラム大元帥の艦隊がワープする。

ワープポイントはフェザーン星系ガイエスブルグ。

 

和平はこの時を持って消滅し、平和裏での体制移行の目は摘まれた。

 

 

 

 

「ラインハルト様…共存を。貴方はもう十分頑張りました…これからはおだやかな…ぐっ!

「キルヒアイスキルヒアイス! 死ぬな頼むむから一人にはしないでくれ!」

 

蹲るラインハルト。

そんなラインハルトを見下ろしながら、オーベルシュタインは口を開く。

「好機です。敵は要塞を空にしており要塞にはブラウンシュバイク公もおります。そこを急襲占拠

すればま大勢の立て直しは可能です。私はまだ貴方を見放しておりません」

「……」

「閣下ご決断を」

 

ラインハルトは死人のように立ち上がると、冷然と笑った。

「そうだな、俺は全てを手に入れる、全てをだ。敵は全て打ち滅ぼす」

 

 

 


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