銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

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第31話

[ロイエンタール・ブラウンシュバイク同盟]

 

フェザーンはサイオキシン麻薬の一大中継地点、同盟と帝国の共倒れを

狙い、債務漬けにしている。

これほど酷いネガティブキャンペーンは無かったと、時の駐在フェザーン

公使レムシャイド伯ヨッフェンは嘆いたものであった。

フェザーン側としては言いがかりというよりも、寧ろ強盗に襲われた

一般市民のような心情であった。

 

「馬鹿な! 同盟と帝国は何を考えているのか!?」

フェザーン側全権代表ボルテックは思わず叫んでいた。

彼のようなフェザーンを代表する理の人が取り乱す。

これがフェザーンの現状でもある。

 

フェザーンも武装するべきであった。

独立商人達は嘆き、めいめいに同盟や帝国に散っていく。

虫食いだらけになったフェザーンのメインドックが、その国の行先を暗示

していた。

 

惑星オーディンの冬は長い。

凍てつく大気の底で、人々は逡巡していた。

 

「端的に言えば、反乱だ。エリザベート様を擁し、偽帝を打破する」

私は兄を部屋に連れてきたまま、その場に居合わせ、思わず息をのんだ。

ロイエンタール元帥は顔色一つ変えず、断言する。

「どうした中将。卿も身を持って理解しているのでは無いか?貴族の度し

難さ、それ以上にこの帝国の現状が兵たちの血で舗装するだけのローラー

に過ぎない事を」

アンスバッハは嘆息する。

「元帥、しかしそれは焦りすぎでは無いのですかな。敵は帝国内だけでは

無く同盟もありましょうに」

ロイエンタールは笑う。

「それは問題無い。既に同盟とは話がついている。敵は…ローエングラム公

ラインハルト…彼一人だ」

「あの天才に勝てますかな。戦争の天才である彼に」

揶揄するでもなく、アンスバッハはそう言った。

 

「そこでだ、謀略も使う。ローエングラム公は簒奪を目指している。証拠は

明白だ…。ザビーネ皇帝との婚礼の話がリッテンハイム公との間で進んでいる」

ほう、と私も兄も息を漏らした。

あの華麗な天才と美貌の皇帝の婚礼はさぞ、帝国内で祝福されるであろう、

一部を除いては。

私達はその一部となろうとしていた。

 

兄、アンスバッハは思案し、深々と礼をした。

「帝国全てがローエングラム大元帥の登極を是とすることも無いでしょう」

 

ブラウンシュバイク公の館の広い一室に、ロイエンタール元帥府の面々が詰める。

互いに顔を見渡し、思案気であった。

本日はブラウンシュバイク公は出席しない。

これだけの将帥や貴族が一同に会する事の不自然さを消すために、公はリッテンハイム

公主催の晩餐会に出席していた。

 

「元帥…これは貸しだぞよ」

ブラウンシュバイク公は、肉のたるみをふるわせ、そう笑った。

 

すっと、ロイエンタールの次に入室したエリザベートの姿を認め、一同はどよめいた。

ロイエンタール等が席につくと、沈黙が場を支配する。

執事がワインを注いで回り、注ぎ終えると礼をして退出する。

シャンデリアの豪奢な光が、ワインの杯で乱反射していた。

 

「一同、内示してあるとおり、俺は帝国の病の禍根を絶つことにした」

「禍根とは?」

シュターデンは胃の腑に手を置く。

「知ってのとおり、ローエングラム大元帥の望むところ彼自身の登極にある事は

明白である。ザビーネ皇帝では…同盟との新しい関係を築く事が出来ない」

フレーゲルはワインを一口口に含み、どんと、テーブルに拳を叩きつける。

「然り…あの金髪の小僧の増長目にあまるわ! 叛徒のほうがまだ話が通じると

いうものだ!」

「左様、フレーゲル男爵の言うとおり、小僧は増長しておるわ」

ヒルデスハイムもそれに答える。

メルカッツは思案しつつ、口を開く。

「して、元帥は如何するつもりか? エリザベート様もご来席の事、何かあるの

だとは察するが」

 

一同の視線がエリザベートに注ぐ。

エリザベートは平然とその視線を受け応える。

「わたくしがブラウンシュバイクが息女、エリザベートです。皆様に本日お話

があります」

「憚りながらお話とは?」

ライザが促した。

 

「帝国と同盟の平和裏の統一、立憲君主制へと移行させるため、皆様のお力を

御貸し頂きたいのです」

 

エリザベートの手前、激発は出来なかったが、貴族提督を中心に声を荒げ、

激論が続いた。

 

大逆、不遜、平民の同盟風情が、等々、言葉は千を継、百を継、激論は続いた。

しかし、最後には理性が打ち勝った。

ローエングラム大元帥の元では何れ貴族勢力とそれに付随する勢力は駆逐され

てしまうであろう。

それならば上からの改革を目指し、同盟との間に共存、合併の道を選ぶことに

よって、貴族もその家門が守られる。

打算と理性がダンスを踊り、ついには疲れ果て理性が打ち勝った。

 

一堂はエリザベートに忠誠を捧げる為、血判状に押印し、ロイエンタール・

ブラウンシュバイク同盟は成立する。

 

「皆々様、感謝致します」

 

エリザベートが立ち上がり深々と礼をする。

ブラウンの髪の毛に、シャンデリアの光が零れ落ち、髪の毛の上で弾けていた。

美しいな、ロイエンタールが抱いた感慨は、皆が共有するものであった。


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