銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

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第3話

[クロプシュトックの乱1]

 

どの物質にも指標が存在し、特に高性能炸薬に使用出来るような危険物は

全て帝国では許認可制になっており、どの工場で作られ、或いは生成され

たのかもすぐに分かるはず…であったのだが…

 

クロプシュトック公討伐は既に発動され、ブラウンシュバイク・リッテン

ハイム枢軸を中心として、貴族連が私兵を集め、軽い狂騒状態の軍と言う

よりも高貴なる山賊の群れが、その領地に向っている現状、既に技術部門

が口を差し挟むフェーズでは無かったのだが、兄アンスバッハ大佐はブラ

ウンシュバイク公より一言、賜ったそうである。

 

「大佐、今回の私戦をな、私戦のままに出来ん、分かるな」

「と公がおっしゃるに、何か公的な証拠、それによる討伐の公的詔を所望

されるという事ですな」

うんうんと公は満足そうにうなずき、丁度寵姫が部屋に入室した事も有、

犬でも払うかのかのように手で扉をさし示した

 

アンスバッハ大佐は一礼し、退出した。

 

「という訳なんだマークス」

私は若干、嬉しかった

エラそうに技術の必要性を説いたものも、半ば退屈していたから、兄の役に

建てるのは望むところであった

 

「分かりました、問題はやはり爆薬が確かにクロプシュトックの手によるもの

であるという確約、そしてそのレシピによる帝国政府からの詔、この2つですね」

兄はうなづき、先を促した。

「前者が確定されると同時に、後は兄さん経由でブラウンシュバイク公に働き

かけて頂けると、公的な詔は頂けると思いますよ」

「悪いな、マークス、さ、忙しくなるぞ、一両日中にクロプシュトック公爵領に

到着する。それまでに頼む」

「…やってみます」

 

それから私は寝食を忘れ、ブラウンシュバイク公旗艦ベルリンのラボの一室に

籠り、ようやくその高性能爆薬の由来が、クロプシュトック公爵領の首府星、

ロキにあるベー社にあると突き止めた。

 

それを兄に伝え、データのレシピをメールすると、私は眠りに眠った。

 

ほうと、私は嘆息する。

一斉に首府星ロキに降下する数千隻の艦船を横目に、正面モニターには、自分たち

のベルリンも一気に効果するスペクタルが展開している。

兄は横に立つと、耳元で囁いた。

「今回は感謝する。先ほど、オーディンより陛下の御名御璽による討伐の詔

が発布された、お前のお蔭だ」

「でも、兄さん、あまり嬉しそうではありませんね」

嘆息すると、兄は呟く。

「これから目にするのはこのように美しい光景ではない。なあ、マークス、お前

の言っていた事を俺も少しは理解する事が出来るようになったよ」

そして、俺の肩に手を置き、さ、と促す。

「お前は部屋で休んでろ、この戦は戦というよりも、ハンティングだ…モニター

ごしでも良い、お前は少し現実を学べよ」

私は初めての戦場を完全にセーフティな環境で、まるで3次元チェスでも観るかの

ように、興奮しながらロキの昼と夜が混ざり合うその景色に圧倒されていた。

 

私は、嘔吐した。

誰も居なかったのが幸いであった。

ベルリンは閑散とし、多くの兵士が出張る中、艦に残るのは貴賓か、技術要員などの

非戦闘員だけであった。

私は私室から、個人用ドローンを飛ばし、ロキで展開される戦いを観戦していたのだが、

何という事であろう。

婦女子がレイプされていた。

血の泥濘で男が手足をもがれ、もがいていた。

この世の地獄というべき光景が展開し、その終わるところを知らない。

 

人間とは、自分よりも弱いというだけでここまで残忍になれるものであろうか、人間

である事が本当に嫌になった。

 

と、室外で人が争う声がした。

 

ベルリンの廊下で、数人の男に囚われ、蜂蜜色の髪をした男、士官であろうかが、不屈

の視線を周囲を囲み、抑える男たちに向けながら、歩いていた。

先の区画は、独房しかない。

どうやら、造反士官が囚われたようであった。

私は先ほどの、軍認識票番号、かの蜂蜜色の髪の男を観た時に、覚えた番号、それを

コンピューターに入力し、氏名経歴を読んだ。

 

ウォルフガング・ミッターマイヤー少将、それが彼との出会いであった。

 


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