銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

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第28話

[風はイゼルローンへ]

 

自由惑星同盟の内乱は、帝国の内乱が集結するのを一として、グリーンヒル大将

が自決し、反乱惑星、反乱艦隊ともに、無傷で同盟政府、正しくはヤン・ウェンリー

に向け降伏し、国力の致命的な損傷は免れた。

 

帝国内においては、現皇帝が、病の為、突然の崩御を得たがこれは帝室の人事が

既に内乱の終結において定められていた為、皇帝も又死を賜ったのだとという説が

有力であった。

ブランシュバイク公の娘アンリエッタ、リッテンハイム公の娘ザビーネが皇孫として

その後継の候補であったが、貴族選帝侯会議が数百年ぶりに開催され、ザビーネ・フォン・

リッテンハイムが次期皇帝となる事が決した。

 

「馬鹿な! 盟主はこの儂だぞ!」

ブランシュバイク公は激し、杯を式部典礼長に投げつけ、顔色は赤を通り越し、紫色

に染まっていた。

だが、主要貴族がザビーネをおした以上、ブラウンシュバイク公の権勢をもってさえ、

それは覆せない。

そして、もう一度の内乱は誰も望んでいなかった。

 

軍部の人事も紛糾した。

対外戦争では無く、盟約側、枢軸側、どちらもお互いの武勲を誇り、譲らない。

そこで一つの折衷案が認められた。

高級指揮官は一名だけ、昇進が認められ、他は下級士官や兵卒にしか昇進は認められない事。

 

結果、盟約側はロイエンタール仮設元帥の仮設の文字が取れ、元帥に昇進、ローエングラム

元帥は大元帥として、帝国開設以来軍人としての最高の名誉を得た。

 

私マークスは少佐に昇進し、ロイエンタール元帥の副官補として任に就くことになった。

 

兄などは「ただ働きであったな」と嘆いていたが、他の将帥も昇進が無かった以上、大声

で言える事柄ではなくそれは弁えていた。

 

皇孫ザビーネの即位が賑々しく行われ、帝国の団結と、ザビーネ治下での同盟の滅亡が

叫ばれたが、誰もその言葉は気にしていなかったであろう…ロイエンタール元帥とライン

ハルト大元帥の他は。

 

かくしてロイエンタール元帥府が開かれた。

元帥曰く「良い将帥はみな、ラインハルト大元帥に取られている」と嘆息していたが、

それでも以下の将帥が元帥府入りしている。

 

ベルゲングリューン中将、シュターデン中将、メルカッツ上級大将、オフレッサー上級大将、

ライザ・フォン・カストロプ客員提督、フレーゲル客員提督、ヒルデスハイム客員提督、そし

て兄アンスバッハ中将が元帥府入りした。

ほぼ盟約軍の指揮官が横滑りで、元帥府入りした形だが横へのコネが無いロイエンタール元帥

の場合仕方のない側面があった。

貴族提督もブラウンシュバイク公やリッテンハイム公の横押しもあったのだが、内戦の折に

成長が著しく、一流とは言えなくても、そこらの凡百な提督よりも力量が認めれたのも大きい。

 

ミッターマイヤー中将はロイエンタール元帥の求めに、逡巡したと聞く。

だが「…ここで節を曲げては拾ってくれたローエングラム公にも、そしてロイエンタール

貴公の名に泥を塗るだろう」と言って誘いを断ったと聞く。

 

ともあれ、帝国もまた、一時の凪の季節を迎えていた。

しかし、帝国に元帥府が2ヶある以上軍閥が出来、軍閥はお互いの名声を求め、騒乱をも

求める。

その双方の視線の先に…イゼルローン要塞があった。

 

ラインハルト大元帥の働きかけだったと噂されている。

新皇帝ザビーネより一つの勅命が下った。

帝国領を安寧とするため、叛徒の侵略の前線基地であるイゼルローン要塞を奪取する事。

 

ロイエンタール元帥は何時しか対同盟の穏健派と取られ、逆にローエングラム大元帥は

対同盟の強硬派として捉えられている。

 

しかし、今回はザビーネよりはロイエンタールに白羽の矢が立った。

これは踏み絵でもある。

 

「ようは死んで来いという事さ」

 

ロイエンタールは元帥府の会議の開口一番、そう冗談を口にした。

ベルゲングリューンは「閣下!」と勢い立つ。

ロイエンタールは苦笑した。

「そう興奮するなベルゲングリューン。だが、4個艦隊であの要塞を…そしてあの魔術師

が待つ要塞へと攻め攻略するなど自殺行為だ」

ライザは皮肉げに言う。

「ロイエンタール元帥にも不可能があるなんて知らなかったね」

「兎も角、あの要塞が我らの手にあったとき、多くの血を叛徒に流させたのも事実。逆

となると…」

シュターデンは思慮深げに呟いた。

「揚陸さえ出来ればなあ…!」

オフレッサーは残念そうに大げさに嘆息する。

ロイエンタールは頬を歪めた。

「恩を仇で返すとはこの事だ。先の内乱の折、色々と世話になった相手なのにな」

「しかし、閣下…同盟とは何れ雌雄を決しなくてはならないはずです」

「ベルゲングリューンの言うとおり。だがな…第二の道もあるのではないかと俺は思って

いる」

フレーゲルは憎らしげに、言った。

「元帥の言は分かっている。叛徒との共存だろう…だがそんな事、帝祖が定めた法に

反するわ」

 

結局、対イゼルローンの総指揮はロイエンタール元帥が執り、旗下の4個艦隊にはベルゲン

グリューン提督、アンスバッハ提督、ライザ提督、フレーゲル提督が当てられた。

軍人2の貴族提督2である。

政治的配慮の強い、布陣であった。


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