銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

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第26話

[内乱の終わりに]

 

ロイエンタールは彫像と化したかのように、凍りついた。

それも数瞬の間であり、すぐに指示を下す。

「ファーレンハイトの若輩ものが。裏切りでローエングラム公の忠誠を買える

と信じたか…」

ロイエンタールは思考する。

だが、攻撃を一にした以上、ローエングラム公も事前に知っていたのでは無いかと。

それもやんぬるかな。

 

「メルカッツは無理に後背に回ろうとはせず、現状のポイントを維持。ファーレンハイト

艦隊は俺の直参艦隊とブラウンシュバイク艦隊で対応、残りの艦隊は現状を維持し、

前進を続けるローエングラム艦隊に備えよ」

 

メルカッツは手練れとして、突然の裏切りにも動じず、ワルキューレを放出し、ファーレ

ンハイト艦隊の崩れを狙いつつ、前方のローエングラム艦隊への攻撃を続ける。

同じ右翼内の争いであり、フレーゲル艦隊は動揺し、ロイエンタールの指示に従わず、

回頭し、ファーレンハイト艦隊に砲撃を開始する。

それを狙い、回頭するポイントを狙い、ローエングラム艦隊からはクロスファイア点を

設定され、急激な勢いで横撃をくらい、光と衝撃を宇宙に伝えていく。

右翼が崩壊しつつあった。

 

その中、ローエングラム艦隊が前進を続け、健在である左翼と中央部がそれに対抗する。

 

ついに、ローエングラム艦隊の奥部、ラインハルトが直接指揮を下す直参艦隊と、ロイエ

ンタールの直参艦隊が鉾を交える。

一層、沸騰し、放出されるエネルギーに揺さぶられ、衝突する艦も現れるが、双方

陣を薄くせず、寧ろ厚くして、敵の鋭鋒から身を守ってる。

「ここが正念場だよ! 踏みとどまる!」

ライザ艦隊がロイエンタール艦隊を助け、ラインハルトの艦隊に向け、一斉射撃を三度

繰り返した。

後を考えないその射撃は大きくラインハルトの艦隊を揺さぶり、ブリュンヒルドの陶器

のような船殻に傷がつく。

ラインハルト艦隊はしばしの動揺と後、ゆっくりと後退し、ミッターマイヤー艦隊が

ロイエンタール艦隊とライザ艦隊の攻撃を受け止める。

 

崩壊する右翼に対し、ブラウンシュバイク艦隊は敵味方区別をつけないかのような、

無思慮な攻撃を、ファーレンハイト艦隊に叩き込んでいた。

ブラウンシュバイク艦隊を補佐する、グリルパルツァーの進言である。

ブランシュバイク公は生理的な恐怖にかられ、盲目的に攻撃を繰り出す。

ファーレンハイト艦隊は辟易したかのように前進し、ローエングラム艦隊へと合流

を果たすため、艦隊運動を行った。

 

「逃がすな…全艦砲撃せよ…ファイエル」

メルカッツは後ろを向ける、ファーレンハイト艦隊に向け主砲斉射を行った。

ファーレンハイト艦隊はそれでも揺るがず、スピードを上げ、ローエングラム艦隊

へと合流を果たす。

 

ロイエンタールは小休止を得た戦線の中、その再構築を指示する。

薄くなった右翼にブラウンシュバイク艦隊を当て、相対的に薄くなった中央部を

自らの艦隊とライザ艦隊、アンスバッハ艦隊で当てる。

左翼は健在であり、損傷も少なかった。

 

そして、お互い陣を再編成し終え、戦いは再開された。

 

ローエングラム艦隊は、まだファーレンハイトを信用しきっていないのだろう、全面

にファーレンハイト艦隊を展開させ、自らの艦隊群は後ろに位置している。

フレーゲル艦隊は、制しも効かず、一気にファーレンハイト艦隊に狙いを定め、矢の

ような陣形で一気に襲い掛かる。

理に適った戦法ではあった。

鋭くナイフのように戦陣を尖らせ、その獰猛な刃でもって、ファーレンハイト艦隊の

両断に成功した。

 

一気にファーレンハイト艦隊だけを狙い、集中砲火で艦船を沈めていく。

必死に陣の維持をしていたファーレンハイト艦隊ではあるが、集中砲火に耐えきれず、

後退していった。

合わせて、フレーゲル艦隊も後退する。

 

「ガイエスブルグ、敵要塞を射程に収めました!」

私はエネルギーゲージと距離を確認し、ロイエンタール元帥に進言する。

「頃合いだな」

ロイエンタールは手を振りざし、一気にふりおろす。

ガイエスブルグ要塞主砲ガイエスハーケンが火を噴き、ローエングラム艦隊を貫き、

レンテンブルグ要塞に突き刺さる。

大きく、火球が花さき、ローエングラム艦隊は後退を開始する。

 

そこへ第二射、第三射を叩き込む。

ローエングラム艦隊が深くガイエスブルグ側に浸透しておらず、射程を図っていた

事もあり、陣を乱して逃げ惑うというでもなく、整然と後退を開始する。

 

レンテンブルグ要塞を見捨てる形で、ローエングラム艦隊は首都星オーディンの軌道

上に位置し、最後の戦いに備え布陣している。

レンテンブルグ要塞は、降伏勧告を受諾した。

これはオフレッサーの蛮勇に恐れをなした側面もあったのだと推測された。

 

一時の凪。

ロイエンタールは考えあぐねた。

このまま戦って…勝てるのか?

いや、勝たねばならぬ。

 

黙考の後「マークス大尉。来てくれ」と促し、通信室に入る。

2人きりになり、ロイエンタールは続けた。

「超長距離通信の操作を頼む。宛は…イゼルローン要塞……ヤン・ウェンリー大将」

 

ヤンは寝ていたのか、ぼさぼさの頭に軍帽を載せ、画面に現れた。

礼をする、2人。

「ヤン大将、先日の件は礼を言う。してな、卿の言葉に甘え、ここは通信した次第だ」

ヤンは急速に覚醒しながら、答える。

「私に出来る事であれば良いのですが」

「この状況をどう思う…」

簡単に布陣や状況を告げると、ヤンは途中で「ああ…まずいな」と呟く。

 

「これはローエングラム公の…窮鼠猫を噛むです。強かな逆撃があるでしょうね」

「俺もそう思っていた…そこでだヤン大将、卿にお願いしたい議がある」

ヤンが答える前に、ロイエンタールは続けた。

 

「イゼルローン回廊側の帝国辺縁領へと侵犯して欲しい」

ヤンはふわりと、笑みを浮かべた。

「…そういう事なら早速」

 

ロイエンタールは眼下に広がる、首都星オーディンの人々の暮らしの灯を目にし、

表情を少し緩め、主要提督との通信を交わす。

 

「貴官ら激戦ご苦労である。それでな…俺は一つの事を決めた」

ライザは表情を隠し、促す。

「それはこの戦いに関する事?」

「そうだ、今から送るデータを観てくれ」

私は、データを伝送する。

シュターデンはほう、と呟いた。

「これは…帝国GDPの推移ですな…暴落、か。酷いな」

神経質そうに、シュターデンは鳩尾に手を当てた。

アンスバッハは、眉をひそめる。

「この内乱で失われた富は…いや富よりも臣民の身体財産が犯されているな…」

ロイエンタールは答えた。

「このまま戦ってもローエングラム公とは決定打を打てないと感じてる。当初の

戦略では消耗戦であったが…推移のまま行くと…帝国が崩壊してしまう」

フレーゲルやヒルデスハイムは何か言いたそうにするが、口を閉ざしていた。

モニタに移る、一同を見渡し、ロイエンタールは断言する。

 

「ここら辺りで和議を結ぼうと考えている」

 

ロイエンタールの言葉に誰もが絶句する。

そこまでいくと、ブラウンシュバイク・リッテンハイム盟約への背信では無いか?

皆、そう思ったが誰も口にせず、また出来ないでいる。

 

「私は賛成だよ。これ以上戦いを続けると破滅さね」

ライザはさばさばと、そう答えた。

「小官も賛成です! ええ、閣下賛成ですぞ!」

ベルゲングリューンは喜色を露わにそう答える。

 

そうして、フレーゲルとヒルデスハイム以外の提督は、ロイエンタールの意見を

是とした。

 

「貴様ら平民どもが癒着しおって!」

フレーゲルは吠えた。

それに呼応し、ヒルデスハイムも続ける。

「う、うむ。男爵の言うとおり、あの反逆者の卑劣漢を生かしておく事は帝室の

恥、許されぬわ」

 

ロイエンタールは嘆息し続ける。

「卿ら二名が反対な事は分かった。貴官らが反対した事は俺からブラウンシュバイク

公には伝える…邪魔だけはしないでいてくれ。その位…卿らにも期待出来よう?」

 

一同、沈黙する。

是とする、沈黙であった。

 

それと同時に、自由惑星同盟軍、帝国侵犯との報が全宇宙に駆け巡る

 

期を一にしてロイエンタールは通信回線を開き、ローエングラム艦隊、ラインハルト

元帥に向い、和睦の申し出を行った。

帝国歴488年6月の初夏の出来事であった。


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