銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

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第24話

[第二次ガイエスブルグ会戦]

 

ロイエンタールは主モニター全体に広がる、敵軍の光点を目にしながら、身を熱く焦

していた。

これこそ戦いというものだ。

貴族出身の3提督は体よく追い出した形で、残りの諸提督はみな、ロイエンタール

とメルカッツの手腕に心酔している。

だから、と、ロイエンタールは思う。

同数でも、戦えるというものだ、と。

 

 

第一艦隊ファーレンハイト提督、第三艦隊ベルゲングリューン提督、第四艦隊シュタ

ーデン提督、第五艦隊アンスバッハ提督、第六艦隊ベルゲングリューン提督、第八艦

隊第九艦隊第十艦隊は今回は遊軍とはせず、メルカッツとロイエンタールがそれぞれ

指揮し、最後の第十艦隊にはブラウンシュバイク公とリッテンハイム侯爵が座乗し、

後方に構える。

 

合計、8個艦隊がローエングラム公の7個艦隊に対する。

 

要塞主砲ガイエスハーケンを避け、その射程内外を出入りし、誘うようなラインダンス

を繰り出す、ローエングラム公の艦隊運動は見事であった。

ロイエンタールはほうと、嘆息する。

グリルパルツァーも一時、手を休め、モニタを振り仰いだ。

 

「我らも座してばかりをおられんな。全軍、ゆるりと前進」

ロイエンタールが手を振りろし、戦火が開かれた。

 

第二次ガイエスブルグ会戦である。

 

モニタで観ると、光点がアメーバのように延び、お互いを飲み込むような動きを繰り替え

している。

その都度、延びたアメーバの先端は叩かれ、後退し収縮していく。

たがいに決定打に欠けた、序盤であった。

 

「…そろそろ仕掛けてくるな」

ロイエンタールはラインハルトの器質を知っていた。

このような地味な戦陣を、否とする人となり。

 

ラインハルトの戦陣の左右両翼が一気に突出し、それぞれの対応するロイエンタール艦隊

の両翼に攻撃を集中させる。

その陣形が僅かに解れ、ロイエンタールが指揮する盟約軍の両翼が後退した。

そこの空白を受けるかのように、突出するキルヒアイスの艦隊が迫る。

 

「両翼は下がったままで良い。中央部をそれに揃えて後退。対する敵には臼艦の超長距離

砲撃でけん制だ」

右翼のベルゲングリューンの艦隊が薄くなっているな…。

ロイエンタールは目を細め、暫し考える。

「ベルゲングリューン、少し後退の上、艦隊を再編せよ。…ブラウンシュバイク公よ、

遊軍には出来ない…公の艦隊は前進し、ベルゲングリューンの艦隊が空いた部分を埋める

ように」

「げ、元帥。卿は…儂に死ねと申すか…。わ…儂は艦隊など指揮した事は無いぞ…」

その為の、とロイエンタールは思う。

「だから先刻、グリルパルツァーを遣わしたはず。彼の助言を聞いて動いて頂きたい」

グリルパルツァーは目を輝かせている。

「はっ」

実質、ブランシュバイク艦隊はグリルパルツァーが指揮し、戦いは続いていく。

 

「メイン回線に通信です!」

ロイエンタールの旗艦トリスタンに通信が届く。

「ほう…久しいな…ミッターマイヤー」

「…ロイエンタール、卿は少し痩せたのではないか?」

ロイエンタールは自然な笑みを浮かべた。

「ダイエットしているのさ。卿とも話をしていたいが、今は戦中だからな。どうした…?」

ロイエンタールは既に、察してた。

この親友は身命を賭して、自分を救うために動いている事を。

それに引き替え…ロイエンタールは思う、俺は友達がいの無いやつだな、と。

 

「…卿は酔っているな?」

ミッターマイヤーは嘆息した。

「俺は素面だ」

「野心という美酒に酔っている…」

「……」

 

「何、まだ決着はついていない。俺もしぶとくやっていくさ…それよりも卿こそ、こちら

に来ないか? より実質に近いのは盟約軍の方だと思うが」

「俺は俺の道を行く。…だが、俺も諦めが悪い…卿の身を救うため諦めないぞ」

「…同じさ」

 

そして、二名は礼をし、通信は切れる。

激闘は続いていた。

 

臼砲による砲火を無視し、キルヒアイスの艦隊が盟約軍の中央部に突進し、突撃し、

陣を乱しながら、盟約軍を両断するかのような艦隊運動を執る。

対するのは、盟約軍中央部ファーレンハイトとアンスバッハの艦隊群である。

「…やるな…! だがこちらとて!」

ファーレンハイトは常に無く、真剣に指揮を執る。

アンスバッハは必至に、ほおっておけば戦線崩壊に繋がる自らの艦隊の維持、防衛に

手一杯である。

 

「敵艦隊…突撃です!」

キルヒアイス艦隊がついに、ファーレンハイトとアンスバッハの陣に到着し、それを

食い破る為、近接戦闘用のワルキューレを放出する。

ファーレンハイトは舌舐めずりする。

「ワルキューレ発進! 敵を生かして帰すな!」

アンスバッハが少し遅れて、ワルキューレの発信を命ずる。

しかし、タイミング悪く、キルヒアイスが事前に発進させたワルキューレによって

アンスバッハの艦隊の空母が優先的に沈められていく。

より、アンスバッハ艦隊よりに、キルヒアイスは両断の為の突撃を続ける。

「アンスバッハ提督は何をやっているか! 我らがワルキューレは味方の発進を

優先して助ける…急げ!」

ファーレンハイトはそう指揮し、ファーレンハイトの艦隊から放出されたワルキューレが

アンスバッハ艦隊のワルキューレの発進を助け、次第に先端部の戦線においては

2艦隊のワルキューレ群が、キルヒアイス艦隊のワルキューレを圧倒していく。

キルヒアイス艦隊は突撃を中止し、味方のワルキューレを収用すると、つけいる隙

を見せず、後退していく。

 

そんな戦線全体の動きを観ながら、ロイエンタールはコーヒーを一口飲み下す。

「このままでは芸が無いな…マークス大尉、頼みがある」

私は副官といっても良い所、コーヒーサーバーであった。

地味にデータと格闘し、元帥に提出し、少しでも彼が快適に過ごすことが出来るように

全力を注ぐ。

その中で、戦場とは軍人とは何かを少しずつ学ばせて頂いていた。

「はっ! 小官に出来る事であれば喜んで!」

ロイエンタールは複雑な表情を浮かべる。

「これは汚い策でな…下策ではあるが…いや」

ロイエンタールは首を振る。

「俺は勝つ為には何でもしなければならない…草稿を纏めてチェックして欲しい」

 

それは諜報戦の一種であり、銀河規模でのゴシップでもあった。

確かに、これによりローエングラム公の軍勢はその士気が低下するであろう。

 

工作艦隊が、その擁する大きな電波艦をフル活動させている。

全ての回線で、その一つの言葉をがなり立てている。

 

「ローエングラム公は罪の無い有人惑星に核攻撃をすることにより、盟約軍を

人道の敵として告発し、壊滅させようとしていたが、これは自作自演であり、

ローエングラム公の軍勢がその公の野心の為に、罪なき領民を害しようとした

事、許されるものではない。盟約軍は人道の為、既に全宇宙規模の禁止条約

に加盟している。繰り返す…人道の敵は…臣民の敵はローエングラム・リヒテン

ラーデ枢軸にある」

 

ローエングラム公の軍勢は庶民が多いと聞く。

この時点での真偽の確認は不可能ではあったが、ローエングラム陣営の士気は

著しく低下したであろうこと疑いようが無かった。

 

数刻が経った頃、ついにローエングラム公の艦隊群は両翼を一気に広げ、盟約軍を

飲み込むかのように迫る。

同時に、中央部の艦隊群が銀河天井部と、銀河底辺部に二部し、盟約軍全体を

立体的に飲み込む艦隊運動を開始した。

 

盟約軍の各提督は、その運動の見事さに嘆息する。

 

盟約軍の両翼はブラウンシュバイク艦隊とメルカッツ艦隊が対応する。

2艦隊は多少の犠牲を躊躇せず、踏みとどまる。

メルカッツ艦隊は、寧ろ前進するかの勢いで留まり、強かに逆撃を加えていた。

グリルパルツァーは佐官の身ながら、艦隊を動かす醍醐味に浸っていた。

「ロイエンタール提督に笑われる訳には行かない…ここはこらえろ!」

 

シュターデン艦隊、ファーレンハイト艦隊、アンスバッハ艦隊は、天頂部、底辺部

から迫るラインハルトの艦隊群に対し、上下の艦隊に対応する為、砲口を向けると、

その前に撃沈され、光球が宇宙の闇に飲まれていく。

「総力戦である…こらえよ!」

「こらえろよ…もう少しで後方のロイエンタール元帥直参の艦隊が到着するぞ!」

「艦隊運動B案…こらえるように…こらえて…逆撃を加えよ…」

 

盟約軍の中央部が壊滅する前に、ロイエンタール直参の艦隊が到着し、天頂部と底

辺部から突撃を開始している敵陣に向い、振り絞った打撃を加える。

もう少しで食い破れる寸前に、キルヒアイスの艦隊は後退し、左右両翼から攻撃して

いた艦隊も、後退を開始する。

 

「…後ろより艦隊……!」

そのオペレーターの言葉に、ロイエンタールは両手を椅子に食い込ませる。

数瞬の間。

「み、味方です! ライザ艦隊…フレーゲル艦隊……ヒルデスハイム艦隊です!」

どちらが図るでも無く、お互い陣を後退させていく。

 

盟約軍1万隻、ローエングラムの艦隊群7000隻の損失である。

消耗戦であった。

 


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