銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

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第23話

[爆発]

 

ガイエスブルグ要塞にヴォルフスムント要塞が加わり、ガイエスブルグとは

別に、辺境鎮圧艦隊の集結基地にヴォルフスムント要塞が当てられ、辺境

鎮圧には3艦隊、ヒルデスハイム艦隊、ライザ艦隊、フレーゲル艦隊が当てられる。

貴族出身の提督に対する、ブランウンシュバイク公の配慮でもあった。

 

同時に、ガイエスブルグ要塞は進軍を続け、ヴォルフスムント要塞に残る三艦隊

以外の全軍は、一路帝都オーディンをめざし進発する。

 

ヒルデスハイム伯爵の艦隊がフェーザーン方面の辺境部の鎮圧、フレーゲル男爵

の艦隊は、地球側辺境部位の鎮圧に当たり、残りのライザ艦隊はイゼルローン方面

の鎮圧に当たる。

 

当然、それぞれの領地を含む布陣であり、領地から進発する前に主要な物品は徴収

し、既に領民代表政府は、ローエングラム公への降伏を許可されていた。

 

それでも不安で三提督の顔色は優れなかった。

 

三人で、ヴォルフスムント要塞を進発する直前。

彼らは食事を共にしながら、今後の事を話し合っていた。

 

ぼんやりとした、蝋燭の灯の中、ライザの豊かな赤髪が、そのドレスに映えていた。

真紅のワインで喉を湿らせ、ふうと嘆息し、襟元を緩めるカストロプ公女ライザ。

そんなライザの胸元に視線を写し、口元を歪めるフレーゲルであった。

三人とも、帝国貴族の重鎮とは言え、帝都オーディンに常に詰めている宮廷人とは

違い、どこか田舎貴族然とした粗野な雰囲気が否めないでいる。

がつがつとウィンーナシュニッツエルをかき込みながら、ヒルデスハイムはワイン

を鯨飲している。

「…貴女とも長い付き合いになったな」

どこか寂しげに、フレーゲルは呟く。

「男爵とも一緒に学んだ仲だからね…。まさか自分自身がこういう運命に至ると

は思ってなかったよ」

一口、ワインを飲みながら、フレーゲルは嘆息する。

「俺もだ。まさかこの帝国がこのように乱れるとは…。太祖ルドルフ陛下に申し訳

無い気持ちで一杯だ…」

「私達の責任では無いであろう」

ヒルデスハイムは無遠慮に言う。

どんと、テーブルを叩き、フレーゲルは場を乱した。

「何を言うか! 帝国貴族こそがその柱となり、保守として正しく人類を統治し

なくては人類なぞこの銀河の深淵に溶けていくただの猿に過ぎん!」

「おう。分かった分かった」

ヒルデスハイムは辟易し、答える。

ライザはどこか寂しげに、呟いた。

「だけどね…私達が必要とされない世界が…どこか、こう迫っているとも感じるんだ。

卿ら二人もそうではなくて?」

「そ、そんな事…!」

「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」

進発の犠としては何処か獏たる犠でもあった。

 

辺境の鎮圧は容易であった。

ローエングラム元帥の側も余力が無いのか、守備の艦隊などは一切置かず、無血開城が

進んでいく。

帝国辺境部の、奥へ奥へ誘われていく三艦隊であった。

 

ライザは艦橋に立ちながら顎に手をやる。

何かがおかしい、頭の中でアラームがなっている。

先程、フレーゲル、ヒルデスハイムと通信を終えたが、彼らも順調な進軍ではあった。

それぞれの領地も再占拠し、安堵したものである。

「一度、ヴォルフスムントに帰還しません事?」

ライザは両提督にそう告げる。

二名とも、どこか不気味なものを感じていたのであろう、首肯する。

 

それぞれが集結ポイントに向い、進軍していた折。

「…前方に艦船多数! 所属不明です!」

それぞれの艦隊のオペレーターがほぼ同時に叫んだ。

再集結まで、あと僅かと言う段階でもあった。

 

「第一種戦闘配備!」

ヒルデスハイムが僅かに遅れたが、それぞれ艦隊陣を敷いていく。

緊張しながら、艦隊はお互い有効射程に入る。

所属不明艦隊は発砲を開始する。

それに応え、ライザ、フレーゲル、ヒルデスハイムはそれぞれ「ファイエル!」と

答える。

ヴォルフスムント近傍域会戦の始まりである。

 

フレーゲルは叫んだ

「敵伏兵がまだ存在していると仮定し、我々はヴォルフスムントでの再集結を

図る事を第一目標とする!」

 

敵と会敵し、砲火を構えながら、ライザはフレーゲル艦隊の動きに警戒感を強める。

豊かな髪に手を差し入れ、くしゃくしゃにする。

ああもう。

「…男爵! 無理に集結しないほうが良いよ。目前の敵に集中して!」

「各個撃破されてしまうではないか!」

「敵に各個撃破の意志があるならとうにしているよ。…おそらく敵はそこまでの

戦力を持っていないのだと思う…。ヴォルフスムントが落ちるまで隠しておいた

伏兵だよ。そんなに数があるはずがないから」

ライザの言葉に頷き、男爵は目前の敵の撃破に精力を傾ける。

ヒルデスハイム提督は淡々と、目前の仕事に注力する。

 

敵不明艦隊より艦橋に通信がはいる。

三提督は回線を開いた。

「小官はレンネンカンプ中将である。…降伏を望むが、どうせ卿らは降伏する

まい?」

守衛のように冴えない容貌に相応しく、こずるい言であった。

三提督は通信を切り、攻撃を再開する。

 

レンネンカンプ艦隊は、前鉾だったのであろう、すぐに後退し、宇宙の暗闇と同化

していく。

 

3艦隊は集結を終え、ヴォルフスムント要塞に帰着する。

 

レンネンカンプ艦隊は要塞の周囲を周遊しながら、要塞砲の射程内外を出入りし、

攻撃を誘う艦隊運動を続けている。

3個艦隊全戦力を持ってすれば、一個艦隊のレンネンカンプを撃破するは容易な

事、将兵はそう思ったが指揮官たる3提督は慎重であった。

数を頼みに進撃してきた身、ローエングラム元帥の正規艦隊に対するには経験も

能力も不足している…そういう悔しい自己認識もあった。

 

ライザ提督が、副官に尋ねる。

「盟約軍、本体との連絡はどうなっているか?」

「は、盟約軍本体ガイエスブルク周辺において、現在会敵中です。ローエングラム

公の本体と思われます」

ライザは、無意識に髪の先を弄りながら考える。

あの憎むべきロイエンタールからも援軍は来ない。

とすると、ここヴォルフスムント要塞に我らを縛り付けるのが、レンネンカンプ

艦隊の目標だろう。

ならば、このヴォルフスムント要塞に固執する理由もあるまい。

寧ろ、要塞を捨てる事により身軽になり、大きく銀河天井部を迂回し、現在会敵

中であるローエングラム元帥の艦隊の後背を取れると、より有利に働くのでは

無いか。

ライザは一つの策を考えだす。

一つの、詭計であった。

 

フレーゲル提督、ヒルデスハイム提督はその策を是とする。

三艦隊が要塞砲の助力を得ながら、出撃する。

その戦力の1割は要塞のドックに残してある。

レンネンカンプ艦隊は、正規艦隊の艦隊運動はかのように行うものという、見事

な艦隊運動で、広く両翼を広げながら、攻撃を強く受ける部分は厚くし、比較的

に攻撃が薄い部分の陣も又、薄くする。

そうした対応により、寡兵を補う。

盟約軍3個艦隊とレンネンカンプ艦隊の決着はつかないまま、時間は経過していく。

ふっと、レンネンカンプ艦隊は銀河底辺部に移動を開始する。

そこから、新たに生じた光点群がそれに合流する。

ローエングラム公の増援であった。

 

3提督は事前の打ち合わせどおり、算を乱して、お互い先を切りながら、敗走を

開始する。

追いすがるでもなく、その逃げる背部に攻撃が集中する。

「いいかい、逃げる…この一言だよ…!」

「次を期する事は帝国貴族に取って恥では無い、転身する!」

「いいから逃げろ。死んだら元も子も無いぞ」

三提督は、盟約軍本陣、ガイエスブルグ要塞の方に向って消えて行った。

 

ローエングラム公の2個艦隊のうち、新たなに生じた艦隊とレンネンカンプ提督は

ヴォルフスムント要塞に縋り付く。

殆ど、抵抗は無いまま要塞は接収された。

その時、要塞の主エネルギー元である核融合炉が暴走し、残ってドックに係留

されていた3提督の艦船からエネルギーの本流が溢れる。

ブービートラップ…AIによる時間差自爆攻撃であった。

瞬間、要塞は宇宙にその白熱したエネルギーをまき散らしながら、爆散する。

数多の命と、物品が宇宙の元素に還元され、悲鳴が通信回線を満たして、消えて

行った。

 

レンネンカンプ艦隊、後に判明したミュラー艦隊はこうして、宇宙から消滅した。

レンネンカンプ提督は部下を逃すところ、爆発に巻き込まれ戦死。

ミュラー提督とその指揮する少数の艦隊が要塞の爆発から逃れた時には、実質、

2艦隊は消滅していた。

 


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