銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

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第21話

[ヘルベルト星域会戦]

 

帝国中央部ヴァルキュリア行政区。

それは大きく5つの星系に別れ、帝国首都星オーディン向け、一路軍を進めている

盟約軍はこの行政区に達した。

先のアルテナ星域会戦より、これといった戦いもなく、凪が訪れていた。

しかし、ラインハルトの軍勢は、このヴァルキュリア行政区の5つの星系のうち、

最も人口を擁し、艦船の修理ドックなどを有する、ヘルベルト星域を擁していた。

ここを無視して直進する事も可能であったが、そうすると後背を突かれる事となり、

盟約軍としては無視する事は出来なかった。

 

場はさんざめく。

リッテンハイム侯がいきり立っていた。

武勲を全てブラウンシュバイクに独占される、そんなパラノイアじみた妄想に囚われ

ていたのだ。

「ヘルベルト星域、敵軍は集結している!この挑戦から我ら門閥貴族は逃げる事は

出来ないであろう!」

リッテンハイム公がそう叫ぶと、ブラウンシュバイク公は頬を歪めた。

二日酔いの頭に、リッテンハイムの声は良く響いたからだった。

 

ロイエンタールは口を開く。

「副盟主もこう仰せだ。小官としてもここは一戦するべきだと考えている。しかし、

無思慮に戦端を開くわけにも行かない。盟主、宜しいか」

突然、言葉をなげられ、ブラウンシュバイク公はびくりと体を揺する。

「…余は仮設元帥の言をよしとする。リッテンハイム侯…なあ、侯の意見も入れたぞ」

鉾の持って行き場をなくしリッテンハイムは口を噤んだ。

 

「マークス大尉。敵の布陣はどうなっているか」

私は仮設元帥からの命を受け事前に、データを用意したいたものを、プロジェクタに

映す。

「は、このようになっております」

何度かの無人艦による強硬偵察で得た貴重なデータであった。

おおと、一同の声が木霊する。

ヴォルフスムント要塞…ガイエスブルグよりは一回り小さかったが、より最新の設備を

有し、中でもガイエスハーケンの5割程の出力ながらより射程が長い、ヴォルフスハーケン

は脅威であった。

そこに、キルヒアイス上級大将を首班とした、ローエングラム公の辺境鎮撫艦隊4艦隊が

集結し、蠢動を繰り返している。

 

ロイエンタールは続けた。

「大軍で小軍を制する。これが戦略の基本です」

内心は、そうでもしなければ、お前ら貴族では勝てない、そう言下に潜ませた声であった。

「して、元帥、どのような布陣をお考えですかな」

ファーレンハイトは意気軒昂する。

 

「ヴォルフスムント要塞の攻略の任は、メルカッツ提督に一任したく思う。そして旗下

には…」

「ファーレンハイト提督の第一艦隊、ライザ提督の第二艦隊、ヒルデスハイム提督の

第三艦隊、アンスバッハ提督の第五艦隊、ベルゲングリューン提督の第六艦隊、そして、

混成総軍として、リッテンハイム公の3個艦隊、仮設本営をここのおき、これは俺が直接

指揮をとる」

リッテンハイム侯は目を白黒させた。

「よ、余の軍勢だぞ! 取り上げるのか!」

ロイエンタールは慰撫するかのように呟く。

「侯爵、そうではない。侯爵の軍勢の誉れは侯爵自身の誉れ。俺は軍勢を一時、おかり

するだけだ」

「そうか…、うんうん、それなら良いわ」

リッテンハイム侯は納得し、着席する。

ロイエンタールはそれを確認し、続けた。

「盟約軍発足以来の大戦である。故に勝たねば意味は無い。必ず、勝つ。勝って帝国

の屋台骨は盟約側にある事を周知させなくてはならない」

 

キルヒアイス辺境鎮撫艦隊。

4個艦隊で構成され、ケンプ提督、メックリンガー提督、ワーレン提督の三提督を

有し、残りの一個艦隊をキルヒアイス直参となっていた。

キルヒアイスの戦力は、辺境鎮撫艦隊は、辺境星域を概ね制圧したあとこの、ヴォルフス

ムント要塞に籠り、来たる盟約軍との決戦に備えてた。

 

無駄打ち一つせず盟約軍は、両翼を広く広げ、制宙権を広く取るかのように要塞を包囲する。

要塞自体を包み込むような陣形で、少しでもヴィルフスハーケンの被害を減らす算段で

あった。

盟約軍艦隊の射程に届く前に、ヴォルフスハーケンが火を噴く。

「陣を更に薄く引き伸ばせ。ひるまず全艦前進」

メルカッツは眠そうな目をそのままに、手を振り下ろす。

瞬間、自分たちはヴオルフスハーケンの硬X線ビームにより原子に還元されているのではないか。

全将兵は汗で服が張り付く、不愉快に耐えていた。

 

盟約軍の艦船が、有効射程にたどり着く。

一気に、軍港やヴォルフスハーケン砲を狙い、レーザー水爆を中心とした打撃を投射し続けた。

と、要塞全面に位置していた、キルヒアイス辺境鎮撫艦隊は、要塞に対して、扇状に軍陣を

構成し、それに対する。

キルヒアイス辺境鎮撫艦隊は、盟約軍に対してのキルレシオが高く、爆発する光球の1つに

対し、盟約軍はその数が3倍~4倍ですらあった。

ロイエンタール直参の3個艦隊は後方に位置している、いわば督戦隊の働きも有していた。

だが、これはこの時点では精神的な圧迫であり、実際にはまだ盟約軍は後退せず、その督戦

の火も噴かなかった。

 

「まずいな…練度が違い過ぎる」

ロイエンタールは顎に手をやり、考えた。

このままでは敵をすり潰し終える頃には、盟約軍は消滅してしまう。

 

キルヒアイス辺境鎮撫艦隊は、フル活動であった。

全ての艦が砲火を交え、遊んでいる艦船は一隻も無い。

その中で、ケンプ提督の艦隊がすこしだけ、砲火が緩む。

激しい盟約軍からの砲火が、よりケンプ艦隊を傷つけていた。

 

ケンプ艦隊が後退する、その瞬間を狙い、メルカッツはライザ提督、ヒルデスハイム提督

の艦隊に突撃を命じ、中でもヒルデスハイム提督の艦船は狂ったかのように、突撃し、

ケンプ艦隊は接近され、ワルキューレをお互い放出し、接近戦に入った。

それをヒルダ提督が、アシストし、ケンプ艦隊を助けようとする、ワーレン艦隊の突出

した部分だけを狙い、そこを平すかのように、そこに集中砲火を加える。

 

その傷口に気づいた、ロイエンタールは自らの3個艦隊を圧力として、少しづつ前進させ、

結果として盟約軍全体をより戦闘領域へと押し込む。

エネルギーが飽和し、場がさく裂した。

ここまで狭い領域にエネルギーが集中した戦いはかってなく、エネルギー流が強く吹き、

弱った艦船を動かし、お互いの衝突すら招いていた。

 

ふっと、見事な艦隊運動でキルヒアイス旗艦を中心にした1000隻程の艦船がエネルギー流

に乗りながら、時計廻りに大きく迂回し、ロイエンタールの3個艦隊を強襲する。

物凄い勢いで軍の内奥に入り込み、右に左に、上に下に、砲火を叩きつけ、内部からロイ

エンタールの3個艦隊を食い破っていく。

とっさに、受けるのではなく散り、密では無く租にし、このキルヒアイスの分艦隊をやり

すごすように、ロイエンタールはそう指示する。

だが、リッテンハイムの手にあった艦隊は練度が低く指示を上手く生かせず、被害を大き

くする。

「敵艦と会敵します!」

グリルパルツァーがそう叫んだ、瞬間、主モニターに赤赤としていた、キルヒアイス提督の

旗艦が写りだす。

私が感じた時間は数秒であったろう。

旗艦同士が砲を交えながら、お互いに決着せず、お互い距離を隔てて行く。

 

戦いの帰趨はまだ未明であった。


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