銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

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第2話

[胎動]

 

私はその後、帝国救貧院で5歳まで育った

幸運な数パーセントに私は入ったのであろう、凍死も飢え死にもせず、

2年間をその施設で過ごした後、これも僥倖なのだろう、アンスバッハ

中尉…彼ら夫婦の為のカスガイとして、私は貰われて行った…

そして、私の頭脳は彼らを失望させる事無く、アンスバッハ大尉の

実子である、父親と同じ名を冠したアンスバッハ兄と共に、私は当然の

ように軍技術医学大学に入り、アンスバッハ兄は軍士官学校を主席から

7番目で卒業し、既に軍務に就いていた

 

アンスバッハ兄とはこんな思い出がある…

ある日、私とアンスバッハ兄は子供部屋で一緒に勉強しながら、一つの

クエスチョンについて論議していた

「マークス、それでは君は帝国貴族への忠節が臣民の一番大切な義務では

ないというのかい?」

 

言い忘れてた、マークス、これが私の名である

 

「兄さん、物事の本質は大きな声では言えないけれど、森羅万象の法則、

そしてそれを知り、制御する事程には大きなことは無いと思うんだ」

 

「呆れた技術至上主義者だな、マークス」

「科学こそ力ですよ兄さん」

 

私たちは考え方が似ていた

一方は科学という美神に、そして一方は制度という名の惨酷な神に奉仕

する為に産まれた疑似双生児

 

そういう形で、それぞれ違う道に進んだが、私たちは常に連絡を取り合い、

短い休暇で兄のオーディン勤務が重なった時などは、逢瀬を重ねる男女

のように、短い休暇を楽しんだ

 

その当時、兄は若いながらも栄達し、帝国の重鎮中の重鎮である、あの

大ブランシュバイク公爵の私設軍の大佐の任についていた

「舞踏会の警護警護警護警護…その一言だよ」

珍しく微苦笑を浮かべながら、兄はある休暇の日、疲れたように嘆息した

ブラウンシュバイクへの奉仕が決まり、そしてその日々が始まった辺りか

ら、兄は疲れている事が多かったように思う

 

私は幼少時の件もあり、どこか国家権力への恐れ…他者への究極の恐怖を

抱えていたので、貴族やその制度に対してもある意味達観した思いを抱い

ていた

「貴族も糞すりゃ、代謝する、同じ人間何が違うのですか」

私はからかうように言った…

不敬罪である

兄は少し真面目な表情を浮かべ、言った

「なあ、マークス、お前もそろそろ進路を決める頃だろ?どうだ、軍は」

「確かに大学を卒業すれば少尉待遇ですが…軍は御免ですね」

私は肩をすくめた

 

そんな中、帝国上を震撼させる…いや、その中枢に限って震動させた

事件…クロプシュトックの乱の始まりであった

 

兄が警備しながらも起こった、その事件…ブラウシュバイク公の演芸会

へと招かれた貴族連の中に、クロプシュトック公という老貴族が居た…

よくは分からないが、色々な鬱屈とした事柄を抱えたそうだが…

杖に高次な爆薬を詰め、その杖を置いて退出して数分後、大爆発が起こり、

多くの貴賓が死傷した事件…

 

私は兄の身が心配であったが、何も出来ず、兄からの連絡を待っていた

そして、数日後…

「マークス、父と母を留守中頼んだぞ」

アンスバッハ兄は目に隈を浮かべながらも、冷静に映話で伝えてきた

だが、私は一つの考えがあった…

考えというほどの事も無い、私は兄と義母義父には返しきれない借財が

ある

なら、私の出来る事は…兄を助ける事

「兄さんお断りします、今回は父さん達よりも、兄さんあなたの役に立

ちたいのです、微力ですが」

「軍人でも無いお前に出来る事は俺も出来るから大丈夫だ」

兄は笑った、少し嬉しそうな笑い

 

「軍の知見には技術という観点がかけています、今回の事件だって爆薬

の由来が未だ分からないそうではないですか」

「分析部ではまだだがね」

「なら、私をお連れ下さい、何より今回の出征はゲームのようなもの

なんですよね」

兄の怒りを買うかと思っていたが

「その通り、ワンサイドゲームだよ…いい機会だな、往くかマークス」

そうして、兄、アンスバッハ大佐の私設技術諮問員としての第一歩は始

まった


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