銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

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第18話

[内乱、内乱]

 

積極性に欠ける。

凡庸な配置。

 

そうした声が聞かれたのも事実である。

だが、不協和音が常に響き渡り、意志疎通すら上手く取れない連盟軍の場合、手元に

常に将兵を配置しないと、実質の指揮は不可能であった。

私も当初はロイエンタール仮設元帥のそうした指示が、些か仮設元帥には似合わない

策だと思ったが、後ほどそうした理由をグリルパルツァー先輩に聞き、理解した。

 

「俺も凡庸な配置だと思うがな、しかしマークスよ、時間こそが味方なんだこの策は」

私は疑問に思った。

「無暗に引きずっては後の帝国の弱体化に繋がるのでは?」

「ローエングラム公は既存勢力の破壊、上からの革命を模索してるが、我らが陣営は

現在の体制の維持継続だ、これは分かるな?」

物わかりの悪い後輩を諭すように、グリルパルツァーは続けた。

「そして、改革者は世が荒れれば荒れるほど有利であるが、保守の陣営においては

それは不利だ」

「それは分かります。しかし…結果的にはローエングラム公のほうがより民心に近い

のだとは感じております」

私は分かっていた、我らが軍が賊と名称されたように、理もロングラム公のもとにあ

るのが。

だが、その体制も永続出来ない事を私は知っている以上、公が覇権を認める事も

出来ない。

 

「何、ローエングラム公には何度も会ったがな…。あの方はお前が考えてるような

上からの改革者なんかじゃない…世を憎む、破壊者…そんな印象を俺は持っている」

「破壊者…ですか」

子孫を残せない一つの個体は、生物として何を望むのだろうか。

ふと、そんなことを思った。

「というのは前置きだ。俺は俺の栄達を望む。それが全てさね」

精々したかのように、グリルパルツァー先輩は言葉を置いた。

 

ガンルームで一組の男女が談話していた。

暖かい雰囲気は無く、どこか殺伐とした空気を醸し出してる。

赤毛の女は言った。

「…盟主の言われる事、従うまで。しかし…無念さね」

灰色の髪をした、神経質そうな男が答える。

「公女殿下。私はロイエンタールを学生の頃から知っていますが、あれほど非凡な

男を私は知らない」

言下に、貴女が負けたのは仕方が無かったのですとでも言うかのように。

「ふん。優秀じゃなくちゃ困るんだよ、こっちもね。そして…」

シュターデンはライザの言葉を継いだ。

「だからこそ、ライザ提督もこの私に軍議を乞うているのでしょう」

忌々しそうに頷き、ライザは杯を一気に飲み干した。

そして、夜は更けていく。

 

「おい」

廊下で突然、アンスバッハ中将は肩に手をおかれ呼ばれる。

「これはオフレッサー殿。如何しましたか」

「俺は卿らのように艦隊の指揮が出来ん、今回のような大事でも暇なんでな」

アンスバッハは何回目かの、説諭をした。

「オフレッサー殿は言わば盟約軍の精神の生ける象徴。その武勲とカリスマにより

いるだけで士気を鼓舞する軍神なのですから」

オフレッサーは舌打ちした。

「だから俺は何もせず奥で構えているだけ、か。つまらんな」

「オフレッサー殿に働いて頂くフェーズも必ず来ます、今はご自重下さい」

そんな時、臨時放送が鳴る。

「帝国標準時1903現在、自由惑星同盟を呼称する叛徒の間で内乱が勃発した模様、

最寄の端末で各自確認の事…繰り返します…」

「今度は反徒が反乱か。忙しい事、目が廻りそうだな、無論、貴官などのような

艦隊指揮官にとっては、だが」

オフレッサーは一つ、欠伸をした。

 

「状況を確認したい」

盟約軍の主要士官が集まる、会議室において。

ロイエンタール仮設元帥は開口した。

 

アンスバッハ中将が返す。

「現在、叛徒以下、同盟の首都星及びシャンタウ聖域において、中央政府への軍事

クーデターが発生し、元首は行方不明。実質の支配者はクーデター勢力の主犯、ドワ

イト・グリーンヒルなる同盟大将の模様です」

 

「叛徒が無様だな」

「所詮纏まる事も出来ないか」

勝手な貴族士官の放言を、誰かが視線で戒める。

それらの言葉は今現在の、自分たち帝国の内実でもあったからだ。

 

「…そして、同盟、救国軍事会議首班グリーンヒル大将よりは、我ら盟約に対し、

相互不可侵、後の平和同盟の終結を打診されております」

 

ブラウンシュバイク公は、酒杯を片手に言う。

「で、今現在どちらがイゼルローン要塞の兵権を得ておるのだ?」

鋭い、皆、直観で思った。

「は、現在は、イゼルローン駐屯軍、ヤン・ウェンリー大将のものとなっております」

「…下賎な名だな。兎も角、その男ヤンとやらはどちら側なのだ」

アンスバッハは書類をめくり、確認する。

 

「反クーデター勢力となっております」

ふん、とブラウンシュバイクは嘶いた。

「なら話は早い、そのヤンとやらに話をしようでは無いか。イゼルローン要塞側から

しか賊軍は進行出来ないからな、向こうも渡りに船だろう」

中途半端に物事が分かる男だ。

ロイエンタールは内心、嘲笑の笑みを浮かべながら、心の一隅にブラインシュバイク公

への注意への比率を傾けていた。

 

イゼルローン要塞。

流体金属が恒星アルテナの光を乱反射させ、漆黒の宇宙に彩を添えていた。

黒髪をかきながら、コーヒーを一口口つけ、心外そうにコーヒーカップに目線を落し、

彼ヤン・ウェンリー大将は口を開いた。

「現在、纏めると銀河は5つの勢力が存在する。一に銀河帝国、二に銀河帝国盟約軍、

三に同盟クーデター勢力、四にフェーザーン自治領、そして五…」

 

「我ら自由惑星同盟正規軍ですな」

紳士然とした顔にどこか皮肉そうな表情を浮かべ、シェーンコップ少将は答えた。

「そう。そして、この内、フェザーン以外の勢力は皆お互いの消滅を願い敵対している。

しかし…」

ヤンは続けた。

「敵の敵は味方。当面はね。イゼルローンにはフェザーン以外全ての勢力から同盟の

求めが来ている」

「如何に自分を高く売りつけるかですな」

キャゼルヌ少将は嘆息した。

「なら全ての勢力と敵対するってのはどうです?」

アッテんボロー少将は、嬉々として告げた。

ヤンはもう一口、コーヒーを口にし、今度こそ片頬を歪めた。

「実はもう決めているんだ。…慢心だが、この際、私のアドヴァイスを一番欲している

であろう勢力と一時的な休戦条約を結び、後に和平に繋げる…」

一同は次の言葉を待った。

「…そうして、ベストでは無くてもベターな形に持って行きたいんだ。精々20~30

年で良い。戦争の無い短い期間。この平和は戦争のある100年により勝ると思うんだ」

 

そして、ヤン・ウェンリーと盟約軍の間に相互不可侵条約と、それに付随する各種条約

が結ばれた。

後の、イゼルローン・ガイエスブルク条約である。


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