銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

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第17話

[内乱への誘い]

 

銀河帝国皇帝フリードリッヒ4世は、ローエングラム・リヒテンラーデ枢軸の言を

常に良しとし、彼らに国政をろう断されていると感じる門閥貴族の激発は時間の問題

であった。

下地も既に出来ていた。

ブラウンシュバイク・リッテンハイム枢軸が私兵を軍として再編成し、枢軸軍として

各種会戦に参列させ、着実にその戦力を増大させて行っていた

 

「宇宙の原理は弱肉強食、そして人類は真の強者たる貴族に導かれなくてはその

存続も危うい! これより我らは国政をろう断する君臣の奸である、ローエングラム・

リヒテンラーゼ枢軸を打破し、陛下を窮状よりお救いする行動に移る」

 

ブラウンシュバイック・リッテンハイム枢軸の構成メンバーをほぼスライドさせる

形で、リップシュタットの盟約軍が構成された。

 

宣言と同時に、ラインハルト元帥は、勅命を持ってリップシュタット盟約のメンバー

を賊として、捕縛の命を下す。

宣言とほぼ同時に首都オーディンを脱していた、ロイエンタール等は、追跡艦を振り切り

一息ついていた。

 

ベルゲングリューンは憤慨する。

 

「閣下の安全な脱出を待たず盟約を発動させるとは…! 度し難い事だ!」

「盟約を構成する貴族にとって我らは駒の一つというだけの事。後は如何にそのただの

駒がどう戦局を動かすかですな」

 

グリルパルツァー先輩は、ほっと一息つき、余裕が生まれたようだ。

「しかし、グリルパルツァー、逃げ切れるか…? 盟約軍は徐々にガイエスブルグ要塞

に集結しつつあるようだが…」

「幸い、ローエングラム元帥の軍は、練兵の為、カストロプ星系に散らばっている。貴族

の方々もそこまで馬鹿では無いさ」

 

幕僚らの意見を聞きながら、ロイエンタールは両手を組み、深く席に沈み込みながら

無言で目を閉ざしていた。

 

 

「おお…! 良く来てくれた、ロイエンタール提督!」

ブラウンシュバイク公は喜色を露わにした。

「道中大変だっただろうな、うん。だがこのガイエスブルグにたどり着いたからには

心配は無用。数年分の糧食と武器弾丸は蓄えておるわ」

ロイエンタールは面白くもなさそうに口を開く。

「後ほどの会議にてその辺りはゆっくりとお聞きしましょう。先に言っておかなくては

ならない事があります」

一層、もみてせんばかりにブラウンシュバイク公は先を促す。

「うんうん、申してみよ」

「この戦を勝ち抜くには兵権の乱用が一番避けるべき事。私に盟約軍の兵権を預けると

お約束した以上、これだけは必ず守って頂きます」

「そして…」

ブラウンシュバイク公が口を開く暇を与えず、続ける。

「これは書面にして頂かなくてはならない。全軍全兵士に私に対して忠誠を誓って貰い

その約定を頂く」

「しかしだな、提督。何かと煩い者どももおってだな…」

「それを抑えるのが閣下の仕事。信じておりますぞ」

 

「…という訳だ、聞いていたな?」

ロイエンタールが退出すると、続け様に、隣室に控えていたフレーゲル男爵が入室する。

そのフレーゲル男爵に声をかけながら、ブラウンシュバイクは溜息をついた。

全く、どいつもこいつも儂に苦労をかけよる。

この帝国は儂の双肩にかかっているようなものだ。

そう思った。

「聞いておりましたぞ、叔父上。たんなる一かいの大将風情がなんたる増上慢か。これ

はメルカッツの方が良かったのでは?」

ブラウンシュバイクは首を振った。

「いや、フレーゲル。今回はメルカッツではいかんのだ。あれは帝室に対する忠誠心が

強すぎる故…」

声を潜め、フレーゲルは受ける。

「…もし、陛下に退位して頂く場合が生じてもメルカッツでは動きにくいという事です

な」

「その通り、それも踏まえてのロイエンタールだ。さて、忙しくなるぞ」

 

ロイエンタールは与えられた執務室で軍の再編成、士官の配置などの書類を作成し、

または承認を与えていた。

基本はリップシュタット盟約会議において決定された事項を丸のみする形になる。

 

「ファーレンハイト中将、アンスバッハ中将です」

二名が部屋に入室し礼をする。

「そう固くなるな。両名とも俺のみ知った仲、共にこの難局を戦い抜こうでは無いか」

「…それにしてもまさか閣下がこの話受け取ると思いませんでしたな」

皮肉そうにファーレンハイトは呟く。

アンスバッハは、嘆息しながら続けた。

「…私が閣下を罠に嵌めたのです。恨んでおいででしょうな…」

ロイエンタールは苦笑を浮かべた。

「…罠とは嵌めたものより嵌められたものの方が悪いのだ、俺はそう思ってる。それにこれは

チャンスでもあった」

「チャンス?」

ファーレンハイトはわが意を得たりという表情を浮かべた。

「そうチャンスだ。我らのような平民かそれに変わらないような者たちには戦乱こそが

そのチャンス。そして、より多大な武功を立てる機会を得たという事はチャンス以外の

何物でも無かろう」

三者三様の表情を浮かべ、皆沈黙する。

「して閣下。配置は如何様に?」

アンスバッハが沈黙を破る。

「貴官より提出されていたデータよりの概要だが…」

 

枢軸軍からの盟約軍。

全機動艦隊数約20万隻。

これを1万6000隻~1万8000隻で一個とした正規艦隊を構成し、10個艦隊が編成された。

盟約軍総司令官としてロイエンタール仮設元帥があたり、副司令官にはメルカッツ上級

大将が当たる。

かく艦隊司令官として、第一艦隊ファーレンハイト提督、第二艦隊ライザ提督、第三艦隊

ヒルデスハイム伯爵、第四艦隊シュターデン提督、第五艦隊アンスバッハ提督、第六艦隊

ベルゲングリューン提督、第七艦隊フレーゲル提督、第八艦隊第九艦隊第十艦隊は遊軍と

して、まとめてリッテンハイム侯爵と旗下の幕僚が指揮と執る事に決定された。

戦力の集中というテーゼがあげられ、レンテンベルク要塞・ガルミッシュ要塞と軸とした

辺境の諸要塞、諸拠点を廃棄し、ただ一点、ガイエスブルグ要塞に戦力を集中させるという

ロイエンタール仮設元帥の言が入れられ、ただちに実行された。

歴戦の将兵とはいえ、これほどの軍勢が一か所に集まる事はほぼ無い中、その艦船の作り

だす人工の灯を前に嘆息しないものはなかった。

 

 

そして、戦いは始まりのフェーズを告げる。


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