銀河英雄伝説異伝   作:はむはむ

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第13話

[コード・ヴァルキュリア1]

 

同盟軍は一気に総崩れとなった。

大軍…のべ12万隻はある大艦隊ながら、連携も無く、ただ野辺を逃げ惑う

野ネズミの群れのように、一気に潰走の海へと己から落ちていく。

ローエングラム元帥府軍8個艦隊と枢軸軍2個艦隊が距離を詰め、一気呵成

に全艦砲撃を開始すると、そのようになった。

 

「少しライザ艦隊が出過ぎているようですが…」

グリルパルツァー中佐は、メルカッツ提督に進言する。

「その通りですな。だが、今回のような場合、狂騒は抑えると帰って危ないもの」

「分かりました」

グリルパルツァー中佐は、面白そうでもなく返答する。

 

単調な戦いになる中で、ライザ艦隊とアンスバッハ艦隊は先を競うように、いや、

味方の軍勢の中、最先端で攻勢を繰り広げている。

その攻勢の先に、産まれては消える光球が咲いては、消えて行った。

 

「まずいな」

「まずいですね」

メルカッツ提督とグリルパルツァー中佐は同時に口にした。

 

突然、同盟軍の殿が反転し、見事な逆撃を強かに追いすがる帝国軍前衛に打ち付ける。

そして破れた先から、高速戦艦が割行って傷を深くし、その傷を臼艦が広げ、更に

空母からは敵スパルタニアンが雲霞の如く排出される。

 

ライザ艦隊は攻撃を受けた部分を凹陣にし、傷口をゆっくりと塞いでいく。

アンスバッハ艦隊は受けた部分を粗にし、両翼を密にし、ついにには中央陣を両翼に

吸収させ、艦隊を2つに分け、その分けた両陣が挟撃を加えていった。

 

メルカッツ提督が指揮しようとした瞬間、既に両艦隊はそれぞれの対応を終えていた。

些か意外そうな表情を浮かべながら、メルカッツのその陣形を是とする。

 

反転攻勢を加えた同盟ビュコック艦隊は、その殿を務める中、すこしずつその数を打

ち減らして行く。

 

「勝ったか」

グリルパルツァー中佐がそう呟いた瞬間。

暗礁領域より、敵伏兵数…1万が突然、現れ突撃を開始してくる。

「何処からか?」

私は必死にコンソールに縋りつきながら答える。

「暗礁領域にエンジンオフでスタンバイしていたようです」

「慌てるな、ライザ艦隊とアンスバッハ艦隊は突出している、ゆるりと後進し、ロイエ

ンタール艦隊に道を譲るように」

メルカッツはその指示する。

 

狂ったかのように同盟艦隊は突撃を繰り返し、また至近距離で突然、無秩序にワープアウト

し、生じた時空震に多くの艦隊が飲まれ消えていく。

 

「…!? メルカッツ提督これは無人艦の攻撃です!」

こくりと頷くメルカッツ提督。

時限措置された1万隻の無人艦が一斉にライザ艦隊とアンスバッハ艦隊に対する、攻撃を

繰り返しているのは寧ろ悪夢の光景であった。

後は任せたというかのように、ローエングラム元帥府の艦隊は進撃を停止している。

 

打ち減らされていく、両艦隊。

ようやく、後続のロイエンタール艦隊が応援に到着し、無人艦への迎撃を開始し、一息ついた。

 

恒星アムリッツアに再集結しつつある、同盟艦隊の光点を見やりながら、私は両艦隊が

負ってしまった傷の深さに茫然としていた。

 

ラインハルト元帥からの全軍への通信がはいる。

私ですら、今回の戦いに必要であった犠牲を払い、勝利に貢献したのが枢軸軍である事は

自明の理であった。

そして、ラインハルト元帥はそこを指摘し、元帥府とは関しない軍の事柄ではあるが、戦死者

の家族には厚く遇する事を約し、士官は兎も角兵の心を一気に持って行く。

 

「ご苦労だったなメルカッツ提督。今回は卿の隷下の軍勢のお蔭で楽に勝てた。礼を言う」

ぴくりと目蓋を動かし、メルカッツは答える。

「礼なら儂では無く、ライザ・アンスバッハ両提督にして下さい。我主にも」

ラインハルトは一層、華麗というような表情で笑った。

「両提督は当然だが、あのブラウンシュバイク公に何の礼を言うのか。礼というものはその

相応しい相手でなくては腐るものだ」

「……」

「まあ、良い。今回は枢軸軍自体には世話になった。損害を受けた部分は我主力艦隊から

埋めよう…どうやら叛徒どもはその死に場所をアムリッッアに決めたようだ、次も期待して

いるぞ」

 

アムリツッア会戦と後に呼ばれる戦いの始まりである。

私は同盟軍は潰走しながらも、詭計を2つも用意していたことを思い、その前途が容易く無い事

を思い嘆息した。


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